65:熟練兵の経験値おいちい


ここは帝国側陣地。


空から溶岩の塊が降って来たせいで死にかけた皇帝は、天幕に集められた諸将の前で頭を抱えていた。それは皇帝という帝国のトップに立つ者としてはあまりにも情けない姿であったが……。集められた将たちの大半が似たような顔をしており、おそらく先ほどまで被害状況を報告していたのであろう参謀も、顔から生気が抜けている。



(((あ、頭が理解を拒んでいる……!)))



それもそのはずである。


まず、兵の被害。


此度の戦に於いて帝国は合計12万の兵を用意した。これは帝国に現存する記録の中でも一二を争う強大な兵力であり、皇帝とその配下たちが出せる最大の兵数であった。それほどまでにこの戦に賭けており、また勝算のある戦いだったのだ。


国境線の戦いに勝利した後は、そのまま王国領土へと侵攻。王都までの道のりにある町を拠点として確保するために攻め落としながら進む必要があった。最終目標は国王の首を刎ねることではあるが、集団で進む以上拠点は必要になる。しかし町を確保しようとすれば攻城戦になるのは必至。そして攻城戦となれば、それ相応の兵力が必要であるし、占領するにも兵力が必要である。


一般の市民レベルであれば『王国民なんか全員ぶち殺そうぜ!』と言いそうなものだが、流石に領主貴族や皇帝レベルになると『さすがに皆殺しは旨味がなさすぎるので……』となり、ある程度の人権を確保しながら上手く統治していく必要があり、一定以上の兵力を残しておく必要があった。



つまり、この国境線の戦いで兵力を消費しすぎるのは大変不味かったのだが……。



ティアラによる虐殺で約2万が文字通り死体毎消滅し、『悪魔に殺されてしまう』と恐慌状態に陥り脱走した兵や約5000、それ以外の戦線で普通に戦死したのが5000。合計して約3万。全体の25%が初日で消え去ってしまったのである。


というか普通に戦死した兵士も大体ティアラのせいであり……。隣の戦線で上から降って来た死体に殺された奴が、また死体になって降ってくるのを見たら士気なんて保てるわけがなく、そこを王国貴族連合を始めとしたまだ士気の残っている者たちが『なんか好機! 味方の士気崩壊してるけどつっこめー!』とした結果、狩られて死んだ者たちである。



結論、大体ティアラのせいで3万消えた。



つぎ、諸将。


普通将軍ともなれば安全な後方から指示を出すか、圧倒的な武威によって前から味方を引っ張るかのどちらか。故にあんまり死ににくいのが将軍なのだが……。2人も死んだ。しかも帝国にとって一番死んじゃいけない“帝国十将”が、彼らの指揮していた兵もろとも消滅したのである。


帝国の航空戦力の要である『竜騎士』を指揮していた『咆翼』の戦死が確認されており、同時に彼の配下の竜騎士たちも全員消滅した。圧倒的な防御力、そして対空性能を誇っていた『堅肩』も死に、その配下の者たちは上から降ってくる石や死体に潰されて死亡し、『死体の雨』の仲間入りを果たしてしまった。


これにより帝国が所有する航空戦力と対空能力が大幅に下落。空の守りが信じられないほどに薄くなってしまった。つまり先ほど皇帝が受けた上空からの溶岩を防ぐ手立てが、もうほとんど残っていないのである。王国側の航空戦力、『天馬騎士団』がほぼ無傷で残っているのは地上からも把握できているため……。


首狩り戦術、され放題である。


終わりである。


そしてもっと最悪なのは……“死んだ”ということしか把握できていないことである。


普通その配下の者が生き残り、誰が殺したとか、どんな死にざまだったのかを報告してくれるのだが……。報告するはずの兵士全員ティアラによって殺されている。帝国陣営からすれば『どんな対策をすれば勝てるのか』や『何をすれば相手の攻撃を防げるのか』を考えることが全くできないのだ。


