田舎のダンジョン 壱

 服が届いたので、早速着用してみる。


「ブラ難!」


 ブラを着ける動画を見ながら真似して見るが難しくてなかなか上手くとまらない。


「よし、入った」


 ズレを直し、ショーツを履いて、シャツを着て、黒色のツナギを着用する。


「···よし」


 服装は農家のおばちゃんだが、美少女は何を着ても似合うからズルい。


 ダンジョンに行くにあたり持ち物も確認していく。


 まずは探索者証明証。


 これが無いと始まらない。


 車の免許みたいな物でこれを不携帯でダンジョンに潜ってはいけない。


 あの医者が特記事項に天使病感染につき容姿に大幅な変更ありと書いてくれたので近々更新しなければいけないが、それまでは一応有効だ。


 武器の保持もこれを持ってないと警察に職質されたら一発で捕まるので気をつけなければいけない。


 次にナイフ。


 武器にも素材を解体するのにも使える便利なサバイバルナイフ。


 ホルダに入れて太ももの横に装備する。


 ヘルメット。


 工事現場で使うような安い奴だが無いよりはマシだ。


 大型のリュックサック。


 中に七十リットルのビニール袋を二重で入れて素材を回収できるようにしておく。


 サイドポケットには水を入れた五百ミリリットルのペットボトルを四本入れておく。


 後はポーチ。


 腰に巻き付けて包帯と消毒液を入れている。


 これにいつもならヘットライトとヘットカメラ、予備のバッテリーを持ち歩いているけど今回はやめておく。


 それらを中古で買った軽自動車に乗せて近くのダンジョンまで移動する。


「ゴブリンの心臓と睾丸の相場上がってんな。魔石も合わせると一体五千円は固いか?」


 車に乗り込んで、エアコンが効くまでスマホでダンジョンの情報を調べておく。


 ダンジョンによって現れるモンスターは変わるが、メジャーなゴブリン、スライム、犬のモンスターのバウ、大きな芋虫のジャイアントキャタピラーなんかが低級ダンジョンの定番モンスターだ。


 今から向かうダンジョンは私がこの姿になる原因となった宝箱のある場所で、あの気持ち悪いおっちゃんが管理しているダンジョンだ。


 車を走らせながら


「あぁ、免許証も作り直さねーとな。職質受けたらアウトだわ」


 と運転しながら免許証の写真と今の容姿が違うことに気がつく。


 市役所に行って住民票の性別の変更手続きもしなきゃいけねぇやとやる事が多くて億劫になりながら、農道を走らせる。


 俺が住んでいる場所は田舎で、都市部には車で四十分ほど走らせる必要がある車が必須の場所に住んでいる。


 まぁ一応車で二十分圏内にスーパーや日用品を売っている場所はあるがやや不便だ。


 レベルが高くなればダンジョン都市と呼ばれる高難易度ダンジョンを中心とした複数のダンジョンが密集し、ダンジョン産業で栄えている街に行きたいが、レベルが一定数無いと探索者協会から賃貸の補助を受けられないから住みたくても住めない。


 そんな訳で貧乏人の俺は不便な田舎で細々と低級ダンジョン巡りをしているわけだ。


 スマホの情報は探索者協会が県ごとに相場を出しており、ドラゴンみたいな超強力モンスターや七色に光るスライムみたいな希少モンスターでなければその日の相場で買い取るのが基本で、解体が下手だとそこから割引される仕組みだ。


 稼げる人達は解体専門のサポーターと呼ばれる人を雇い、解体や素材の運搬を任せるらしいが、底辺は初心者以外はつるむメリットが少ないのでこうして一人でダンジョンに潜るのが基本だ。


 エアコンが効き始めたので車を走らせる。






 農道を車で走ること十五分、ダンジョンに到着した。


 駐車場には先客らしい車が三台停まっている。


 まぁ見知った面子だろう。


「お、今日も来たな。天使の嬢ちゃんは引っ越してきた感じか?」


 相変わらずいやらしい目付きで見てくるな。


「バーカ、オヤッサン私···俺だよ後藤伊吹だよ」


「は? おいおい嘘言うなって、後藤の彼女なのか? アイツは辞めておけって。上がり目がねぇって」


「本人だよ。あんたのダンジョンで迂闊にもトラップに引っかかって天使病ってウイルスに感染したんだよ。お陰で女の体になっちまったんだよ」


「おいおい、じゃあ探索者のカード見せてみろ」


「ほいよ」


 私は財布から探索者証明証を渡す。


「まじか。後藤がこんな別嬪さんに変わるのかよ」


「オヤッサン気持ち悪い目付き辞めてくれよ。だからダンジョン持ちって勝ち組なのに結婚できないんだよ」


「うっせ! まぁ事情はわかった。ほいよ。カード返すわ」


「うい」


 ダンジョン管理者はダンジョンの管理を探索者協会から任されているため、支援金としてそこそこ多い金額を支払われているし、入場料も徴収することができる。


 代わりにダンジョンで取れた素材の買い取りをしたり、その素材を探索者協会の支店に持ち込んだり、探索者が来なければ間引きとして、自身がダンジョンに挑まなければならないので、おっちゃんみたいな一人で回している人は案外大変だったりする。


