マイ武具
百合ヶ丘探索者支部内の籠手を専門に取り扱うお店に私は居る。
ネットで調べてはいたが、現物を見るとまた違った感想を抱く。
店員に予算を教えて、その中でのオススメを聞くとやはり防御重視か攻撃重視かで変わってくるらしく、私は特化よりも万能型のは無いかと尋ねると店頭には置いていないが、期待に応えられそうな装備が数種類あるとのことで、カタログを見せてくれた。
ダンジョンで発見される物と職人の手で作る物があるが、ダンジョン産だと同じ性能の物が無い為、個人での調整は難しいし、手入れも気をつける必要があるが、職人の物より値段が低くなりがちであったりする。
まぁ私は買い替えたり、微調整ができて、定期メンテナンスの保障がある工場で量産される品にしようと思っているが···
探索者の武器や防具を作るメーカーにも幾つか種類があり、それぞれが流行りや性能等で売り出している。
スニーカーやスポーツ用品を売っているメーカー等に近い。
中には星持ち愛用とか配信者の〇〇モデルみたいなコラボ商品もあったりする。
コラボ商品でも一定の品質があるので悪く言う人は少ないが、少し割高になったりするのは御愛嬌だろう。
私が選んだ籠手は【明聖】という国内では十本の指で数えられる武器メーカーで、それの二世代型落ちで安くなっていた品が目に止まった。
性能としては軽くて頑丈、蒸れにくく、コーティングされているので綺麗な水に三十分漬けて乾燥させるだけで日々のメンテナンスはオッケーと手入れが簡単。
素材も鉱石が採掘できるダンジョンから採れた特殊な鉱石から作られた金属とアルミニウムを合金にすることで上記の性能を出しているらしい。
魔石が埋め込まれていたりすることは無い為とにかく頑丈で長く使えるが売り文句だったのだが、他のメーカーが魔石を使った属性武器の方が少し高いがダンジョンに特攻であったりしたために明聖の型落ちモデルはあまり売れなかったのだとか。
メタリカルな色合いに機能美だけを追求し、余計な装飾がまったくない無難な作りに、明聖のロゴマークが控えめに刻印されているのは凄く職人気質な感じがして私は写真を見て気に入ってしまった。
手や腕回りのサイズを店員さんが測定し、在庫検索をかけたところ、在庫が倉庫にあるとのことで今買えば明後日の朝までには家に届くと言われたので即購入を決断した。
明聖がやっていた型落ちモデルの在庫処理セールも合わさって七十万で買うことができた。
これに三年間のメンテナンス保障がついてくるのでお得だ。
分割払いもできたが、ここは手元にある探索者協会のポイント···通称Sポイント(Searcherポイントの略)から一括で支払った。
探索者支部では全ての支払いがSポイントを使用できるので便利だ。
というかダンジョン都市にあるお店は個人店を除いてSポイントが使用できる。
日本で一番使われている電子ポイントと言っても過言ではないだろう。
予定よりも早く籠手が決まったので探索者支部内のホームセンターの様なエリアに来ていた。
お目当ての品はスライムの燃料精製機。
レンタルの契約ができるので来ているが、支部のホームセンターはやはり一味も二味も違う。
ダンジョン内の素材回収用の電動台車だったり、ダンジョン内で生活するためのキャンプ道具だったり、初心者用のナイフだったり、水を生み出す小型の機械等の魔道具やマジックアイテムといった物も売られている。
科学と魔術が入り混じっていて興味を惹く品が沢山ある。
「いいなぁ電動台車···組み立て簡単だし···軽自動車じゃなくて軽トラックなら余裕で入るんだけどなぁ。ミニバン···いや軽のワンボックスでもこのサイズなら積めるな」
「魔石で水を生み出す機械か。スライムの魔石一個で水一リットルか。長くダンジョンを潜るなら必須だな。値段によって性能が変わるのか。お湯に切り替えられるのもあるのか···たけぇ、十万もするのか」
「ここのナイフでも十分ちゃ十分なんだよなぁ。でも初心者コーナーの方が安いか。初心者割引も最近は効くし」
等など物色しながらお目当てのコーナーに向かった。
