ゆびがきれいですね【KAC20244】

だぶんぐる

ゆびがきれいですね

「ねえ、聞いてる?」




「うん」

「特に何も言いたいことは無いわね?」

「うん」

「反対もないってことでいいのよね?」

「うん……うん」

「そっか」

「うん」

「あ、ありがとうございます。……コーヒー、ミルクだけでいい?」

「うん」

「はい」

「うん」

「…………ふぅ、おいし。ここ、いい店でしょ」

「うん」

「……じゃあ、これ、書いてくれる?」

「うん」

「じゃあ、こことここ…………」



「………?」



「……ささくれがね、邪魔だと思ったのよ」

「うん? うん……」

「指輪を嵌めるのにね、邪魔だなって」

「うん」

「私が一生懸命働いているのに、わざわざ出て来て。いやがらせみたいに。邪魔だなって思ってたの」

「うん」

「でもね、思っちゃったのよね。指輪の方が邪魔だなって」


「……うん」

「ささくれはね、私を見てくれてるんだって。私の生きてる証拠で戦っている証拠だなって」

「うん」

「指輪はね、今はもう違うなって」

「うん」

「ただ嵌めてるだけだなって、嵌っているだけだなって。そう、はまってるだけ。それだけで安心してた。それがいいか悪いかなんてひとそれぞれだし。私もそれ自体が悪いとは思わない」

「うん」

「だけどね、ささくれがね、出来ちゃったから」

「うん」

「痛かったのね」

「うん」

「指輪を嵌めようとすると痛いのね。毎日毎日痛くて痛くて仕方がないの。なんでこんな邪魔するのかな。一生懸命頑張ってるのにイライラさせるのかなって、ほんとにほんとにささくれがきらいだった」

「うん」

「きらいだったのよ、ほんとに」

「うん」

「イライラの原因はこれだって思ってた」

「うん」

「思ってたのよ」

「うん」

「そういう考え方に嵌ってたの。おかあさん達みたいに」

「うん」

「ささくれがちょっと治った時に、ちょっとめんどくさくなっちゃった」

「うん」

「書けた?」


「うん」


「指、きれいでしょ」

「うん」

「あなたが褒めてくれたから。ずっときれいでいたかったのよ」

「うん」

「さよなら」

「うん」







「痛っ……」

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