原作開始前:迷宮都市編

15:おいでませ迷宮都市




ま、というわけで馬を売って路銀を手に入れた後。着替えて鍛冶屋で金受け取ってダンジョンまでの乗合馬車に乗せてもらったわけですけど……。


アユティナ様。なんですかアレ? 明らかにただの服じゃないですよね、単なる服にあれだけ注目を集める効果なんて付いてないですよね! いや確かに滅茶苦茶綺麗ではありましたけど、確実にそれ以上の効果発揮してるでしょ! 詳しく説明してください、ティアラちゃんは冷静さを欠こうとしています!



【え~? 普通の服だよ。まぁ『神にとっては』って言葉が付くけど。】


(ダメな奴じゃねぇですか!)



つい声を上げそうになったが、何とか押し留まる。


乗合馬車ってことは私以外にも複数お客さんはいるし、護衛の傭兵や馬車を引くお馬さんもいる。私の年齢が年齢だし、叫んだ瞬間におろされても文句は言えない。『ちゃんと料金を払って、他の客に迷惑を掛けない』って前提で乗せてもらってるわけだからね。



【でも本当にそうだよ? 破損しないっていう加護と、神のものとして相応しい品質。いうなれば『すごく綺麗!』って思われるような加護? 本当にその程度しかしてない。人の視界に入った瞬間にその人がひれ伏す効果とか付けてないけどなぁ?】


(じゃあなんであの人あんな王族とかに対しての態度してきたんですか! おかしいでしょアレ!)


【そりゃぁあの服着れるような身分の人が王族ぐらいしかいないからでしょ。まぁ王族でも無理だろうけど。私が作った服だから、神器だし。】


(でしょうね! とりあえず『空間』に入れてる服! お返ししますからね!)



そう言いながら無理やり“奉納”という形で押し返す。何度か跳ね返されたがようやく受け取ってくださった。


いや、マジで跪かれる側になってみてくださいよ。まぁ確かにアユティナ様は神だからすでに跪かれる側なんですけど、ただの村娘が大の大人に『ははーッ!』ってされるのは心臓に悪いんですって。緊張というかテンパり過ぎてあの場で何喋ったかマジで覚えてないんですからね! 勘弁してつかぁさい。



【でも“使徒”になったティアラちゃんはすでにほかの信者から跪かれる側だよ? 今は確かに貴方しかいない(ご両親がすでに鞍替え済み)けど、いずれ増やそうとしてくれてるでしょう?】


(そりゃまぁお世話になりまくりですし、お供え物以外にお返しできそうなのそれぐらいしかありませんから。原作知ってるんで色々アテもありますし……。)


【そうなったら頭下げられるのは貴方だし、今から練習しておいてもいいんじゃないの? あ、強制は絶対しないからね。神様はみんながのびのびと暮らして、少しずつ成長してくれればそれでいいのです。】



そう言ってくださるアユティナ様。


確かにその通りで、“使徒”にしていただいた手前覚悟すべきことなのかもしれない。というかそもそもゲーム本編に関わるのなら、いずれ何かしらの部隊を指揮する必要が出てくるだろう。それを考えると人から頭を下げられる立場、ってのはちょっと違うかもしれないが、上の立場に慣れておく必要があるのかもしれない。


けどやっぱり王族扱いされたりするのは困るのよ……。



(普通にメインヒロインで第二王女のイザベルちゃんもそうだけど、主人公のウィレムも王族みたいなもんだから……、やっぱり迷惑かけちゃうよねぇ。)



イザベルちゃんは本編が始まって主人公と合流するまでは違うところにいるからあの町を経由することはないんだろうけど、主人公はおそらくあそこを経由するだろう。さすがに10年以上後のことなので忘れ去られてる可能性もありそうではあるが……。どうなる事やら。



(こわ、戸締りしとこ。)


【あ、そうだティアラちゃん。ちょっといい?】


(はい、大丈夫ですよ。あと数日はこのまま馬車に揺られるだけですし。)



強く揺れる馬車の中で、腰を悪くしないようにちょっとだけおしりの位置を移動させながら、神の声に脳内で答える。


本来であればその場に五体投地しながら聞くべきなのだろうけれど、アユティナ様はそこら辺かなりルーズだ。信仰心さえあれば鼻ほじりながらでも別にいいみたい。……ほんとにそれでいいの? いやまぁ私が王国でも帝国でも異端者なのは変わらないし、変なとこで祈ってたら速攻しょっ引かれてバッドエンドな身の上なのでありがたいんですけどね?



