22:増えるとうれしい






「あ~。最初から確認させてもらってもいいか?」


「「いいよ。」」



混乱しまくっていたオリアナさんを何とか落ち着かせた後。


彼女に色々と説明を行ったのだが、ちょっとまだ飲み込むのには時間がかかるご様子。アユティナ様と一緒に頷きながら了承の意を彼女に伝える。あ、ちなみにアユティナ様は敬語あんま好きじゃない神なので、オリアナさんにも『タメ語でオナシャス』って言ってました! 信者でもない人に敬われるのくすぐったいんだって! かわいぃ!


いや可愛いというよりも美しいか? 私が知る神はミニキャラサイズだったけど、今のアユティナ様私よりも身長高いし……、大人って感じ。いや確かに中性的な見た目されてますけどやっぱ神なのか、全身が芸術品というか、全世界の表現者たちが追い求めた肉体がそこにある、っていうか……。


あ、話に集中しなさい? あいさー! 



「まず、あんた……。貴方様が3000年前にこの大陸にいた神様で。」


「せやで。あと呼び捨てでもええで。」


「んで、あんたが、3000年振りの信者で使徒?」


「やでやで。ティアラちゃん実質一人やで。」


「……10年後に起きる大陸が崩壊するかもしれない事案に対処しつつ、王国と帝国の女神をぶっ殺すために動いてる?」



あ、それはこのティアラちゃんの目標ね。


アユティナ様のスタンスは『あのクソ女神どもは顔合わしたらぶっ殺す自信があるけど、それを信仰する子たちはまた別だし……。というか信仰の強要してくる神ってクソじゃない? そのあたりは自由でいいよ。もちろん私を信仰してくれるのならウェルカムだけど。』というもの。


神の権能的に、私たちの進化や成長の機会に成り得るモノの排除はできない。それに人の自由意思を大事にしてくださっているから神から口出すことも少ない。でもやっぱ心配だからお話とか支援はさせてね? っていう神様だ。


だからそこらへんの『世界の危機』とかの案件は、私たちが頑張ってやらなきゃいけないことなのよね。ある意味私たちが乗り越えるべき“成長”イベントみたいなものだし。だから私が余生を楽しむためにこの世界を救って、ついで世界滅亡の原因であるクソ女神どもをぶっ殺して、アユティナ様にその首を捧げる。


それがティアラちゃんの目標なのだ。今なら銀のお盆にクソ女神二人の生首乗せて素敵なダンスが踊れる気がするぜ……!



「なるほど、な。少し前なら不敬すぎて狂っちまいそうな話だが……。今なら好感が持てる。あれだけ信心深かった奴に救いの手を伸ばさなかったってことは、アユティナ様が居なかった3000年間、ずっとそう言う奴らがいたってことだろ?」


「だね。あのアバズレどもの人へのスタンスは変わってないよ。神である事に胡坐をかいてるタイプ。ティアラちゃん詳しい。」


「まぁ助けてあげた私のこと後ろから刺してくるようなやつだもんな……。」



王国のクソ女神も、帝国のクソ女神も、二人とも信者たちのことを自分の養分程度にしか思っていない。早い話が養豚場のブタだ。自分たちで勝手に増えてくれる都合のいい食料。その中で気に入った子をペットとかにしてちょっとだけ楽しむ、みたいなのがあいつら。


原作でもクソエピソードたっぷりだったもんね……。



「……まぁそんな話聞かされて、こんなもの見せられれば信じねぇわけにはいかねぇよな。……いいぜ、協力してやる。」


「ほんと!?」


「だがあのクソ女神をぶっ殺すときは私も参加させろ。せめて一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇ。」



え、それだけでいいの!? ならいくらでもいいよ! というかあいつHPクソ多いから囲んで殴るのが定石だし! むしろ一緒に殴ってほしい感じです! ……あ、もちろんさっき言ってた7年後の復讐タイムも絶対ご用意しちゃいますからね!



