原作開始前:強化編

43:心当たりしかない



はい! ということでティアラちゃん現在迷宮都市に向かってます!!!


メンバーは私とオリアナさんとタイタン、あと馬車用の馬ちゃん二号三号だね。……タイタンの元群れ? なんか厩舎の生活に慣れ過ぎた上に、タイタンがボスってこと忘れてたからおいてきた。所有権とかはそのままだけど、何かあったときのために、エレナに所有権が移る様にしておいたぐらいかな、うん。



「プ……。」


「流石にこれは泣いていい。ほらご主人が慰めてやろ……。」



一年って結構長いからね、仕方ないね。そう言い、タイタンの背に乗りながら首元を撫でてやる。


ま、こんな感じで旅を続けてる。


今いる場所は大体……、この前盗賊を埋めたとこを昨日通り過ぎたあたり? つまりあとちょっとで迷宮都市にたどり着くって感じだね! あ、あの例のお墓ちゃんだけど、ティアラちゃん優しいから新入りをぶち込んであげたよ! 新しく増えた死体ちゃんを埋めて、新しくアユティナ様にもらった十字架さしてお祈り! こりゃもう心優しい使徒様過ぎて、そういう賞、貰っちゃうわね……!


え? いつの間にヤったかだって? そんなの町出てちょっと歩いたら盗賊いるし、子爵領にも掃除が必要な奴はいたし、あとはクソの徴税官とかも……。おっとこの話はオリアナさんから止められてるんだった! ま、この前埋めた時よりはだいぶ少なくなってたからね! 成長成長!



(にしても、結局一年ぐらい滞在しちゃったなぁ。)



ほんとはもう少し早く子爵領を出る予定だったんだけど、色々あってここまで延期してしまった。


これには色々な理由があるんだけど……、まず一つ目は『居心地が非常に良かった』ということだね。


滞在期間中。最初は普通に宿をとっていたんだけど、ナディさんに『姉上もう身内だし屋敷に住まないか?』とか、エレナの『あの、一緒だとうれしい……、かな。』と言われればもう断れない。


子爵様に宿泊料としてそっと金貨10枚ほどを差し出して、お屋敷に住まわしてもらうことになった。これね、環境がすごくいいのよ……。ベッドはいつもきれいだし、ご飯はたくさん美味しいのが出てきてバランスもよし。ちょっと外に出れば騎士団の姉ちゃんたちが『鍛錬しようぜー』って誘ってきてくれるし、仲のいい友人もすぐそこにいるわけだから、生活するにも鍛錬するにも最適な場所。タイタンも飯の質がいいって喜んでたしね☆


ま、そんな最高の環境だ。ずっとあそこで過ごしていても良かったんだけど……。鍛錬はできても、レベリングが難しいのだ。騎士団がいるってことで故郷ほど大量に盗賊が出てくるわけでもないし、ダンジョンもない。ということで半年前ぐらいに『迷宮都市戻るね』って話をしたんだけど……。



「ナディさん。色々ヤバかったですよねぇ。」


「あぁ……。まぁアイツの気持ちも解ってやってくれ。」



急に話題を振ったオリアナさんが、ナディさんの醜態を思い浮かべて顔を顰める。顰めすぎてくしゃくしゃ、前見えてないんじゃない? 馬車運転中だから前見ないとだめだよ?


んで、何があったかというと……。


あの武人然としたナディさんがなんと、玄関前で『行っちゃヤダ』と駄々をこね始めたのだ。地面で寝転がって泣き叫ぶレベルで。あまりにも大きな声だったせいで飛んできた夫の子爵様は、視界に入れた瞬間ショックでバタンキュー。騎士団の姉ちゃんたちも『すわ何事』って飛んできた瞬間、すごい目でナディさん見てた。


さらにヤバかったのが、何を思ったのかエレナもそこに参入して駄々をこね始めて……。


ワガママ母子アタックを喰らってしまった私たちは、滞在伸ばすしかなかったのだ。



(エレナ自身、折角できた友達と離れるのが嫌だったみたいだし、ナディさんもそれを解ってて、敢えて道化を演じてくれたのだろう。……だよね? いやそうであって? そうだと思わせて???)