だってみんな死んじゃったせいで情報ないもん。


相手が『石や武器、そして溶岩を降らせる魔法のような物が使える』、『死体すら回収して降らせることが出来る』ということまでは解っているのだが、『何が出来て』『何ができない』の予測すらできないのだ。つまり思いつく限りのすべての対策を取らねばならず、それにより多くの資源と時間を費やす必要があった。


しかも悪いことに、その施した対策が無意味で終わる可能性もあるのだ。悪夢でしかない。


唯一相手からの攻撃を受けて生き残った黒騎士が『おそらく一番巨大なペガサスに乗った存在』という証言をしてくれたおかげでなんとなくの雰囲気を掴むことはできたが、黒騎士も地上から天高くを飛ぶその様子を確認しただけであり、情報としての価値はそれほど高くない。



そして最後、本陣への爆撃による被害。


ティアラが行った『やっば、お婆ちゃん負けかけてる。とりあえず注意引くために殺した十将の死体投げて……。せや! 帝国の本陣爆撃しよ! そしたら黒騎士もそっちに戻るはず!』という攻撃のせいで、実はとんでもない被害を受けていた。


まず彼女が放った溶岩だが、これは一部の上澄みを除いて、防げない攻撃である。人は溶岩を掛けられれば死ぬのだ。そして皇帝がいそうな巨大な天幕を中心的に、結構まばらにどばーッと溶岩を撒いたため……。実は帝国軍指揮の心臓。参謀部にも直撃していた。


勿論皇帝を守る親衛隊にも多大な被害が出たのだが、この参謀部へと直撃したのが不味かった。いや、不味すぎた。突如現れた『死体を降らせ殺しつくす存在』の対応に追われていた参謀たちの頭上から降り注ぐ溶岩。軍人とはいえ後ろから指示する彼らの肉体性能が“上澄み”ほど高いわけもなく……。


その大半が、死亡した。



えっと、つまりまとめると……。軍を“構成”する兵士、その全体の25%が消滅。軍を前線から“引っ張る”替えの利かない十将のうち2名が謎の戦死。軍を“後方から支える”参謀本部の壊滅。


これをほぼ全部、ティアラちゃんがやっちゃったのだ。


ぼろ負けの中のぼろ負けである。


本当に終わりである。



「一体何者なのだ! あの“悪魔”はッ!」



皇帝がそう叫んじゃうのも、致し方のない状況だった。



「陛下……。」


「あぁ解っている! 解っているとも!」



左半身を溶岩に溶かされながら何とか生き残った参謀の一人が、皇帝を呼ぶ。皇帝自身も理解しているのだ。今ここで“退くか”、“進むか”を。


まずここで“退いた”場合。この場での被害が拡大することはないだろう。しかしながら……、その後の展開がどうなるか想像がつかない。まずこれほどの兵力を動員しながら何も為せず帰ったとなれば、帝国内からの支持は下落する。まだ貴族や民からの支持は、その後の統治などで取り戻せる可能性があるが……、“教会”は別である。


もしあの“悪魔”が帝国内部に侵攻し、帝国領土を削りながらその土地を“王国”にしていった場合……。確実に“帝国の女神”が動く。無能な皇帝は排除され、皇帝もろとも帝都すべてが更地になるなど普通にあり得ることだ。


帝国という領土は維持できるかもしれないが、それを支える民や指導者がまるっきりいなくなる可能性があった。



「黒騎士よ! あの悪魔は“個人”なのか! それとも“集団”か!」


「……この目でしっかりと確認できたわけではありませんが、“個人”の可能性が高いと推測いたします。確かに集団では動いておりましたが、悪魔らしき存在以外はこれまでの『空騎士』とは何ら変わりなかったと思えます。」


「ッ!!!」



個人であれば、より不味い。


つまり悪魔がやろうと思えば、旅人を装い町へと侵攻し、更地にして帰っていく、なんてことが出来てしまうのだ。帝国十将が2人もやられたとなれば、対悪魔として2人以上の将を配置し、迎え撃つ必要がある。けれどそうすれば他の町の防備が薄くなり……。最悪、一度も接敵せずに滅ぼされる可能性がある。



(つまり、どう考えても“退けぬ”。ここで仕留めなければ……ッ!)



