原作開始前:聖戦編

71:神の前で


「王都の教会から参りました。助祭のメメロと申します。本日はティアラ様に、大司教様のお言葉をお届けに参ったのですが……。どなたがティアラ様でしょうか?」


(あ、スッ)



帝国との戦争が終結し、戦後の後始末もある程度終わったころ。ようやく時間が取れたと言うことでナディさんから『そろそろお前が秘密にしてること吐けや』って言われたところに、伯爵が登場。んで伯爵が『ちょっとお手紙あるからそれ読んで♡』って言ってるところに、このおっぱいさんこと王国教会からの刺客、助祭のメメロを名乗る女性がやって来た、って感じだ。


う~ん、色々あり過ぎ。



(というか王国教会やってくるの早すぎるでしょ! いやいつか来るとは思ってたけどさぁ!!!)


「あ、あの。えっとぉ……、私、何かしでかしてしまったでしょうか?」



メメロの声が、天幕内にちょっとだけ響く。


視線を動かさないように周りを確認すれば……、 オリアナさんはなんか覚悟決めて眼が凄く座ってるし、ナディさんは何かを察して『これから何が起きても私は何も見なかったことにする』って顔してるし、ロリコンはなんか自然に助祭の後ろに回りつつ出入口塞いでやがる!!!



(も、もしかして私が速攻で『しまっちゃおうねぇ』ってすると思ってるのみんな!? いや必要があればするけどさ……。まだ完全に敵対が決まったわけじゃないよ!?)



実際、そうなのだ。私が女神討伐しに行くのは確定しているので、教会勢力と敵対するのも決まっているのだけど……。別にこのおっぱいに対し『異教徒の脂肪の塊を捥いで神に捧げてやるぜぇ!』と急に襲い掛かるわけではない。そも私の討伐目標は女神だけであって、教会ではない。立ち向かってくれれば迎撃するし邪魔になれば殺すが、何もしてこなければ放置するつもりだ。



(アユティナ様もそういう方針みたいだからねー。敵は殺すんだけど、襲い掛かってくるまでは警戒のみ。余所が何しようがそいつの自由、ってスタンス。)



んで、このメメロっていう助祭さんなんだけど……。見るからになんかふわふわしてる人だし、あんまり戦闘能力があるようには思えない。それにこの天幕の外に天馬騎士団以外の人、教会勢力の刺客の気配とかは感じない。とりあえずこの場には、このおっぱいさん以外いないのだ。


つまりこの人は完全に、タダの使いっ走りと考えていいはず。……とりあえず、会話だけはしてみるか。天幕内部はもちろん、天幕の外も天馬騎士団の姉ちゃんたちが固めてくれている。もし私がミスって“悲鳴”が聞こえたとしても“気のせい”で終わるし、天幕に入った後“行方不明”に成ったとしても、“最初からいなかったこと”になる。


長期的に考えれば不味いかもしれないが、この場における“危険”はほぼない。



「あー、えっと。ごめんね? さっきまで結構大事な話してたから……。私がティアラです、メメロさん、でいいんですよね? 要件教えて頂いてもいいですか?」


「あ、はい。メメロと申します。えっとですね? 大司教様が仰るには、ティアラちゃん? ティアラ様? がとってもすごく凄い戦果を挙げたんですよね? なので王国と王国に住まう信徒の皆さんを異教徒の攻撃から守った、ということで教会からもお礼をさせて頂くことが決まったみたいなんです。なので、ぜひ王都に来てくださいませんか?」



一切の邪気なく、そう言うメメロ。


とりあえず上から受けた命令をそのまま言葉にしたかのような感じ、これ完全に何も知らされてない奴だな……。教会上層部の考えを全て推測できるわけではないけど、おそらく待っている結末は2通り。『マジでお礼するだけだったが、途中で私が異教徒である事がバレて殺しにくる』か、『異教徒であることを最初から把握済みで、王都に行ったらガチガチに固めておいて一気に叩く』のどっちか。


まぁどちらにしても、教会からの呼び出しを断るなんて“よっぽど”だ。この子が帰ってこなかったり、追い返されて場合は“異教徒”扱いしてぶっ殺しに来る感じかな?



