ささくれに絆創膏
香坂 壱霧
第1話
リビングの片隅で丸くなる。痛みをこらえながら、涙をこらえながら、丸くなる。
泣いたって何も変わらないから、痛いって叫んでも振りおろされる手がなくなるわけじゃないから、私は丸くなって時間が過ぎるのを待っていた。静かな夜が朝まで続くように祈りながら、待っていた。
✳ ✳ ✳
「ただいま。おはよ。あんた、そんなところで寝たら風邪ひくよ」
「おかえりなさい。おはよう。お母さん、いま、帰ったの?」
「店……忙しかったのよ。あれ? あの人は?」
「知らない。出かけたんじゃない?」
「そう……。朝ご飯、食べる?」
「いらない。シャワー浴びてから学校行く」
朝の六時半、週に二回はこういう会話が当たり前にあった。
「あの人……お父さん、どうして
言いたいことだけ言ってから、部屋に戻る。着替えを持って浴室へ向かい、シャワーを浴びた。
少し熱いくらいのお湯。擦り傷にしみるくらいが、ちょうどいい。
あの人に蹴られた背中やお腹は、冷やさなきゃいけない。でも、わざと熱いお湯をかけてしまう。
自分をいためつける。指先のささくれを剥ぐような行為なんだろう。
髪の毛をかわかしながら、長くなった髪を切るかどうか考える。気がついたら、背中の真ん中くらいまで伸びていた。かわかしたあと、一つに束ねる。
可愛く見せようなんて思わないから、適当だった。
歯を磨き終わると、部屋に戻る。
七時二十分。そろそろ学校へ向かう時間だ。
玄関を出てから、遠回りで海の近くを歩く。
防波堤で見かける男子がいるかどうか。毎日じゃない。
ときどき、傷だらけで防波堤の上で寝そべっていたり、たばこを吸っていたりしている。
たぶん、同じ中学の子だ。この辺りに住んでいるなら。市内でも不良が多い中学だから、たばこを吸う男子は珍しくない。
髪色は、日が経つにつれて、金色に近くなっていく。脱色なんだろうと思う。
痛々しい髪の毛に、なんとなくシンパシーを感じている。だからかもしれない。見かけたら、嬉しくなった。
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