皇帝と、将軍たち。彼らに残されたのは“進む”以外残されていない。



「進むしか、あるまい。ここで12万をあの悪魔に消されるよりも、女神の怒りを買う方が被害が大きくなる。ならば……。」



自分に言い聞かせるように、皇帝はそう呟く。



「残った総力を挙げて、“悪魔”を滅ぼすのだ。だが悪魔だけではダメだ。王国の経戦能力も、削り切る。もはや我の守りなどどうでもよい、ただ“撃破”のみを考えねば。」



一日で約3万を消し飛ばしていく相手だ。残り9万と帝国十将(残り8)をぶつければ討伐自体はできるかもしれない。けれどそうなれば、王国側は大半の兵が残ってしまう。


悪魔討伐中は王国軍がフリーになるため攻め放題。またもし悪魔を倒せたとしても残った王国軍を倒し切れるかは怪しい。そしてもしそこで負けてしまえば王国は帝国領土へ侵攻してしまうだろう。そうなればゲームセット、確実に帝国の女神が癇癪を起し、民が死ぬ。


領土は守れるかもしれないが、帝国という国が崩壊する可能性が高いため、それは避けねばならない。


帝国が生き残る道は、一つだけ。



この戦いで、両方を叩き潰すしかない。



「参謀。」


「はっ! 情報によると王国側も“悪魔”についての情報は少ないようで、兵たちに動揺が広がり士気の向上などは起きなかったとのことです。故に敵強者を除けば、同数を用意することで十分に撃破が可能かと考えます。」



そう発言する、参謀。王国軍内部に大量に間者を潜ませている彼ら。それにより、王国軍にとってもティアラという存在は初耳であり、また死体が上から降ってくるという恐怖体験をしたせいで、勝っているのに士気が最悪という情報を入手していた。


崩壊寸前の士気と、大量の間者。これを上手く使えば敵よりも少ない兵数で相手を撃滅できると判断する参謀。もちろん“悪魔”が関わらないという前提あってのものだが。



「対“強者”はどうだ。……黒騎士よ。帝国十将の第一席としての意見を聞こう。」


「はッ! ……『雷切』殿、そして『清廉』殿。そしてそれを補佐する兵がいれば、何とか抑え込むことが出来るかと。」



雷を切れるほどの速度を誇る『雷切』と、驚異的な回復能力を誇る『清廉』。この2人を合わせることで何とか王国の“強者”を抑え込むことが出来るのではないかと発言する黒騎士。もちろん二人には“命を懸けて”貰う必要があったが、悪魔討伐のためには必要だと判断したようだった。



「王国の残存兵力は約5万。そうなると……、対悪魔に用意できるのは兵力4万と、十将6名か。」



通常ならば、十分すぎる陣容である。帝国最強の黒騎士を含めた十将6名。これだけで王国軍を丸ごと殲滅できるほどの実力者たちである。


しかし相手は悪魔。何が飛び出てくるか解らないびっくり箱だ。不安は尽きない。しかしながら、彼らが守るべき民、そして帝国という存在を“悪魔”、“王国”、そして“女神”から守るには、このまま実行する以外の道はなかった。



「夜明け前に奇襲をかける。兵たちを休ませながら同時に出来る限りの士気向上に努めろ。……必ず、あの“悪魔”を仕留めるのだ。」


「「「はッ!」」」







 ◇◆◇◆◇






「へっくちッ!!!」


【わぉ、大きなくしゃみ。お風邪かい?】


(あ、大丈夫ですよアユティナ様! 元気ちゃんでっす!)