【あの村を出てからほぼずっと一緒におしゃべりしてるけどね? ダンジョンだっけ。そこに着いたらある程度控えようと思うのよ。】


(……私なんかしちゃいました?)


【いや、どちらかというとこっちの問題かな。ほら私、進化と成長の神様でしょう?】



そう言いながら話を進めるアユティナ様。なんでもアユティナ様が口出ししすぎることで私の成長を阻害してしまうことを危惧しているらしい。村にいるころはわざわざ石像の元まで行かなければいけなかったけれど、今はどこでもお声を聴くことが出来る。つまりやろうと思えばいつでもアドバイスを頂け、その加護を賜ることが出来るわけだ。



(緊急時などはむしろ積極的に電話してほしいそうだが、電話のし過ぎで私の成長の機会が失われば本末転倒、ってことか。)



戦って敵を殺し続ければレベルは上がるかもしれないが、自分で戦うことや乗り越えた経験が足りずどこかで致命的な失敗をしてしまうのではないかと危惧してくださっているご様子。それに話す相手がアユティナ様に偏り過ぎると私の成長によろしくないだろうし、もっと多くの人と交流を持ち自分の世界を広げ、より大きな存在に“進化”して欲しいとのこと。


今後は今のようにアユティナ様からお電話を掛けることを控えていく方針らしい。別に私からの電話を拒否することは絶対にないし、むしろ定期的に電話をかけて安心してさせてほしいんだけど、やっぱり『ちょっとだけ控えてもっと世界を見てね♡』という感じ。


というか自分からこうやってルールを決めておかないと心配で、延々と話しかけちゃうそうです。


……もしかしてアユティナ様は私のお母さん?



【ダメ?】


(いやダメじゃないですし、そこまで考えていただけるのはありがたいんですけど……。)


【あ~、うん。言いたい事わかるよ? でもねでもね、考えても見て? 3000年だよ3000年。土器作ってギャハハしてた頃から見守って人間たちの子孫。その私の子供とも呼べる子たちの末裔が3000年ぶりに私のことを信仰してくれて、慕ってくれて、頼ってくれるんだよ? そりゃあヤバいでしょ。】


(……やばいですか。)


【うん。やばい。それにティアラちゃんが見てるもの私も見れるわけだからさ。ちょっと言い方は悪いかもだけど、映画とかのキャラクターに直接電話かけて『今後ろから敵が来てるよ!』って忠告とかもできちゃうのよ。】


(あぁ~、なるほど。確かにそれはちょっと、ってやつですね。)


【でしょう? 可能ならば傍についてずっとそばについて見守りたいくらいなんだけど、私の権能的にそれやっちゃうとねぇ……。】



進化と成長を司る神が信者、それも使徒の機会を奪うとかもうそれ神じゃないわけだからさ、でもこの立場すっごく辛いんだよ? と仰る神。



(あ~はい。とりあえず了解です。私も頼り過ぎないよう、胸張ってアユティナ様の使徒であると言えるぐらい成長してみますね!)


