16:お宿確保
「あ~、ここかぁ!」
知ってる! この宿知ってるよ私! 原作の宿だここ!
いや~、原作でもちょろっとだけ出てたここに案内してくれるなんて、オタク心理が解ってるねぇ衛兵さん! こういうの聖地巡礼って言うんでしょ!? もしかしておっちゃんもそういうの大好きなタイプ? いい趣味してるねぇ!
絶対に言う気ないけど、実は私もそういうの紹介できましてね? 主人公の実家とか故郷の村知ってるんですよ! なんせそこで生まれ育ちましたからね!
「ん? この宿知ってるの?」
「いや、まったく!」
「???」
ま、原作知識なんで『この体』は知らない知識。明かせるわけないんですよね~。
さて。おっちゃんに紹介される前にこっちでご紹介させていただきましょう。
こちらの宿屋、『麦の歌声亭』は無口なご主人と恰幅の良いご婦人が経営しているお宿で、原作に置いてサブクエストを発行してくる宿屋さんだ。主人公たちはストーリー上どっかの軍勢に所属する必要ががあるので、こういうどっかの都市に宿泊する際は、その所属している組織が抑えている宿をとることになる。
つまり普通ならばこんな個人経営のお宿の方には近づかないんだけど……。
(あ、そう言えば娘ちゃんって同い年か少し下だっけ?)
ここの娘さんが勝手にダンジョンに入っちゃった、ということで冒険者ギルドに捜索を依頼。たまたまその時ギルドに顔を出していた主人公たちご一行が捜索に向かうことになる、というクエストだ。
その時にちょっとしたスチルやキャラ立ち絵が出てたから覚えてる覚えてる。この捜索クエストを完了した後は何度か採取クエストを出してくれる上に、作品内で数少ないR18シーンが絡まないキャラだから逆によく覚えてる。
え、なんでそこまで知ってて最初からここに向かわなかったのかって? この時期に存在してるか解らなかった上に、そもそも町の詳細な構造もどこにあるのかも知らなかったからだよ! ゲームじゃファストトラベルだよこん畜生ッ!
オープンワールドを同人エロゲ―に求めんなクソが! こちとらお手軽シコリティと開発速度で売ってんだよ!(永遠のアルカディアは違うけど)
(まぁ某画像投稿サイトじゃ結構人気でしたが……、親子丼は鶏だけにしてくだせぇ、ってことで。)
「そういや私よりもちっさい娘さんがいらっしゃるんでしたっけ、仲良くしてくれますかねぇ?」
「いい子だから大丈夫と思うけど……、というかなんで知ってるの!? キミこの町来たばっかりなんだよね!? というかさっきまでの話し方は!?」
あ~、関西弁? 奴はいい奴だったよ。だが死ぬほど疲れてる、休ませてやってくれ。
正直ノリで始めたけど、ずっとアレで行くのはしんどいので元に戻しました。
さっきまではずっと粉もんに命売り払ってもいいかなぁ? って思いながら使ってたけど、正直面倒になっちゃった。それに可能であればこの迷宮都市で、私という“存在”を売っておきたい。名声とか知名度が欲しい感じだね。
主人公にこの世界を救わせるためには、あらかじめイベントを消化して主人公御一行に“ハッピーエンドルート”を進ませる必要がある。そのためにはもちろん単純な力も必要だが、軍を指揮して戦う必要も出てくるだろう。それにもっと言えば“金”という力も必要になってくるかもしれない。
これを求めるとなると確かに“印象に残るキャラ”ってのはいいかもしれないが、演じてて疲れるキャラで定着しちゃうと今後非常に面倒になりかねない。というわけで自然体でやらせていただくことにいたしました。
(ま。現状は流石に、故郷に届くレベルで名前を売るつもりはないけど……。個人の名声だけで人を引っ張れる、軍の将に相応しいレベルの名声は将来的にほしいからね。千里の道も一歩から、ってやつだ。)
「まぁそういうわけで私の拠点となる宿がココね! たのもー!」
「あ、ちょ、ま!」
ココへの移動の間に複数の話題を振ったが、おそらくこの衛兵さんは大丈夫な相手だ。
それに案内されたここは『永遠のアルカディアにおける最後の良心』とまで言われた聖域。ここに案内されちゃったもう信じるしかねぇでしょう。まぁまぁ安心なされよ。もし魔物のスタンピードが起きそうになったらちゃんと助けてあげるから。
そんなことを考えながらかの宿屋のドアを開ける。待っているのはおそらく女将、原作開始以降である11年後では昔は美人さんだったんでしょうなぁ、って感じのぽっちゃり女将だったが果たして……。
「いらっちゃいまちぇ!」
