バケキノコ
正月シーズンや冬休みも終わり、世間が平常運転となったために、配信の視聴者はガクッと減っていた。
それでも平日昼の配信が千人、休日だと五千人が視聴してくれるのでありがたい。
今日のダンジョンは前に産婦人科に行くことになり、行けなかった【キノコ園】というキノコ系モンスターが出てくるダンジョンだ。
東横の運転でダンジョンに向かい、アイテム屋で消耗品を買っているとポスターが貼られていた。
「このダンジョンでの平均買い取り価格か」
このダンジョンに出るモンスターはバケキノコシリーズと呼ばれる歩く大きなキノコ達であり、食用と毒キノコが混在しているため目利きのできる人が居ないと危険なダンジョンでもある。
とは言っても赤色が入っている、白い斑点がある、全体が青紫色の三点に気をつければ、あとは大半が食用バケキノコである。
バケキノコの攻撃方法はタックルで、肉厚な体で押しつぶそうとしてくる。
また雷が落ちるとキノコがよく生えるという伝承があるように、このダンジョン内で雷魔法を使うとポコポコとバケキノコやキノコが生えてくる。
一応洞窟のタイプは草原タイプだが、中は木々に囲まれた森かつジメッとした湿気が高い感じになっていて、いかにもキノコが生えやすい気候だ。
フィールド上には普通のキノコも生えているので、椎茸やエリンギ、エノキ、キクラゲ、なめこ、松茸等も生えている(勿論毒キノコも)ため、バケキノコそっちのけでキノコ採取をする探索者も中にはいる。
「ふーん、黄色と茶色の傘のバケキノコが一キロ三千円か」
「バケキノコって大きいのだと三メートルサイズのもいますよね?」
「そうだね。ただ二メートル超えると味が悪くなるから買い取ってもらえない事が多いんだ。だから大きすぎるバケキノコは解体して魔石だけ抜くのが正解なんだよ」
前に稼げるダンジョンとして【キノコ園】を挙げたが、その理由は、ここもリアカーを借りることができるからだ。
リアカーだけでなく大きな背負うカゴも借りられる。
今回はバケキノコメインなのでリアカーを一台借りて私が押していく。
東横はカメラマンとしてカメラを回してもらっている。
ダンジョンの中では結構人がいるのか戦闘音がよく聞こえてくる。
「ここのダンジョンは約五町分の広さしか無いからね。五町といえば東京のイベントをやる有名なドームと同じくらいの大きさだね」
「広いのか狭いのか···」
「出入り口に近いから人が多いけど、少し奥に行けば他の人も居なくなるでしょ」
私の予想通り、奥に行くにつれて人の気配は少なくなり、枯木や落ち葉が広がるエリアに着いた。
「じゃ、バケキノコを呼ぼうか」
私は腕に『ショック』の魔法を集め、地面に手をつき、電流を流した。
するとモコモコと落ち葉の間からキノコの傘がニョキっと生えてきて、ボコボコとバケキノコが地面から出てきた。
「バケキノコは地面に埋まっているのか、電流に反応して生成されるのかわからないけど、雷魔法を使うとこんな感じに現れるんだよね」
地面から完全に出てきたバケキノコは私に向かって突進を始めた。
ただ寝起きなのか生成されたばっかりだからなのかはわからないけどすっごく遅い。
私が歩いてるより遅いし、大きさも一メートル程度なので迫力もない。
私が籠手越しに捕まえて持ち上げると、足をバタバタして逃げようとするが、全く意味がない。
『ショック』の魔法を流すとバケキノコは動かなくなった。
「うーん、何か思ったよりも楽かも」
「これバケキノコを傷つけないようにする必要があるよね? 魔法が使えない人や使えても傷つけてしまう人はどうしたら良いの?」
「安心と安定の探索者協会製の魔石で動く強力なスタンガンか、傘と胴体の間の部分にロープを巻き付けて、軽く締めると簡単に気絶するよ」
と視聴者に向けて教える。
視聴者達は今からキノコ狩り行ってくるとかの共感コメとアンチコメ、変態コメントで溢れかえっている。
今日も平和だ。
「さて、傘の色は茶色で全体はクリーム色···毒バケキノコに似ているのは居ないね。うん、こいつは換金できる」
私はリアカーにバケキノコを乗っける。
あとは繰り返し作業だ。
毒バケキノコに該当したモンスターは魔石だけ抜き取り、食用バケキノコは『ショック』の魔法で倒していく。
約二時間でリアカーに山積みになったバケキノコと片翼の裏表にそれぞれ一体ずつの両翼で四体のバケキノコを翼にくくりつけて運んでいる。
「こうしてみると茶色が多いね」
東横がそう言う。
「アシスタントさんは中級によく潜っていたと言ってたけどキノコっぽいモンスターとは戦わなかったの?」
配信を回しているのでアシスタントと東横の事を言う。
東横は少し考えた後に
「戦った事は無いですね。探索者の学校だとモンスターの事は知識として詰め込まれますが、実際に挑むモンスターは限られますし···」
「なるほど、中級以上にバケキノコは居ないの?」
「バケキノコよりも凶悪な寄生キノコというモンスターはいます。モンスターや人間に寄生して宿主を苗床にして繁殖するやばいキノコで、確か上級のダンジョンに生息していたはず···味は凄く美味しくて栄養価も高くて一本百万単位で取引されているハズよ」
「一本百万か。それは凄いね」
「ただ寄生されると五時間以内に治療しないと意識を乗っ取られるヤバいキノコだからゾンビキノコとも言われるわね。そうなったらおしまいよ」
「やっぱり級が上がればモンスターの強さも厄介さも上がるか」
そんな雑談をしながらダンジョンを出て換金所で換金をする。
外傷が最低限だったため減額は無く、バケキノコが一メートルサイズで約十キロなので、持ってきた食用バケキノコの数は十二体
、重さにすると約百五十キロで換金すると十五万となった。
これに毒バケキノコから引っこ抜いた魔石二十個もプラスすると一つ五百円で一万円なので合計十六万。
安全性を考えればとにかく美味しいダンジョンである。
また今日のダンジョンアタック中に力が、湧いてくる感覚がしたのでレベルも上がったらしい。
配信を切ってから車の中でその事を話すと東横も
「私もレベルが上がった感覚がありました。測定してみますが上がってたら四十九レベルになりますね」
「じゃああと少しで中級上位だね」
「山田と椎名は更に上に居ますがね。確か六十序盤だったはず」
「うへぇ、二人とも上がりすぎでしょ」
「それを半年でだから···支部が騒ぐのもわかりませんか?」
「そりゃ確かに騒ぐね。そのスピードで成長するのは稀?」
「居ないことはないですが、このペースは星五とか星六探索者になれる人のペースですから···そりゃ期待がね」
「なるほど」
お金を折半し、私の手元には八万円と、採取し鑑定してもらい安全が確認されたキノコがレジ袋にパンパンに入っていた。
「当分の食事はキノコ尽くしね」
「炊き込みご飯、キノコの味噌汁、キノコ炒め、キノコのステーキ···まぁ松茸は見つからなかったけどね」
「そんなポンポン出てたら市場価格が崩壊するでしょ」
「確かに」
アパートに帰ると大家さん一家や榊原さんにキノコをお裾分けするのだった。
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