46:わからせしたい


現在10階層、私は中ボスと戦闘。いや“処理”を進めていた。



「ほらドーン!」



そう言った瞬間、私の頭上に“空間”が開き、轟音と共に隕石が姿を見せる。


前にも言ったが、子爵領に課された兵役。『物資の輸送』という仕事を代わりにやったことがある。タイタンとオリアナさんと共に各地を走り回り、物資全てを“空間”にぶち込み、目的地まで運ぶ。もちろん“空間”の存在は秘匿せねばならないため闇夜に紛れて、という感じだったが……。



(その過程で、色々な場所を巡った。採石場、とかね?)



タイタンを捕まえた際に、巨石による“射出”がかなり効果的であることが解った。


故に放棄された石材や、ちょうどいい感じの大きさの岩を片っ端から空間の中にぶち込み、同時に加速を施しておいた。“射出”以外の使い道もあるため3/4は放り込んで石材スペースに固めているだけだが、1/4はすでに準備済み。



「“射出”、疑似メテオってところだね。さ、はじけ飛ぼうか。」



“空間”の中で止められていた時間が、動き出す。


赤熱するまで落下し続けた岩が向かう先は、トラックほどの大きさを誇る芋虫の胴体。


その体に見合った大きな目玉を持つ虫ケラだ、こちらの攻撃を視認していてもおかしくはないだろう。しかしながら攻撃が来ると理解していても、この加速しきった隕石を避けることなど出来るわけがない。


死の危機に瀕し、脳がその状況から脱するため時が止まったかのように思考が高速化する。そんな一瞬ですら笑ってしまうほどに、この岩は加速し、熱を発し、敵を破壊しようとしているのだ。


それに。なんども殺してきた相手だからね。その一瞬で動けないことなどすでに把握済みよ。



「バァイ。」



瞬きをした瞬間。その胴体に直撃する岩石。確実にその肉体を破壊し、押し潰し、消し飛ばす。焼き飛ばされず残った肉体は、その圧力に負け液体となり、緑色の汁へ。虫の体が焼ける臭いを充満させながら、周囲へと飛び散る。たった一瞬で出来上がるのは、ダンジョンの床を彩る現代アート。う~ん、汚い花火。



「ぉ。この感覚レベル上がったな。見たいけど……、その前に素材チェック~。」



耐熱用の皮の手袋を空間から取り出し、装着しながら虫の残骸に近づく。


この巨大な芋虫の小さいバージョンからは、“虫玉”と呼ばれる傷薬などの材料となる素材が採取できる。この大きい奴も同様で、“虫玉”が取れるのだが……、その玉も、大きな肉体に見合ったサイズ。バランスボールほどの球体をはぎ取ることができるのだ。


買い取り価格もそれなりで、アユティナ様からの奉納点も結構高い。けれど欠けていたり壊れているものは買取価格が下がり、神にお渡しするなら傷一つないモノでなければならない。故に剥ぎ取り作業ってのは慎重にしなくちゃね。


一応破壊位置は虫玉から離したんだけど、どうだろ。



「お、キレイに残ってる! 熱も……、入ってないね。これなら大丈夫そ。」



剥ぎ取り用のナイフで張り付いている膜や肉を切り取り、キレイな状態の大虫玉を取り出し、空間に入れる。……昨日大量に採取してギルドに売っちゃったし、在庫過多で買い取ってもらえないかもしれない。これはアユティナ様に捧げるために取っておくことにしよう。寝る前のお電話の際に改めてお渡ししますね♡


んじゃ。さっきの体が軽くなる感覚的に、またレベル上がっただろうし……。


確認タイムといっちゃいましょー!




ティアラ 空騎兵 Lv3→9


HP (体力)13→18

MP (魔力)7 →10

ATK(攻撃)9 →11

DEF(防御)6 →7

INT(魔攻)6 →10

RES(魔防)7 →9

AGI(素早)10→12

LUK(幸運)0


MOV(移動)4(7)




「……昨日の200体マラソンと合わせれば、こんなもんか。不満がないわけではないけど、LUK0野郎にすればかなりいい方なんじゃない? 野郎じゃなくてレディだけど。」



レベル6も上げたのに、DEFが1しか上がってないとこや、ATKよりもINTが上昇率良かったりと『私ほんとに物理職の空騎兵?』とハテナが浮かんでしまいそうなものだが……。HPがほぼ欠けずに上がってくれたのは非常に嬉しい。


上がれば上がるほどに死ににくくなる数値。体力はどれだけあっても困らないからね~。


あとLUKが一ミリも動かないことに何も感じなくなってきちゃったな。……もしやこれが成長!? アユティナ様ー! ティアラちゃん頑張って成長してますよー! あとで褒めてくださいねー!



