ゴリラ物語PART10🦍🍌✨ 〜🌸心のささくれの取り方🌸〜

ほしのしずく

第1話 心のささくれの取り方

3月18日(月)


天気【曇り 最低気温5℃ 最高気温11℃】

時刻【17時35分】


この日、ゴリラはフレックス制度を利用したことで、少し早く帰れることができ、その足で梅の花が咲くタコ公園に寄っていた。


特に用があったわけではない。


ただ、たまには寄り道をして帰るのもいいのではないか? というゴリラの気まぐれ。


しかし、そんな気まぐれが偶然の再会を引き寄せた。

その服装は、ストライプ柄のスーツにいつも大きな革靴。そして、ノートパソコンとバナナが入るサイズのリュックを背負っている。


「ウホ!」


そんな彼の目の前には、バレンタインの日に出会った林檎のような赤いほっぺに、前歯が抜けた笑顔が印象的な可愛い女の子がいた。


モコモコの白いマフラーに、フワフワな桃色のワンピースと桃色の靴を履いている。


「……ゴリラたん!!」


その子は、ゴリラの名前を呼び小さな体をめいっぱい広げて抱きつく。


対してゴリラも、腰を落とし女の子に応じた。


「ウホゥ!」


すると、その子は彼の大きくて黒い腕の中で、ここにいる理由を少しずつ話し始めた。


「あのね……あたちね。ママにいけないこといっちゃったの」

「ウホウホ?」

「うん、あたちね。もっとあそびたいっていったらね。ママにね、だめだっていわえたの」

「ウホウホ」

「だからね。ママのこと、きらいっていっちゃった……」


この女の子は、先ほどまで自分の母親とタコ公園に訪れていたのだ――。




🍑🍑🍑




――あれは、30分前。


時刻【17時05分】


タコ公園から、徒歩2、3分ほどの木造2階建ての住宅内、玄関にて。


『――いやだ、いやだ! もういっかいこうえんにいくの!』


さくらは、母親を前にして駄々をこね、対して母親は、いつものように応じていた。


そんな彼女の服装は、娘とリンクさせたコーディネート。桃色のワンピースにあたたかそうな白のロングコートと桃色のパンプスを履いている。


『だめですよ! もうご飯ですからね』

『あたちは、まだおなかへってないもん!』

『もう、そんなこと言ってー! じゃあご飯いらないの?』

『そうじゃないもん! いまはおなかへってないだけだもん!』

『だめです! また、あとでお腹減ったって言うでしょう?』

『いわないもん!」』

『言います! だからだめです。それにご飯を食べないと大きくなれませんよ?』

『なんでそんないじわるいうの! ママなんてきらい!』


さくらの声を受けて、苦い表情を浮かべる母親。


『…………』


それは躾の為とはいえ、娘が嫌がる言い回しをしてしまったことを反省していたからだ。


一方、さくらも急に母親の雰囲気が変わったことに戸惑っていた。


上目遣いで様子を伺っている。


『あ、そ……その――ママ、おこってる?』

『いいえ……怒っていません。ママも言い過ぎたなって、反省しているくらいです』


そう言いながら、母親は複雑な表情を浮かべている娘の頭を優しく撫でた。


『あの、ママ……』

『はい、どうしたの?』

『えっと……あ、あたち! こうえん、いってくる』

『さ、くら! ちょ、ちょっとまって!』


そんな母親を前にして、さくらは居ても立ってもいられなくなり、その静止を振り切り、家を飛び出てしまったのだ。


そして、今に至る。


「ウホ、ウホウホ?」

「ううん……ママはね。おこってないよっていってたよ?」

「ウホウホ?」

「うん、でもね……おむねのあたりがね……チクチクするの……だから、おうちでてきちゃったの」

「ウホゥ……」


その苦しそうな表情を目の当たりにして、頭を悩ませるゴリラ。


それは仕事終わりの為、もう手元に励ますバナナがないということもあったが、一番はさくらと名乗った女の子の気持ちが伝わってきたからだ。


