56:大戦の予感


〇伯爵お前はよ地獄いけ



「……ふむ、これで“掃除”は終了、か。」



そう言いながら書類を自身の執務机に置く男、前回の悪行により多方面からヘイトを買いまくった男、リロコ伯爵である。そんなロリコン変態野郎の彼ではあったが、自分ですると決めた約束はしっかり守る男。ティアラと交わした『ティアラの情報の拡散』を防ぐため、自身の諜報員を利用し少々危険な橋を渡ったご様子。



(王国直属の“草”すら排除してしまったからな。まぁ帝国の者と相打ちになったように見せかけているが……。バレれば爵位没収、いや今の陛下の乱心ぶりを見るに根切りか? ……ふふ、愛のための悪事というのはこのような感覚か。)



初めて感じる感覚に喜びを感じながら、先ほどとは違う書類を再確認する彼。


そこには教会勢力への対応が書かれており、それはティアラに関する情報の消去が全て完了したことが示していた。つまり彼の手によって王国、帝国、そして両国の教会勢力。合計4勢力との諜報戦に勝利し、彼女の情報を守り切った、ということになる。


一介の伯爵が国や教会を相手に勝利する、それ相応の代償を払わされた彼であったが……。十分回収は可能だと、彼の無駄に優秀な頭脳が弾き出していた。



(未だ底の見えない力量と、今年7つという若さからくる将来性。一人の武人としての評価は、打たれ弱いことを除けば満点と言っていいだろう。そして一瞬で防壁と多数の兵器を出現させるという“桁違い”な輸送能力、たった一人で戦を変える存在ということを、彼女は示してしまった。)



そんな存在を発見すればどうなるか、どのような手を使ったとしても囲い込むのが普通。


王国は腐敗が進行しているが未だ完全に腐りきったわけではなく、帝国は王国の腐敗を感じ取りイケイケ状態、そして常に元気な教会勢力たち、この四者は強者の情報に関しては無駄に耳が良く、事実ティアラの存在は迷宮都市の諜報員たちによって調査が進められていた。


ギルド長であるセルザが把握していたところよりも、より深くで行われていた諜報戦。もし伯爵が一週間程到着を遅らせていれば、確実に“王国教会”の上層部に情報が行ってしまうほど調査が進んでおり……。実は伯爵、かなり焦りながら何とかもみ消しに成功している。


何と言っても彼女は王国とは違う神を信仰している。もし伯爵と同じように、ティアラが違う神を信仰していると感づかれてしまえば……、確実に異端者、エレティコと認定され指名手配されてしまうだろう。


ティアラとしてはかなり高い代償を払ってしまったが、結果だけ見れば伯爵を利用し自身の身を守ることが出来た。本人からすれば溜まったものではなかっただろうが……、一応、決して無駄な犠牲ではなかったのだ。



「にしても、我らの知らぬ神、“アユティナ”か。」



ロリの声は一切聞き逃さないことで有名なリロコ伯爵。


ティアラが頬を奪われたショックでつい漏らしてしまった神の名を、彼は聞き取ってしまっていた。


彼は王国教会の信者であれど、王国の指導者である国王陛下が乱心したきっかけであり、またこの大陸で続く戦乱の原因である王国の女神の存在を害悪と断じている。貴族として一般的な考えである『自分の領地だけ守れれば』という思考を持つ彼であったが、領土を守るには国の助けが必要。その国を腐らせる原因となった教会と女神など、真の信仰を捧げられるはずがなかった。



(信仰することで、人として認められる。そのような意識が蔓延っているからこそ、信者であるにすぎない。)



故に愛する者が違うものを信仰していようとも、特段騒ぎ立てるほどのことでもない。


ただ自身が一度も聞いたことのない単語。そしてティアラの反応から『帝国の神でもない』ことを理解した彼は、知的好奇心から自身が持つ情報網をフル活用、また領内外に存在する教会から資料を取り寄せ、“アユティナ”という存在について調べ上げた。



(だが、結果は0。その名を記した書物は、面白いことに全く存在しなかった。しかし……。)