「にしてもLv9か。もっかいレベルアップすれば転職できるね。」


「ん? ティアラ。8回目か?」


「あ、オリアナさん。そうそう、8回目のレベルアップだから、Lv9。でも20になる……。19回上がるまで転職する気はないよ。もったいないしね!」


「ブブブ。」



昨日の200連戦のせいでかなり機嫌が悪くなってしまったタイタンを連れて、やってきてくれたのはオリアナさん。彼女の疑問にそう答えながら、注釈を入れておく。


この世界の人間たちは、私みたいにステータスは見れないけれど『何回レベルアップすれば転職できるか』ってのは理解している。最大レベルの半分まで、つまり下級職の私はLv10になれば転職が可能ってことだ。9回自分が成長したような感覚が来たから、転職できるってことね。


アユティナ様がこの世界を統治していたころはそのあたりの話もちゃんと伝わっていたみたいなんだけど……。



(多分、あの女神どもが人の力を削ごうとしたんでしょ。“マックスフルパワー”アユティナ様は格が違い過ぎて傷すらつけられないみたいだけど、あのクソ女神どもは違う。人間相手に苦戦するからね。もしかしたら全力状態じゃクソ女神どもも難しいのかもしれないけど……。私には関係ない話、あいつらには緩やかな弱体化しか残ってないもんねー。)



オリアナさんもそうだったらしいのだが、多くの人は転職レベルになった瞬間にすぐに転職を行ってしまう。確かにそれは短期で大きな力を手に入れることが出来るものなのだけど……。その分レベルアップの総数が減るので、かなり損をしてしまっている。


王国と帝国の戦争がずっと続いている都合、早く力を手に入れようとするのは正しいのかもしれないけど……。



「単純にステータスが弱く成長率も低い私は、限界までレベルを上げておかないと後々不味い。真面目にコツコツレベリングってわけですよ。」


「……昔の私がそれ知ってればもう少し上に行けたのかねぇ。ま、老いぼれには関係のない話か。」


「? オリアナさんまだレベル上限まで行ってないし、“最上級職”ってのもあるよ? というかティアラちゃんそれ目指してるし。オリアナさんもあと20回ぐらいレベル上げる必要あると思うけど、もっと強くなれるよ?」


「そーかい。じゃあ少しは考えておくか。……んで、どうする? 私は昨日みたいに何回もボス巡りってのでもいいが、お前の“相棒”がダメそうだぞ。」


「ブブブブブ!!!!!」



うわめっちゃキレてる。オリアナさんが手綱握って、抑えててくれるから被害は出てないけど、これ手放したら私撥ね飛ばされる奴じゃん。こわ。ほらご主人が水出してやるから、それでも飲んで落ち着きな?


にしても、そうか。出来たらLv10になるまで。というかこれ全く危険がないから正直カンストするまで芋虫と戯れる予定だった。レベルが上がれば上がるほど入ってくる経験値は減るけど、ボスだから0になることはない。ゲームでもそうだったし。何も考えずに攻撃しても倒せる相手だからちょうどいいかと思ってたんだけど……。


それだとこの子が無理そうだ。途中で確実に暴走して、面倒なことになるのは必至。だったらもう下の階層に移ってストレスを発散させてやるに限る、か。



「よし、じゃあ11階層。森の世界に移って行こうか!」


「いいのか?」


「うん! 空も広がってるし、この子も好きに飛べるでしょ。それに、ちょっとまだステータス的には不安だけど、今の階層じゃレベルに見合ってないのは確かだったからね。」



よーし、じゃあ11階層。第二の世界に行くぞー!



デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!






 ◇◆◇◆◇






さて、そんなわけで11階層。


迷宮の景色はガラリと変わり、まるで外に出て来たかのような森が一面に広がっている。いわゆるフィールドタイプのダンジョンだ。延々に世界が広がっているように見えるけど、見えない壁や見えない天井などがあるステージだね。


1~10階層みたいに迷路みたいな世界が広がっているわけではなく、ただドンっと森が置いてあるような空間がここ。つまりやろうと思えば空を飛んでこの階層の終わりまで一直線、ってのもできるわけだ。やらないけど。



(そういえばダンジョンのバグ技で天井の上を歩いて最下層まで行くっていう技があったけど……、できるのかな? “壁の中にいる”案件とか嫌だし、やらないけど。)



んで、今はストレス発散のため元気に空を飛び回ってるんだけど……、気分はどうだいタイタン。



「ブ。」


「風がなくて気持ち悪い? そりゃそうだ。ここはダンジョンの中。室内なんだもの。」



けどまぁ飛べるだけマシでしょう? だから今はこれで我慢してくれにゃ。お休みの日とかは都市の外に出て好きに飛ばしてあげるからねぇ。……あ、でも。ここにだけしかない要素もあるよ? ほら下見てごらん? 木々からクソデカいカブトムシが飛んできてるだろう? 軽く数えて50以上。“お前の空”に不届き者がやって来た。



