クラン本格始動の準備

「内藤、元学校のメンバーだった子達とは連絡取れた?」


「はい、ただ···」


「ただ?」


「一人既に亡くなっていた事がわかって···」


「あちゃー、新人だから張り切って事故ったか?」


「残りの十人とは連絡が取れましたので合流は可能です」


「よし、直ぐに合流しよう···と言いたいけどマンションに住んでもらうの少し手続きが必要だから来月に合流できるように···あと直近でお金に困って無理をさせないように各自百万円支給しておこうか。そうすれば無理しないでしょ」


 東横とも話したが、新人の死亡率はそこそこ高い。


 その理由が実力を過信したり、無理をしたりが多く、またチームを組んでいないので助けが遅れてということがある。


 混血の子の場合は助けられる場面でもモンスターに間違えられて殺される場合があり、内藤の話ではその子の外傷がモンスターからの殴打によるものだったらしいが、ダンジョン内部での詳しい事情など撮影していなければ分かるはずもない。


 その子は残念であるが切り替える必要がある。


「とりあえず一度メアリーヒルズに来てもらってお金を渡そう」


「はい! 皆喜ぶと思います」


 ポンと一千万を出せるくらい資金力があるようになったなぁとしみじみ思いながら、私は今後の事を内藤に話す。


「内藤には話しておくけど、クランの今後の方針ね」


「あ、聞きたかったので有り難いです」


「まず東横に業務が過多状態に初期はなると思うから、それを徐々に引き継いだり育てたりして負担を分散させるのがまず第一」


「それはそう。東横さんに業務が集中しますからね···このままだと」


「まぁそれだけ掛け替えの無い存在なんだけど···ただ東横も期限付きだからなぁ」


「期限付き?」


「あー、そっか新人組には言ってなかったけ、私の護衛として来てるから東横、松田、萩原は期限付きなんだよね」


「え、じゃぁそのうちクランから抜けるんですか彼らは」


「うん、そうだよ。佐倉と佐藤は意地でも残るって言ってるけど、二人も子供を沢山育てたい願望があるらしいから数年は稼働できないだろうね···まぁそれは直近の話じゃないから置いておいて」


「いやいやいや、置いておけないですって」


「それを踏まえて東横がいるうちに業務を覚えてもらうよ。まぁ内藤に求める役割は教官かつチームのリーダーだけど」


「結構役割みたいなのは決めているので?」


「幹部人材は小風、山姫、月精の三人。組織が巨大化した時に私の代わりに外交関連や事業目標の設定、アタックするダンジョンの選別みたいなのを計画できるようにしたいと思っているね〜、椎名···洋介の方と南波、スカーレットは面倒見が良いから育成の方を任せたいと思っているよ。で池田、内藤、ロドリゲス、ドナルドは現場気質だと思うからチームリーダーとして自身のチームを引っ張っていってほしいと思ってるんだよね」


「え? 池田が?」


「だって私の次にダンジョンに潜っている日数多いよ。鯨探しのバイトで結構稼いでいるし···池田は鯨探しの縁で鯨の捕鯨チームを作って他のクランと協力してって将来も考えているよ」


 既存人材の役割としてはこんな感じだ。


 勿論今後の成長で変わってくることもあるし、私も育成の方に重点を置くと思うので幹部候補に頼る事も多くなるだろう。


 さて、目標の整理であるが、東横がいる間に一度は上級ダンジョンに挑みたいと思っている。


 ただレベルの関係で私が不参加というのも十分に考えられるのでクランとして挑むという形に言い換えよう。


 次にクランの拠点を整備したいと思っている。


 ただこれは別に百合ヶ丘である必要は無い。


 というか百合ヶ丘では厳しいと思っているので百合ヶ丘近辺の市にしたいと思っている。


 クランを中心とした街作り···多くの中堅以上のクランがしていることだ。


 私や子供がいるメンバーは学校が近いという利便性から移動することは無いと思うが、混血での揉め事等を考えると既存の街よりも一から集落を作る勢いで開発した方が混血の人達も安心だろう。