【うむ! それでよし!】









 ◇◆◇◆◇








「見えてきたぞ、ティアラちゃん! アレが迷宮都市だ!」


「お~、すごいっすねぇ。」



御者の方にそう声を掛けられ、馬車から顔を出すと全く知らない世界が広がっていた。


堅牢そうな城壁が目の前に広がっていて、ぐるっと都市を守っている。町の中のイラストだったり、空中からの全体図はゲーム内で何度も見た光景だけど、真正面から見るのは初めてだ。


いやはや、馬を売りに寄った街の壁に比べると固そうですねぇ。町としてもサイズもクソデカいし。



「すげぇだろ? 俺も最初見た時はびっくりしたもんだ。」


「ほんと、すごいですねぇ。(金掛かってそ。)」



御者のおっちゃんが自慢げに話す言葉に、適当に相槌を打ちながら思考を回していく。


実際、かなりの資金が防衛に割かれているのだろう。ちょっと目を凝らしてみれば城壁の上には何人もの兵士たちが外を監視している。それにずらっと並んだ大型兵器からも、明らかに魔物だけでなく人の対策も講じていることが推察できる。


まぁそれもそのはずだ。ダンジョンというものはいわば無限に金の卵を産み落とし続ける鶏。冒険者というエサを放り込み続けるだけで永遠に金を排出してくれる素敵施設。王国の敵である帝国は勿論、王国内の貴族に王家も占有したがる巨大資源だ。



(一応この都市は王国に所属しているけど……、実際はほぼ独立してる都市国家。有力な商人たちが投票制で長を決めるシステムを構築してる。)



そのため外部からやってくる人類の敵である魔物の侵攻に、帝国からやってくる敵、そして味方なのに攻め込んでくる可能性のある王国貴族や王の軍勢を追い返す必要がある。実際ゲームでは王国の貴族が攻めて来たし……。


ま、そんなわけで厳重な警備がされてるってわけだ。ちなみに内部にある迷宮から魔物が溢れた場合に備えて、内部も内部で色々厳重だからマジで堅牢なんだよねここ。……まぁルート選択ミスればこの町地図から消えるんだけど。



「にしてもお嬢ちゃん、ここまで来ておいてなんだけど、本当にいいのかい? 長女なんだろう? 故郷にいた方が色々良かったと思うけど。」


「あ~、まぁそりゃそうなんですけどねぇ、実際危ないですし。でもま、叔父さんの様子見て駄目そうだったら尻ひっぱたいて一緒に帰ります。そん時はまた乗せてくださいね?」


「おうよ! ま、お代は頂くけどな。」



この御者さんには、『村を出た叔父に相続の話が出たから、その件に関しての質問をしに行く。』というカバーストーリーを説明している。


本来はそういった相続の話は親の仕事なのだが、お貴族様の徴兵とか色々重なったせいで私しか動けるのはいなくなってしまったため一人旅。という設定だ。まぁ叔父もクソもいないんですけどね! ま、私が幼いことや、事情のこともあり、この御者さんは気にかけてくれてるってわけです。



(旅の途中とかも嫌われないように色々手を回しましたからねぇ。)



ちなみになんですけど叔父の職業は『冒険者』という設定で、村を出た後ダンジョンに潜ってるという話を聞き、私がやってきた形だ。ま、冒険者って聞くとキラキラしたイメージを持つ人もいるけどね? この世界では稼ぎ場所をなくした傭兵や、食い扶持がなくて村から出てきた三男坊とかがなる職業なのよ。夢ないよねぇ。



「……あ、そういえば私身分証とかそういうの持ってないけど大丈夫ですかね?」


「大丈夫大丈夫、あの町は来るもの拒まず去る者追わずがスタンスだから。何か変なもの持ってない限り、金さえ払えば通してくれるさ。……っと、そういえば他のお客さんからも通行料もらってなかったな。ティアラちゃん、悪いんだけど俺がまとめて払うから徴収してきてくんない?」


「了解ですー。」



そんなわけでパパっと回収して御者さんにプレゼンツ。


後は流れるように入管の列に並びーの、門のところで全員降ろされてボディチェックとか荷物検査しーの、許可もらいーの、無事到着しーの。って感じ。特に何もなかったし、御者さんに感謝の言葉言った後にバイバイすればもうおしまいだ。


彼にはある程度したら故郷に帰るって言ってたけど……、最低でもレベルカンストするまではこの町から出ないからね。もう会うこともないでしょう。



(にしても“空間”様々だよなぁ。)



不審に思われない最低限の荷物以外は全部突っ込んでおけるんだもの。アユティナ様から頂いた神器とか、明らかに子供に似つかわしくない装備を私は持っている。けれどアイテムボックスさえあれば、とがめられることはない。いや~、ほんと便利。


もし私が『ティアラ』じゃなかったらこの力で商人してたよ。輸送に金掛からんし、最悪ご禁制の品も運べる。ほんとアユティナ様の様々ですぜ……!



