チーム ガイア 動き出す馬鹿

 私達が選んだ中級ダンジョンにはゴブリンナイトやゴブリンメイジ等、通常ゴブリンから進化したモンスターやハイピクシーが生息している。


 今回のダンジョンは金銭面では美味しいとは言えないが、経験値は美味しいのと、洞窟タイプのダンジョンにしては通路が広く、宝箱も初級ダンジョンに比べると出現しやすい。


 気をつけるべきはトラップであり、眠りや麻痺のトラップが無数に配置されているのだとか。


 ダンジョンの場所が決定したので、私達は探索者協会でチーム申請をおこない、私は中級探索者への探索者証明書の更新、市役所で佐倉と佐藤の転入手続きを行い、その後二人と荷物持ちの萩原と松田の四人で家具の購入などを行った。


「久しぶりの能力測定···どれくらい伸びているかな!」


 レベルはちょうど三十、腕力、脚力、体力、魔力、各種耐性を測っていく。


 腕力テストではいつものように対象の魔力を吸って重くなる物質で測るが、私が魔力操作で魔力を外部に漏れ出すのを遮断していたためか一向に重くならない。


「すみません重くならないんですけど?」


「あれ? おかしいな。もう一度測り直しますね」


 原因がわかっているので、魔力遮断を解除するとじんわりと重くなり始めた。


 結果は三分五十二秒。


 前回よりも二分以上伸びた。


 五十メートル走は三秒八九、反復横跳び、シャトルランも妊娠したから体力落ちてるかなと思ったけどレベルの恩恵からか回数がめちゃくちゃ上がっていた。


 まぁ出産から半年間鍛え直したからそれもあるかもしれない。


 魔力測定をし、各種耐性検査をしたら、いつものように検査結果が配布された。


【後藤伊吹】


 ·レベル 三十


 ·腕力 六十八 上級下位

 ·脚力 六十九 上級下位

 ·体力 九十五 上級上位

 ·魔力 百五十 上級上位

 ·適性魔法

 光◎

 雷○

 水△


 ·耐性 火◎水◎風◎雷◎土○雪◎草◎闇△光◎

 毒◎火傷◎眠り○麻痺◎呪い○石化◎魅了○


 ·適性職種

 魔法使い

 魔剣士

 治癒士

 タンク

 魔拳闘士


 前と比べると最低三十二以上数値が上がり、魔力に至っては百近く上がっていた。


 恐らく魔力のコントロールの影響もあるが、グンっとここ最近伸びた感覚もあるので、コントロールができていることで魔力の成長を促したのかもしれない。


 他には魔拳闘士という適性ジョブが追加されていた。


 多分接触攻撃が多かったからだろう。


 更新が終わると探索者協会の方から呼び出しがあった為、そのまま支部の応接室に通された。








「こんにちは後藤伊吹さん」


 応接室にはちょっとダンディな男性が居た。


「初めまして後藤です」


「私は東横守。東横雪子の父親だ」


「あー、なるほど、どこか似ているなぁと思ったんですよね」


「それはそれは···今回君を呼んだのは娘の雪子から万能防御魔法が完成したことが報告されてね。それとチームの申請が通ったことと今後の方針を話し合いたいと思ったからだ」


「わかりました。守さんと呼んでも?」


「そうだね。娘のことを苗字で呼んでるならそっちの方が良いだろう」


「私の事もイブキと呼んでください」


「わかった···まずは中級昇格おめでとう。我々事情を知っている支部の面々は君の成長を喜んでいるよ」


「ありがとうございます」


「中級でチームの申請が通ったが、チーム名等は決めているかい?」


「『ガイア』···辻聖子が私がもしチームを作ったらその名前にしなさいって言っていたので」


「皆からの了承は得られているのかい?」


「それは勿論」


「なら良いね。登録しておくよ。次に万能防御魔法が完成したと娘からの報告で聞いたけど」


「はい、今言語化と執筆作業中で、今年中には書き終わると思います」


「なるほど、完成したら君達がクランを創る時に融資させて欲しい」


「それって···探索者協会がスポンサーになってくれると?」


「あぁ、君はメッセンジャーと言っていたが、万能防御魔法の開発の功績は多くの人を救うことになる。それは大きな功績だ。功労者には報酬を与えないとね」


「ありがとうございます」


「と言ってもまだ現物があるわけでは無いから口約束でしかないのと、メインスポンサーには探索者協会はなることができない決まりがある。だからメインスポンサーの紹介等はさせてもらうよ」