「あ、そうだ。アユティナ様、復讐とか教義的に大丈夫です?」


「そうねぇ……。まぁ別に私復讐禁じてるわけじゃないからそういう意味ではOKなんだけどさ。聞いた感じ人様に迷惑しかかけてないし、自由ではあるんだけど……。ほら私“進化と成長”の神様でしょう? 復讐して燃え尽き症候群になっちゃうのならあんましてほしくないな、とは思う。まだまだオリアナさん人生残ってるんだからさ。たっくさん思い出話用意してあっち行かないと怒られちゃうと思うよ? 部外者の私が言うのもなんだけど。」


「…………そう、かもな。」



ちょっとだけ顔を曇らせながらそういうオリアナさん。


……およ? どうしたんですか我が神。急に念話でのお話なんて。え? オリアナさんこのままだと復讐終わった後に死んじゃう可能性あるから頑張ってこの世に未練残しまくれ? おぅ、そんなことならいくらでもやりまっせ! 今後も色々手伝ってもらおうと思ってたし、やらせてもらいますとも!



「……よし、じゃあなんだ? 私はお前さんを信仰すればいいのかい? どうせ王国の神も帝国の神にも飽き飽きしてたんだ。いい機会だろうよ。」


「「ほんと! やったー!」」


「……なんか儀式とかやんねぇのか?」



ぎし、き?



「……アユティナ様?」


「ないぞ。宣言したもん勝ち。」



昔はそれっぽいのあったらしいけど、今は失伝してるとのこと。アユティナ様的には私たち信者がやりたいのなら好きにしてもらって構わないみたいなんだけど、別にそういうのしてほしいとかないみたい。実質的に信者のトップである使徒ことティアラちゃんから特に希望がない場合、宣言したらそれで終わりのご様子。


……騎士の任命みたいなこと一瞬思いついたけど、目の前に神様いるわけだし、もういいかな?



「じゃあそういうことで、オリアナさん信者ね!」


「「いえーい! ふえたー!!!」」



アユティナ様! ハイタッチしましょ! いえーい!



「…………早まったか?」



早まった!? 絶対そんなことありませんて! あのクソ女神はほんとに信者に何もしないけど、アユティナ様は色々してくれるよ! ほんとに! すっごいんだから! 私なんて【オリンディクス】ちゃんもらったんだよ! すごいよ、強いよ、かっこいいよ~!


あ、そうだアユティナ様! オリアナさんにも何か出していただいても!?



「ん? まぁ確かに信者になってくれたお礼はしなきゃね。と言ってもティアラちゃん最初だったから色々サービスしてるし、同じようにはできないけど……。やっぱオリアナちんも戦士だし武器の方がいい? アダマントの武器ぐらいしか出せないけど。」



そういいながらコモン武器最上級の【アダマントの槍】を何処かから取り出してくるアユティナ様。攻撃力+10の強めの槍だ。ラスボス直前の鍛冶屋さんとかで手に入る武器だけど、これでも数を揃えればラスボス相手に十分に戦えるいい武器ね。まぁ+20の【オリンディクス】には劣るけど。


良かったねオリアナさん!



「……あの、一応言っとくがコレ宝物庫とかに収められる国宝級だぞ? 私が持ってたら明らかにおかしい奴だぞ?」


「え、そなの? ティアラちゃんお店で買えるって言ってたけど。」


「いやないないない! アダマントだぞ!? どれだけ貴重なのか解ってる!? 王族ですらミスリル級の武器貴重過ぎて普段使いできないんだぞ!」



あ、ちなみにコモン武器の階級は“銅<鉄<鋼<ミスリル<アダマント”、ね? 言われてみれば確かに、鍛冶屋さん寄った時も鋼系の武器すら見なかったような……。



「あのな、アダマントって言ったらな? 年に握りこぶし分の重さ産出できればいいレベルの貴重な鉱石なんだぞ? 国が全部管理してて、武器も作ってはいるらしいが国王ぐらいのレベルじゃなきゃ使えないような代物だぞ? んなもん私が使ってたら明らかに問題だろうが!?」


「へ~、そうなんだ。」


(ねぇねぇティアラちゃん。そこらへんゲームとこの世界との違いっぽいね。)


(ですねぇ~。まぁゲームだとある程度のストレスフリーは重要になってきますしね。)