(あ、悪いことはしませんからね。やるとしても悪い人をミンチにしてハンバーグにした後、持っていたお財布を頂戴するぐらい。)



ま、冗談はこれくらいにして町の散策といきましょうか。


降ろしてもらった大通りをゆっくりと歩きながら景色を楽しむ。この前立ち寄ったあの町とは発展度合いがまるで違う、大通りってこともあるだろうけど、すべての建物がしっかりしていて破損個所が何一つない。歩く人の数も多く、そもそもの人口がまるっきり違いそうだ。


鎧や武器を持った冒険者みたいな人もいれば、馬車を引く商人や、魔物素材を求めてやってきた職人など種類も豊富。



(そして何よりも違うのは地面、道路だろうね。)



まだ大通りしか見ていないので全てそうなのかはわからないが、少し横に視線をずらし横道を覗いてみれば、そこも全て地面が石で舗装されている。しかも砂利じゃなくてちゃんとした塊の石だ。割れているところがほとんどないのを見ると定期的に補修されているのだろう。こういった道路の整備は基本領主とかの行政側がやるんだけど……。



(むちゃ金掛かるから普通はやらない、けどここまでしっかりしているということはほんとに金持ちな町だ。後は……、アレかな? 投石用の石にしたりとか。まぁあんまそういうのは考えてないかもだけど、歩きやすいし市民の反応はよさそうだよね。)



ここのトップは有力商人たちに選挙。彼らも私兵とかは持っているんだけど……、この町の市民の多くは冒険者で、悪政を敷くと即座に市民革命が起きてしまうような土地になっている。(資料集の知識)なのでそこら辺のバランス感覚がこの都市の統治には求められるんだよねぇ。



(ま、そんな話は置いておきまして、まず宿を探しましょう。流石に野宿は危険だし、さすがにもうベッドで寝たい。)



といっても、適当に『一番最初に目に入ったそこで―!』という決め方が出来るわけではない。


この都市のサイズ的に宿なんて探せばいくらでもあると思うんだけど……、所謂“ご休憩”専用の宿もあったりする。金が集まる土地だから、まぁそういう需要も生まれてくる。それに常に死が身近にある冒険者が多いから、よりその需要が増えてくるわけだ。


ほら見てみてよこの大通りの分かれ道曲がってちょっと行ったとこ。あの看板の宿がそう。なんで知ってるかだって? そりゃゲームで主人公が滅茶苦茶使用してたからだよ!!! というかこんなところにあったんだなオイ!!!



(……というかそういう宿しかなくね? なんでや。)



テクテクと大通りを歩きながらよさげな宿を探しているんだけど、なんか目に入るよさげな宿が全部そういうのだ。長期間の滞在を目的としないお宿ばっかり。連れ込み宿だ。5歳の女児が見るもんじゃねぇよ……。


いやまぁ迷宮都市っていわば欲望の街だからね? そういうお宿が多いのは解るんすよ。単にお泊りするんじゃなくてピンクなサービスとか色々ついてるのは理解できるんすよ。ほらエステだけどエステじゃない奴とか。



(マジで泊まるとこ見つけられなかったら借りるのもあり……か???)