アユティナ様から頂いた念話にそう答えながら、ハンカチで鼻を拭く。誰か噂でもしてたのかね……? あ! 解った! 帝国のティアラちゃんファンのみんなが噂してくれてたんだね! ありがとー! 全員地獄に叩き落してやるから最後の晩餐楽しんどけよ?



(ま、何の恨みもないけど敵だからね~。経験値にしてあげるのが優しさってやつさ。)



にしてももうこんな時間か。お日様沈みかけてるじゃん。


結局帝国さんが攻めて来たせいで昨日から寝てなかったし、疲労で壊れちゃったオリアナさん&ナディさんと一緒に仮眠室? そんな感じの天幕に叩き込まれたけど……。寝すぎちゃったかも。私が起きた時、オリアナさんもナディさんもいなかったし。



(ふわぁ。どうしよ。よく寝て元気いっぱいだし、ふら~っと帝国軍の上から爆撃しに行こうかな?)


【……別に否定はしないけど、絶対誰かと一緒に行くんだよ?】


(もちろんですとも!)



実際あの……、『堅肩』さんだっけ? 今は“空間”の中で物言わぬ物体に成っちゃってる方。ハメ殺しできたのは良かったけど、絶対まともに戦ったら勝てない強敵だったからね……。


致死の槍をポイポイ投げられる驚異的な対空性能だったし、多分あれ喰らってたら私お陀仏だった。空間の射出で押し切れたから良かったけど、あぁいうのが他にもいたら……。面倒だからね。私一人はちょっと怖いのら。



「死にたいわけじゃないからね~、っと。」



そんなことを言いながら、ステータスの画面を開く。


ふへへ、アユティナ様も見てよ。ティアラちゃん敵兵殺しまくったおかげで滅茶苦茶レベル上がったよ! あはー! まぁ敵のクソつよ将軍二人に、その配下の熟練兵で固められてたっぽい騎士団。後黒騎士の騎士団に、その他雑兵あわせて2万ぐらいぶっころしたから当然だもんに~!


あはァ! こんなことならもっと戦場に来て殺しとけばよかった!!!




ティアラ 天馬騎士 Lv3→22


HP (体力)25→33

MP (魔力)17→27

ATK(攻撃)18→25

DEF(防御)12→19

INT(魔攻)19→31

RES(魔防)17→30

AGI(素早)19→28

LUK(幸運) 0


MOV(移動)5(8)




みてみてー! ついに30だよ30! 大台に入ったんだよ! まぁ魔法職のステだけどさ……。これさ、普通にクソ強くなってない? まだ実戦でちゃんと戦ったわけじゃないからさ、新しくなった肉体のスペックとかまだ把握できてないんだけど……。


すっごく、よくない?



【頑張ってるよねぇ。あと8上がれば“最上級職”だし。もう一人前、じゃない?】


(でしょー! ……まぁ強くなった分、かなり代償を払うことになりそうだけど。)



まぁまず、軽いジャブから。


レベルっていうものは、上がれば上がる程必要な経験値が多くなっていく。つまりLv22ともなれば、必要な経験値はとんでもないものだ。一応同じレベル帯の相手ぶっ殺せば一定の経験値はもらえるんだけど……。あのオリアナさんでも、Lv10だ。つまり私よりもレベルが高い存在がいない可能性も出てくる。


ゲームじゃ最後の方になると相手のレベルもそれ相応に高くなってたんだけど……。まぁそのあたりはゲームと現実の差、って奴だろう。ダンジョンの最下層辺りまで潜るか、それとも今日みたいに雑兵を狩りまくればレベルは上がるだろうが、それでも長い時間が必要そうだよね。


けどまぁこれは、時間を掛ければ解決できる問題だ。今のところ使い道のないINTちゃんも私の最上級職、『ルフトクロン』に至れば使い道が出てくる。あんまり難しいのは使えないだろうけど、魔法が使えるようになればかなり戦術の幅が広がるからね。戦争は人の数に限りがあるから何度もするのは難しいけど、ダンジョンは別。コツコツやって行けば、いずれ到達できるって寸法だ。