 まぁダンジョンを数週間放置しなければモンスターが溢れ出すってことは無いので適度に間引いていれば問題は無いが···


「入場料と駐車場代合わせて千円な」


「はいよ」


「毎度。今日はゴブリンが熱いぞ」


「相場見てきたわ。ただスライムも一体千円超えているから狙ってみるわ」


「おう、じゃんじゃん狩ってくれ。そうすれば仲買人として少しばかりお零れ貰えるからな」


「へいへい」


 厳ついイメージがあってあんまり話さなかったが、話してみると話しやすい人物だな。


 このダンジョンに来る回数増やすか。


 なーんて考えながら俺は洞窟みたいなダンジョンに潜っていった。







 頭の輪っかを光らせながら進んでいくと早速スライムが二匹居た。


 スライムは体当たりをして転ばせてくるくらいで攻撃力は低く、半透明の液体の中に核となる球体が動いており、それを液体から抜き取るか、攻撃を加えれば簡単に死んでしまう。


 スライムの核を潰すと中にビー玉サイズの魔石が出てくるので、それとスライムの液体が売れる素材となる。


 液体の方は加工するとガソリンの代わりになるらしく、どうにかしてスライムの人工繁殖ができないか各国が研究しているのだとか。


 石油が少量しか湧かない日本ではスライムの液体は貴重なエネルギー資源なのだ。


 まぁそれでも量は一体あたり五から十リットルだし、リットルあたり五十から六十円と安いので底辺探索者でなければそのまま捨てられることもままある。


 魔石はビー玉サイズでもマジックアイテムの素材になったりするので一個三百円から五百円で取引されるので重いスライムの液体を運ぶより魔石だけを獲っていった方が効率的ではある。


「よし、早速魔法を試してみますか!」


 俺は人差し指をスライムに向け


「ライトアロー!」


 指先から勢いよく光の矢が飛び出し、スライムの核に命中すると、スライムは動かなくなった。


「よし! 成功! 今は『ライト』と『ライトアロー』くらいしかできないけどゆくゆくは治癒系と更に強力な魔法を覚えられたら最高だな」


 残ったスライムもライトアローで倒し、魔石を回収していく。


「千円ゲット。一応液体の方も回収しておくか」


 俺はリュックからポリ袋と車に積んでいた灯油ポンプを取り出してスライムの液体を回収していく。


 五分で回収を終わらせて、袋を縛り、リュックに入れる。


 すると奥から人影が現れた。


「うわ、すげえ天使だ」


「やあ安田さん」


「え? なんで俺の名前を?」


「後藤だよ。訳あって天使になっちゃったの」


「後藤!? マジか。あ、天使病って奴か。へぇ、噂には聞いたことがあったがマジかぁ」


 安田さんは普段はスーパーの店員をしている兼業探索者だ。


 食べ盛りの息子さんが二人いるらしく、休みの日にこうしてダンジョンで稼いでいるのだとか。


「どうっすか成果は?」


「まぁぼちぼちって感じか? スーパーの日給は超えたからやっぱりダンジョンは稼げるねぇ」


「安田さんはレベルがそこそこ高いから良いじゃないですか。こっちは上がらなくて困ってたんですから」


「やっぱり三のままなの?」


「いや、天使病になったのでリセットされて一からっす」


「うわ、それはキツイな」


「でも魔法が使えるようになりましたし。力も今までよりもあるので強くてニューゲーム感覚ですわ」


「本人が納得してるならまぁいいのか? 俺はこれで上がるよ。じゃあお先」


「お疲れ様です」


 安田さんを見送ると、俺は更に先に進んでいく。


 小部屋に着くとゴブリンが喧嘩しているところに出くわした。


「ラッキー」


 弱ったゴブリンに向かってライトアローを放って見るが、流石に威力不足か痛がるが倒れはしない。


「まぁステータスが足りないわな」


 俺は向かってきたゴブリンを思いっきり殴り飛ばす。


 一体は吹き飛び、もう一体は頭を掴み、地面に叩きつけると、ゴブリン達は動かなくなった。


「やっぱり力めっちゃ強くなったな。前はナイフ使ってやっとだったのに」


 リュックを降ろし、ナイフでゴブリンを解体して魔石、心臓、睾丸を抜き取る。


「ふう、これで黒字確定っと。まだまだやれるな」


 一撃で倒せるので体力的に余裕がある。


 俺はそのままゴブリンはぶん殴り、スライムは魔法で倒していくのだった。

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