清掃をしっかりしてくれているのか疑問が残るところではあるが、まぁ大通りに近ければ値段相応にちゃんとしてくれるだろう。部屋を借りる時に『マジでなんも知らん幼子』として顔を出すか、『あとで連れが来るから先に取っとけと言われた幼女』というどっちのロールプレイをするか悩みものではあるけど、借りる事さえできれば、久しぶりにベットの上で寝ることは出来るだろう。



(……いや、部屋に鍵がない可能性。鍵かけても破られる可能性、ゲーム内で対ロリコンのスチルが複数あったことを考えるに近づかない方が無難、か。)



この世界の原作、『永遠のアルカディア』には普通にそっち方面の描写もあったし、主人公もしてた。もちろん凌辱大好きな紳士の方向けのために、“そういう”シーンもございました。なのでロリコンが急に『突撃ィ!』してくる可能性も考えた方が良さそう。


ティアラちゃんの顔自体はいいですし、わざわざ虎穴に飛び込む必要はない。そうなったら即座に私は相手を殺しちゃうだろうし……。



(となると普通の宿を探したいところさん、なんですが!)



明らかに高そうなとこしか見当たらないんだよなぁ。


一応大通りを通りながら曲がり角とかで様子を伺っているんだけど、見つけた普通のお宿は大金が必要なお貴族様専用っぽいところ。ドアのところでドアマンがいたり、護衛がいたり。出る人入る人みんなが明らかにお金持ち。こうなるんだったら御者さんにでも宿の場所聞けばよかった……。


多分通りが違うとか、区画が違うとかだろう。私が求めてる場所はここにない。



(……宿探しで時間かけすぎるのアレ、か。サブ目標に変えて冒険者ギルドを探しに行こう。多分迷宮の近くにあるだろうから……、こっちか。)



あんまりグダグダして時間を無駄にするのももったいない、“ご休憩所”で泊まるのが難しいのであればベッドで寝ることを諦めることにはなるが、どっかの家の屋根の上で寝袋敷いて寝ることもできる。それに最悪町の外に出て野宿ってのもできなくない。



(まぁ最終手段だけどね、それは。)



ということで冒険者ギルドに向かって出発。目指すは町の中央だ。


この迷宮都市は、ダンジョンの発生ともに都市が誕生している。わざわざダンジョンまで歩いていくの面倒だから近くに家建てちゃえ、という人間が集まって気が付いたら町になっていたという感じだ。流石に時間がたつごとに変化はしていったのだろうが、町の中央にダンジョンがあり、その付近にダンジョン関連の重要施設があるのは変わらない。んでその施設の一つに、冒険者ギルドがあるってワケ。






(そんなわけでトコトコ歩いていきますと……、ほい到着。)



大通りを抜けると、視界に広がるのはまん丸大きな広場。そしてその中央に浮かぶのは、真っ黒で大きな穴、ダンジョンだ。


まぁ正確に言うとアレは入口。手を突っ込むと確かダンジョンの中に転移できたんだっけ? どこからどう見ても真っ黒な円にしか見えない不思議な存在に手を突っ込むとかそれだけで勇気要りそうなものだけど……。やっぱそこらへんこっちの世界の人間は違うんですかね?



(お、さっそく人が。)



ちょっと目をやればちょうど冒険者らしい集団が次々と手を突っ込み、消えていく。中に吸い込まれるというよりは、急に存在が消えるタイプの転移だ。


ダンジョンの中に入るには手続きがいるみたいで、衛兵さんや木製の防壁とかがたくさん並んでて、ダンジョンに入ろうとする冒険者さんたちを一列に並べてる。んでその冒険者たちが衛兵に硬貨を渡してるところを見るに、入場料をお支払いしなきゃいけないようだ。ゲームではそんなのなかったけど……、まぁ確かにいい財源になるだろうし、そりゃお金もとるか。


どれぐらい持っていかれるんだろうなぁ、なんて考えながら、近くにいる衛兵さんに声を掛けてみる。



「ねー、おっちゃん。」


「ん? あぁ、お嬢ちゃん。どうしたんだい?」



声を掛けられたが目の前に誰もいない、不思議そうに首をかしげるおじちゃんの脚を突けば、ようやく視線が下に向く。やっぱ子供は来ない場所なんすかね?


そんなおじちゃんは、被っていた兜の面に上げて、軽くしゃがみながら問いかけてくれる。おう、お前さん結構わかいの。しかも私の姿を見た瞬間、優しい声色に変えるとかむちゃ優しいやんけ。お礼に教えてあげるけど……、後12年。ちょうど主人公が来るぐらいに、ダンジョンから魔物溢れ出して最悪都市が地図から消滅するから、それまでに金稼いで田舎に帰っとけよ?