それが原因でずるずると滞在が増え、自然と鍛錬の時間も増えた。


私もタイタンとの連携がちょっとずつ上手くなるようになって行き、騎士団の姉ちゃんたちとの直近10回の模擬戦績が五分五分にまで持って行けるレベルまで。結構いい所まで技量を高めることが出来た、って感じ。未だナディさんには手も足も出なかったけど、必要最低限には到達できたと考えていいはず。


そういった技量面での完成、後は個人で高めていくだけって言う状態に入れたのも、一年で滞在をやめた理由の一つなんだけど……。



(一番の理由は、エレナの肉体の成長に追いつけなくなってきた、ってとこかな。)



あの子は私の自他ともに認めるライバル……



 ゾクッ!



「……え、何今の悪寒。」



……と、とりあえずまぁエレナは私の友達で、良く鍛錬をする中で、競い合う仲だった。


例のお祭りでの模擬戦の直後は、殺しかけてしまったことを思い出してしまうのか。私が勝ち越しちゃったんだけど……。あんまりにも歯応えがなかったもんだから一回嵌め倒して、煽りに煽っちゃった。そしたらガチギレでボコボコにされたんだけど、お返しとばかりこっちもボコボコにしてやって……。


ま、そんな感じで私たちは勝って負けての関係性だったんだけど……。エレナの肉体が成長期に入り始めていたのか、だんだんと勝てなくなってきたのだ。小手先の技とかで何とか勝率は維持してたけど、単純な肉体的な成長速度の差は、エレナも感じ取っていたと思う。



(まぁもともと魔法職の私と、一族全員『空騎士』のサラブレットであるエレナ。成長率の差なんて一目瞭然よね。レベリングなしで勝てるわけがない。)



ということでこのままじゃ勝ち越されて、ティアラちゃんの面目丸つぶれになっちゃう。最初は他人行儀な話し方だったけど、エレナが私に心を許してくれたのか、最近は原作に近い話し方をしてくれていた。……つまりめっちゃ煽ってくるのだ。(私が先に煽りまくってそういう語彙を教えてしまったのがおそらく原因。)


こうなったらもう、レベリングで無理矢理ステータス爆上げして黙らせるんだよ! ってわけ。


全部丸々言っちゃうのは負けを認めるみたいで嫌だったから、エレナには『武者修行して来るわ』と伝えたんだけど……。そしたら『なら私はここで貴女よりも何倍も強くなるわ』と返された。かわいくない奴め……! あ、ちなまたナディさんがヤダヤダしてたけど、流石にオリアナさんにぶっ飛ばされて大人しくなってました、はい。



「ま、何かと騒がしかったが退屈はしなかったよな。……お前も友人ができたみたいだし、“祖母”としては満足だよ。」


「だねー! ちなみに一番面白かったの何? ティアラちゃんは徴税官の奴!」


「あれは恥ずかしいから言うなって言わなかったか?」


「きこえなーい!」



ちなその徴税官は、さっき埋めた奴のことだ。


話が脱線してしまうけれど……、ちょっとティアラちゃんとしては嬉しいエピソードがあったのだ。オリアナさんの反応も面白かったし、ぜひ聞いていただきたい。



(いつ言ったか覚えてないけど、この世界の貴族は王様に税を支払わないといけない。『兵役』とかもその一種だよね。)



『空騎士』というペガサスに乗った騎士たちを排出する子爵領は、『兵役』以外の税が軽い代わりに、戦時には滅茶苦茶『空騎士』を要求される。ちな帝国と王国は常に戦争してるからエブィデイ戦時ね? んでこれまでちゃんとその兵役を果たしてたみたいだけど……。前回の戦いの被害が大きすぎて、このままじゃ領地ぶっ壊れるぞ? という話になったそうだ。


なのでどうにかして税を軽くするか、払わないって方法を探す必要があって、子爵様はずっと奔走してたみたいなんだけど……。二回目。今年分の徴税官がヤバかったのだ。



(去年はね、良かったのよ。ティアラちゃんもお手伝いできたし。)



一度目、去年の徴税官だが、比較的話が分かる奴で事前の交渉も上手くいったようだった。子爵領の現状に理解を示し、『兵役』を軽く、それ以外の税を重くするというバランスをとってくれた。ただ戦場に『空騎士』がいないのはヤバすぎるし、『兵役』を免除してもらった分の税を治めようにも、子爵領はそれほど裕福ではない。