「わかりました」


「あとは今後の事と注意だ」


「注意ですか?」


「君の魔法理論は世の中を変える切っ掛けとなった。ただその中で誤りを犯して亡くなったり地位を失った者も出てきてしまった。その者達が逆恨みをして動いている可能性がある」


「あー、私が人殺しとコメントで叩かれている奴ですか」


「誹謗中傷コメントはこちらでも確認しているが、規制はしないのかい?」


「あまりにしつこいのは配信サイトの方に報告させてもらいチャンネルへの書き込みができないようにしてもらいましたが実害が今のところ無いので放置しています」


「気をつけてくれ。君には子供達もいるのだから」


「気を付けます」


 その他私の担当が東横守さんになったことや娘は大丈夫か等を聞かれたりして解散となった。


「引っ越しは来年の十月頃に頼むよ。一応希望を聞いておきたいが」


「子育てがしやすくて子供達の学校が近いと良いですね。あと駐車場がある事と配信しても迷惑がないとありがたいです」


「わかった。準備しておくよ」











 イブキと東横守が会話をしている頃、とある場所では取引が行われていた。


「依頼人さん、一億ポッチじゃぁ天使のイブキの暗殺は請け負えませんよ」


「三億でも五億でも出す。腕利きの君に頼みたいんだ」


「あのな依頼人さん。イブキはんはな配信者の中でも急成長しているし、魔法理論という時代の先駆者やねんな。そんな人物を殺してもうたらワイの命もヤバいんや」


「十億出す!」


「金じゃないねんなぁ···良い依頼人さんよ、暗殺者も仕事やねんな。できない仕事やリスクにリターンが見合わない仕事はできないねんな」


「···くそ! 腕利きだから期待したのに! 別の奴に頼る!」


「ほな帰りな〜二度と来るんや無いで〜」


 バタンと男が帰っていった。


「よろしかったので? 十億は大金ですが」


 ヒョコっとメイド服の女が現れる。


「ダメダメ全然駄目、依頼を受けるとしたらドラゴンの鱗みたいな希少素材何かのダンジョンで採れる物じゃないと足がつくねんな。しかも天使のイブキを殺すのは惜しい。多分探索者で彼女を殺そうとするのは馬鹿や。それだけ革新的な技術をまだ隠しとる」


「それまたなぜですか?」


「彼女は魔法の基礎とことごとく言っとるんや。応用が必ずある。それが言わないってことはまだ時期じゃないんやな。イブキによって恥をかいたり、職を失ったり、親族が死んだ奴から依頼が来ることもあるんやが、リスクにリターンが見合わないねんな」


「なるほど」


「ただどこにでも馬鹿はいる。金に目がくらんで依頼を受ける奴もいるかもしれんな。まぁダンジョン内で暗殺を敢行しようとしても返り討ちになるだけやけどな」


「それまたなんで?」


「山田と椎名···奴らが強いんよな上級上位の耐久力は対物ライフルの直撃を受けても死なへんからな。そんな探索者メインで稼げる奴に暗殺者っていう副業をやってるような探索者としては二流が相手になるかっちゅうことよ」


「···なるほど」


「まぁそういうことや。ワイ等はイブキには手を出さん。まぁイブキの子供の暗殺はしそうな馬鹿がいそうやがな」











「良いぜ俺達ケルベロス三兄弟がその暗殺を請け負ってやる」


「ただし暗殺の仕方はこちらに任せてもらいますよ」


「べへへ、女犯す」


 どこかで馬鹿が動き始めた。

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