かなり古い記録で、王国教会からは発禁処分を受けている書物。考古学的観点から神の教えを探求したらしき書物の写しを手に入れた伯爵は、王国や帝国が成立する前にあのクソ女神たちの存在を記す文献が存在せず、この大陸には女神たちとは違う一柱の神が存在していたことを知る。



(研究対象となっていた遺跡はすでに教会によって破壊済み、地殻変動の影響で隠されていたものを発見したようだったが……。もうそれを確認することはできない。それに、この“発禁処分”となってしまった書物の作者である学者は、公開の半月後に異端者として処刑。その一族も丸ごと闇に葬られているという記録があった。……つまりこれは、あの女神にとって都合の悪い事実。隠したがっている事実ということを理解できる。)



これは、その情報が事実であるということの証明に他ならない。



「王国と帝国の発生は、約3000年前。ほぼ伝説の様な記録しか残っていないが……。それ以前の記録や情報はほぼ残っていない。いわば空白期間だ。そこに“アユティナ”という神が収まるのであれば……。面白い。」



たった一つのワードから正解を導き出してしまった伯爵は、執務机の引き出しから一つの紙を取り出し、手紙を書き始める。


あて名は、五大臣の一人。名をマンティス。


彼はティアラたちの故郷であるぺブル村の領主であるリッテルの親友であり、今は罷免されているが王国の元宰相。そして伯爵が所属する派閥の長であった。



(王国を牛耳る五人の大臣、“五大臣”の一人にして、唯一国を思い活動を続けている老雄。他の大臣共とは気が合わぬ故、ご老公の派閥に参加していたが……。上手くいけば我が天使にとっても、福音となる事だろう。)



「国王陛下を狂わせた女神と、王国教会。ひそかにその打倒を狙う元宰相と、死んだはずの王子。……ふふ、面白くなってきたな。」



そう言いながら手紙をしたためていく彼。


教会勢力と敵対しようとしている元宰相からすれば、新たな神と宗教などありがたい以外の何物でもないだろう。長きに続いた王国と帝国の戦争のせいで、王国民が帝国の教えを受けることはないだろうが……。国が保護した新たな教えであれば、まだ受け入れられる可能性があり、同時に現在の王国教会の力を削ぐことができる。


そして、元宰相だけに利益が生まれるわけではない。


ティアラたちからしても、国の保護というものが実現すれば非常に大きな理となるだろう。通常であれば王国教会から隠れながら、少しずつゆっくりと信者を増やしていく所を、時の権力者によって保護されるのだ。隠れる必要は薄れ、自然と信者は増えていく、もし王族や貴族などを改宗できれば、よりその信者は増えていくだろう。


これが成立すれば、現在マイナスを振り切って好感度ゲージがぶっ壊れてしまったティアラから伯爵への好感度も……。あ、無理ですね、うん。



「我が天使は喜ぶであろうし、成功すれば派閥内部での発言力も上がる。いずれ他の派閥を滅ぼし新たな王を立てた際、要職に付けるのは確実だろう。ふふ、気張らねばならないな! やはり夫という者は甲斐性を見せなければ!」



そう言いながら仕事を進めていく彼、いくら頑張ったとしてももう取り返しのつかないことをしてしまったのだが……。まぁ放置しておけばティアラちゃんにとって有利そうですし、大丈夫ですかね?



「そうと決まればやることは山済みだな。まず今年の帝国との戦を生き延びねばならぬし、時間を縫って我が天使の故郷。ぺブル村に足を運ばねばなるまい。ご両親への挨拶はもちろん、おそらく我が天使が信仰を得たのはあの地であろうからな……。」





◇◆◇◆◇





〇フアナ王都に向かいます



場面は変わりティアラたちの故郷であるぺブル村へ。


そんな村から離れた森の中で、肩で息をしながらゆっくりと呼吸を整える幼女が一人。


そんな彼女の目の前には、本来あったはずの木々が消し飛び、荒野となってしまった空間が存在していた。



「はぁ、はぁ、はぁ……。やっぱストレス溜まったときはぶちかますに限りますわね。」



そんなやばいお嬢様みたいな言葉を発する彼女の名は、フアナ。原作世界に於いて主人公に同行する『魔法兵』の一人であり、ティアラの幼馴染であった。まぁそんな彼女がストレスをためるのも仕方がない。前回ティアラのライバル枠にすっと入り込んできたエレナという存在にブチ切れていた彼女だ。さらに今回ソーレとルーナという副官枠まで生えてきている。