そのため彼らが課されたのは、『物資の輸送と、斥候』。


各地に散らばった物資を前線まで送るのならば何の職にも就いていない平民でも出来るし、斥候なら比較的被害も少ないだろうという判断だった。というわけでティアラちゃんとオリアナさん、頑張っちゃいました。



(私は闇夜に紛れてタイタンとお散歩。全部“空間”にぶち込んで、知らぬ間に物資が集まっているという状況を作成。オリアナさんは斥候部隊に付いて行き、安全を確保。去年度は無事被害者0で切り抜けることが出来た。)



実は私もエレナも戦場に出たいよー! 帝国兵殺したいよー! 経験値欲しいよー! ってゴネたのだが、普通に却下されお留守番になってしまった。まぁ私たちまだ子供だしね、仕方ないね。さすがのティアラちゃんでもまだちょっとこのステで戦争に参加するのは怖かったので、独断専行はやめておきました。



(んで、問題だったのが二年目。)



一応去年度に決めた話だと、『前回と同じ、輸送と斥候だけでいいよー!』という話だったのだが……。今年来た徴税官がヤバすぎたのだ。前回の徴税官を何らかの政争によって蹴落としたらしい新任の彼、よくある周囲への被害を気にせずに自分の成果だけを追い求めるクソ野郎でね? 上に褒めてもらうためだけに、追加の兵役を要求してきやがったのだ。


しかもさらにそいつは強欲で……。



『私はあの五大臣、ミューター様の親任を受けここにきているのだぞ! 私の指示を断るのは、ミューター様だけでなく、国王陛下のお言葉を拒否したのと同意! 逆賊である!』



とか言い始めのだ。ミューターってやつは、オリアナさんの宿敵で復讐相手。けど流石にそれだけで攻撃するほどオリアナさんは頭薩摩ではない。ほんとに、“それだけ”ならまだ話が丸く収まったんだろうけど……。


あろうことかそいつ、ロリコンだったのだ。


自分の言葉を拒否しようとした謝罪として、私とエレナの身柄を要求した徴税官。それまで黙っていたナディーンさんが流石に声を上げようとした瞬間……。もうすでに、オリアナさんがそいつのことをブった切っていたのだ。真っ二つに。


しかも本人無意識で動いてくれてたみたいでね? 自分の前で倒れる二つに肉片を見て、ようやく『あ。』って自分が何をしたのかに気が付くっていう……。



「わったし、愛されてる~~!!!」


「だ~から嫌なんだ。はいはい、大事に思ってますよ。」


「えっへへ~!」



ちなその死んじゃった人は子爵領に来る途中、獣に喰われたことにしておきました。後はティアラちゃんがぱっと物資の移動をお手伝いすれば安心安全ってやつよ!



「にしても、騎士団の姉ちゃんたち大丈夫かな。今年オリアナさん付いて行かないでしょ? 死んじゃわない?」


「大丈夫だろ。私とナディでかなり鍛えてやったし、強さはお前がよく理解してるはずだ。」


「確かに……。」



騎士団の姉ちゃんたち、普通に私があった時よりも強くなってたからな……。ナディさんもオリアナさんとの鍛錬でより技に磨きがかかったって言ってたし、大丈夫かも。



「ま、そんなに心配ならダンジョンで早く強くなって、助けに行ってやりな。今は春で、本格的に戦が始まるのは農閑期の冬だ。王国も帝国も専業だけじゃ兵数足りねぇからな。決戦時は農兵がメインよ。それに、冬までに私が戦場に出してもいいって思えるレベルまで強く成ってたら、連れていってもいいぜ?」


「……ちなみにその“レベル”って? どれくらい?」


「私よりも強く成ったら。」



むりじゃん!!!



「はっ! ま、子供は安心して大人を応援しとけばいいってことだ。それでも心配なら手紙でも送ってやれ『一人でも欠けたら地獄の果てまで追いかけてタイタンの餌にする』ってな。そっちの方があの姉ちゃんたちも気合入るだろ。」


「おぉ。それはいいかも!」


「プモ。」



え、何よタイタン! 自分ペガサスだから肉喰わないって!? 肉食獣みたいな気性難してるのに!?



