巡らせる
「東横、動画どうだった?」
私の仕上げた動画を見てもらい意見を求めた。
「正直理解してくれる人は半数居れば良いと思う。それだけ難しい内容だし、試しても続けようと思うのは更に少数だ」
「ですよねぇ」
今回の動画では六基の解説についてで一本と巡らせるという六つの基礎の一つの修行方法の動画の合計二本を撮影し編集した。
·吸う
魔力を空気中や食事から体内に取り込む方法
呼吸方法や食事方法等
·練る
吸収した魔力を操れる魔力へと変化させる方法
·放つ
魔力を外に放出させる方法
·巡らせる
魔力を血管を通して全身に巡らせる方法
·纏わせる
自然放出される魔力を膜を作ることで体内に留める方法
·交わる
属性を持つ魔力を体内で交わらせることで魔力を活性化させ、他の基礎をより洗練する方法
文字にするとマーちゃんがなぜこの順番で教えたかわかるが、失敗が死に直結する吸うを初手でやるわけにはいかないので巡らせるからだ。
練ると放つは最低限は誰でも無意識にやっていることなので、意識しないとできない巡らせるからが最適だ。
修行方法は魔力を感知できる人は血に魔力を乗せるイメージをする。
できない人は体内から湧き上がる魔力を魔法にしないで指をコップに入れ、水に浸ける。
それを飲む。
胃袋や腸から染み出る物質がわかればそれが魔力なので、それをひたすら指にまた持ってくるを繰り返す。
できなければひたすら魔力を込めた水を時間を置いて飲む。
という少々衛生的に問題がある修行方法であるが、これが一番わかりやすい。
実際に東横にやらせるとセンスがあるのか魔法で出した水を飲んで、滲み出た何かを感知して血管に乗せることが出来ていた。
「どう?」
「今は太い血管をぐるぐるしているだけだから徐々に細い血管にまで浸透させて。そうすれば毛細血管までわかるようになるから」
「私だから一発でできたけど、できなくて荒れそうね」
「うーん、東横は水の魔法で作った魔力のこもった水をよく飲んでいたからイメージしやすいのかもしれないね。身体強化魔法を使える人もわかりやすいかも? 師匠曰く肉体強化魔法の基礎でもあるらしいし」
「でもそこまでこれを使って強くなるっていう実感はないけど?」
「六基はできる数が増えていくに連れて強くなっているって実感できるからね。これだけでも血流の改善とか冷え性の改善、不整脈の改善、血栓の解消なんかの効果があるんだけどね」
「中年から老人が欲しがりそうな技術ね」
「医療効果があるのは確かだね。全てが揃うことでより健康な肉体に近づく!」
「くふふ」
「でもだいぶ砕けてきたね。最初は敬語が多かったけど」
「ま〜こっちが素だし。年上って聞いていたから最初は敬語だったけど」
「今の方が良いよ」
「なら良かった。動画自体に問題は無いからアップロードすれば? 反応見たいし」
「もちろん!」
私は動画をアップロードするのだった。
「教授、イブキチャンネルに動画が挙がりました」
「イブキちゃん萌〜」
「おいジジイ、萌え萌えしてねぇで真面目に検証しろよ」
助教授が教授の白髪頭をペシッと叩く。
全国でも名のしれたダンジョンや関連学科の専門家である佐久間教授が教鞭を執る兵庫にある国立大学のダンジョン科だ。
柊助教授も三十歳ながら佐久間教授の右腕をやっているだけあり元々は星持ちの探索者だったのだが、パーティーが助教授を除いて壊滅したのをきっかけに引退してこうして後進の育成と研究をしている。
つい先日ダンジョンから半年かけて生還した少女の話題になり、それが既存の概念を破壊することを言い出したので学会が騒然としたが多くの専門家達は彼女の言う事を否定したが、うちの佐久間教授は見解を述べずに沈黙していた。
今回彼女が上げた二つの動画は魔法理論の基礎という題名で、六つの基礎の概要とそのうちの一つを発表された。
「巡らせるか。魔力は空気中や食べ物から魔力を吸収し、体内で変換してから魔法に変えるというのは通説じゃな」
「あぁそうだなジジイ。だが魔力を変換している臓器が見つかってねぇ」
「魔物には魔石という変換していると思える物質があるが、人間には無いからのぉ。それが言われない限り理論としては成立せん」
『接種した魔力を変換しているのは人間の場合魂になります。臓器ではありません』
「そうきたか」
『なぜそうなるか。解脱した師匠は天使病に感染した天使である前に人間でした。それが魂となっても魔法が使えた理由が答えです。だから変換する臓器を鍛えるという考えはできませんし、それは嘘となります』
「魂に関する研究はされているが、それを突き止めることはできておらんからな。もし本当に辻聖子が魂となっても存在しているのならば、それは生きていると言えるのか? 死んでいるのに意思がある。死の概念も破壊したことになるのぉ」
「お陰で脳死とかの問題がヤバいって知り合いの医者が言ってたぞジジイ」
「ホッホッホ」
「いや、笑い事じゃねーよ」
動画が進み魔力のこもった水の修行の話になる。
「もし人間の魂にのみ魔法が使える何かがあるとすれば、犬に魔法が使えるようにならないかの実験は否定されるのぉ。犬がいくらダンジョンに潜ってレベルが上がっても魔法が使えないのはその機能が無いからということかのぉ」
「コップに魔法で作った水を入れてきたぜ」
「うむ。この場にいるレベルが二以上の者は検証に協力せよ」
魔法が使えるようになった時に体がポカポカする(体温が上昇する)事もこの修行が正しければ魔力が変換できるようになり、上手く遮断できずに漏れ出ていることに繋がる。
動画でアシスタントと思われる女性は一発で成功させていた。
「魔力を感じた者は手を挙げろ」
教授の言葉に真っ先に挙げたのは助教授だった。
「確かに魔力の流れを感じることはできるが、これを血管に流し、それを感知し続けるは無茶じゃねえか?」
「繰り返してみよう」
何度か試していると徐々に挙手する人が増え始め、中には流れが掴めたという人も出てきた。
「おお、儂も感じた。これが魔力が流れる感覚か。胃袋や腸から漏れ出ているのぉ」
「ジジイ、それ胃潰瘍とかじゃねえよな?」
「失礼な! 儂の胃袋は健康診断で三十代って言われたぞ!」
「いや、なんでそれだけは失礼に当たるんすか!」
生徒の一人がたまらずツッコム。
そんな小芝居をしながらも助教授は魔力を血液に乗せることに成功したらしい。
「血圧計だ。まだできてない奴は血圧計で今の数値を測れ。できた後に血圧をもう一度測れば証明できる」
助教授の言葉に医務室から血圧計を借りてきてみんなで測っていく。
そこから感じた魔力を血管に流すイメージを繰り返すと、体温が上がった感覚を感じ、血管が広がる感覚がしたと話す奴までで始めた。
測定してみると数値が大きく違っていた。
「魔力は血管に乗せると健康に良い方向で左右することがわかったのぉ···今回は巡らせるのみかのぉ」
「でもこれで血栓が詰まる事は無くなったみたいだな。ジジイ長生きしろよ」
「ほほ、百五十まで生きてやるわい」
「それは妖怪の領域じゃねえか!」
佐久間教授は直ぐに声明を発表し、イブキの行った修行により体内で魔力を感知しやすくなることと健康の良化が新聞に載った。
動画のコメント欄はできる、できない論争であふれかえっていたのだった。
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