つまりあれだな? 実際の神話とかだとミスリルとかヒヒイロカネとかクソ貴重な金属だけど、オンラインゲームとかだとインフレが激しすぎて雑魚鉱石みたいになってるアレ。まぁそれとはちと違うだろうけど、とりあえずそのあたりがゲームと現実の違いってところは把握した。



「正直一般人どころか兵士ですら【鋼の槍】持ってないからな? そのあたり気を付けろよほんと。」


「はーい!」


「……ほんとに解ってるのかお前。」








 ◇◆◇◆◇








「あ、そうだアユティナ様。オリアナさんに説明がてら色々目標立て直したいんだけど……。ここ使ってもいい?」


「ん? あぁ別にいいよ。あとちょっと待って。実家からもらってきた茶菓子がここら辺に……。」


「「いやマジでお構いなく。」」



オリアナさんと一緒にお茶どころかお菓子まで出してくださりそうになった神を押しとどめる。いきなり押しかけちゃったようなものなのに、お菓子まで頂いたらもう信者としてのメンツが丸つぶれになっちゃうから……! というか神様がそんなに優しくしたら、私勘違いしちゃうぞ!



「……それで。あ~、嬢ちゃん。目標の立て直しって?」


「オリアナさんの復讐を手伝うことになったでしょ? それ含めて色々考え直した方がいいかなって。」



時間は限られているが、10年もの準備期間がある。だからレベリングや資金稼ぎに時間がかかる以上、細かい所はこの二つを熟しながら考えようと思ってたんだけど……、ちょっとそれじゃダメかなって。


私一人で好き勝手行動するならこれでよかったのかもしれないが、オリアナさんも付き合わせるとなると明確な目標&計画。しっかりとしたチャートを組んで、色々と共有しておいた方がいいんじゃないかって思ったの。ほら最終的な目標は『クソ女神ぶっ殺して世界を救う』だけどさ? それ以外オリアナさん何にも解ってないじゃん?



「まぁそうだな。7年後に復讐の機会があって、10年後にお前さんが本格的に動き始めるってことぐらいしか知らねぇ。」


「簡単に言うと大体10年後に王国と帝国が『君が死ぬまで殴るのをやめない!』戦争を始めるの。んで腐敗がより進行した王国が普通に負けるから、それを助ける感じ。」


「なるほど……。」



オリアナさんは元々王国の将兵だった人だ。現体制に対しては『死に晒せ』とか思ってそうだけど、国自体にはあまり悪いようには思ってないのだろう。『王国守りますぜ』という話に強い興味を示しているように思える。


ま、正確に言うと主人公であるウィレム君や、ヒロインのイザベルちゃんが動き始めるのがそのぐらい、って感じね。



「んで、私の知る未来だと王国軍がクソで役に立たないし、今の五大臣クソ過ぎて内通しかしてないから『俺らで国守るぞ!』って言う貴族連合。通称『連合軍』が設立されるんだけど……。まぁ大体の確率でそこに合流する感じかな? 動き次第では帝国側に付かなきゃなんないこともあるけど。」


「……戦争は政治、ってやつか?」


「そ。勝ち過ぎたらダメなのよ。」



王国側がチートみたいに勝ち過ぎれば帝国側も『あ、ならウチの女神の力で強化された軍団出しますね?』とか『いいもん! ならこっちは王国民改造してバケモノにするもん!』とか、まぁ色々ヤバいことし始めるのだ。あと王宮で利敵行為してる五大臣たちが連合軍側について、処分できないってことにもなり得るからそのあたりは適宜状況判断しなくちゃいけない。



「ま、早い話戦争に参入していかなきゃいけないわけだから、私個人の力もそうだけど、ある程度自由に動かせる兵が必要なの。ちょっと前まではどっかの傭兵を年単位で抑えて私の私兵化してしまおうとか考えてたんだけど……。オリアナさんの伝手とか使えたりする?」



この人は王国で百人隊長をしていた人だ、今は退職して一般人だけどそのあたりの伝手はある程度残っているはず。彼女が『信頼できる』人であれば可能な限りスカウトしておきたいのが本音だ。