んで……、これが本題なんだけど。



「明らかに……、やり過ぎましたよね、私。」


【否定できないよね、うん。】



徹夜テンションと、初めての戦争。普段よりもタガが外れテンション爆上げ状態だった私は……、“加減無し”で殺しまくってしまった。しかも結構引くようなこともしてたし。なんだよ死体爆撃って、私現代人だぞ? 倫理どこ行った! そこになければない? ならしゃあないか……。



【まぁティアラちゃん“誉れ”も“誇り”も“倫理”も“道徳”も浜で死にました、っていうタイプだもんね。】


(えへへ~、褒めても今日殺した帝国兵の死体しか出てきませんよぉ!)


【んもう! 死体の受け取りはしてないって言ってるでしょ!】


(【へへへへへ!!!】)



まぁ笑い事じゃないんですけど。


私も馬鹿じゃぁない、確かに考えなしに突撃する気質だってことは否定できないが……。



(絶対これ、終わったらヤバいよね? というか終わる前に狙われるよね?)



オリアナさんとナディさんが壊れた理由でもある……、私の殺し過ぎ。


この戦場で勝利する必要があった故の虐殺だったのだが、まぁやり過ぎてしまったのは確かだ。ほぼ手癖で私のことを見た敵は全部殺して回収したのだが、敵の中で一番強い『黒騎士』は逃がしてしまっている。故に私の存在が帝国側に露見していてもおかしくないだろう。空高くにいたから顔まではバレてないとは思いたいけど……。マサイ族みたいにくっそ目がいい可能性もある。



(ここ異世界だし、マサイ族を超えた視力の持ち主がいてもおかしくないんだよね。最悪を考えないと。)



そして王国側も、私の囲い込みのため本気を出してくるだろう。だってたった一人で戦場を変えてしまったのだ。今回のレベルアップで個人でもそれ相応に強くなったし、戦闘力は向上している。囲い込んで置けばいい戦力になるだろう。というか私が配下に居れば『お前んちにティアラ送り込むぞ? いやだったら言うこと聞け』が出来てしまう。


私が誰かの下につく気がなくとも、絶対人は寄って来る。



(つまり、帝国からは命を。王国からは身柄を狙われる存在になったわけだ。)



んで、もっと面倒なのが……。これ最悪、王国の教会勢力にバレるんだよね。


王国の上層部、まぁ国王とか五大臣にバレるとなると、もちろん教会勢力にバレるだろう。そしたらまぁその上のクソ女神にバレるわけで……。う~ん、どうしよ。まだあの勢力とやり合う気はないんだよね。もちろん原作が始まったらイベントに乗じてドンドン宗教戦争仕掛けるつもりではあったけどさ。女神ぶっ殺そうとしたら反撃して来るのは確かだし、んじゃもう殺すしかないよねって感じで。


けど流石にこの時期で勝負を挑むのはきついって言うか……、何とかなりませんアユティナ様?



【あ~、確かにそうだよね。流石にまだ成長途中だし、ここで介入しないのは私自身がティアラちゃんの“可能性”を潰すってことになりかねない、か。……うっし! 可愛い使徒の頼みだし、アユティナ様頑張っちゃうぞ♡ とりあえず“その時”までに準備して来るから、ちょっと待っててね? ジムの会員証どこに置いたっけな……。あ、通信切るねー!】


(じむ? あ、はい。ありがとうございました。)



なんかよくわからないことを言われ、念話を切られてしまう。まだアユティナ様と繋がってる感覚はあるのだが、多分これお忙しくて話しかけても答えて頂けない時のものだろう。


……とりあえずもう、“対女神”を考えて動いた方がいいかもしれない。



「そんなことしたらもうシナリオとか全部吹き飛んじゃうんだけど……。相手が来るなら打ち倒すしかない。教会勢力と敵対が決まれば、私は異端者。王国に居場所はなくなっちゃうからね。殺すか、殺されるかだ。」



