33:そんないい子ではないです


「……もしかしてこいつら全員捕まえたのか?」


「なんかそんな感じっぽい。」


「ブ。」



頭上から否定の言葉らしきものを飛ばしてくるクソデカの言葉を聞き流す。……あ? お前も無視するなって? いやまぁそりゃそうだけどさ、その否定意味あるの? ほら見てみてよお前の群れのペガサスたち。むっちゃオリアナさんに懐いてるぞ?



「ん? あぁ構ってほしいのか? しゃぁねぇな。ほれ、ここか?」


「体撫でてもらって無茶苦茶気持ち良さそうにしてるよねぇ。……エサとか上げたの私なのに。」


「ブピ。」



あいつら……。って感じの声かな?


とりあえず群れの頂点を抑えたこと、そして飯を食わせてやったことにより、おそらくだがこいつの群れごと確保したことになるのだろう。私を見て死ぬほど怯える、ってことはなくなったし。クソデカはプライドが高くてあんまり聞いてくれないが、他の子であれば指示は聞いてくれるっぽい。こっちきて~、て言ったら従ってくれたし。



(でもまぁ未だにクソビビられてるけど。)



これでもね、だいぶマシにはなったんですよ。まだこっちのこと怖がっているみたいだけど、『美味しいものをくれる怖い奴』という形で定着したらしく、震えはするが触る程度なら大丈夫のご様子。


んで私たちの様子を見て大丈夫そうだと判断したオリアナさんも、森の陰から出てきて自己紹介的なのをしたわけなんだけど……。やっぱ経験豊富なレディは違うのか、即座に気に入られて野生のペガサスたちにもみくちゃにされてる。まぁ体幹が強すぎて全く動じずに全部さばいてるけどさ。


私としては、ちょっと複雑。



「ま、私としてはお前がいれば十分なんだけどね~!」


「プミ。」


「あ? 顎さわるな? あともっとメシ出せ? へいへい、ったくどんだけ食うのやら。」



他のペガサスたち、このクソデカがボスを務めてる群れのペガサスたちはもう腹いっぱいになるまで食ったようなのだが……。未だにこいつは腹ペコらしく、どんどんと飯を要求して来る。いやまぁその図体だから食べる必要があるんだろうけどさ。もうそろそろ“空間”に入ってる馬用の食料無くなりそうなんだけど。どんだけ食うの?



(こりゃ二代目三代目の分無くなるなぁ。時間見つけて買い込んで置かないと。)


「んで実際どうなのクソデカ。ウチの子になるか? まぁならないって選択した場合は頷くまで延々と追いかけるんだけど。これだけいい子を逃しちゃったら二度と会えないだろうからね☆ ……解ってるとは思うけど、飯だけ食って逃げようとしたら“ヤる”からな?」


「ブ。……ヒヒン。」



自分の群れのことをちょっとだけ見て、またこちらを見つめる彼。いや見つめるというよりは、にらみつけるかな? プライドが高くてよろしい。たぶんだけど、自分の群れの面倒、メシも用意しろ。そしたらとりあえず付いて行ってはやる、ってところだろう。


……まぁそれぐらいならまだ何とかなる、か。このデカブツの群れは、コイツを除いて13頭。サイズは全て通常か、通常よりも少し小さいレベル。んでこのデカブツは、推定10匹分の飯を食うと推測できる。もしかしたらもっと食べるかもしれないが……。ちょっと多めに見て、大体25頭分の食費を持て、ってこいつは言ってるわけだ。


私はまだ子供だし、最近はダンジョンも通えてない。交易で手に入る金もそこそこだ。入ってくる金が現在ほとんどないような状況だけど……。伯爵の金を切り崩せばまぁ数年は養えるかな? うん、それぐらいなら何とかなるね。永遠に収入がないわけじゃないし、“金策”もまだ残ってる。