『なんでまた名前三文字ですの! しかもあの妹の方! また最後“ナ”! あぁぁぁあああああ!!!!!』



という感じで怒りを爆発させた彼女。日に日に増えていく自分の席、ティアラの隣を狙う不届き者たちに対する怒りはどれほどか。まぁ自身の親友が無自覚でいろんな人間を落していくタイプのクソガキであることはなんとなく理解してきたので多少は我慢できるようになったらしいが……。


そんなティアラの貞操を狙う変態貴族がまた現れたことを知った瞬間、怒りが爆発して今に至る。



「キレ過ぎて寝てたのに飛び起きちまいましたものね……。」



実は時刻は深夜、先ほど夢の中で神からのティアラの様子を聞いていたのだが……、まぁ伯爵の悪行に耐えきれず怒りのあまり起床、そのまま森に飛び出して環境破壊をしてしまった彼女である。普通ならば危険な行為であると注意するものなのだが……。二代目盗賊スレイヤーである彼女によってサンドバックであった盗賊たちはすでに狩りつくされてしまっており、たまに湧いてくる魔物はことごとく消し飛ばされてしまった。


つまり彼女の故郷の村周辺に、危険な存在は欠片も残っていないのである。狩りつくしちゃったから安全、というわけだ。ちなみに彼女のステータスは、現在このようになっている。()内の数値は前回のもののため、ご確認いただきたい。




フアナ 魔法兵 Lv2(8)


HP (体力)15(13)

MP (魔力)21(18)

ATK(攻撃) 5(3)

DEF(防御) 9(5)

INT(魔攻)16(14)

RES(魔防)13(10)

AGI(素早) 8(6)

LUK(幸運)14(11)


MOV(移動) 5(4)




「強くは、なっています。けれどそのせいで、“階位”を上げる方法がなくなったのも事実。……そろそろ場所を移す必要がありますわよね。魔法の勉強も個人で出来る範疇を越えてきましたし。」



彼女がいう“あの方”、何度も夢に出てきてくれる神のおかげでティアラが上級職に到達したという情報は、彼女も入手している。対してフアナは未だ下級職。彼女が収めた各種魔法を扱えば十二分にティアラと渡り合えそうなステータスを誇ってはいるのだが……、本人からすればまだまだ足りない。



(“経験値効率”、というものを考えるのであれば私も迷宮都市に向かうのが正しいでしょう。ですが……、あの子が自分から謝りに来るのはまだしも、私から逢いに行ってしまうのは……、やっぱり重い女って見られますよね。それは嫌です。それに、迷宮都市には魔導を極めることが出来る施設も少ないようですし……。)



フアナはティアラと顔を合わせた際、溜め込んだ『ぶん殴りカウンター』を全て解放する気ではあるが、やはり心は乙女。親友に愛の重い人間と思われてしまえば監禁ルートへと闇落ちしかけたペペちゃんのように、ヤバい方面に行ってしまうのは確実。故に相手が自分の元に来てくれるまで、待つ方針のようだ。


そして迷宮都市は確かに“階位上げ”、レベリングの面からすれば非常に素晴らしい場所であるのだが……。『魔法使い』として一番重要である知識、新しい魔法の習得に関しては効率が非常に悪い。


彼女はすでに元魔法兵である母や、商人という家のコネを使いかなりの数の魔導書を読み込み、魔法を習得しているのだが……。いくらその道の才能があったとしても、独学では限界がある。すでに母の力量を越えてしまった彼女にとってこの周辺には師事するような魔法使いはおらず、また新たな魔導書を手に入れるのにも苦労し始めていた。



