63:おおあばれ


というわけでご挨拶“疑似メテオ”! 帝国軍の皆さんにプレゼントだァ!!!


さっきは脳みそ蕩けちゃいそうになるほどだったので、次は少し制限しながら石を落していく。


そもそもこの“射出”というプレゼントはかなりの破壊力を持つ。施した加速と、この世界における高高度と呼ばれる高さからの投射物。常人どころかある程度鍛えてる奴でも致命傷になりかねない凶悪な攻撃だ。


しかも人間は、基本的に上からの攻撃にはめっぽう弱い。十分な視界を確保するには“見上げる”という動作を挟まないといけないし、迎撃するにはただ前を攻撃するよりも時間と手間がかかる。軍隊として動くが故に密集して、重い防具を身に着けていれば猶更だ。



(現代のヘルメットとかしてたら、生き残るかもだけどねぇ。まぁ3000年間文明が進んでないこの世界じゃないだろな。)



落せば落とすほどに、人が死に地面が赤く染まっていく。……これ別に“空間”内で加速させて“射出”しないでも、雑兵相手だったら普通に落とすだけで倒せそうだな。加速し終わるまで時間が掛かっちゃうし、もう落とすだけに変えよ。



「うわぁ、どんどん沈んでいく。」

「改めてだけどティアラちゃんヤバくない? いや昨日ついてった小隊から話は聞いてたけどさ。」

「実際に目の前でやられると……、ヤバいわね。」

「本当に味方で良かった。」

「どんどんやれー! ころせー!」



姉ちゃんたちの雑談をBGMにしながら、どんどんと作業を進め真っ赤な絨毯を作り上げていく。あと最後のハイになっちゃった姉ちゃんは落ち着いてもろて。


まぁそんな感じでテコ入れしながらキル数を稼いでいれば、当然敵の注目を受けるわけで……。



「あっ! 左前方に敵『竜騎兵』を確認! 数800! 大隊長!」


「少し数が多いな……。総員! 後退及び上昇準備! ティアラ! 数を減らせるか!?」


「んにゃぴ? あぁ、あれね。よゆーよゆー。」



そう言いながら報告を上げてくれた姉ちゃんの方を見れば、騒ぎを聞きつけ飛んでくる竜騎兵たちの姿が。着てる鎧のデザインや竜に施されたペイントからどう考えても帝国兵。敵の一団だ。でも800ってティアラちゃんのこと嘗めてない? まぁその代償は命で払ってもらうことになるけどさ。



(弾を“石材”から“鉄の棒”に変更。順次ロックオン、ってね。)



上級職になったお祝いとしてアユティナ様から頂くようになった“鉄の棒”。これまで私が射出に使用していた“銅の棒”よりも固く、威力のある弾丸だ。神によって鍛えられた鉄なのでそんじょそこらの武器よりも固く、融点が高いため“銅の棒”よりも速度を乗せることが出来る優れものだ。


銅はあんまり加速させ過ぎちゃうと赤熱して溶けちゃうからね。なので正統進化、って感じ。



(まぁそんなのを撃ち込まれれば大体死ぬわけで……。)



私の手元に並べられた50の“空間”たちが、火を噴く。


眼で追うことが困難なほどの速度で発射された鉄の弾丸は、瞬く間に敵を処理していく。竜の鱗、鉄の鎧、人の体。そのすべてをことごとく貫き、破壊し終わった弾丸は手動で“空間”へと収められていく。丈夫だから何度も使いまわせるってのもいい所だよね……、んじゃおかわり上げるね♡


それを20回ほど繰り返してあげて、時間にして10秒程度。簡単に殲滅が完了した。


穴が開いてるチーズみたいになった竜騎兵たちがポロポロと地面に落ちていく。まだ私たちに接敵してないのに残念だねぇ。……あ。もしかしてこれも攻撃になる? ほら死体を上から落とす、っての! 十分な重さがあるから当たったら死ぬし。上から味方が死んで落ちて来た、ってなれば帝国の士気も下げられるんじゃね? よっしゃ、後でそれしよ。