それぐらいヨユー、ヨユー。



「いいよ、それで。その代わり私の言うこと聞けよ?」


「……グプ。」


「うわめっちゃ嫌々。……はぁ、別に嫌われたいわけじゃないからそう変なことは言わんて。とりあえず今は『背中に乗せて』ぐらい。」


「……。」



うわ死ぬほど嫌そう。あはー! こりゃ手のかかる子だね。まぁそこが可愛らしい所でもあるんだけど。


この子に乗って戦場を駆けるのなら、こういったワガママは我慢してもらわないといけない。けど最初の力による脅しってのは何度も使うべきじゃない。自分から背にのしてくれるような関係になりたいわけだからね。どうにかして私を主人として認めてもらう必要がありそうだな~。



(とりあえずそのあたりは、追々かな? 時間をかけて行うべきだろう。)



ペガサスを確保できた時点で、私がこの地域に留まる理由はなくなった。言ってしまえば、彼と彼の群れを連れてそのまま迷宮都市に帰ってしまってもいい。そっちの方が滞在費を節約できるし、ダンジョンに潜る時間が増えるから経験値効率的にもいい。


けど、今の私はまだこの子について、そしてペガサスについて知識が少ない。そもそもこうやってペガサスと触れ合うのはこっちに来てから初めてだし、飼育方法とかはさっぱり。ましてやこんな跳ねっ返りの強い子の調教とか全然わからん。せっかくペガサスの厩舎、調教施設が集まっている町に来ているわけだし、このクソデカとの仲を深めながら、そっちの勉強をするってのが最善だろう。



「ティアラ。」


「んにゃ? どったのオリアナさん。」


「こいつら、どうするつもりだ? 聞いてた感じ全員引き取るって言っていたが……。さすがに二人で面倒見切れねぇぞ?」


「だよね。とりあえずは昨日行った厩舎あったでしょ? そこで飼育お願いしよっかな、って。お金はかかるだろうけど、プロに任せた方がいいし、何より私はこの子にだけ集中したい。」



そういいながら、彼の腕を触る。野生故に少し汚れているが、艶があり非常に良い毛並み。ただ体が大きいだけでなく、中身もしっかりと詰まっている健康優良児だ。私に触れられることがやっぱり嫌みたいだけど、とりあえず攻撃してくるような感じはないし、一歩前進かな?



「というわけでそういう感じでもいい? ……っと、そういやまだ呼び名決めてなかったな。ん~っとね~。」



名前、名前……。私あんまりこういうの得意じゃないからなぁ。センス全然ないし。あ、せや! こういう時こそアユティナ様に頼んじゃお! 私から名前貰うより、神様にもらった方が嬉しいよね! それに何と言ってもお前は、私って言うアユティナ様の“使徒”が乗るペガサス! 私が名付けるよりも絶対に良くて、とっても光栄なこと!


というべきでアユティナ様~! お知恵をお貸しくださ~い!



【え。じゃあ……、からだ大きいし“タイタン”とか?】


(おぉ、タイちゃんって呼べる!)


【でしょ? ティアラちゃんそういうあだ名とか好きそうだし、こういうのがいいかなって。】


「さっすがー! じゃぁ今日からお前は“タイタン”な! よろしくタイちゃん!」


「プ???」



この子には私とアユティナ様の会話は聞こえていない、そのせいでなんでそうなったのか解らないって表情だが、もう君は今日からタイちゃんだ。名前呼んでも反応なかったらずっと耳元で“タイタン”って呼び続けるから注意してね♡ 私の愛は重いぞ♡



「そうと決まれば早速町に帰る……、前にちょっと体洗いに行こうぜタイちゃん! ちょっち翼はやり方聞くまで手が出せないけど、ボディは馬と同じ。人間のお手手の器用さを見せつけてやんよ……! あ、群れのみんなも私がやってあげよっか?」


