51:呼んでないから来るな



「とまぁそういうわけで、ステータス上昇率にバフが乗る、『成長の宝玉』口に嵌めて……。はしなくて。普通に首にかけてレベリングしてみたんですけど……。」



ティアラ 空騎兵 Lv15→16


HP (体力)20

MP (魔力)13

ATK(攻撃)12

DEF(防御)9

INT(魔攻)15→16

RES(魔防)13

AGI(素早)16

LUK(幸運)0


MOV(移動)4(7)



あ、アユティナ様? あ、あの。オーガ300体ぐらい倒してようやくレベル上げたんですけど……。INTしか上がってないといいますか……。それ以外が沈黙していると言いますか……。


アユティナ様を疑うのとか滅茶苦茶嫌なんですけど。もしかしてこれ、不良品なんじゃ?



【いやいやいや。れっきとした“神器”カテゴリのアイテムだよそれ! 壊れないって! 勿論パチモンでもないよ!? ……あ、あの。私も言いにくいんだけど、単にティアラちゃんの運がなかったんじゃない?】


(Oh。信じたくなかったけどそっちだったか……。疑ってごめんちゃい。)


【許す♡ でも数を熟せば絶対効果実感できると思うよ? 上級職への転職まであと4回もレベルアップの機会あるでしょ。それだけ一気にドカンと上がる回もあると思う。……もしこの4回全部今と同じ感じだったら、色々無理して例のドーピングアイテム無償で上げるからさ、ね? 頑張ろ!】



あいさー!


ま、そんな感じで。ステが上がろうが下がろうが、私はレベリングはしなきゃいけない。


今回のレベルアップの結果を見るに、最低保証的なものは期待できそうにない。ゲームと同様に、とりあえずレベルを上げまくって何とかするしかないのだろう。幸いダンジョンは盗賊狩りに比べて経験値効率もいいし、経験値を狩り尽くしてしまうってこともない。周回もしやすいし……。



「私はこれまでと同じように、周回を続けるって感じかな。」



アユティナ様の信者が増えたあの日から、私たちは本格的に活動を開始した。


少しずつだけど成果も出ているし……、今のまま進めていいのか、何か変更を加えた方が効率がいいのか。組織を運営する長として方針を決定するためにも、一つ一つ確認していくことといたしますか!



(まず、ウチの一般兵枠に収まった、モヒカンズから。)



なんかノリでアユティナ様を信仰し始めたらしい彼らは、そんな神から信者の証として【鋼の剣】などの、鋼シリーズ武器を貰っていた。市場や迷宮都市のオークションで手に入れられるモノよりも質が良く、耐久度が高いであろう上質な武器。根元の所にアユティナ様のマークが入っている特注品だ。(ティアラちゃんも【鋼の槍】を数本貰った。)


そもそも鋼の武器自体、貴族が持つようなものだけれど……。街中で抜かなければまぁバレることはない。バレても騒いだ奴をちょっと裏路地に連れて行って、“空間”の中でおねんねしてもらうだけだしね。


ということでモヒカンズにはこれを持たせて、迷宮都市を周回させている。



(一組10人の小隊を組ませて、隙に迷宮を潜らせる。あいつらのタイプ的にも、スケジュールをガチガチに固められるのは嫌だろうしね。ある程度は自由にさせている感じ。)



一応、ノルマみたいなのは課しているけど……。別に達成しなかったとしても怒ることはない。さすがにレベリングの手が止まってたら相談に乗るけど、今のところは大丈夫だね。定期的に『階位上がりました!』『自分へのご褒美に鞍買いました!』『俺は木馬!』という報告を受けたりしている。……馬いないのに鞍だけ買うってそれ大丈夫なの? あと木馬買って嬉しいのお前。嬉しいならいいけどさ……。


ま、かなり頑張ってくれてるし……。早いとこ馬の手配もしてあげないとね~。


彼らが回っている階層だが、最初は1~10階層で様子を見てもらった。けれど低レベルとはいえ下級職が10人もいれば余裕。なので今は私が周回している“洞穴”の世界である、21~30階層を巡ってもらっている。ちょっと苦戦することもあるみたいだけれど、ここのモンスターに対応するための装備を全員分買って持たせているし、傷薬も大量に持たせている。


初期投資でかなりつぎ込んだのだ、死につながるような事故が起きることはないだろう。というかこんなところで死人出たら先が思い浮かばないし、モヒカンズのやる気も地の底だ。それを防ぐためにも細心の注意を払っている、大丈夫大丈夫。



(ま、装備整い過ぎて逆に気が抜けちゃうってことが起きるかもしれないが……。ウチは定期的に全員強制参加のオリアナブートキャンプを開催している。ま、原作開始までにはちょうどいい歩兵が出来るんじゃないかな?)