 言い方悪いが住み分けができないほどコミュニティが小さいから差別されるので中華街の様なコミュニティができるほどの人数が居ればその場ではそれが当たり前となる。


 そうすれば探索者以外の職業に就くことも、子供を育てることも可能になるだろうし、混血の方が全国から噂を聞きつけて集まり、そこから人材をクランに引き抜ける好循環が生み出せる。


 街作りとなると莫大な金がいる。


 ただやる価値は十分にあると思うし、長門がダンジョンを生み出せる能力が本当にあるのなら岐阜県に第二のダンジョン都市を作り出せることができる。


 その時にその地域の根幹や中枢にいるのは混血だし、私達のクランだ。


 とと、これは直近の目標ではないな。


 まぁ新規加入するメンバーを一年···いや、二年以内に全員を上級に引き上げる。


 中級ダンジョンを安定して踏破できるようになる。


 マンションを建築する。


 クラン運営を安定させる。


 配信者としての箱の拡張による混血の悪感情の緩和。


 この五つの目標を三年···いや、五年だな。


 ガイアクランの五カ年計画としょう! 


 五年が経過すれば大和と長門は小学生になる。


 そうなれば学校に行っている間に私はダンジョンに潜ったり仕事をして、小学校から帰ったら私も家に帰って家事みたいな形になるだろう。


 レベルが上ったことにより探索者支部からの護衛も、もしかしたら外れるかもしれないし···


 まぁここまでの話を内藤に話すと


「そこまで考えていたんですね···もっと行き当たりばったりかと思ってました」


「いや、失礼だね。結構考えてるんだよ!」


 と私は言った。


「でもこれで確信しました。イブキさんに私は付いていきます。東横さんみたいに何でも高水準にこなせるって感じではないですけど、与えられた役割以上にできるようになりたいです! イブキさんを支えたいです! 混血でも次世代を考えられるようになりたいです!」


「まぁ焦っても何も始まらないし、空回りするだけだから一歩一歩しっかりやっていこう。クランとして本格的に稼働するのも十一月からになるからね!」


「はい!」


 私は内藤と絆が深まる感じがした。







「初めまして後藤さん。事務員として加入を希望している伊藤です」


「み、三葉です」


「四星です。本日は時間を取っていただきありがとうございます」


 十月のある日、土岐先生から紹介されていた令嬢三人と話しをする場を作り、私が住んでいるマンションのロビーで行う。


 決して社長令嬢のお嬢様と話をするのに適切な場所が見つからなかったからと言うのではない···決して···はい、無かったのでここになってます。


 とりあえずの条件として期待値込みで月給百万を用意。住む場所も希望があれば補助金を出すと私は言った。


「条件がずいぶんとこちらに有利ですが、新人事務員にこれほどお金をかける理由を伺っても?」


「え? ダンジョンに潜ってくれるんじゃないんですか?」


「はい?」


 勿論そんな話をした事は無いが、私はこの令嬢達もダンジョンで育てる気満々だ。


 一軍戦力でなくても事務員もある程度戦えるというのはクランが武闘派と印象付ける事も意味し、他のクランに舐められない。


 それに事務員予定だった人材を一端の探索者に育成できるのは支部へのアピールにもなる。


「私達確かにダンジョンに関連する職種の勉強はしてきましたが、戦闘職は未経験ですし、私達に死ねと?」


「ちゃんと教官役の人材は付けますし、私も育成チームに混じってあなた達を育てますので安心してください」


「無理無理無理!」


「三葉さん、初めから無理というのは駄目ですよ。もしかしたら知らなかった自身の才能に目覚めるかもしれないのですから。七に、レベルが上がれば美容や体型の維持にも繋がりますので多少血なまぐさいかもしれませんけどね」


 三人の顔にとんでもない所に来てしまったと書いてあるが、家の都合で来ている以上彼女達に拒否権はない。


「まぁちゃんと育てますし、上級探索者になれたら実家から無視できない影響力を持てますよ。自由が欲しいんじゃないですか? 実家を振り回せるくらいの力を身に着けましょうよ!」


 まぁ前向きになれる言葉を言っても響かないことは重々承知だ。


 ただやるからには全力で育てる。


 住む所は私が購入したクランの小型マンションに住んでくれるらしく、十一月から正式加入する運びとなった。


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