「やはり、“王都”。ですかね。」



故に彼女が選択した次の修行地は、王都。この王国に於いて一番歴史の古い町であり、同時に国が主導する魔法研究所などが存在する場所でもあった。昨今は王の乱心によって治安が低下しているが、それでも王都という立地から多くの品々が集まっており、魔導書も豊富。研究機関がある事から最先端の魔法や、それを研究している者など師匠候補も多い。迷宮都市と比べると、経験値になりそうなのが周囲にいる魔物だったり、都市内部にいる犯罪者程度なため効率が悪いかもしれないが……。



「私たちにとって知識は力、ですからね。やはりこちらの方がいいでしょう。」



フアナはそう、結論付けたようだった。



「それに、王都は国の中心部。教会の資料も集まっていることでしょう。……求めるモノがあるかは解りませんが。」



そう考えながら、ゆっくりと帰路につく彼女。


今回の王都行きはすでに両親に話を付けている、少し反対されてしまったようだが、すでにその魔法の腕は母を軽く超えており、治安の低下している王都でも滅多なことはないだろうと判断された彼女。一時的に家業の拠点を王都に移すことにし、家族全員での引っ越しが決まっている。


勿論目的は魔導の修練なのだが……、ひそかにもう一つ。考えていることがあった。



(あの、我らが王国の女神を自称する方。最初は疑っていませんでしたが……、あまりにも“教え”と違いすぎる。聖書に書かれている神は、もっと放任主義だった。)



そこまで熱心なわけではないが、フアナも王国の女神の信奉者。最初はあの夢の中に出てくる存在を王国の女神だと思っていたが……、歳を重ね知識を積み重ねるごとに、違和感を覚えるようになっていた。確かに聖書は人が作ったものであり、時間経過とともにその教えは歪んでいくものである。故に神の姿が実際と変わっていてもおかしくはないだろうが……。



(明らかに、私たちの神ではない。そんな気がする。)



フアナの個人的な意見にはなるが……、王国の人を何とも思っていないように取れる放任主義の神よりも。ティアラやフアナのことを見守り、必要に応じて加護や神器を授けてくれる神の方が、ありがたい。けれどそう安々と信仰を変えられるほどこの国は優しくはない。



(今後あの神と、どう付き合っていくのか判断するには、より情報が必要。ティアラにとって害になる存在であれば引き離さなければならないし、利になるのならば私もそちらに行った方がいい。そしてもしそれを選択した場合、私たちは異端者。周囲に溶け込みばれないようにするためにも、王国教会から情報を手に入れることは間違いではないはずだ。)



「……まぁ、夢の中での会話を考えると、おそらく思考は読まれてますし……、私の考えも見破られていそうですけど。行動を起こさず放置している、ということはあの方にとってその方が都合の良いことなのでしょうね。」







◇◆◇◆◇






〇ナディママかなり不安?




「ナディーン様!」


「あぁ! これ以上は危険だ! 全員高度を上げろ! このまま帰投する!」


「「「はッ!!!」」」



ティアラたちが伯爵と戦った時期は、原作から残り8年となった春の季節。そこからさらに時間は進み、秋の収穫期が始まろうとするころ。へスぺリベス領の天馬騎士団たちは帝国との国境線にいた。


彼女たちに課せられた任務は、偵察。


帝国軍の動きや陣容などを事細かに把握し、その情報を持ち帰るのが彼女たちの役目であった。先ほどまで高度をさげその調査を行っていたのだが敵に捕捉されてしまい、直掩の敵竜騎士や空騎士が上がってくる前に撤退を選択したところである。


その辺りのナディの見極めは長年戦場に身を置いたとあって的確であり、彼女たちが高度を上げた直後に弓兵や魔法兵の攻撃が開始、先ほどまで彼女たちがいた高度に殺到していることから間一髪であったことが伺える。



(……全員付いて来ているな。よし。)



脳内で全員の無事に安堵しながら撤退までのルートをハンドサインで指示する彼女。


本来の世界線ではこの偵察任務でも何人かの犠牲が出てしまう練度しかなかった彼女たちであったが、ティアラという存在によってその力量は跳ね上がっている。エレナと切磋琢磨する姿に、何度も自分たちに勝負を挑んでくるメスガキ。そしてそんな彼女が駆るペガサスは種の限界を軽く超えた化け物。