ということでモヒカンズは現状OK。次は姉妹たちに関してだ。


ソーレちゃんと、ルーナちゃん。この子たちはほぼフルタイムでオリアナさんの元で鍛錬を積んでいる。なんかオリアナさんからすると『休めって言わねぇと延々に鍛錬しやがる』っていうヤバい子たちみたいで、ニュキニュキ成長しているとのこと。



(あの子たち、過去にオリアナさんのおかげで命拾いしたみたいなんだけど……。たぶんそのせいで脳がこんがりなんだろうな。)



命を助けてもらった恩を返せるし、憧れのオリアナさんの元で鍛錬できる? ほわちゃー! って感じなのだろう。テンション常時フルマックスの努力シスターズだ。まだ彼女たちがどんな職に就くのかはわからないけれど……、どの職を選んだとしても、いいユニットに育ってくれるはずだ。


オリアナさんから私のことを任された、って感じで忠誠心も高いみたいだし、いい副官にもなってくれると思う。ま、のびのびやってよ。



「確かに私としては、『空騎士』のルートに進んで一緒に空飛んでほしいって欲はあるけど……。目の前で口にしちゃったらノータイムで決定しちゃうだろうし、言えないよね~。」



それまで考えてた職業を全部捨てて『空騎士になります!』とか言いそうだし……。いや嬉しいんだけどね? ちょっとそこまでやってもらう必要はないというか……。


職業ってのは自分の好きで決めるものだ。一度選べば二度と他のルートに移れない。


一生ものになるわけだし、他人の意見が介在していいものではないだろう。才能を持たないルートに進んじゃえばしんどいだろうし、出来るのならば自分の好きな道を選んだ方がその後も頑張れる。


これが国に仕えてたりすれば話も変わってくるのかもしれないが……。私とあの姉妹の関係は、未だ傭兵契約のみ。



(戦力の提供と、賃金の支払い。そのやり取りしかしてないんだよね。)



だから彼女たちの人生を決める権利は、私にはない。



「二人とも剣に才能ある、って聞いてるし『剣士』ルートかな? やろうと思えば馬上でも剣振るえるから『騎士』系統でもいいだろうし……。ま、おいおいだね~。」



ま、傭兵さんたちの動きはこんな感じかな? まだまだ軍として動けるようになるのは先だろうけど、今後の活躍が楽しみです! にひひ。ティアラちゃんたちが戦場を混沌に叩き落して、クソ女神たちの首を吊り下げながらパレードしちゃうぞ♡



(ま、そんなの出来るのいつになるか、って話だけど……。どれぐらい強く成ってくれるかな、ほんとに。)



正直な話、私たちのパワーバランスはかなりぐちゃぐちゃなのだ。


一般人よりはちょっと強い姉妹。

傭兵として食べていける程度の強さのモヒカンズ。

“空間”などのアユティナ様由来の力とタイタンを使えば結構戦える私。

クソつよオリアナさん。


この四者の力の差は、結構離れてる。それこそ連携をとるのが難しいほどに。


自分以外の被害を無視すれば十二分に戦えるんだろうけど、私は身内に引き入れたものを殺したくはないし、死なせたくもない。必然と安全策、弱いものを守りながら戦う策を取って良くことになっちゃうんだけど……。



(今のままだと、私やオリアナさんが単身で突っ込んだ方が強かったりするんだよね。)



オリアナさんは歴戦の猛者だから指揮は普通にできるし、私もナディママやオリアナに叩き込まれたからある程度できる。けれど今回雇った子たちがかなり強くならないと、連携にはならない。私もオリアナさんも後方から指示を出すのではなく、前に出て引っ張っていくタイプだし、そうなると突出して一人で暴れ回る方が早いというか……。



(まぁそれは私とオリアナさんを比べた時も同じ。守ってもらった側だから私が言えたことではない。)



だからこそ私は早く強くならないといけないし、今回雇った子たちもそれは同じ。オリアナさんは迷宮都市に着く前ふざけて『私より強く成ったら戦場に連れて行ってやるよ』なんて言っていたが……。早いとこそれになっちゃわないとね。



「っと。考えてたら周回の手が止まっちゃった。今日は後500周ぐらいするよタイタン。目指せ5秒切り!」


「プ、プモ……。」


「日が沈むって? 馬鹿だなぁ。日が沈んでもやるんだよ。」



多分それぐらいしたらレベル上がるでしょ。


それにタイタン、ティアラちゃん知ってるんだからね……? お前のスタミナなら三日間ぐらい走り続けても大丈夫ってことは。ほーら、もう【オリンディクス】ちゃん振り回しながら騎馬突撃したらオーガなんてワンパンなんだからさ。ほらぐるぐる回るぞー!