「「「……。」」」


「あ。クソ嫌そう。仕方ね、んじゃタイタンだけな。」



なぁ~に安心したまえ! ティアラちゃん最近“空間”の新しい使い方思いついたから、身長差あっても全身丸っと洗ってあげられるからな! ほらこんな風にぴょんと、しゃがんでもらわなくても背中に乗れる! ……いや背中大きすぎてこりゃ座るって感じだな。アレだ、ゾウみたい。



「“空間”に生物は入れられない。つまり私も入ることが出来ない。これを利用すれば、どこにでも生み出せる魔法の足場の完成ってわけだ! 感覚的に足だけで竹馬してるようなもんだから、そうそう長くはできないけど……、便利でしょ!」


「ブ!!!」


「降りろって? やだー!」



生物が入れないという設定は、アユティナ様が付けたものだ。けれどあの“空間”の性能を考えると、もともと生物を内部に入れることが出来ない存在ではないのだろう。かなり自由度が高いからね、あそこは。言ってしまえばこの設定は、“セーフティ”に近い。基本的に空間の中は時間を停止した状態なんだけど……。もしその中に私が入っちゃったら、どうなるのかって話だ。


おそらく内部からも操作はできるんだろうけど、時間が停止している中で私は動けない。つまり中に入ってしまったら最後。アユティナ様に発見してもらって助けていただくまではずっと、“空間”の中で過ごさなきゃいけない。



(他にも問題はあるんだろうけど……。今は足場に使えて大満足! それで十分!)



「ほらほら、背中洗ってあげるから! じっとしてな~!」







 ◇◆◇◆◇







場所は変わり、へスぺリベス。


ティアラが背に乗ったことにより、暴れまわるタイタン。そんな彼の体を洗い終わった後、彼女たちが町に帰還してから数時間後。この町の所有者であり、管理者でもある領主の元へ、一人の男が駆け込んできた。



「子爵様、例の巨大天馬についてのご報告です。」


「聞こう。」



手元の書類に向かっていた視線を上げ、握っていたペンを置きながらそう答える男。この者こそがへスぺリベスとその周辺を纏める存在、ゲリュオン子爵である。



「つい先ほど閣下が懸賞金をかけていたペガサスの捕獲がなされた、という情報が入ってまいりました。しかしその者は献上ではなく、個人での所有を望んでいる様です。」


「そうか……。」



少しだけ考える時間をくれと手で伝令の口を制しながら、思考を回す子爵。


金貨10枚、他の貴族からすれば何でもない額ではあるが、子爵からすればかなりの大金である。


そもそも彼が所有する領土は子爵として一般的な面積しかなく、土地もそれほど豊かとはいえない。ペガサスという特産品がある事は確かだが、言ってしまえばそれしかないのが現状。かのロリコン伯爵のように商才に優れた指導者がいないこの地は、裕福とは決して言えない場所であった。


そしてそこに、“国からの兵役”が課される。


多くのものが知る様に、王国と帝国は数千年間ずっと争い続けている。本来文明の発展に使われるべき資源すらも浪費しあいながら、殺し合っているのだ。そのため王家だけの力では足りず、領土の権利を認めた貴族たちにも兵役を課すことでそれを補っているのが現状である。


それはこのへスぺリベスでも同じ。……いやむしろ、他の貴族よりも多いと言ってもいい。



(王国に限られたペガサスの排出地だからこそ、重い。)



王国軍における唯一と言ってもいい、三次元的戦闘に対応できる存在が『空騎兵』。


その需要は非常に高く、毎年多くの兵を納めることを要求されているのが、この地である。その分国に治める税などの免除は行われているが、それと釣り合わないほどに、この兵役は“重い”ものに成ってしまった。



(……帰って来れないのだ。)



子爵は、男である。故にペガサスに跨り戦うことは難しい。


この地における男の貴族の役目は送り出すことであり、女が帰ってくるまでの領地を守る事である。彼も若いころに一人の兵として参戦した経験があるため、その厳しさ、帰ってくることの難しさは理解している。故にこの地で待つことを、耐えることはできた。以前と同じ、という前提が成り立っていれば、だが。



