属性盛り過ぎド素人異世界ファンタジー小説で出オチ主人公してます ~私の名前は、ケツアゴカチワレーヌ~

木曜日御前

第1話 トラックのがまだいい


「ああ、ちょうど良いところに、イロモノが来たな」


 身体の芯を震わすような重低音。

 空に漂う大きな雲の中、彫り深く髭も濃い偉そうな男が玉座に座り、自分を見下ろしている。プロレスラーのような恰幅のいい美味しそうな・・・・・・体格、ギリシャ神話の神のように片乳と大事な部分を隠す白い布。


 ちょっと、いい男じゃない。なんて、反射的に思ってしまうのは許してほしい。


 しかし、神様というには、彼の身体に所狭しと刻まれた様々な刺青が強過ぎる。

 なんなら、ニヤニヤと笑う顔は魔王のようだった。


『ここは、どこ。私、死んだんじゃないの?』

「ああ、死んだな。ちょっと、そこの鏡を覗いてみろ」 

 男が右側を指す。指の動かし方もなんてセクシーなのかしら。ちょっと、ずるいわよ。目を移しちゃうじゃない。


 いちゃもんをつけつつ視線を向ければ、ふよふよ浮かぶ雲の上、金色の豪華な四角い大きな鏡が置かれていた。その鏡面には、一つの事切れた死体を映していた。


 金色のペガサスも昇天しそうな盛り髪ウイッグも、ピンク色のセクシードレスも、自慢の筋肉隆々の肉体も。赤々と血に染まっていた。片手にはハンバーガーを握りしめて、うつ伏せに転がっていた。


 どう考えても、自分だ。


 自分は本当に本当にしがない、無名のゲイのドラァグクイーン。世界的に有名なドラァグクイーンのショーコンテスト番組のオーディションを受けようと、身銭吐き出して日本から海を越え、夢を叶える国へと降り立ったばかりだった。


 空港からオーディション会場へ行く途中に寄ったハンバーガーショップ。

 腹を満たそうと頼んだドデカいハンバーガーを食べようとした瞬間、なにか男の叫び声と共に体中に鉄の鉛が貫通した。


 銃社会って、本当に恐ろしいわね。一瞬にして、お陀仏になるんだから。


 ふかふかなパンズも、肉厚なパティも、ケチャップも、レタスも、トマトも。全部死んだ自分の横で無惨な姿になっていた。

 ああ、一口ぐらい食べさせてくれても良かったじゃない。本場のものを食べるの、楽しみにしていたのに。ああ、バーガーフィンガー、食べ終わった後指まで舐める気概で食べてたのに。


 自分を中心に広がる血が、身体を貫通した弾丸の多さを表している。自分だけじゃない。その周りにも、他の人の死体らしきものが写っている。


 ああ、これは確実に死んでるわね。

 悲しむよりも、思わず納得して観察してしまうほど勝つぐらい、壮絶な死に様である。


 死んだのならば、ここは天国だろうか。そう尋ねようと、男へと視線を戻す。しかし、自分よりも先に男が口を開いた。


「あ、時間ねぇわ」

『え?』

 男はそう言うと、ガシリッと自分を掴んだ。ぐいんと宙に浮く身体、持ち方はまるで野球のボールを握るかのよう。


「とりま、次の行き先、決まってるから」

『は?』

 男はすっと振りかぶる。


「じゃあ、行ってこぉーい」

『ちょ、まっ、えええええ!!!』


 そして、全速力で投げられた。プロ野球選手もびっくりなストレートの剛速球。向かう先には、小さな小さな真っ白い雲が浮かんでいた。


『ギャアアアアアア!!』

 やばい、ぶつかる。しかし、この身体は止まれるわけがない。ズボリッという音と衝撃により、ぷつりと自分の記憶は途切れた。


「……って、ぅさぃ!」


 誰かが耳元で叫んでいる。


「……ぅ、起きて、ください!」

 甲高いボーイ・ソプラノが耳の鼓膜をつんざいた。

「ひいっ!」

 思わず、耳を塞ぎながら身体を起こす。飛び込んできたのは白い箱の部屋。

 誰だ、こんな声を出したやつは。


「ちょっと、耳が痛いじゃないの! まだ耳遠くないわよ!?」


 怒れるまま、叫んだ奴がいる方をキッと睨みつけた。


「ご、ごめんなさいっ!」


 視線を向けた先、一人のドレスを着た美少女が慌てて頭を下げた。絵画でよく見るような形をしたピンク色のロココドレス。愛らしい濃いピンク色のリボンを頭に乗せた黒髪のお姫様カット。


 ただ、正直なんて言えばいいか分からないが、絶妙にすべてがダサいのだ。生地感はチープでぺらぺらな単色布。リボンなんて、サテン一枚張り、レースも装飾もなにもない。しかも、薄いピンクと、濃いピンクの色味が絶妙な不和を醸し出している。


「あの、初めまして。ぼ、ぼく、あっ、私は、薬与家太子やくよけたいしと申します、わ!」

 どう考えても、無理に話しているのが丸わかりだ。冷や汗もだらだら流して、明らかに動揺している。ただ、そこを突っ込めるほど自分たちに関係値はないので、一旦スルーをする。


「初めまして。薬与家さんね、随分御利益ありそうな名前だわ。ワタシの名前は……」

 ぐっ、と喉が詰まる。何故か名前が浮かばない。おかしい、三十五年の間付き合ってきた名前があったはずなのに。無くたって、もう少し短い付き合いの名前が。


 何も浮かばなくて、この年で名前忘れるのはやばすぎる。ザッと、身体から血の気が引く。しかし、そんな自分とは裏腹に薬与家は目を輝かせて、叫んだ。


「ケツアゴ・カチワレーヌさんですよね! お名前は作者様から伺ってます・・・・・・・・・・!」



「いま、なんて?」

 人生で一度も聞いたことない単語が耳に飛び込んできた。


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