ま、神殺しを考えるには私もオリアナさんを始めとした信者の子たちも、全然レベルが足りない。一番強いオリアナさんですら上級職のLv10だ。彼女は他の子たちの指導に専念してもらってたからレベルが上がらないのは仕方ないんだけど……。レベルが一番高い私でも先ほど挙げた通り。


神を相手取るなら最低でも40前半で固めておく必要があるだろう。


全く、力が足りないのだ。


準備期間が必要だ。おそらく今の段階で王国の女神と敵対したとしても、帝国のクソ女神は飛んでこないだろう。まだバチバチに嫌い合ってるはずだし。だからこそ“原作における真のラスボス”であるクソ女神が合体して進化しちゃった『ただのクソ』を警戒する必要はない。倒すべきは王国のクソ女神一体だけ。



(それを相手取るとしても、“最上級職”。基準を超えた奴は数人欲しい。一応上級職だけでも倒せなくはないだろうけど、そっちだとより多くの人数がいる。)



確実に付いて来てくれるだろう人たちは同じアユティナ様を信仰する仲間たちだけ。ナディさんたちに話しても……、一緒に戦うことは難しいだろう。あの人たちは王国の貴族。教会との繋がりはそれ相応に強い。流石に敵対するようなことはないだろうが、静観という立場を貫きそうな気がする。



(ナディさんは若干飛んできそうな気もするけど、夫の子爵さんがそれを止めるだろう。つまり今ある50人と少し、という手勢で神と王国教会を相手取る必要がある。今のままじゃ、絶対に勝てないだろう。)



まぁつまり、レベリングのための時間が必要なのだ。


もし戦争後に王国側が動き出せば……。速攻で迷宮都市に戻って、レベリングを開始する。呼び出しなんかも全部のらりくらりと躱して、出来るだけ時間を稼ぎながらって感じだろう。間に合うかはわかんないけど……。


やるしかない、って感じかな?



「よし! そうと決まれば早速動こう! えっと、近くに騎士団の姉ちゃんたちは……。あ、いた! おーい! 姉ちゃんたちー!」


「ん? あぁティアラ。起きたのか。」

「おはよー! よう寝てたねぇ。」

「昨日から起きっぱなしだったんだろ? もうちょっと寝てても大丈夫だと思うぜ。」



駄弁ってたであろう姉ちゃんたちに声をかける。今日あんなことをしたというのに帰ってくるのは昔子爵領でお世話になっていた時と同じもの。引くことも怖がることもなく、相手してくれる。うぅ、姉ちゃんたち優しいねぇ……。ところで今暇?



「暇……、ではないがまぁ暇だな。」

「一応即応待機ではあるんだけどねぇ。」

「お前さんがやりまくったせいであっちの“空”の戦力まともに残ってないだろうからな。警戒こそしてるが、まぁ今日は来ないだろ。」



お前が暴れまくったわけだし、と続ける姉ちゃん。なぜか王国側も恐慌状態に陥っていたらしいが……、帝国側の士気は私の“死体爆撃”のせいで崩壊寸前だったという。自分たちを率いてくれる帝国十将も死んだし、味方はどんどん消えていく。こんな怖い戦場に居られるか! ってことで逃亡兵を何人か確認できていたそうだ。



「まぁここから把握できるってことは敵さんの本隊も大変なことになってるだろうよ。となると上はなんとしてでも士気を回復させるために休ませたり飯を食わせたり色々するわけだ。休ませればそれ相応に恐怖も抜けていくし、周りが徐々に回復していけば自然と自分も治っていくってもんだからな。今日は攻めてこねぇだろうよ。」


「へー。」



なるほどなぁ。ってことは……。



「今から夜襲かければもっと最高にならない?」


「「「……悪魔か?」」」



いやだってさ。休ませて精神を回復させるのなら……。休ませないのが肝心でしょ? だって戦争って人の嫌がることをどれだけ出来るのかが重要なわけだし。それに、闇夜に紛れて爆撃すれば、あっちは暗い中で『次はぼくが死ぬんだァ、おわりだァ!』って震えながら夜が明けるのを待たないといけないわけでしょ?