(現在王国軍は、徐々にではあるが弱体化が進んでいる。)



王の乱心に、奸臣の跋扈。それによるオリアナのような優秀な兵の離脱。帝国が『このまま放置していれば勝手に弱るわけだし、一旦休戦して体制を整えてから攻め込んだ方がいいのでは?』と考えるほどに、王国は終わっていた。子爵もその惨状を理解していたが、貴族として兵役には答えなければいけない。


例年通り数百の空騎兵、空騎士を送り出したが……。



(今年の帰還数は、30を切った。)



壊滅的な敗戦、彼女たちの犠牲によって領土が切り取られることは何とか避けられたようだったが、結果は悲惨。彼の元に帰還したのは、この地に戻って来れたのが奇跡と思うほどに焦燥した兵たち。精鋭と言えるほとんどが未帰還であり、帰って来れた者ももう一度戦場に立てるかどうかという有様。


これをもとに立て直すまで、どれだけの時間が必要になるのだろうか。



(全力で兵の育成を行っているが、消費されてしまう速度の方が速い。それに、どれだけ育成したとしても出来上がるのは新兵。新兵の帰還率がひどく低いことを考えると……。このままではこの家どころがこの地自体が終わる。)



ペガサスの補充に、兵の育成。それだけでもかなりの額が消えていく。そしてようやく育成を終えた兵は、帰ってこれない。経験を積めば生存率も上がるかもしれないが、その経験を積む前に殺されてしまう。まさに、金と人を溝に捨てるような感覚。


もともと裕福ではないこの地は、より深刻な資金難に陥っていた。


そして、問題は、金だけではない。人の消耗も激しいのだ。『空騎兵』という特性上、そのペガサスに乗れるのは女性である。つまり兵を集めるためには、領土にいる健康な女性を集めなければいけない。これを浪費してしまうと、領土内の男女バランスが崩れ、子が生まれなくなり、終わる。


資金面でも、人口面でも、致命的な問題を抱えているこの地は、危機的状況に陥っている。今ならまだ何とか立ち直すことが出来るかもしれないが、このような惨劇が続くのであれば、確実に壊れる。


子爵はそう、考えていた。



(だからこそ、“兵役の免除”を狙う必要があった。)



必要となれば悪事に手を染める覚悟もある子爵だが、常に自己の利益だけを求める俗物とは違う。王都を貪る奸臣たちを忌み嫌っていた彼であったが……、背に腹は代えられない。突然変異個体と思われるペガサスを入手し、その奸臣を通じて国王に流す。彼が先ほどまで考えていた策は、そういうモノであった。


ティアラがタイタンと名付けたあのペガサスの巨体は、乱心しているとはいえ王の琴線を刺激するであろう。子爵はその目で見たことはないが、情報を持ち帰った者の目利きは完璧であり、信用に値するもの。王のお気に入りになるのは確実だった。


そしてそれを献上できた奸臣は影響力を手に入れ、同時にこちらへの借りが出来る。それを利用することが出来れば、今年だけではなく来年以降も“兵役の免除”を期待できるかもしれない。


時間さえ稼げれば、立て直せるのだ。



(それに、あの天馬を確保してしまえば、献上前に繁殖に回すこともできる。同じような巨体を持つものは産まれぬかもしれぬが、強い子が出来るはずだ。それだけでも、十分に利になる。)



だからこそ、子爵はあの天馬を手に入れる必要があった。



「……報告の、続きを聞こう。」


「はっ! どうやら5歳ほどの幼児がペガサスの捕獲に成功したようです。ペガサスの群れごと確保したようで、騒ぎになっていたところを発見し、接触しました。」


「群れごと、か。」



5歳という彼の娘と同じ年齢。そして群れ事引き連れて来たということは、生まれながらにしてペガサスに好かれるという性質の持ち主なのだろう。そしてペガサスに好かれるものは、心優しく正しい精神を持つ者が多い。もし彼女が仕官してくれれば、娘との年齢からも良き友、良き右腕になってくれるかもしれない。