(はー、どうしよ。)



あっちの行動が早すぎて、まだこちら側の準備が整っていない。ナディさんをこちらに引き込めばギリギリ天馬騎士団を仲間に引き入れることが出来るかもしれないが……、教会勢力と喧嘩してるところで私がアユティナ様の力を借りて戦えば、危機感を持った女神が動いてもおかしくないだろう。あいつは基本人類を舐めているが、自分を傷つけられる可能性があれば、先んじて潰しに来る。


そうなれば流石に敗北は必至。もともとはそうならないよう全体のレベリング期間を置いて戦力の底上げ。そして私とオリアナさん辺りを最上級職に持って行くつもりだったんだけど……。



(先の戦いで私は何人かの帝国十将のラストアタック、そしてオリアナさんは黒騎士のラストアタックを持って行った。なのでその分レベルは上がっているはずなんだけど……。私ですらまだ上位職のLv25。30にならなきゃ最上級職には就けない。……時間が足りなすぎる。)



そんな風にどう対応するか、目の前のおっぱいさんや今後教会勢力に対してどう動くか決めあぐねていると……、伯爵が口を開く。



「メメロ殿、で良かったかな? 大変申し訳ないのだが、今から皆を我が領にご招待する予定でしてな?」


「あ、そうなんですか!? でも大司教様が……。」



つい『は? お前何言ってんの?』と言いそうになってしまったが、おっぱいさんから見えない位置で話を合わせてくれというハンドサインを受け取り、渋々口を閉じる。こいつは変態でロリコン、私含めた幼女の敵だが……。仕事は出来る。おそらく変態にとって十分な利益を出しながら、私としてもギリギリ文句が言えない程度の利益を生み出してくるだろう。……私主導で動くよりも、適宜テコ入れをしていく方向に移るか。



「これは秘密にしておいてほしいのだが……。メメロ殿も昨今の王都における“五大臣”の横暴さが日に日に酷くなっているのは知っているだろう?」


「……はい、あんまり大声では言えないんですけど、教会にいらっしゃる方も物価が高いとか、治安が悪くなってきていると零されている方が多いです。」


「故にな、我らは動くことにしたのだよ。真に王国を憂う者たちで結束し、国を蝕む“五大臣”を排除しよう、と。陛下もご高齢。正常な判断が出来ているかどうか怪しい、故に奸臣を排除しながら陛下にはご退場いただき、王座をご子息に譲っていただく。」



淡々とそう続けるロリコン。……多分コレ何割か事実が含まれてるな。さっきこいつが私に話そうとした内容。確か前宰相のマンティスからの書状だったか? 内容を見てみないと解らないけれど、多分今コイツが語った内容が書かれているのだろう。


おそらく目の前のおっぱいさん。根が善人っぽくて人を疑うことを知らなそうなこの人を信じさせるために、ちょっとした名演を披露してくれる変態。傍から見えれば真に王国の民たちを想い、国の行く末を憂慮する高潔な貴族に見えることだろう。


まぁそいつ、ロリコンだけどな。



「ふ、ふぇ。すごい。」


「実はそのための会合を我が領でする予定でな? 彼女たちを今王都に送るのは少々不味いのだよ、何より“五大臣”たちに動きがバレるのが不味い。なに、私と大司教殿は“趣味”を同じくするもの。私から手紙を書こう、それを見れば大司教殿も納得してくださるはずだ。」



教会の立場として、上層部が何を考えているのかは解らないが……。『王国の民の平穏を願う』という立場はどう足掻いても揺らがない。つまり真に国のために動いている最中であれば、あまり大きなことはできないだろう、という話っぽいね。……というか今“大司教”がこの変態伯爵と同じ“趣味”っていった? ロリコンまだいるのかよ……。


でもまぁ、このラインならちょっと時間は稼げるか。伯爵の思惑に乗せられるのは我慢ならないが、今はそれよりもレベリング期間を用意することの方が重要だ。おとなしく話に乗っておくことにしよう。



「そうなの。というわけでメメロさん。ごめんね?」


「いえいえ! そういうことでしたら全然! 私からも大司教様にお伝えしておきます!」



ちょっと興奮しながら、そういうメメロさん。伯爵の話を信じ切り、私たちが王国の民を救ってくれるのだと思い込んでいるご様子。何かあれば自分たちも協力すると、意気込んでいるようだ。う~ん、ちょっと罪悪感。



「では少々席を外させてもらう、メメロ殿。一緒に来てもらえるか?」


「あ、はい! では皆さま、失礼いたします!」



……あ、そうだ。ちょっとだけいい?



「? どうかしました?」


「お願いなんだけど……、ぎゅーってしてくれない?」







 ◇◆◇◆◇






「すごかった……。」


「いや何してんだお前?」



メメロさんと伯爵が去った後、オリアナさんからそんな突っ込みを受ける私。い、いや。あのサイズの人ってなかなか見ないというか、多分今後見ることがなさそうだったからさ……。最悪もう二度と会えないかもだし、堪能しとかないと損かな、って。



「お前な……。」



いやだって! 最近忘れかけてたけど、ここR18ゲーム世界ですよ! 容姿端麗で色々とおっきい人がたくさんいる中で、見たことないサイズですよ! デカすぎて固定資産税かかりそうなレベル! しかも柔らかさを保ちながらハリもあって、包み込んでくれる暖かな弾力……。ヤバい、普通に改宗させて手元に置きたくなってきた。オリアナさん、あれはいいものだ……!



