平良蜜の帰国

 かれこれ私も三十三歳となった。


 年月が経過するのは早いもので、クランも創設からかれこれ七年が経過し、いつの間にか三十代になったメンバーがちらほら出てきていた。


 上級ダンジョンにも一軍メンバーは浅い階層に潜るようになり、二軍メンバー千人の働きもあり、毎年約千五百億近く稼げるようになり、人件費で三百億、施設維持費で百億の四百億近くが飛んでいるが、それでもなお黒字となっていた。


 お陰で東横から連絡があり、ガイアクランが日本全国のクランの収益化部門でトップ三十にランクインし、椎名(洋介)が個人の、私がクランを代表して星持ちの基準に到達したと通告が行われた。


 特に断る理由もないので受けると、私がこれまでの実績から星四が、椎名は星三が与えられ、一軍メンバーもこの調子であれば星二か星一が与えられるだろうとのことだった。


「クランも巨大になったなぁ···」


 としみじみ感じながら、私はさらなる飛躍を誓い、一層奮起するのだった。







 北稲荷にダンジョンが数年で多数出現している現象に学者達は首を傾げていた。


 佐久間教授は長門の事を知っていたので、混乱期に起こったダンジョン乱立現象を引き合いに出し、たまたま北稲荷がその現象の中心にあったと発表し、更に一旦この現象が起これば約二十年近くは乱立が続くであろうとも発表し、北稲荷周辺の地価が跳ね上がったが、大半を明聖社とガイアクランが押さえていた為、混乱は最小限に留まった。


「佐久間教授、事実を捻じ曲げて嘘の説を発表させてしまい申し訳ございません」


「ホッホッホッ、なんのなんの、長門ちゃんが成長するまでの時間稼ぎができれば上々じゃな」


「本当に申し訳ない」


「ホッホッホッ、なら次は不思議のダンジョン形式を作ってもらいたいな。どうしても不思議のダンジョンは難易度が高い場合が多く、下級ダンジョンでできれば色々研究が捗るからな」


「そういえば教授が研究しているダンジョンでの野菜を育てる試みはどうですか?」


「ダンジョン由来の植物であれば変質を止められることがわかったが、育てるに適した穀物や野菜はなかなか難しい。これが解決できれば長門君の人工ダンジョンは新たな食料庫として機能するのじゃがな」


「サンプルがあれば長門に見せますが。長門も大きくなり、色々な知識が身についてきましたし」


「それをするとそちらの負担が大きかろう。まだまだ儂も動けるからな。柊君と実地調査を続けるわい」


「本当に無理をしないでくださいよ」


「なに、まだまだ行けるわい!」


 佐久間教授とマンションのロビーで話していると、ランドセルを背負った子供達が帰ってきた。


「イブキただいま!」


「ボス! こんにちは!」


「お邪魔します!」


「おっとガキンチョ共来たね! お菓子出してあげるから先に部屋に部屋に入ってな」


「「「はーい!」」」


 長門と大和が毎日友達を連れてマンションに帰るので、お菓子を用意して食べさせていた。


 養子縁組も進んだが、どうしても全員に引き取り手が現れることもなく、施設育ちになる子も多く居た。


 そういう子供達を大和と長門は連れてきて、私が作ったお菓子を食べさせたり、勉強を見てあげたりし、そのまま【おいなり公園】に遊びに行くサイクルが出来上がっていた。


【おいなり公園】は学校が機能し始めたことで、連日子供達の遊び場兼、お小遣い稼ぎの場所となり、近くの駄菓子屋だけでなく、ゲームセンターやゲーム屋さん、玩具屋や自転車屋、バッティングセンター等の子供達が遊べる施設が多く出来た。


 もう少ししたら映画館もできる事が決まっているので更に盛り上がるだろう。


 湖ではプールの代わりに水遊びをする子も多く、水質が非常に良いこともあり、冬でもダンジョンの中の温度は一定なので水着を着た子供達があとをたたなかった。


「イブキ帰ったよ〜」


「イブキさんお邪魔します!」


「お邪魔します!」


「相変わらず侍らしてるねぇ大和は」


 はい、大和は小学生なのに女の子達にモテモテで、クラスの皆から王子や王子様と呼ばれているらしい。


 で、日替わりで女の子を連れてきては一緒に遊んだり、デートをしていたりで、小学生らしからぬリア充生活を満喫していた。


「大和、頼むから刺されないでね」


「なんで?」


 意味がわからないみたいな顔をされたが、まじで精通したら危ない気がしてならない。


「言い聞かせてはいるけど、いつか爆発しそうで怖いんだよなぁどうするべきか」


 ただ大和は紳士であることは変わりなく、クラス···いや学年でもリーダーをしていて、三年生ながら児童会(小学生バージョンの生徒会)に立候補したら当選したりしている。


 一方長門は友達と遊ぶけれど、そういう児童会とかには参加せず、黙々とダンジョンの構造の研究を続けていた。


 ノートにはダンジョンの設計図がびっしり描かれており、既にノート二十冊を超えている。


 先生も将来はダンジョンの研究者になるのかな〜みたいな事を言っていたが、長門は


「私がクランを引き継ぐ」


 と断言し、私は嬉しく思っていた。


 大和は夢を聞いたら


「沢山の子供に囲まれたい」


 と話しており、ますます私は不安に思うのだった。










 ある日、事務所に来客が到来した。


 ピンク色の長い髪をなびかせ、サングラスをかけた天使は私が数年前に融資をしてアメリカに飛び立っていた平良蜜であった。


「よお、久しぶりだなイブキ」


「···あ! 平良君じゃん」


「その反応忘れてたろ。まあ良い。アメリカでの活動を終えて帰国したぜ」


「お疲れ、大学どうだった?」


「そんなの二年前に飛び級で卒業したわ。二年間アメリカの財界と繋がりを作ってたわ」


「おお、で? 私に何か用?」


「せっかくだからな。次の市長選挙に出てみようと思う。金はあるんだが、こっちの政界への繋がりが乏しい。紹介してくれ」


「うはー、相変わらずズバズバ言うね〜、良いよ。私が懇意にしている先生が居るから、彼を紹介するし、私が知る限りの有力者と顔合わせさせてあげる」


「サンキューな、必ずこの借りは返す」


「私の借りは高いよ」


「望むところ」


 そんな会話をしながら平良蜜は土岐先生と面会をし、三時間以上政治討論をした後、土岐先生は


「所々方針は違うが、頭がキレるのはよくわかった。まぁ市議会を通してからが本来の道のりだが、北稲荷の足りないところを動かすのなら彼が適任だろう。前任も年で談合気味だったからそれを潰して風通しを更に良くしてしまえばいい」


 と強く言った。


 そのまま私が懇意にしている会社の社長達に挨拶周りをし、市長選挙に挑んだら、出馬した五名の候補者のうち半数の支持を集めて圧倒的大差で平良蜜が勝利し、市政の改革を断行していくこととなるのだった。

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