ま、なんにしても……。



「空は私たちのもん、って言ったでしょ? 飛べるのは私が許可した存在だけ、ってね♡」


「「「こわ。」」」


「え、あれ……。防げる?」

「いや無理無理無理。死ぬぞ?」

「悪魔じゃん。戸締りしとこ。」

「どこをどう戸締りするんだよ。」

「それな。」


「……ティアラ、それは後何発ほど撃てるのだ? 明らかに高威力、魔力の消費も尋常ではないだろうに。」



あ、大隊長の姉ちゃん。あーね。これ正確には魔法じゃないのよ。だから消費MPは0ね。撃ち放題。


あと残りの残弾だけど……。さっきの“鉄の棒”は使いまわしできる弾が後100ぐらいで、石材は10万ぐらい? あとさっき真っ黒騎士団に放った溶岩の弾が後5000くらいストックしてあるし、【鉄の剣】とか【鉄の槍】もそれぞれ300くらいは射出用に貯めてる。あと武器を弾かれた時ように【鋼の槍】も何本か持ってきてるから……。



「ギリ敵兵全部、殲滅出来るくらい? ほんとはもうちょっとストックしておきたかったんだけどね~。時間足りなくて。」


「「「いや十分すぎるだろ。」」」



そう? でもやっぱり一斉に数千とかは持って行けないからさぁ。連続して使い続けるには50ぐらいが限界だし。数も数でちょっと不安だし、『一秒城』のためにも改修用に石材は残しておきたいってのもあるからさ。結構管理が面倒くさいんだよね。いくらアユティナ様のお力で無限増殖できるとはいえ、奉納時に発生するポイント消費してやってもらってるわけだから、限度があるし……。



「大隊長、これ私らついてくる意味ありました? 護衛いります?」


「数での威圧という面もあるから要らないとは言わないが……。」


「最初結構ヤバいかと思ってたけど、これ勝てるんじゃね?」


「いやでも。こんだけ暴れてたら絶対何かが……。」



ちょっとー! この前酒飲み過ぎた結果全裸になっちゃって道端で爆睡かましちゃった姉ちゃんさぁ『なんで知ってるの!?』口は災いの元だぜ? 普段滅茶真面目さんだから、お口もお酒も程々にしとかないと。というわけでさっきの竜騎兵から参考を得た“死体落とし”! 昨日の補給基地で集めた死体もポイポイしていくよ~! 廃棄処分~! あ、ついでに石材も混ぜて死体増やしちゃお。



(けどまぁ、全裸の姉ちゃんのいう通り。さっきの『黒騎士配下』を除けば、すでに軽く5000近くは処理してる。そろそろオリアナさんの言う“上澄み”あたりがこっちを狙いに来ても……。)



「ッ! 来たかな?」



肌を刺す様な、ピリッとした感覚。そちらの方を見てみれば、案の定“何か”が帝国陣地奥深くから上がってきている。とんでもない加速力だ。たぶんだけど……。



「大隊長の姉ちゃん。あれ?」


「……ッ! 『咆翼』だッ!」



あたりか。帝国十将の一人にして、将の中で唯一の『空』を翔けるもの。二つ名よろしく、滅茶苦茶でっかい声上げながら突撃していらっしゃる。うるさいねぇ、騒音って公害なのよ? さっさとお役所の指導受けて改善してもろて。


まぁやはり“将軍”らしく、後ろを見てみれば数百の竜騎兵を連れてきていらっしゃる。まぁ精鋭中の精鋭、だろうね。ん~、どうしよっか。まだ距離はあるから逃げられはするけど、相手も追ってくるから延々と追いかけっこすることになるだろう。


でも私たちの方が先に空に上がってるせいで、タイタンは別にしても姉ちゃんたちのペガサスのスタミナには限りがある。先に体力が尽きるのはこっち、そうなると勝てるものも勝てないだろう。



(本格的な空中での乱戦をしてないからまだ飛べるだろうけど……。)