「ブブブ!」


「あ、揺らすなバカタイタン! お前からの落馬は洒落にならねぇっていつも言ってるだろ! やめちくれー!」







 ◇◆◇◆◇







ま、そんな感じでオリアナさんと旅を続け。ようやく『迷宮都市』に帰って来た私たち。人二人馬二頭化け物一頭で仲良く町の中を歩いているんだけど……、やっぱタイタンのサイズがおかしすぎて無茶苦茶目線集まってるなぁ。……ちょっと嫌かも。


他の町じゃ羨望の視線とか、+の視線が多かった。大きすぎてびっくりしてたり、タイタンを格好いいと思ってくれてたり、そういう比較的良い感情を含んだ視線。けどこの迷宮都市は欲望渦巻く町、幾つか『どうやってタイタンを奪い取ろう』みたいな視線が感じられる。


はー、つっかえ。もうまとめて処理して“空間”に放り込んでやろうかな?



「……やるなよ?」


「冗談だって。……でもタイタンがちょっとキレてきてるから冗談じゃなくなるかも。」


「ブモ「聞かん坊、馬肉になりたいか?」プ、プミ……。」



わ、我慢できた! 偉いねぇ。



「んでオリアナさん、どうする?」


「どうするって……。まぁまずやらないといけないのは、ギルドに行ってセルザへの挨拶と、お前が前に世話になっていた宿への謝罪、か? 謝罪の後そのまま宿取れるならいいが……、空いてない時は新しく宿を探す必要がある。先にそっち片づけた方がいいだろ。」


「あ~、それなんだけど……。」



迷宮都市から飛び出す前さ。お世話になってた宿の看板娘、ペペちゃんに『お肉取って帰ってくるにゃ』って言ってそのまま伯爵の襲撃を受けて町から出ることになったから……。まぁ正直に言ってかなり気まずいのよね。あと昨日“空間”の中のお肉食べ切っちゃったから在庫がない。そういう意味でも帰るのがちょっと……。いやね? 謝りに行かないといけないのは解ってるんだけどね? 足が進まないといいますか……。 



「……はぁ、はいはい。じゃあ先にセルザの方に挨拶して、肉買って宿に。それでいいか?」


「いいの! 感謝!」


「あいよ。けど、遅くなっていい宿取れなくても文句言うなよ~。」



もちろん!


というわけで私たちは先に冒険者ギルドに向かうことにして……、到着しました。タイタンと馬ちゃんズ? お前ら中に入れないから外で待っててね。ほんとは誰かに任せておいた方がいいんだろうけど……、ここじゃあんま信用できる人間居ないからさ。キミたちだけでお願いね。


あ、もちろんタイタンはちょっかいかけてくる奴を踏み潰していいし、馬ちゃんズも轢き殺して大丈夫だから。ほんとは殺しとかあんまりしてほしくないけど、盗もうとした奴が悪いからね。というわけでタイタン、手加減するな。



「プ。」


「するわけないって? 確かに。」


「……半殺し程度にしとけよ。」



そんな会話をしながら、久しぶりの冒険者ギルドへ足を踏み入れる。


扉を開けてぱっと中を見てみれば……、うんうん。相変わらずクソみたいな顔ばっか。まだお日様が高いってのにお酒飲んでる人多くて面白いねぇ。あ、見たことある顔もあるじゃん。新顔ばっかりで悲しくなりそうだったけど、顔見知りの冒険者がいて安心するねぇ。さてと、セルザさんは……、いないな?



「席外してるのかな? とりまカウンターの人に……。」


「あの、すみません。もしかしてティアラさんとオリアナさんですか?」



そんな感じでギルドのカウンターに視線を向けた瞬間、受付嬢らしき人から声を掛けられる。一年半前はいなかった人だ。というかなんで名前知って……。あ、もしかしてセルザっちから言伝とか聞いちゃってる感じ? まぁいいや、とりあえずお話してみよー。



「せやで。うちティアラちゃん。よろしゅうな!」


「よかった……。ギルド長がお待ちです。ご同行願います。」


「…………へ?」



て、ティアラちゃんまたなんかやっちゃいました??? まだ迷宮都市ついてから30分もたってないのに!?

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