「冒険者ギルドってどこ?」


「ギルドかい? ギルドはあそこだね、剣が二本クロスしている看板があるだろう? アレが冒険者ギルドだ。」


「お~、あれ。」



まぁティアラちゃんゲーム知識で知ってるんですけどね? 見た瞬間にあれやな、って。


じゃあなんで話しかけたのかって? そりゃそれ以外に聞きたい事があったからですよ。


いやはや、お仕事中すいませんねぇ。最近ちょっと物忘れが激しくて……、え? お前今何歳かって? ごちゃい!



「あ、あとな。ウチあの道から通って来たんやけど、いい感じの宿がなくてこまってたんよ。おっちゃん安くてウチでも泊めてくれるような宿しらん?」


「あ~、その道は歓楽……。あ、うん。いわゆるお金持ち専用の宿が多いからね。普通の宿は反対側の道を通ればあるんだけど……。お嬢ちゃん、お父さんかお母さんはどこにいるんだい?」


「いないで! ウチ一人や!」


「……あ~、お家はどこにあるの?」


「南にあるちっちゃい村。名前忘れた、馬車で一週間ぐらいかかるとこ。」



明らかに顔色が変わる衛兵さん。


まぁ自分で言っておきながらなんですが、普通に厄介事ですよね。五歳児が一人でうろついていたと思えば一週間近く迷子というか家出状態。精神が善良であればここで保護、悪であれば保護という名の『幼女、ゲットだぜ!』になるわけだが……、YOUはどっち? 悪だったら今【オリンディクス】がサービス中なんだけど……。



「う、う~ん。ほんとに? いや本当なんだね。……どうしよ。お、お嬢ちゃん。お金とかは持ってるのかい? というかどうやってここまで来たの?」


「がんばった! お金はちょっとある!」



……あ~、前者かな? いい人っぽい。ならもうちょっとコミュしても大丈夫そう。


そんなことを考えながらお財布を出して見せる。


もちろんポケットの中で“空間”に繋ぎ、そこから取り出した形だ。ほら中身、多くはないけど数日ならお泊りできるお金あるでしょ? お馬さんを売り払った代金の一部だ。王族と勘違いされたせいで、結構な値段で売れたからねあの馬。


スラれたり奪われたりするの怖いし、基本的にお金とかの大事なものは“空間”にぶち込んでいる。まぁ処理に困った死体とか、ゴミとかも色々空間に放置しちゃってるやつもあるけど……。まぁある程度離して置いてるし、内部の時間止まってるからね! 大丈夫!



「頑張ったって……、一応中身見せてもらうね? ……おぉ、結構。ねぇこれって……。」


「ちゃんと自分で稼いだお金やで? 神様に誓ってもええで!」



そう言いながら胸を張る、神に誓うのは最上級の宣誓なので虚偽があった場合その場で処刑。そしてそれが真実だった場合疑った者は神を信じなかったということで処刑。つまり信じないといけない最強の技なのだ。


ま、誓う神はアユティナ様なんですけどね! というわけでアユティナ様! 盗賊をミンチにして手に入れたお金や! なんか王族に間違われて色付けられちゃったお金は! 変なお金ですか! それとも綺麗なお金ですか!



【え、急……。まぁ大丈夫なんじゃない?】



ありがとうございます! というわけでおっちゃん、大丈夫やで?



「そう言うってことは、ちゃんと正規の手段で手に入れたお金なんだね。ん~~~~、とりあえず宿は取った方がいいよね、うん。いくら僕らがいると言っても限度があるし。心配だし案内してあげるよ。ちょうど知り合いが経営してるいい宿があるんだ。」


「マジで! おおきに~!」



……え、そういえばなんで急に関西弁してるかって? 気分! あとこのおっちゃん多分揶揄ったら乗ってくれるタイプだし、その布石ってことでオナシャス!


にしても、ひっさしぶりのベッドだー! やったー!!!





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