いや、ここで落としとく方が後々楽になりそうだな。ちょーっと無理しよ。



「姉ちゃんたち? ちょっと上手く嵌ってくれるかわかんないけど、ちょっと手伝ってもらっていい?」


「……勝てるのか?」


「負ける勝負をするほど私たちは間抜けじゃないでしょ? うるさいのは私がやるからさ、後ろの邪魔な奴らまかせちゃってもいい? ちょっと数多いけどさ。」



少し思案した後、口を開く大隊長。



「了解した、だが劣勢と判断すれば首根っこを引っ張ってでも引くからな。総員戦闘準備! 数はあちらの方が上だ! 正面から戦おうとするなよ! 空を上手く使い攪乱! 確実に数を減らしていけ! 連携を怠るな!」


「「「はッ!」」」



そうと決まれば話は早い。タイタン、行くよ。



「プ!」



空間から【オリンディクス】を取り出しながら、魔力を込め始める。そしてタイタンに出す指示は、“全力での突貫”。無論対象はけったいな二つ名もち。オリアナさんや大隊長の話を纏めると、帝国十将は帝国軍の精神的な支柱になっていると思われる。存在するだけで士気を保ち、その武勇を持ってそれを高めていく。


だがそれは……、殺された時。その士気を地の底へ叩き落せるということに他ならない。



(まだ私は未熟、だから全力で。そしてより真価を発揮できる、“空”で。)


「GURUEEE!!!!!」


「ッ! アレか!」



確実に視認できる位置まで移動、見えてくるのは真っ赤な竜に乗った強靭な肉体を持つ男。重量制限のある『空騎兵』や『竜騎兵』の者が着る軽装鎧だからこそ視認できる、その肉体の完成度。そして常に咆哮を上げ続けることで、敵の士気を穿ち、味方の士気を上げる。


なるほど、案外クレバーなのかも。


けれど。



「合わせろタイタンッ!」



3,2,1……、今ッ!



「『開闢の一撃』!」


「『GOUGEKI』!」



奴の持つ斧と、私の【オリンディクス】が、ぶつかる。おそらく敵が使用したスキルは、『剛撃』。叫びながらだったせいで聞き取りずらかったけど、多分そうだろう。互いにHPを消費し、威力を上げて打ち合うスキル。だがそうなるとやはり、単純な筋力差の勝負になるわけで……。



(おもいッ!)



タイタンの常軌を逸した速度と重量。それを槍に乗せて叩き込んだとしても、押し返されそうになる敵の膂力。やはり今の私じゃ、正面から戦って勝てるような相手じゃない。なら……、裏口からお邪魔させて頂こう。


【オリンディクス】の穂先。その先端に食い込むように“空間”を展開。限界まで加速させた【鋼の槍】で、押し込む。



「『開闢の一撃』+“射出”ってなぁッ!!!」



私のATK、タイタンの速度と重さ、スキルの破壊力に……。“射出”を乗せる!



「おし、込むッ!」


「GYuyuッ!」



一瞬拮抗した槍と斧。最初は押し込まれそうになった槍だったが、もう一本の槍が追加されることにより、押し返す。それにより弾かれ、軽く宙に浮く斧。すぐさまそのどてっぱらに槍をぶち込みたいところだが……、明らかにコイツ、腕から力を抜きやがった。指先の力が全く抜けず、完全にその斧を手放してないことからも明らかだ。


つまりこのスキは、ブラフ。押し込むべきではない。


けれどお前……、今止まったよな?



(周囲確認! すでに姉ちゃんたちと敵竜騎兵は接敵済み。ちゃんと抑え込んでくれてるから、こっちちょっかいかけてきそうな敵もなし! スペースは十分で、今の攻防で勢いを殺し切った! いける!)



