東横、萩原、松田との別れ

 あっと言う間に年が変わり、一月となった。


 十一月に二十人の混血の追加人員が加入したが、やはりというかなんというか···混血の平均寿命が近代ではあり得ないくらい短い。


 平均寿命三十五歳である。


 これは多くの若い混血が成長する前に無理をしてダンジョンに潜るので無理が祟り、早死する為である。


 探索者協会は混血を扱い難い人材としか、今までは見てなかったのと混血の発言力の乏しさから全く立場の改善の懇願が上まで届かなかった。


 それに差別されているため酷いとダンジョン内部で私刑に遭い、そのまま亡くなる事例も多い。


 その為、三十を超えた人材はその苦しい時期を突破し、ある程度の生活基盤を手に入れているので、私達のクランに入ろうとはしてこない。


 わざわざ絶賛崩壊中のクランを立て直すよりもある程度の生活で満足しているからだ。


 なので若い混血の人がじゃんじゃか加入してくる。


 流石にスカーレットや山姫、月精みたいな人よりもモンスターに近いという特殊例やロドリゲスやドナルドみたいな外国人と···みたいな人は居ないが、それでも苦労しているのがわかる。


 中途採用組は魔法理論を死にものぐるいで覚えてくるので半年経たずに戦力化できるのも良い。


 そんな人達を鍛え直し、一軍メンバーを再編し、人数が増えた二軍のリーダーに抜擢して二軍のチーム数を増やしたり、四月加入した四十名を二軍に上げて戦力化したり···そんな事をしていたらあっという間に一月である。


 東横が持っていた業務は令嬢組率いる事務員ズが引き継ぎ、マジでギリギリのラインでクラン崩壊を耐えきった。


「東横、ありがとう。五年間お疲れ様でした。松田と萩原もね」


「長いようで短い五年間だった···良い経験にはなったよ。これからは探索者協会の方で頑張るから、イブキも頑張りなよ!」


「おう!」


「俺達は嫁達が引き続きクランに在籍するけどな」


「でも実質引退でしょ。二人は給料減るんだから税金関係気をつけなよ」


「まぁヤバくなったら日雇いで雇ってくださいよ」


「そうそう」


「あ、そっか···探索者協会って公務員じゃないから副業してても別に良いのか」


「あまり良い顔はされないっすけどね。後藤さん、俺達は四年ほどお世話になりました」


「かれこれもう二十代後半になっちまいましたけどね···でもイブキさんは老けないっすね」


「天使病の患者は老いがゆっくりらしいからね。寿命は伸びないらしいけれど···ただ若干若返るらしいから実年齢は測れないらしいけどね」


「まぁ天使病の患者は少ないですからね」


「完全解明は難しいだろうな」


「辻聖子は寿命とかも無いだろうがな」


「確かにマーちゃんは無いだろうけど魂が摩耗するとか言っていたからいつかは死ぬんじゃない?」


 そんな話をしながらクラン脱退の書類に三人はサインをした。


「···本当に抜けるんだね」


「楽しかったよイブキ」


「後藤さん、また冒険しましょう」


「後藤さん、娘がクランに参加するまでクランを保ってくださいよ」


 そう言って彼らはクランの事務所から出ていった。








「正直もう少し居て欲しかったけど、派出所の運営や探索者協会での派閥争いもあるから···これ以上留めるのは皆の為にならないからね」


 私は別れを悲しみながらも、クランの現状を整理する。


 まず一軍は空席、三軍構想である以上空席でも回るが、なるべく早く埋めたい。


 二軍は全体リーダーとして戦闘能力、実務能力、教育能力の全てで高水準のスカーレットを二軍監督の地位に付けた。


 その下の小隊として椎名(洋介)、内藤、池田、南波、ロドリゲス、ドナルド、月精、山姫にチームを組織してもらい、一チーム約八人で行動してもらう。


 下からこのチームリーダーになれそうな人材は育ってきているので今後に期待である。


 この二軍が主力戦力で現在約六十名となる


 そして三軍の監督が私、チームリーダーは龍宮竜華と西園狼樹にやってもらっている。


 今のところ三軍は新規加入が四十人までなら回すことができるが、更に増えるようなら上から引っ張ってくる必要があるだろう。


 クランの総年俸は高給取りが抜けたが、他が微増したため約二十億となっている。


 クランの総資産は土地や建物、現金等を全て合わせると約七百億円である。


 本拠地のマンションも六月頃には完成予定である。


 三葉建設からは同型のマンションを建てましょうと言われているが、とりあえず一棟完成してから考えることにしている。


「はぁ、子供が爆発的に増える予定だから探索者協会と市と協議して私立でも良いから学校の誘致しないとなぁ···まぁ今が凄く忙しいというか厳しいけれど、基盤さえできれば後々楽になるだろうから頑張ろう」


 収益を安定させないことにはどうしようもない。


 配信業で損失の穴埋めをすることはもう不可能。


 巨大プロジェクトに組み込まれている以上失敗は許されない。


「また明聖社にスカウトが依存しているのも良くない。最終的には混血の人員をこの街に集中させるとはいえ···なんか国の中に国を作っている気分だわ···」


 私は色々考えながらクランの再建に努めることとなる。







 三月となり、大和、長門が四歳となった。


 四歳となったことで何が変わるというわけでもないが、大和が百科事典が欲しいとねだってきたので買ってあげた。


 この年齢ならまだゲームとかそういうのをねだるのにも早いし、人形とかだと思うけどよりにもよって百科事典かい。


 長門は日本全国の旅行雑誌が欲しいと言ってきたので、ネットで都道府県毎の旅行雑誌をまとめ買いして与えた。


 あとダンジョンを創れるようなゲームがあれば遊びたいと言っていたので、パソコンゲームに似たのがあると思い出し、ダンジョン経営シミュレーションを購入して与えてみたところ、大和、長門の両方がハマった。


 あまりに熱中するので、ノートパソコンを各自に与え、ゲームの起動方法等を教えると、長門と大和は話し合いながらダンジョン経営ゲームを攻略していった。


 こういうゲームって普通RPGとかから始めるんじゃないのかとも思ったが、二人が満足しているのならまぁ良いか。


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