そんな埒外の存在と勝負し、刺激された今の『天馬騎士団』は原作世界よりも高い練度を誇っており、その士気も高い方であった。けれど先ほど見た帝国側の陣容を見てしまった馬……、その顔には大きな陰りがある。


一つの生き物のように天馬騎士団は行動を開始し、全速力でその場から離れる彼女たち。どんな存在を見てしまったと言えど、逃げて情報を伝えなければ意味がない。それに、距離さえとってしまえば、直掩もその拠点防衛という役目から追ってくることはない。必要な情報はすでに手に入れている、後はどれだけ早くその情報を届けることが出来るか、という状況だった。



「閣下……。」


「あぁ、言わずともわかる。……今年は厳しい戦いになりそうだ。」



思わず部下がこぼしてしまった呼びかけに、そう答えるナディーン。普段の彼女であれば士気を保つために『帝国軍など恐るに足らず!』と豪語しそうなものであったが……、今回。いや今年だけは違った。


王国側の腐敗。国王の乱心から奸臣の台頭によって王国軍は弱体化を始めている。それを察知したのであろう帝国側は好機ととらえ、例年よりも多くの将兵を呼び集めていた。農村などからかき集めたのであろう一般兵の数は例年の倍程度、傭兵の確保もぬかりなく、それを指揮する将たちはまさに帝国のオールスターといった陣容。ナディやオリアナに匹敵、もしくは上回るような“上澄み”すら揃えていた。



(普段を攻勢を100とするならば……、150ほどか? 後のことを考えぬ攻勢。それだけ帝国側も本気なのであろう。)



もし失敗すればそのまま領土を切り取られるどころか、帝都まで進行されそうなほどに帝国は軍を国境線に動かしていた。もしそれが事実だとすれば、王国側もそれに対応するために急ピッチで兵を集め各地に散らばった貴族たちを呼び集めねばならなかったのだが……。



(対して我らは……、60がいい所か。不味いな、壊滅するぞこれは。)



オリアナがまだ現役だった頃、英雄と呼ばれた主人公の祖父リッテルや、国王が未だ乱心していない時代であれば180程の戦力を集めることが出来た。しかしながら今の王国軍は色々と終わっており、ナディの見立てだとどれだけ頑張っても60が限界。トップの国王が使い物にならず、そしてその代わりに先陣を切るべき五大臣はお互いの脚を引っ張るばかりで仕事をしない。士気は最悪であり、貴族たちは王国に見切りをつけ始めている。


過去の英雄たち、オリアナの様な存在も軍を抜けてしまっていたり、五大臣たちの策略に巻き込まれ他界しているため……、かなり不味い。



(我が子爵領、四肢の一部を失ってしまった団員や、新兵たち。そして夫が率いる『空騎士』以外のものをギリギリまでこの国境線まで連れて来たとしても……、70もいかんだろうな。)



繋がりの深い貴族たちに救援を求めたとしても、兵をこれ以上送ってくれるかどうかは怪しい。さらに上に報告したとしても、責任の擦り付け合いが始まり兵力を集められるかどうか。それに一般兵の様な数合わせをどれだけ用意しようとも、真の強者の前には無力。強者と対応するためには、強者を集めるしかない。



「夫にも連絡を飛ばし、各方面に手を打ったとしても……。どれだけ動いてくれるか。」



相手の陣容を見る限り、もし国境線を突破されれば確実に王都まで責められてしまうだろう。そして王都が落ちれば、そこを中心に王国各地へと軍が送られる。何せ記憶がまともに残らぬほどの太古の昔から、王国と帝国は殺し合ってきたのだ。眼についてた王国民すべてを殺して回る。そんなことになってもおかしくはない。



(……ここで刺し違えても、止めねばなるまい。エレナのため、今後生まれてくるだろう新たな担い手たちのためにも。)



「だが、それも最後の手段、か。……すでに戦場から手を引かれた姉上に頼まねばならないのは申し訳ないが、致し方あるまい。」




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第四章は今回で終了になります。次回からは第五章、『原作開始前:大戦編』が始まります。今後ともよろしくお願いいたします。


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