「タイタンッ!」


「ブ!」



私が愛騎に出す指示は、後退。


もちろん相手も“上澄み”だ。こちらが引けば、押し込んでくるのが道理。だが今のお前は、空中に止まっている。いくら熟練した竜騎士といえど、そのドラゴンの図体は他の個体と同じ。つまりその騎馬のスペックは、一般の奴らとそう変わらない。


“空中での踏み込み”の速度は、同じってことだ。


それだけ隙を作ってもらえれば……、“開けられる”。



「百門同時起動、空の監獄をお楽しみあれ、ってね?」



脳のキャパシティを超えて開かれるのは100の空間、そしてそこから吐き出されるのは、100の【鉄の剣】。神によって鍛え上げられ、研磨された最高級の武具。それを限界ぎりぎりまで加速させ、解き放つ。



「串刺しちゃんルート。あぁもちろんそれぐらいで死ぬとは思ってないよ? でも相棒は、違うよね。」



相手も“上澄み”だ。それ相応の強さは持っている。故にあの時の伯爵のように、自分の身に降りかかる【鉄の剣】は弾くことが出来るだろう。数の多さから受け流し切れず、肉体に突き刺さるものも出てくるだろうが……、それで殺し切る程“上澄み”は弱くない。


だが、“竜”はどうだ?


私の“射出”は確かに数の限界があるが、その連射性には限度がない。【鉄の剣】が足りなくなったら、それ以外のものをぶっ刺せばいいじゃない。



(お代わりをどうぞ♡)



次々と吐き出されていく凶弾。さすがの『咆翼』もさばききれなくなってきたのか、何本もその体に剣や棒が突き刺さっていく。しかし彼なんてまだマシな方だ。自慢であっただろう真っ赤な竜はすでにこと切れており、ハリネズミの様な形相になってしまっている。



「き、きさまっ!」


「あら。普通にしゃべれるのね? じゃあ可哀想だし止めを刺してあげましょうか。」



いくら敵とは言え、誉れ高き空の戦士だ、地べたで死ぬよりも、空で死んだ方がいいだろう。“上澄み”がどこまで耐えられるのか、その実験も兼ねて、ここで死んでもらうことにする。


開けていた空間をすべて閉じ、次に開けるのは死して落下し始めた敵竜騎兵の真下。大きく開いたその“空間”から呼び出されるのは、巨大な岩。人一人簡単に押しつぶしてしまいそうな巨石を、“射出”する。



「あ、ごめん忘れてた。私の“空間”は生物はお断りでね。私も入れないからよく足場として使ってんだけど……。」



巨石の進行方向に、空間を開ける。つまり『咆翼』にとっては、『死ななければ通れない壁』だ。



「押し潰されてサンドイッチ、ってね! ばいばーい!」



弾け飛び、赤い血をまき散らす『咆翼』だったモノ。しかも死体はそのまま空間に収納されるからとってもラクチンでクリーン。ちょっと血が飛び散っちゃったのはご愛敬ということで。


ま、最期は大事な愛騎と一緒だったし、幸せなんじゃない? 私ならタイタンと一緒に死ねればちょっと嬉しいし(そう安々と死ぬ気はないけど)。死体は後々“有効活用”させてもらうけど、最終的にはちゃんと供養してあげるからね~。あ、そうだ。勝鬨上げるのと、姉ちゃんたちのサポートしなくきゃ。


んじゃ早速『咆翼』の首級を掲げまして。



「えっと? “帝国十将”の『咆翼』は天馬騎士団が討ち取ったりぃ! 今日からお前ら帝国九将な! ばーかばーか! ⑨!」


「なっ! 閣下っ!」


「隙ありッ! よくやったティアラ! 総員このまま押し切れ!!!」


「「「はッ!!!」」」



思わず動きを止めてしまった敵兵の首を刎ねる大隊長の姉ちゃん。同時に私も空間を広げ、果敢に攻め込んでいく騎士団のみんなをサポートしていく。う~ん、やっぱ敵さんの士気壊滅してるねぇ。やっぱトップ層を潰すのは最高やな。今度から倒せそうなやついたらどんどん倒して……、ッ!



