箱崎先輩

箱崎先輩

　僕の大学には箱崎先輩と呼ばれている学生が居る。否、実は学生かどうか本当のところわからない。僕の先輩が入学した時から箱崎先輩は先輩だったし、僕の先輩の先輩が入学した時に既に箱崎先輩は先輩だったという。

「あー、アタシの過去が上手いこと改変されて箱入り娘だったことにならねーかなー」

　平日の昼間から雀卓を囲みながら箱崎先輩は適当なことをぬかした。これはただの偏見だけど箱入り娘はテンピンで麻雀打たないと思う。

　雑に伸ばした金髪とスカジャンというスタイルでピアニッシモ吸っている箱崎先輩は雀鬼としての風格がありすぎる。そんな彼女だが矢鱈と『箱』という単語に執着するという謎のこだわりがある。

　麻雀をするときなんかはハコ下続行ルールを強制し、とかく相手をハコテンさせることに執着する。ライブハウスに限らず建物のことは『ハコ』と呼び、漫画やアニメにハマるときは基本ハコ推しするらしい。最近はちいかわ世界を『箱庭』と呼びハコ推ししているらしい。あれ箱庭かァ～？

「パンドラの箱と目安箱ってあるだろ？　あれなんとかインチキして私が最初に考えたってことにできねーかな？」

　神か将軍にでもなったつもりだろうか。

　因果律を弄れるようになったのなら神や将軍と僭称してもいいかもしれないが。

　そんな箱崎先輩だったが、先日街頭で募金活動をしているのを見た。先輩のことだから『箱』がらみで募金箱を抱えているのかもしれないが、結果として善行になっているのだから余計な口を挟むまい。

　しかしそれから暫くの間、箱崎先輩を大学で見ることはなかった。まああの人のことだから元気にやっているだろうと思っていたのだが、ある日のテレビのニュースで、

「――自称大学生の女が、街頭で募金詐欺を行い逮捕されていたことが、警視庁の発表によりわかりました。調べによると……」

　と原稿を読み上げるアナウンサーの横に箱崎先輩の顔写真が写っていた。

「……豚箱に入っとる！！！！！！」