そこは電気屋等にあるレジ横の長机に係の人が座っている様なスタイルだった。
「いらっしゃいませ」
「すみませんスライムの燃料精製機の契約をしたいのですが」
「はい! ありがとうございます。少々お待ちください」
そう言って分厚いファイルを棚から店員さんは持ってくる。
「既にメーカーは決まってますか?」
「その前に聞きたいのですがスライムの液体を精製機に入れた場合、十リットルでどれくらいの燃料が精製できるのですか?」
「そうですね。メーカーにもよりますがガソリンと同等の物が十リットルですと七リットル、灯油相当の物ですと八リットルになりますね」
「七割ですか···ありがとうございます。メーカーによる違いって何がありますか?」
「一番は完結型と電気型の違いがありますね。完結型は最初の始動のみ灯油を数リットル必要としますが、その後はスライムの液体を入れれば燃料の余りで稼働を続けます。その代わりに少量のスライムの液体が使われるので燃料の量が少量減りますし、大型になります」
「電気型は電気を使って精製しますので燃料を消費しませんし、小型です。どちらもそれほどレンタルの値段は変わりませんよ?」
「大きいとはどれくらいでしょうか?」
「備蓄タンクの大きさにもよりますが百リットルの水を入れるタンクよりやや大きいぐらいの物から小型冷蔵庫サイズの物まで様々ですよ」
一応大家であるおばちゃん達には駐車場の一角をスライム燃料の精製機で専有するかもしれないと伝えてはいるが、大きすぎるのも考え物である。
「電気型の三十リットルのポリタンクサイズの備蓄タンクだと大きさどれくらいになりますか?」
「そうですね。ドラム缶よりやや大きい位のサイズになるでしょうね」
「レンタル料は?」
「月五百円になりますね。メンテナンスは二ヶ月に一度と専門の業者が管理しますのでフィルター交換等もこちらで行いますよ」
「ではそれでお願いします」
「はい、わかりました」
契約を結び後日黄色のスライムの燃料精製機がアパートに届く事となる。
「終わりました」
「つ、疲れたぁ···」
「はい、お疲れ様」
二人は無事探索者証明証の発行と能力測定を終えて待ち合わせのフードコートで合流した。
「食事にしようか。何か食べたいの奢るけど?」
そう言うと二人はキョロキョロと周りのお店を見渡してから
「オススメのお店とかありますか? 見たことが無いお店ばかりで」
「あー、確かに探索者じゃないとここにはなかなか来ないから知らないお店ばかりだよね。例えばあのラーメン屋は···」
私も詳しくは知らないが、お店を見ればどんなモンスターの食材を使っているかくらいはわかる。
「オススメはあそこかな。ドライアドの果実を使ったドリアとピザが絶品のイタリアンの店」
「ドライアドって···人型の?」
「美しい女性に見えるモンスターだね。私も戦った事は無いけど頭と胸、腹部に熟れると果実を実らせるらしいんだよね。部位によって味も変わるよ。流通量も少ないけどこの店だと比較的安く食べられるんだよね」
「どんな味なんですか?」
「腹部は芋に近い味と食感で、胸はチーズの様な味わい、頭は甘いトマトが一番近いかな」
「なるほど。確かにイタリアンの料理に合いそうですね」
「Lサイズをみんなでシェアしようか。それにドリアと飛行オニオンのズッパ(スープ)にしようか」
「「ゴチになります」」
「はいはーい」
椎名には席番を頼み、私と山田でお店の列に並ぶ。
「ねぇ山田君は椎名ちゃんの事をどう思ってるの?」
「どうって···大切な幼馴染ですよ」
「ふ~ん」
「なんですか」
「いや、可愛いしアプローチしっかりしないと誰かに取られちゃうよ」
「いやいやなんですか急に」
「でも実際気にはなるでしょ」
「···まぁ」
「だったら頑張らないといけないよね!」
山田の初々しさに私もこんな幼馴染が居れば最高だったのになぁと思いながら二人の会話をニヤニヤと眺めながら食事をするのだった。
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