子爵は謎の幼女の存在をそう定義しながら、話を進めさせる。



「報奨金の話を伝えましたが、反応は良くありませんでした。またどうやら金に困っていないようで、名誉などにも興味がなさそうだという報告を受けております。懸賞金の上乗せや、仕官などの可能性は難しいかと。」



顎に手を当てながら、報告を聞く彼。


懸賞金自体は、もう少し無理すれば倍程度に増やすことはできた。しかしやはり、ペガサスに好かれるだけあって金にも興味がないのだろう。そして仕官にも興味がないのであれば、より難しい。ペガサス事こちらに引き込むことが出来なくなってしまった。


幼女故の無理解からくる無関心か、それともその保護者による言葉かはわからないが……、とにかく正攻法で手に入れるのは不可能だと彼は判断した。



「……無理矢理確保するのは可能か?」


「難しいかと。近くに保護者らしき存在がおり、その者とも接触したとのことですが……。平民出身の、元百人隊長だったそうです。」


「何? ……元ということは引退したのか?」


「そのようです。高齢ではありましたが、未だ衰えの兆しなし、とのこと。」



思わずうなってしまう子爵。それもそのはずである、平民出身の百人隊長は、決して侮れないのだから。


貴族は優秀なものを掛け合わせていった存在であるため、基本的に肉体の性能が他の者に比べて高い。しかしながら時たまに出現する“英雄”とも呼ばれるような存在に比べれば、ひどく劣る。貴族出身の“英雄”であればその階級は将軍にまで跳ね上がるのだろうが……、平民で手の届く最高の役職は、百人隊長である。


確かに英雄の中の一握りであれば平民であれど、もっと上に行けるのかもしれないが……。



(平民でそこに到達できている時点で、明らかに強者。)



子爵は、前回の兵役で多くの精鋭を失ってしまっている。もし彼が無理矢理そのペガサスを手に入れようとした場合、最悪戦闘に発展してしまうだろう。上手く立ち回ればなんとかなるかもしれないが。その元百人隊長と戦闘に陥った場合、決して無視できない被害を受けてしまうのは確実。


確かに天馬は必要だが、被害を抑えるために欲しているのだ。要らぬ犠牲を払うべきではない。



(……難しい、な。)



正攻法では難しく、強攻策も取りずらい。


ここから先は自身で判断すべき案件である、そう判断した子爵は部下に礼を言い、下がらせる。彼が立ち去った後一人になった子爵は、静寂のなかゆっくりと思考を巡らせていく。


領主としてあのペガサスを手に入れなければいけないのは確定。しかしながら強攻策に出てしまえば要らぬ犠牲を払ってしまうかもしれないし、失敗すればその者がこの地に寄り付くことは永遠にないだろう。ペガサスに好かれる存在というのは、稀有な才能である。囲い込むことが出来れば、野生の天馬たちを集めペガサスの消費を抑えることが出来るかもしれない。



(敵対よりも、友好的な関係を築く方が得策か?)



なんとか良い着地点を探さねばならない。彼がそんなことを考えている時、彼の執務室のドアが叩かれる。


その叩き方からして、子供。彼の娘である、エレナであろう。そう考えた子爵は、父親としての優しい声で、入室を促した。



「お父様、今、大丈夫ですか?」


「あぁ、もちろんだとも。おいで、エレナ。」



ドアの隙間から顔をのぞかせるのは、子爵と同じ赤髪を持ち、ツインテールに纏めた幼子。父親の許可をもらった彼女はトタトタとその元へと走り、膝に飛び乗る。


エレナという名を持つ彼女、原作に於いて約10年後にティアラ同様に主人公たちの軍に参加することになる少女であり、ルート選択によっては四肢を切断され飼われるという末路をたどる少女である。ティアラからすれば『ちょっと親近感あるよね』という存在であったが、原作開始後で十分にそのルートへのフラグを破壊できるため、接触する必要がないと判断された存在でもあった。