お得じゃん!


それにそれに、もう暴れちゃった以上どこかに目を付けられるってのは確定してるようなもんだ! だったら私だけでも経験値大量に稼いでおいた方が後々役に立ちそうでしょ? 王国は戦争に勝てるし、ティアラちゃんは経験値が貯まるし、Win-Winってやつじゃない!?


ほらばーって行ってティアラちゃんが爆撃して、ぱーって帰ってくるだけだよ! 簡単簡単!



「いや、まぁ、いや……。うん……。そうなんだけどな?」

「もうちょっとこう、慈悲というか……。」

「真っ暗な闇の中で隣にいた奴が死んで上から降ってくるんだろ? 悪夢じゃん。」


「あ、だめ? んじゃあ手慰みに作った長距離砲撃巨大カタパルトで……。」


「「「おいおい、誰もやらないとは言ってないぞ?」」」



! ってことは……!?



「人集めるぞ! 夜間飛行できる熟練集めてこい!」

「ローテ組み直す! ティアラ! とりあえず夜明けまでに3回ぐらい襲撃するからな! 今夜は寝かさんから覚悟しとけ!」

「ナディーン団長に許可もらって来る! おいそこのモヒカン! 悪いが人集めて色々用意してくれ! かがり火を縦に並べて発着場作る!」



わーい!


その後無茶苦茶爆撃したおかげでレベル上がった。




ティアラ 天馬騎士 Lv22→23


HP (体力)33

MP (魔力)27

ATK(攻撃)25

DEF(防御)19

INT(魔攻)31

RES(魔防)30

AGI(素早)28→29

LUK(幸運) 0


MOV(移動)5(8)




まぁ、それはいいんだけど……。LUK様? 貴殿はいつに成ったら帰ってくるので?




ーーーーーーーーーーーーーーーー



〇夜間飛行


とんでもないレベルで危険。月明りしかない闇夜では高度感覚などが狂いやすく、同部隊内での接触事故や、着陸時の事故が絶えない。ナディの様な上澄みでも事故る可能性が高い。

また敵航空戦力と戦闘した場合の損亡率も高く、『空騎士』などが地上の敵を倒すには高度を下げるしか方法がなかったため、これまで偵察などでしか行われることはなかった。

しかしティアラが一人爆撃機みたいなことが出来てしまうため、今回行われることになった。一中隊を護衛として付け、相手の直掩などが上がってくる前に帰るを繰り替えずピンポンダッシュ戦法を展開。一度目はかがり火などの目印があるところを中心的に、二度目は相手も対策し火を消したので溶岩弾を適当にばらまき火の海に、三回目は面倒になって来たので適当にばらまいて帰った。

ティアラによると『暗すぎて降らした死体が見えなくて、回収できないのがネック。とりあえず今朝殺した2万弱は全部降らし切った。戦争終わったら帰り際に回収してどっかで祈祷してあげるから待ってて。』とのこと。


〇試作長距離砲撃巨大カタパルト


“空間”内で作成された巨大カタパルト。通常のカタパルトの三倍の大きさを誇る。素人のティアラが片手間に作成したため精度が悪く故障しやすいが、射程だけは長いという特徴がある。過去に王国帝国共に似たようなものを実戦投入したことがあったが、費用対効果が薄すぎるため通常のカタパルトに収まったという存在。

二回に一回ぶっ壊れるという性能のため、どうせ実戦では使えないと判断され、暇してたモヒカンズに帝国陣地に向けて撃たせていた。ハラスメント攻撃にしかならなかったようだが、先ほどの夜間飛行の合間に砲撃を行っていたため、帝国兵は眠れぬ夜を過ごすことになる。



次回はオリアナさんとナディさんとユリアンお婆ちゃんの話です。


また昨日は投稿できず、大変申し訳ございません。

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