「危ないッ!」



地面から上がって来た投射物。大隊長の姉ちゃんを狙って放たれたものに、【オリンディクス】を差し込む。


明らかに投射物の方が強く、差し込んだ【オリンディクス】ごと大隊長もろとも吹き飛ばされそうになってしまうが……。一旦その動きを止め、私が視認してしまえば“空間”に入れられる。【オリンディクス】ごと空間に放り込み、なんとか危機を脱する。


……ま、マジで危なかった。目の前で友達死なせそうになるとか最悪なんだけど。



「ッ! すまんティアラ!」


「いい! そのまま敵倒して! でもサポートはちょっと無理! 下を対処する!」


「頼む!」



どこだ! 空間を確認する限り、今の投射物は【手槍】! 方向的に確実に地面から射出された! こっちに狙いを付けて投げたってことは両方から視認できる位置! ……いた、あそこだ!


見えるのは、かなり重そうな鎧を来た“ハゲ”の男。おそらく『重装騎士』、重装兵の上級職だろう。……この高高度に向かって槍を投げて、しかもそれが致死の威力? うわバケモンかよ。というか次弾装填済みかッ!



「“空間”ッ!」



さっきの速度を考えると視認できない。“空間”は万能だけど、対象を視認できなきゃ防御もできない。さっき大隊長の間に割り込めたのは、ギリギリ殺気を感じ取れたからだ。そう何度も出来るわけない。


故にできるのは、私を守る様に空中に大きく“空間”を開くことのみ。一瞬だが、あのハゲと目が合った。次の標的は一番ヘイトを買っている私のはずだ。



(きたッ!)



案の定、私に飛んでくる【手槍】。空気を切り裂きとんでもない音を出しながら到達したその切っ先は、何とかあらかじめ開かれていた“空間”に飲み込まれていく。その速度は、明らかに“射出”よりも速い。あ、あはは……。あいつ肉体だけで“射出”超えてくるとか。バケモノか?



(あれも“帝国十将”の一人だったりする? 連射性はないけど、絶対強いでしょあのハゲ。)



一瞬逃走を考えたが、この威力を考えるとその有効射程はとんでもないだろう。威力的に、たぶん4,5km離れてても人殺せるんじゃねぇかこれ? 肉体だけで現代銃器超えてくるとかほんとバケモン。それに多分タイタンの鎧、特攻効果を打ち消せる鎧でも、当たれば死ぬ。私たち『空騎士』にとってかなりの天敵だ。


コイツもさっきの『咆翼』同様、ここでつぶしておかなきゃ後々面倒になりそう。被害が拡大する前に、消しておくべきか。



「連戦は嫌だけど……、やるかぁ! 全砲門開け、ってねぇ!」



相手の次弾発射を遅らせるために、50門の空間を開き、鉄の棒を乱射する。まばらに撃つのではなく、そのすべてを敵一体に向けての攻撃。これで上澄みのハゲが死ぬとは思わないが、倒すのに必要な情報は吐いてくれるはずだ。次弾として“疑似メテオ”用の石材を装填しながら、相手の動きを見る。


鉄の棒を視認したハゲが取った行動は……、回避ではなく、防御。持っていた【手槍】を地面に放り、背負っていた分厚い城壁の様な盾を構え……、すべてを受け流す。普通ならその速度から突き刺さってもおかしくないものだが、一切そんなことはない。全て受け流し、背後の地面に突き刺さる鉄の棒たち。


即座に次弾として石材を発射しながら、突き刺さった鉄の棒を回収。思考を回していく。



(石材に対しても、とる行動は防御。『重装騎士』足はあんまり速くないのか? ……破られるかもだけど、資材投入する価値のある相手だ。破られる前提、消耗させるのを目的にちょっと策を組み立てるか。攻撃さえさせなければ、脅威度はかなり下がる。このまま押し切ろう。)



ちょっと無理をして+20新しく空間を広げ、石材をさらに投射し続ける。相手に着弾しても盾によってすぐに崩されてしまう石だけど……、破壊され粉々になった石は、粉となり周囲へとまき散らされる。数を増やせばそれ相応に視界が防がれ、注意力は落ちていく。



(そこ!)