「お父様、ペガサスさん捕まえたって本当ですか?」


「おや、誰から聞いたんだい?」


「お父様の部下からです。」



ほんの少しだけ顔を顰める子爵だったが、自身の愛娘の前である。即座に顔を整えながら、誤魔化すように彼女の頭を撫でる彼。嬉しそうにそれを受け入れる娘の顔を眺めていた子爵は、そういえば巨大な天馬の噂は彼女にも届いており、一度見てみたいという言葉を交わしていたことを思い出す。



「あのペガサスだが、エレナと同じ年齢ほどの子が捕まえたそうだ。」


「本当ですか!?」


「あぁ、本当だとも。なんでも群れ事連れて帰って来たそうだ。」



子爵の娘も、母に似て『空騎兵』の素質を持っている。その年ですでにペガサスに認められていて、大空を自由に羽ばたくことが出来るほどだ。


彼の脳裏には、成人となった彼女の姿。この世界における成人である15を過ぎた愛娘の姿が浮かんでおり、そんな彼女が貴族として恥じない業績を残してくれるだろうと信じていた。……だがそれも、一人では難しい。エレナは親族の前では良い子ではあるが、少々“勝気過ぎる”性質も持っている。


その負けん気から、子爵家の人間として日々努力することは好ましい。『空騎兵』としての鍛錬も、次期領主としての勉学も、想定よりも早く進んでいる。だがまだ幼い所もあるのか、その努力を他人にも強制してしまったり、どう足掻いてもできないものを口車に乗せられ実行してしまうこともあった。



(生まれ持っての性質、だろうな。失敗から学ばぬ限り、これが収まることはないだろう。……よい“友人”がいる。)



子爵の脳裏に浮かぶのは、件の少女であるティアラ。年齢も近く、ペガサスに好かれるということはその性質も間違いはないだろう。そしてあの巨体を御すことが出来るということは、能力もあるはずだ。自身の愛娘が当たる最初の壁としては、十分なのではないかと子爵は考えていた。


そして考えが上手くいけば、“子爵”としてではなく、“友人の父親”としてティアラに接近できるということも。



「……そうだエレナ。例のペガサスと、例の彼女。会いに行ってみるか?」


「いいんですか! 是非!」


「よかった。と言っても少し予定が立て込んでいてな、何人か人を付けてあげるから見に行ってみるといい。……あぁ、もちろん。“私の娘”として、しっかりな?」


「もちろんですお父様! 子爵家の令嬢として頑張ります!」




ーーーーーーーーーーーーーー



〇ティアラ

とりあえず相棒入手出来てヨシ! まだ我儘さんだけど、その強いプライドってのはとっても大事。自我も強いから、これを生かしたまま私の言うことを聞いてくれる“相棒”になってくれるよう頑張るぞ!


〇オリアナ

まぁとりあえず確保できたし良かったのか……? というかなんで他のペガサスたちは私に寄ってくるんだ? もう子供産んだ身だぞ? まぁ気に入ってくれるのなら構わんが……。もうちょっとアイツと仲良くしてくれんか?


〇タイタン

ちっこいけど強そうなのが飯くれるって言うから仕方なく付いて行くつもり。蹴飛ばしたらすぐ倒せそうなのに、その前にやられそうなので嫌い。ちっこいの気にくわない。背に乗るな、かまうな、あっちいけ。


〇他ペガサス

ちっこくて意味わからん奴クソ怖い。でもなんかボスそいつに負けたっぽい。ちっこいのに従わなきゃ……、って思ってたらボスやちっこいのの、何倍も強そうなやつ出て来た。しかもちっこいのがこの大きい人間に従ってる……? つまり真のボス! お母さんの匂いするし、怖くない。しかも優しいから好き。撫でて~。あとあのちっこいのから守って、怖い。



(あと作者の誕生日なので、星頂けたらとっても嬉しいです。)

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