「そんなに胸が恋しいなら抱いてやろうか、ほれ。」



そう言いながら手を広げてくれるオリアナさんに、ノータイムで飛び込む。


だが待っていたのは暖かいハグではなく……、ただのホールド。あ、あのオリアナさん? 力入れすぎというか、そのまま抱きしめてたらティアラちゃん真っ二つにちぎれちゃうと言うか! あが! あががが! だいしゅきホールドが大切断ホールドになっちゃう! らめぇ! ティアラちゃんの体ほんとに壊れちゃうのぉ!



「あ、姉上? その辺りにしてあげれば……?」


「は、どうせ“階位”上がって体力も防御力も跳ね上がってんだ。そうそう死なないだろ。……んで、実際何見てたんだ?」


「に、肉体の強度と体内の魔力量ですぅ! あとレベル上がっても死ぬもんは死ぬからお助けぇ!」



私だってただのエロガキじゃない。メメロさんから見ればまだ小さなが子供が甘えに来た程度にしか思ってないだろうが……。私はその肉体強度と、体に宿るMP、そして暗器の類などを軽く確認させてもらった。


まだ刺客の可能性を完全に排除できたわけではなかったからね。確かに胸の柔らかさは堪能してたけど、相手が実は刺客で抱き着いた瞬間に私のことを殺そうとしてきた時のために、私の胸部にも“空間”を開いて、いつでも“射出”出来るようにしていた。


そんなこんなで、ようやく真面目に話す気になったか、ということで解放される私。頭から傷薬をぶっかけながら、報告を始める。……これ、HPの1/4ぐらい削られてたな。いたい。



「肉体の強度は最低限、魔力を見てみたけどそれもほんのちょっと。暗器の類もなし。たぶん下級職の『僧侶』に転職してすぐ、って感じじゃないかな。ほんとに何も知らない可能性が高い。」


「そうか……、にしても王国教会さんは耳が早いねぇ。もう動くとは。」


「…………姉上。その、ティアラは、教会と敵対しているのですか?」



ナディさんが、少し不安そうにしながらそう問いかけてくる。まぁそうなってしまうのも仕方のない話だろう。この国にとって王国の女神の教えは絶対で、異端者。つまり帝国の女神を信じる奴らにとってのあたりは非常に強い。私がそれ以外の神を信仰していようとも、異端者は異端者だ。バレてしまえば面倒なことになる。


ちょうど今は伯爵もいない。最初にしようとしたナディさんへのカミングアウト。私の今の立ち位置などを話そうとした瞬間……。また天幕に人が入ってくる。



「おや、何とか間に合ったかな? すまないな我が天使よ、急いでメメロ殿に手紙を渡し帰って来たぞ。……それと私にもハグをしてくれないのかね?」


「早いんだよ変態。消えろ、あと誰が抱き着くかボケ。」


「ふふ、心地よき罵倒とはこのことを示していたのだな。どちらかというとSだと思っていたのだが……、Mも良いものなのかもしれぬ。」



悦に浸るなクソ野郎。あとマジで手紙書くの早いな……。え? こんなこともあろうかと、ってことである程度書き終えてた奴用意してた? ほんとお前無駄に有能だなおい……。んで? 今からナディさんに色々説明しなきゃならないからさ、出てってくれる? もちろんここで私に殺されてくれるのなら大歓迎なんだけど。



「良き提案だが、先に言ったように私にも用があるのでな。ご遠慮させてもらうとしよう。……と、その用を済ませる前に、私もその会話に混ぜてもらってもいいかな? 何、これでも口は堅いのだ。君のことについて色々と調べてたが故に、その答え合わせをしたい。」


「NOと言っても……、立ち去る気はなさそうだね。しかもさっきの“王国教会”から時間稼ぎしてあげたっていう恩もここで使うつもりでしょう? はー、面倒くさ。」



このロリコンは私の貞操を狙って来る“敵”だが、味方になればまぁ頼もしい部類だ。戦闘もできるし、さっき見せたように政治もできる。ここで無理矢理叩き出しても、また後で面倒なことになるのは目に見えていた。……ナディさんには早めに説明しておかなきゃならないし、もう色々諦めるか。


……アユティナ様、大丈夫ですよね?