「正式名称は『メンヘラクレス兜丸』。動いてる全ての存在にしつこく攻撃して来る奴ら、一回ロックオンしたら死んでも攻撃して来るよ♡ ……相変わらず名前酷いなぁ。あ、角の先端刃物になってるから気を付けろよ。」


「ブモ!」


「はいはい。じゃあご主人様の指示に従うんやで。」



“空間”から久しぶりに【オリンディクス】を取り出し、魔力を流しこむ。そうすれば嬉しそうに声を上げるこの子。埋め込まれた機構が独特な音を出しながら動き始め、熱を持ち始める。スキルを使うほどの相手ではないけど、さっきまでの雑魚的に比べたら強いからね。ちょっとだけギア上げましょ。



「じゃあ……、突っ込めッ!」



私の指示出しと同時に、動き始めるタイタン。下から上がってくる雑兵どもに向かい、急降下を敢行する。確かに数は多いが……、連携をとるような頭はないようだ。おのおの私たちに向かって一直線に飛ぶ、ということしか出来ていない。連携されれば空中からの“射出”で数を減らしてやろうかと思ったけど……。



(これなら、要らないね。)



すれ違いざまに【オリンディクス】の刃を撫でるようにその甲殻に当て、カブトムシを一刀に伏す。


手に残る感覚は、無。この“森の世界”じゃ比較的DEFの高い敵だったはずなんだけど……。武器の性能が良すぎてちゃんと切れたかどうかわからないぐらいだった。やっぱ神器は違うねぇ。


っと、感心してる場合じゃなかったな。


タイタンが方向を変えた瞬間。二度槍を振るうことで甲虫を地面へと叩き落す。もちろん私だけが攻撃をするわけではない。空中で敵の体を踏みつけたり、蹴りつけたり、体当たりだけで粉砕していくタイタン。ダンジョン初めての空中戦。本来下級職一人では苦戦どころか、何もできず戦死するような相手を前に、無双する私たち。


武器の性能と、タイタンの肉体性能。それに頼り切りってのは解るけど、気持ちいいよねぇ。



「……っと、これで最後かな? んじゃキリもいいしオリアナさん所にもどろっか。入口あたりで待っててくれてるはずだし。」


「プ。」



うん、声の感じからしてだいぶ機嫌がもとに戻ったな。


やっぱ私もこいつも、蹂躙するのが性に合っている。私は“射出”で色々出来るけど、この子は自分の肉体だけ。そういうのもあって、昨日の芋虫マラソンはストレス爆増だったんだろうね。


でもせっかく“森”の世界に来たのなら、20階層のボス部屋まで蹂躙してモンスター共の死体をまき散らしながら進む以外の選択肢はない。私も楽しいし、タイタンも楽しい。楽しんでる私たちを見てオリアナさんもニコニコ。みんな幸せな世界がここに出来上がるって寸法だ。



(それに、それだけやればタイタンの機嫌もMAXになってくれるだろう。)



この森の世界のボス、20階層も100回ぐらいボス巡りするつもりだったからね。素材売りたいし、アユティナ様にも捧げたいし、経験値も欲しい。せっかく最大値まで上げたんだ。なら0にするまで使いつぶしてもいいでしょう? 最近ワガママだしお仕置きも兼ねて♡ オラ♡ ご主人の言うこと聞け♡ 聞け♡



「……ブ?」


「ん? あぁ他のモンスターかい? カブトムシ以外はサルとゴブリンだね。合計三種が出てくるよ。」



私の考えを察知したであろうタイタンに声をかけられるが、違う話題を振ることで思考を逸らす。


そうそう、ゴブリンが地上から、サルが樹上から、虫が空からやってくる感じ。ちな虫に負ければボロボロのミンチにされて喰われるだけで済むけど、サルはおもちゃルート、ゴブリンは苗床ルートになるから気を付けてね! それで捨てられれば結局虫にミンチにされるぞ! 無駄がないね! 地球にやさしい!


……タイタン、オスだからミンチ以外ないけど。


え、あんなクソ虫に負けるわけがないって? それはそう。



「あ、そういえばカブトムシの剥ぎ取り忘れてたな。……と言っても今から地面に落ちたの集めに行くのも手間、か。道中死体転がってたら回収するとするか。」



にしても、“森”でこれなら……。もっと先に行っても苦戦しなさそうだな。さすがに奥に行けば行くほど相手も強くなってくるから、“射出”でも対応できない敵も出てくるかもしれない。けどそれはかなり奥に進まなければ出てこない様な気がする。



「この層でのボス周回し終わったら、ちょっとレベリングよりも先に進むことにシフトしようか。とりあえず50階層。半分までが目標かな?」



ーーーーーーーーーーーーーー



〇ティアラちゃんの目標

・(済)セルザっちに挨拶しよう!

・(済)ペペちゃんに謝りに行こう!

・ダンジョンを50階層まで進もう!(NEW)

・下級職から上級職に転職しよう!

・傭兵を雇おう!

・強く成ったら伯爵を処理しておこう!

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