即座にハゲの四方。人一人が収まるギリギリの距離で空間を開き、送り出すのは大量の水。そして逃げ出せぬように地面にも空間を開き、持ってきたすべての【鉄の槍】300本を同時に射出する。けれどこれで殺せるほど相手は優しくないだろう。


最後の詰めとしてハゲの天井にも“空間”を開き、送り出すのは……『溶岩の弾』。



(『重装騎士』は総じてDEFが高い代わりに、RESが成長しにくい。魔法攻撃の側面も持つ『溶岩弾』なら……。とりあえず500発!)



上から降り続ける溶岩の弾に、下からは槍の雨。四方から送り出されるトンを軽く超えた水。


更に頭上を焼く溶岩たちは、水によって急速に固まりその動きを封じていく。上手く行けば“石の中に”いる! ってのが出来るはずなんだけど、やっぱり“上澄み”をそう簡単に倒せるとは思えない。実際オリアナさんとかだったら、普通に空間ぶった切って脱出してきそうだし。



「だから足止め程度……、およ?」



空間に、新しく何か入って来た感触。これは……。



(あ、しんじゃってる。)



石の中で息絶えている、ハゲが空間の中に。えぇ、もう死んだの……。もしかして“上澄み”じゃなかった? ま、まぁ殺せたならいいや! 姉ちゃんたちの援護に戻ろ~。っといっても残り十数騎か。かなり頑張ってくれたんだね姉ちゃんたち。ほい“射出”してキル! みんな! 大丈夫!?



「あぁ! 無事だ! 全員被害報告を!」



地面に落ちようとする敵竜騎士たちを空間にしまい、同時に地面に向かってまた“疑似メテオ”を降らしながら姉ちゃんたちの報告を聞く。十数人けがをしてしまったみたいだけど……、致命傷を負った人や死んじゃった人はいなかったみたい。


あ、傷薬大量に持ってきてるからけが人はこっち来て!



「ほんとお前なんでもできるな……。」


「えへへ、すごいでしょ! あ、大隊長にもこれ渡しとくね、いい傷薬。」


「ありがとう。……よし! 総員一時後退しながら陣形を整える! 負傷者はティアラから補給を受けろ!」



ふぃ~。とりあえず初戦はこれで切り抜けたかな? 全員無事でほんとによかった。あ、さっき酒盛りしてた姉ちゃん。……わ、お腹切られちゃったの? やっぱ酒抜けてなかったんじゃない? かなりバッサリいかれてるし、これ内臓はみ出てない? 平気そうな顔してるけど死ぬほど痛いでしょ。


一番いい傷薬出してあげるからちょっと待ってね……、ん? あ、そうそう。これ迷宮都市で買った奴。大体一個で姉ちゃんたちの半月分くらいの給料ぐらい。


貰えないって? いいのいいの。ティアラちゃん稼いでるから~! ドバドバ使っちゃって!



「あ、そうだ大隊長。さっき殺したんだけどコイツだれ? 知ってる?」



そう言いながらお空に“空間”を開き、溶岩で固まって石像みたいになっちゃったさっきのハゲをにょきっと浮かばせる。



「うおッ! 何出してんだお前!」


「大丈夫大丈夫、死んでる奴だから。」


「そ、そうなのか……。ってお前コイツ『堅肩』だぞ! 帝国十将の!?」


「マ?」



それにしたらなんか歯応えなかったんだけど……。別人じゃない?



「いやいやいや! さっきのヤバい投げ槍に、この禿げ頭! 確かにナディーン様は『下の方で弱め』と仰っていたが、歴とした“帝国十将”だぞ! というかお前今日だけで二人も殺したんか……!?」


「み、みたい……。」



もしかしてこれ……、やばい?




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




Q:四方からトン単位の水を喰らい上から溶岩をドバドバ流されて、下から大量の槍で串刺しにされたら人はどうなりますか?


A:死にます。(もちろん死なないのもいます。)


Q:空間の穴は頑張れば破壊できますか?


A:できます。実際『堅肩』も頑張ればできましたが、自分の傍に“空間”が開くとは思っていなかったので動揺し、動けませんでした。


Q:やばい?


A:ティアラちゃん個人での戦果。敵兵10000近く殲滅&“帝国十将”2名撃破。これでやばくないとでも?




次回は黒騎士VSオリアナ&ナディです。


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