「それに、最近お前。馬好きのモヒカンズにおやつ貰い過ぎてハラ出て来たのティアラちゃん知ってるんだからな♡ 贅肉燃やすために一緒に走ろうね♡ ほら一緒にブラックレベリングしよ♡ しろ♡ はしれ♡」



ほんとはもうちょっと下の階層に行きたいんだけどね~。私が紙装甲なのは依然として変わっていない。


なので個人で周回する時に入れるのは、ここ30階層までなのだ。一応40階層。31~40階層に広がる“水晶”の世界の探索は終了してるし、40階層の水晶ゴーレム、正式名称『キラキラmeth』もぶっ殺したことあるんだけど……。



(あいつクソ固くて“射出”も疑似メテオレベルじゃないと確殺できないんだよね。私個人でもかなり延長戦になっちゃうし、一撃でも喰らえば即死の攻撃を繰り出してくる。)



“水晶”の世界はゴーレムみたいなDEFが高い敵が多く、私の“射出”がほとんど通用しないのだ。疑似メテオならば確殺できるんだけど、ちょっと使い過ぎちゃって現在補給中。それに、普通に私がワンパン圏内なのでオリアナさんからすれば『んな危ないとこ一人で行くなバカ。これ以降は私が付いてる時だけにしろ。』ってことだ。心配してもらってるんだし、言うこと聞かなくちゃね。



「ま、私も死にたいわけじゃないからね~。数熟してレベリングあるのみよ。」



さ、頑張るぞタイタン~!









 ◇◆◇◆◇








「なに、我が天使が?」



迷宮都市から遠く離れた別の場所。そんな領土の統治者が住む屋敷で、一人の男が報告を受けていた。そう、ティアラの宿敵にしてロリコンのリロコ伯爵である。



「そうか、傭兵を雇ったのか……。戦でも始めるつもりか? ふ、やはり我が天使は一味違う。私の想像も寄らぬことをしてくれる。これがまさに、“恋”というモノなのであろうな!」



“お楽しみ”の速度を上げながらそんなことを言う伯爵。以前の迷宮都市の宿とは違い、ここは彼の屋敷。彼の興が乗るような年頃の娘は多くいるし、それこそあの一件以降“彼女”に似た白髪で碧眼の子も増えた。


最初はその心で燃え続ける烈火の炎を治めるために集めた者たちだったのであろうが……。まだ彼女たちはマシな方である。少なくとも町で住むような人間たちよりは良い暮らしができているし、年齢制限に引っかかる時を見越して学を修めることが出来る場所が、この屋敷だった。生まれがほぼすべてともいえるこの王国に於いて、“ちょっと我慢すれば”それが手に入る。


現代では即司法のお世話になるのが確定なのだが、それでもこの世界ではかなりマシな部類である。何せ“壊される”可能性が少なく、さらに態度さえ気を付ければ未来の保証までしてくれるのだから。



「あぁ、今から逢いに行くぞ我が天使よ!」



優秀な成績を収めていればそのままこの屋敷で働くこともできるし、伯爵配下の優秀な人材と恋仲になることも、もちろん下野したとしてもその美貌と教育を受けたという事実があれば、他よりも裕福な暮らしができる。まぁもちろん自分が一番愛されていると“勘違い”してしまった子は真っ先に消されてしまうが……。それでも、賢く生き残ればそれ相応の生活が出来るという点でこの場所はまだ、真面だった。


今相手している子も、それを理解しているのか。それとも昨日“捨てられた”子の末路を知ったのかはわからない。だが相手をしている男が、自分ではない誰かのことを考えていたとしても口を挟まなかったのは事実だ。



「それにしても……、想像以上にあの受付嬢は優秀であったな。おっと、もう彼女はギルド長であったか。」



行為が終わったのだろう、ゆっくりと服を着直しながら思考を深めていく伯爵。その服の隙間から見える彼の肉体は、確実に“以前”よりも引き締まり、膨れ上がっていた。


彼は少々性癖に問題があるタイプの貴族であったが、ティアラやオリアナが『生きているだけで害悪』と評する五大臣や、会敵数分後に“空間行き”になった男爵と比べれば格段に“良い”方の貴族であった。