残念! 待っていたのは幼女! 三つ編みにした金髪に、まん丸お顔にお目目! ロリコン紳士諸君が喝采を上げそうなお方がココに! この子が11年後の原作開始時に看板娘となっているペペちゃんですねぇ。
「あれ? ペペちゃんお母さんは?」
「ママはちいれ! わたしおるすばん!」
「ちいれ? ……あ、仕入れね。晩御飯とかのかな?」
カウンターの向こう側から元気にそう答えてくれる彼女、多分何か高い台に乗っているのだろう。体を大きく動かしながらこちらに意思疎通を図ってくれる。にしても何歳ぐらいやろ、体の大きさ的に……。三歳ぐらい? まぁいいや、とりあえずチェックインだけしちゃお。
「ペペっち! ミ―はお客さん! 一泊いくら!?」
「おきゃくさん! えっと、ちょっと待ってね!」
そう言いながらカウンター裏の台から飛び降り、何かを探し始める彼女。結構な高さだし次はやらないようにね? 衛兵のおっちゃんむちゃビックりしてたから。そんなことを考えながら少し待つと、何かの板を持ちながらカウンターを出てこちらに来てくれる。うん、やっぱ三歳児の身長だ。すごくちっこい。
「えっとね! ママがおきゃくさんにこれ、見せなさいって! 教えてくれたの!」
「そうなの。ありがとねぺぺっち。どれどれ……、あぁ料金表。」
「……キミ、字読めたんだ。」
当たり前だ、こちとら『体は子供、頭脳は大人! その名は異教徒ティアラちゃん!』だぞ。
全く知らん異世界の言語などすでに学習済みだ! 確かにこの世界の識字率は低めだが、ティアラちゃんにそのあたりの常識は通用しないんだぜ! ……にしてもこのミミズみたいな文字嫌いなのよね、もうちょっと角ばってたり、文字数とんでもない日本語が懐かしいぜ。
因みに、このボードには宿泊料金について書かれていた。連泊した場合の割引率や、食事つきにした場合の値段ね。値段を確認した後、とりあえず10日分の飯付き宿代を空間を経由して取り出し、ペペちゃんに握らせる。
「はい、お代。10日分お願い……、って言っても解んないか。」
「うん、ペペおかんじょうできない……。」
受け取ったお金を両手で持ちながらしょんぼりするペペちゃん、きゃわ、きゃわいいねぇ!
お口ちょっとだけ膨らませてしょぼん。うんうん、まだ三歳児に計算させるのは無理があったね。一応隣にいる衛兵のおっちゃんを立会人にすることも考えたけど、いくら衛兵とは言え宿からしたら部外者だし、後々面倒事が掛かるのは避けた方が賢明だろう。そこまで急いでないし、女将さんを待とうか。
「となるとお母さん来るまで待つか。ペペっち、お姉ちゃん暇だからちょっと付き合ってくれない? 遊ぼうぜ。」
「いいの!?」
「いいのいいの、お客さんが隙してるんだし、それに付き合うのもお仕事でしょう?」
そういうと満面の笑みを浮かべて『わかった!』と言いながら奥へと走っていく彼女。多分オモチャでも取りに行ったのかな? うんうん、やっぱ幼女は笑顔が似合う。永遠にいい子いい子してあげたいねぇ。今の私の年齢だったら三歳児と五歳児だし、事案にならないのさらにいい。
現代日本じゃ存在するだけで通報されることもあるからね……。面倒にならないように公園とか学校とかは近づかないか、子供がいない時間帯に利用するに限る。というかそもそもYESロリータNOタッチ、ですし。おすし。
(……っと、おっちゃんのこと忘れてた。)
「あ、そうだ衛兵のおっちゃん。」
「何だい? というかおっちゃんという年でもないんだけど。」
彼の要望を無視しながら、懐に手を入れ空間に繋げる。宿代で結構使ってしまう予定なので、ダンジョンアタックのことも考えると少し心もとないが……、ちょっと豪華な夕食が食べられる程度の硬貨を掴み彼に投げ渡す。
「はい、賄賂。道案内と、この後の女将さんの説得代ってことで。まだここに残ってくれるってことは最後まで付き合ってくれるってコトでしょう? おっちゃんいなかったら確実で野宿だったし、取っといてよ。」
「……キミほんとに子供?」
「子供だが???」
肉体年齢だけだけ、けどね?
まーまー取っときなさいって。町の出入りの時見てたけど結構賄賂横行してるでしょう? おっちゃんのスタンスはよく知らんから解らんけど、困ってた私を助けてくれた。そのお礼ってことで渡してるんだ、取っときなって。ほらボクサーが頑張って毎日減量してたら果物屋さんがリンゴ投げ渡してくれるとかあるでしょう? アレと一緒よ。真面目にやってきたご褒美。
「…………解った、もらっておくよ。」
「あ。大人になったら返すために“預かっておく”とかもなしね?