「……私が信仰する神様は、もともとこの世界を管理し導いてくださっていた方。けれど3000年前あのクソ女神どもによって世界から追い出されてしまった。私はあのお方の“使徒”で、3000年ぶりの最初の信者。……ま、言葉で言っても伝わらないこともあるだろうし、神からの許可はもう頂いている。だから……、ちょっと“飛ばす”ね?」



そう言いながら“空間”から取り出すのは、銅板に刻まれた魔法陣。私が指定した人をこの世界から別の世界へ、神の世界へと飛ばす魔法陣。私の体から魔力が魔法陣へと流れ込んでいき、それを勢いよく地面に叩きつけることで、起動される。


私、オリアナさん、ナディさん、変態を選択したそれは、瞬時に視界を光で埋め尽くしていく。徐々にこの肉体が神の元へ送られていき、魂で感じられるその強大な力。私たちを包み込んでくれる神の間へとたどり着いた。


転送された場所は……、ちょうどアユティナ様の神座の前、か。


ゆっくりと姿勢を正しながら、我らが神に礼を示す。



「お久しぶりです神よ、此度は御前に立つ許可を頂き、恐悦至極。」


「また堅苦しく決めて来たね、我が使徒よ。今日はお友達を連れてきたようだが……、何用かな?」


「ご報告と……、神の存在を信じれる我ら人類への証明のため。」



ちらりと後ろを見てみれば……、もう三度目で慣れたのか即座に膝をついているオリアナさんに、まだ状況を飲み込めていないナディさん。そして適応が早すぎる伯爵が、オリアナさんと同じように膝をついている。……お前なんでビビらねぇんだよ。アユティナ様ぞ? 史上最強無敵神のアユティナ様ぞ?



「(恥ずかしいからそれ口にしないでね?)そうか。まぁ百聞は一見に如かず、だったか? 見て感じた方が解り易いだろう。……そこの我が使徒に“お熱”な不届き者は理解しているようだが。ナディーンよ。」


「は、はいっ!」



急に名指しで呼ばれたことに驚き、そして即座に膝をつくナディさん。最初に自分が声を掛けられるとは思っていなかったのだろう。この神の間と、神そのもの。明らかにまだ飲み込めていなかったようだが……、何度も死線を潜りぬけてきたからか、即座に精神を叩き直したようだ。



「我が名はアユティナ。どうだ? 半信半疑だったようだが、信じられたか?」


「は、はッ!」


「ふふ、そう固くならなくてもいい。我はお前に感謝しているのだぞ? 何せ我が使徒を教え導き、戦場でも共に戦ったのだ。お前にはお前の信仰があるだろう故、我のことを信じよと言わぬが……、よくやった。何か欲しいものがあれば言うと良い。」



楽しそうに笑みを浮かべながら、そういう我が神。うん、とりあえずこれで私の信仰が誰にあるか、って言うのは説明できたね! 出来たらナディさんにも信仰を変えてもらえるとありがたいんだけど……、まぁ私たちは誰かに強要することはない。とりあえずその辺りは追々、かな?


というかアユティナ様。なんか前と比べると、存在がシャキッとしてませんか? 何というか前よりも強くなったというか、パワーが増してるというか……。あ、なるほど。信者が増えたので力が戻って来てるんですね!



「さて、では……。リロコ、だったか? 不埒者よ。我は人の営みを褒めることはあっても、咎めることはない。それが我が定めた神の形故な。だが……、私個人としてはその幼子に情欲をぶつける行為、強く気分を害している。まぁそう言ってもお前は止まらんのだろうがな。」


「流石天使の崇めるお方、人の心中など全てお見通し、というわけですな。」



少し苦笑するアユティナ様に、深く頭を下げながらそう言うロリコン。アユティナ様は私たちの行動、特に信徒でないものに対して何か言葉にすることは全くない。私は色々と甘えさせていただいているので、よくお言葉を頂いているが……。つまりここでわざわざ言葉にしたと言うことは、かなり怒っていらっしゃる!


流石アユティナ様! もっと言ってやってください! 



「神故な。……さて、言いたいことがあるのだろうリロコよ。許可してやる、話せ。」


「はッ! この私リロコ。いえ私が所属する一派からの願いです。どうか我が王国の、新たな神になって下さらないでしょうか?」


「…………ほぅ?」


「現在我らが王国は、おそらくあの女神によって狂わされてしまいました。そして過去の王族や英雄たちも、同様です。それが誉というものおりますが、我らが望むのは人を導いてくださる方です。決して人を狂わせ玩具のように扱う存在ではありません。……故に、今日はその話をティアラ殿に持ち込むため、参りました。」



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