「そうだな……、まぁ不可能ではないと思う。だがあいつらにも生活が懸かってるし、家族もいる。下手に引き抜くと国を敵に回す行為だと判断される可能性もある、期待しすぎない方がいいと思うぞ。」


「まぁだよね。けど可能性があるのは大収穫。」



じゃあ基本は傭兵を雇い入れる方針で、可能ならそっちを頼る感じで行こう。



「んで、ある程度の私兵軍団を作っておきたいんだけど。そのタイムリミットが大体今から7年後。オリアナさんの復讐のタイミング。私たち個人で動くよりは、何かしらの団体で動いた方がいいと思うのよね。それにあのクソ大臣も少数とはいえある程度の手勢は率いてるだろうし。」



あと、その時点で私の能力もある程度完成させておきたい。10年後に戦争が始まるのは確かだけど、連合軍に参加するにしても、帝国に参加するにしても、ある程度の自由裁量権が必要だ。主人公たちのサポート、フラグ管理をしなきゃいけないからね? となるとあらかじめある程度の名声を稼いで置く必要があると考えている。


実力が認められていて、実績もある。そうすればいきなり『最前線行ってきて♡ 拒否権なんかねぇよ♡』みたいなことにはならないはずだ。


というわけで、タイムリミットは7年。



「それまでに強くなって、金稼いで、傭兵雇って。」


「私はお前に戦い方と部隊運用を教え、ついでに王都とのコネを作っておく、ってことか。」


「そゆこと。……ま、よろしくね、師匠。」


「…………あぁ、いいだろう。ちゃんと生き残れるように鍛えてやるよ。だが、私の指導は厳しいぞ?」



わぁ。頼もし。あ、もちろん指導と並行してダンジョンをゴリゴリ攻略していくからその辺オナシャス! 今どれだけ探索が進んでるかわかんないけど、二人で頑張って全クリ目指しましょうね! 100階層近くあるけどまぁアユティナ様の信者になった今そんなの余裕だって! あはー! ……まぁゲーム換算なら二人で行けて50階層程度が限界な気がするけど。


ま、地道に頑張っていきますか!


……というかアユティナ様。さっきから空間に手を突っ込んでましたけど何してるんです?



「あ。カステラあった。ティアラちゃん~! 貰いものだけどこれ食べる? オリアナさんも~!」


「ついさっき信仰し始めたとはいえ、流石に茶を出してもらうのは悪いで「ください。」」


「……嬢ちゃん?」


「かすてら! かすてら! うぇへへへへへへ!!!!!」


「お~、よちよち。可愛いねぇ。そうそう、ティアラちゃんの“郷土菓子”のカステラだよ。いやね? 実はちょっと“ご実家”に挨拶に行ったらさ。お土産にもらってね? 食べたいでしょう? いい奴だよ~。」


「たべたい! たべたいれふ! なんでもしまふ!」





「…………いやほんとに私早まったか???」






ーーーーーーーーーーーー




〇かすてら(ティアラ)

カステラには勝てなかったよ……。現代のかしうめぇ! というか今アユティナ様地球に行ったって(カステラおくちシュート)かすてらうま! うま! かゆうま!



〇アユティナ様

信者ふえたし、使途がわんこ化して“ちょうだいちょうだい”してきたから可愛かった。オリアナさんから全く信仰心感じられないし、形だけの信者であることも把握して受け入れている。


たぶんこの子、私にティアラちゃんが騙されてる可能性も考えて、信者になってくれたんだろうね。神への不信感が強くて、同時に騙されてる子供を見過ごせない優しい子……。あんまり話しかけて成長の機会を失わせちゃうのは惜しいからそんなにしないけど、いつでも相談に乗るからね? あとほしいものあったら言ってね♡


あ、あとティアラちゃんの指導はキツめでお願い。この子すぐ調子乗ってやらかすから……。まぁそこが可愛いんだけどね?


〇オリアナ

神のお菓子って砂糖とか卵たくさん入ってるし、ふわふわで美味いんだなぁ。これまで食べたモノの中で一番美味いわ。……でも正直色々早まった気がしてる。この神ほんとに大丈夫か? 嬢ちゃんも色々大丈夫か?





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