第9話 舞踏会⑦

「は?」



アレクにとって想定外の言葉であたのか、

彼は驚嘆してた。



目を見開き、そして口をぽかんと開けている。



そうだ。



よく見るんだ、私。



相手にしているのは、ただの人間だ。

驚きもするし、動揺だってする。



だから、怖がる必要なんてないんだ。



私が、私でいるために、

しっかり前をみて、息を吸って、自分の意見を言ってやるんだ。



ウィルはそんな覚悟を決める私を横目に見つつ、

いいの?と目で訴えかけてくる。



ありがとう、ウィル。

でも、もう大丈夫。



いつか、アレクとは決着をつけようと思っていたんだ。

それが今だというだけだから。



ウィルに微笑み、私は大丈夫だと伝える。

そして再び正面を見つめた。



「き、聞き間違いかな?今なんて?」



正面では、そんな私の言葉を聞き、今まで反論などさらたことがなったかのように

後ずさり、うろたえているアレクがいた。



ずっと彼のことは怖いと思っていた。

でもガワがはがれてしまえばこんなものだ。



改めてみるとどうしてこんな男を怖がっていたのだろうか。

少し昔の自分が滑稽に思えてきた。



「邪魔です。私の前から消えてくださいと申し上げました」



そんな自分自身に沸き上がる怒りを込めて、

先ほどより大きく、強く、再び告げる。



今度こそは確実に聞こえる音量で。



するとアレクは、やっと自身が否定されたことに気づいたのか、

顔を真っ赤に染めていいった。



そして怒り、声を荒げながら、



「こっちが下手にでたら調子にのりやがって!てめえはどこのどいつだよ!」



と顔を近づけてきた。



怒りでアレクの体が震えている。



でも、まったく怖くはなかった。



目の前にいるのは、物事が思い通りに進まずに怒る子どもなのだ。



ひどく冷静な自分がいた。



そして一年前に散々ののしり婚約破棄した相手に、

てめえは誰だといかるアレクに、乾いた笑いがでてしまう。


残念なお方だ。



いまだに私が誰かも気づくことができないなんて。



そして冷静な私の頭は、哀れな元婚約者にたいしての

反論をすぐに導き出してくれた。



怒る彼の顔を前に、意識的に笑みをつくる。

そして礼儀作法に則りながら、哀れな元婚約者に、



「テメエではありません。私はエレオノーラです。

一年前にあなたが散々罵り、婚約を破棄した、あの豚です。

以後、お見知りおきを」



と告げてやるのだ。


体が勝手に動いてくれた。


相手の感情に惑わされず、タンタンと告げられた。



うん、言えた。

なんだ、思ったより簡単じゃないか。



心の中で、そう思う。



そして再びアレクが固まるのを見た。



「は?え?エレオ、ノーラ?あの、豚野郎?」



アレクは、私の言葉を聞きながらも、

未だに信じられないという顔をしている。



ウィルはすぐ気づいてくれたというのに。



どうしてこの人はこんなに鈍感なのだろう?



「じょ、じょうだんだろ?」



「あら?まだわかりませんか?ウィル様はすぐにわかってくださったのに。

ねえ、そうでしょう?」



「え?あ、うん。そうだ、この子は間違いなくエレナだ」



突然話を振られた事にウィルは驚きながらも、

話を合わせてくれる。



「・・・ウソでしょ!?エレオノーラって、あの太ってた!?」



「ええ!最近見ないと思ったら、まさか!」



「え、ほんと、ほんとなの!?」



ウィルが私がエレナであると証言してくれると

周りでざわめきが起きる。



「は?え?は?」



アレクはこの後に及んで

いまだに目の前の私と過去の私を

結びつけられないでいた。



うん。宣戦布告は、十分だ。



後は彼が状況を理解してからゆっくり

進めていけばいい。



私は、言いたいことを言い切ると、

ウィルの手を取る。



そして今度は私が、ウィルを引っ張って

歩き始める。



「ウィル、踊ろう?一緒に、できるだけ楽しく」



私の復讐はこれからだ。



アレクにはひどい言葉を掛けるなんていう

生ぬるい仕返しはしてやらない。



ただ、楽しく生きて、彼に逃した魚は大きかった

のだと言うことを、さんざんに思い知らせてやる。



だからね、アレク。



楽しみに、していてね?

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