「キミ人の考えてること読めるの!?」
◇◆◇◆◇
「なるほどねぇ、確かに支払い能力もあるみたいだけど……。」
「ママ、だめなの?」
「ダメなわけではないんだけどねぇ。」
というわけで女将さんが帰ってきた後、衛兵のおっちゃんの支援砲撃も受けながら交渉を行ってるんですが……、案の定難航してます。まぁ傍から見れば子供が一人で勝手にこの町にやって来て『泊めてー!』って言っているようにしか見えない。どう考えても面倒事に繋がるのは簡単に想像できるだろう。
宿ってのは客商売で信用も必要になるお仕事。
『あそこの宿で子供が泣き叫んでたよ?』みたいな噂がどんどん肥大して『あそこの宿子供攫いに加担してるみたいだよ?』ってなってしまうこともあり得る。娯楽が少ないこの世界じゃ噂とか恰好の得物だからね。
「ご迷惑になるかもしれないのは理解してます、何かあったときは騒がず、何もなかったように消えますのでどうか泊めていただけないでしょうか。」
「う~ん、でもなぁ。」
「そこを何とか! ほら滅茶苦茶美人なそのお顔に免じて!」
そうそう、おかみさん確かミルポさんって言うんでしょ? 娘さんもそうだけどなんかすごく粘性がある液体が似合いそうなお名前と顔してますよね! うんうん、女将さんも原作の時と比べて細くてすっきりしてるし若い! ……自分で言っておいてアレだな。なんかしんどくなってきた。
とりあえず泊めちくり~!
「ん~~~、はぁ。ここで拒否しても夢見が悪いからね。いいよ、ウチで面倒見てあげる。ただし!」
そういいながら少ししゃがんで目線を合わしてくれる彼女、何だろう。すごく母親の顔をしている気がする。彼女にとって私は見ず知らずのよくわからない子供なのに……、そんな顔向けてくれるんだね。ちょっと恥ずかしいけどありがたい。正直もうちょっと実家への名残惜しさとか滅茶苦茶あるからね、帰れるなら帰りたいよホント。……っと、体に精神が引っ張られたかな?
「ちゃんと親御さんに説明すること、手紙かなんかちゃんと送りなさいよ? 詳しくは聞かないけど子供のことを想わない親なんていないんだから。あぁ、でも想ってないなら無視していいからね? それはもう親じゃないし。」
そう語りかけながら微笑んでくれる。
「ま、お金を払ってくれるのならばお客さんだ。とりあえずよろしくね、ティアラちゃん。」
「は、はい! お世話になります。」
「さ、そうと決まれば仕事しないとね! ペペ、案内頼んでいいかい? ちょうど奥の部屋空いてたでしょう、そこ入ってもらうよ!」
「あ~い!」
元気にお返事したペペちゃんに連れられて、奥の部屋へと案内していただく。ってちょっとペペちゃん手を引っ張らないで? お姉ちゃんの手取れちゃうから。DEFもLUKもクソ弱で何かの拍子に吹き飛びそうだからね、うん。
ペペちゃんの先導についていきながら、衛兵さんに手を振って礼を伝える。謝礼金はすでに出しているし、彼も仕事を抜け出して付き合ってもらっている。これ以上拘束してしまうのは迷惑になるだろう。『じゃあ私はこれで』と言いながら帰る彼を見送った後、ようやくペペちゃんの後を追いかける。
「……おきゃくさん。“ねぇね”ってよんでいい?」
「もちろん。あ、そう言えば名乗ってなかったけ? 私ティアラね、ティアラねぇね。」
「うん! わかった!」
そんな会話をしながらお部屋へ、一階の奥の部屋に扉の前に立つと彼女から鍵を受け取る。さっき女将さんに投げ渡された奴で、よくペペちゃんキャッチ出来たなぁと思ってた奴だ。木製のすぐに複製できそうなタイプだけど、こういうの好きよ私。味があるって言うか。和食系の料理屋さんにある靴箱の鍵みたいな奴。なんかいいのよね。
「じゃあねぇね、ごゆっくり!」
「うん、案内ありがとう。また時間があったら遊ぼうね? いつでもおいで。」
「ほんと! やった!」
お母さんへの報告のためか、すっごくニコニコしながら走り去る彼女を見送り、自分は部屋に入る。
中は……、うん。普通かな? ベッドにちょっとした椅子と机。後は備え付けの棚があるぐらい。普通だけど掃除が行き届いてるし、ベッドも清潔そうだ。いい仕事してるねぇ!
現代の宿を知っている身からすると質素すぎるし部屋の大きさもそこまでなので、まぁよくある安価な宿? と思ってしまいそうだが、この世界の基準からすれば大分贅沢な部屋だ。それでかなり良心的な値段だったから、すっごい嬉しいよね。
「ま、それはそれとして……。“全収納”」
意識を“空間”へと移し、この部屋にあるものすべてを叩き込む。空間さんの良いところとしましてね? やろうと思えば『その物体』のみを収納することが出来るんですよ。つまり剣とかを収納しようとした場合、ちょっと設定すればその剣に付着していた血とか汚れとかを弾いてくれるってワケ。
これを使えば気になる汚れとか、隠された罠とかそういうの全部弾けるんですよね。便利。
「特にそういうのはなし、と。……うん、そもそも綺麗だったからそんなに汚れも弾かれてないね。」
後は元あった場所に家具を再設置すればお掃除完了。
「さ、拠点も確保できましたし……。そろそろ仕事に取り掛かりますか。」
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