「成り上がりの平民としてはよくやっている方だ、一年足らずで諜報網を構築し、まだ完全ではないと言えど迷宮都市のほとんどに目と耳を届かせている。だが……、流石に蓄積のある“貴族”には勝てないようだな。」



領地を富ませ、民に富を分配し、さらに領土を発展させる。それが出来る男が、迷宮都市に間者を潜り込ませないわけがなかった。彼は生まれながらの貴族であり、これまでの血族が遺した蓄積がある。それ相応の諜報機関を持つ彼からすれば、あの町で起きたことなど全て把握済みだ。



「ゲリュオン子爵領に行ったときは流石に手出しできぬと落ち込んだものだったが……、迷宮都市ならば違う。あぁ、やはり我が天使は楽しませてくれるな。」



そんなことを言いながら、自身で酒瓶を手に取り、グラスに注いでいく伯爵。



「ふふふ、にしても才能豊かな少女とはこれほどまでに心を躍らせてくれるものなのだな。延々と見続けたいと感じる美貌に、吸い込まれそうになるほど澄んだその瞳。齢7つに至ろうとする前に『空騎兵』となり、特異個体とも呼べるペガサスを入手する。部隊指揮の知識のみならず、商売までも可能とは……。」



考えれば考えるほどに、体に熱が貯まっていく伯爵。変態さんだ。



「しかしそのすべてを打ち消すであろう体の弱さ。抱きしめれば折れてしまいそうなか弱さ。……あぁ、これまで完璧な存在を望んでいたものだが、真理は彼女にあったのだな。すべての利点を壊しかねない欠点を持ちながら、一つの存在として確立している。これの何と美しいことか……!」



滾る熱を少しでも冷やすためか、大きく酒を呷るロリコン。その目は完全にいっており、モザイクが必要なレベル。というか彼の存在自体が幼子に見せていい存在ではないため、全身モザイクが必要だ。



「ふぅ。……おい。」


「は。」


「兵を集めよ、それと侍女団もな。我が天使を迎えに行く。」


「数はいかがいたしましょう。」


「2000ほど、いや3000だな。槍鬼を抑えるにはそれぐらい必要だろう。」



彼は軍を動かす指示をだし、また彼の言う“天使”のために集めた侍女団を連れて迎えに行くことに決めたようだ。


本来それほどの軍を動かせば迷宮都市からの苦情はもちろん、国からも『お前それだけ軍動かせるなら帝国と戦争しろよ』と言われそうなものであるが……。そこは伯爵。すでに根回しは済んでおり、誰からも文句を言われることはない。



「さて、はて。どれほど強くなったのだ、ティアラよ。」



兵の手配を配下に任せた伯爵は、手慰みに集めていた資料に手を伸ばす。


迷宮都市内に潜ませた間者からの報告書。そこには都市内の市場の推移のみならず、都市外にどれだけの素材が流れたのかが刻まれていた。さすがに迷宮都市内部の情報は新ギルド長であるセルザによって隠されているようだったが……、都市の外に出た素材を隠すまでには至っていない。



(急に魔物素材。それもボス級の素材の供給速度が上がったことから、明らかに我が天使が“階位上げ”に勤しんでいることが理解できる。それも驚異的な速度で、だ。だが……。)



ティアラのほぼすべて、アユティナという絶対に隠すべき神の情報以外のすべてを丸裸にしているといってもいい伯爵は、一つの疑問を思い浮かべる。



(なぜ、まだ転職を。いやそもそも、なぜ一度も“教会”に向かわない?)



転職、下級職から上級職に成るためには、教会などに設置されている神の形を象った像を使用する必要がある。本来はアユティナや、それに仕えていた天使たちの姿を模した像であったが3000年の時を経てクソ女神を称えるモノになってしまっている。


そんな像は迷宮都市にも存在しており、近くに教会が敷設され利用時に“寄進”を要求するシステムになっているのだが……。



(確実に上級職へ至る“階位”には到達している。しかし教会には一切近づいていない。祈りを捧げたことすらない。あの槍鬼との兼ね合いもあるだろうが、一切転職するそぶりすら見せぬということは……。)



「何か、あるのだろうな。」



そう、呟くロリコン。



「ふふ! まぁいい。全て我が物にしてしまえば謎もなくなるというモノ。久方ぶりの再会だ、其方も楽しみであろう、ティアラ!」



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