本当は謝りたいけど、大好きな母親に暴言を吐いて家を出てきてしまったが為に、会わす顔ないという気持ちが。


しかし、幼いからこそ、自分の本当の気持ちをどう表していいのかわからない。


でも、だからこそ苦しんでいることを。


そんなゴリラの腕の中で、さくらは何かを思い出したのか顔を上げて、口を開く。


「あ、そうだ。おなまえ! あたちのおなまえはね……」

「ウホウホ?」

「さくらっていうの」

「ウホ、ウホゥ」

「うん、さくらだよ」

「ウホ! ウホウホ?」


彼の問い掛けに、彼女は小さな手を元気よく突き出し答えた。


「えっとね……4つ!」

「ウホウホ!」


元気よく応じたさくらが愛らしくなり、頭を優しく撫でるゴリラ。


その表情は母親のように穏やかな顔をしている。


そんなゴリラママの愛を受けてか、彼女は躊躇ためらいながらも本音を打ち明け始める。


「ゴ、ゴリラたん……あたちね。そのね……おうちにかえりたくないの……」


さくらは言葉を発すると、また彼に抱きつく。


対して、ゴリラも自分の胸に顔を押し付ける彼女の頭をもう一度撫で優しく語り掛けた。


依然として母親のようなあたたかな視線を向けている。

「……ウホ、ウホウホ」

「えっと、ごめんなさいして、ぎゅーってすればいいの?」

「ウホウホ」

「でも、それでおむねのチクチクとれるの?」

「ウホウホ?」

「うん! あたちも、ゴリラたんにぎゅーしてもらったら、ちょっとあったかくなったぁ」

「ウホウホ」

「そうなの? ママとぎゅーしたらもっとあったかくなるの?」

「ウホ、ウホウホ」

「ママも、あったかくなるの?」

「ウホ!」

「わかった! さくら、ゴリラたんのいうことしんじる」

「ウホウホ」


こうして、1頭と1人は身を擦り寄せながら、楽しそうに会話を続けた――。




🌆🌆🌆




――10分後、夕日が周囲をオレンジ色に染める頃。


時刻【17時45分】


「じゃあね! ゴリラたーん」


さくらは夕日に照らされながら、公園の出入口付近で手を振っている。


「ウホウホー?」

「だいじょうだよー! おうちちかいからー」

「ウホー!」

「うん、あーとー」


彼女が笑顔を弾けさせると、ゴリラもまた子供のような無邪気な笑みを浮かべる。


「ウホウホー!」


そんな彼を目にしたさくらは、突然駆け寄ってきた。


そして、その逞しい太腿をぽんぽんと叩く。


「ゴリラたん、ゴリラたん――」

「――ウホ?」


ゴリラは叩かれたことで、その場で腰を落とす。


彼女は、これを狙ってたようで「あーと!」と言うと彼の頬にキスをした。


「ウッ、ウホゥ」


突然のことで、何が起きたのかわかっていないゴリラ。

さくらは、そんな彼から逃げるように自分の家のある方へ走っていった。


「じゃ、じゃあねー! ゴリラたん!」



――そして、この後。



住宅街には、夕焼けより頬を赤らめるゴリラの姿と、幸せそうに語らい合う女の子と母親の姿があったとさ。



🌸🦍🌸🦍🌸🦍🌸🦍🌸

🦍  ウホウホ   🦍

🌸🦍🌸🦍🌸🦍🌸🦍🌸



―――――――――――――――――――――――


作者のほしのしずくです🌟


何とか主任の日常を切り取れましたー!


だ、大丈夫かな? ちゃんと綴れているかな?

不安はたくさんありますが、とにかく笑顔になって頂ければ、嬉しいです🦍🍌✨


引き続き頑張ります📕🌟


いつもいつも読んで頂き感謝です🦍🍌🌸

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ゴリラ物語PART10🦍🍌✨ 〜🌸心のささくれの取り方🌸〜 ほしのしずく @hosinosizuku0723

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