雨の御霊 伍

雨月 史

KAC20244

私は冬が嫌いだ。

全くもって冬というやつは厄介な物だ。

何が一番の苦痛か?ってそれは、


寒い→トイレ頻回→何回も手を洗う→手がガサガサ………


「痛っ!!」


手先に何に引っ掻かれたような刺激を感じて思わず繋いだ手を離す柚彦ゆずひこ


「柚……。」


手をさすりながらこちらを見る。

「ん……?何?」


「ハンドクリーム持ってる?」


「あー僕は昔から手の水分が年中潤ってるから、ハンドクリーム入らずなのよ。」


「えー!!!この時期とかでけへんの?」


私は驚きのあまり自分の指先を眺めながら彼の方を恨めしそうに見つめた。な……なんて贅沢なやつ!!もう付き合いも長いのにちっとも気づかなかった。私が長年抱えて来た苦しみを知らないなんて。色んなメーカーの様々な種類のハンドクリームを探しに求めてきた、私の苦しみを……彼はきっと理解できないのだろうか……。


「……サカムケって何?」


「え?」


まさか冬の難敵そのもの自体を知らない……、と思いきやそうではない。柚彦は関東生まれの関東育ちだ。時々変なところで話が噛み合わない。


「これやん。これこれ。」


私は荒野の様に荒れた手のひらと、右手の親指と薬指の爪先にできたサカムケを見せた。


「あー……の事ね。」


そんなこんなで彼の関西弁はおかしい。

関西弁を真似?しすぎて標準語すら(標準語て言い方がなんか腹立つけど)おかしい。


「何そのって……?なんや『ヤサグレ』みたいやな。」


そこに丁稚でっちさんに扮した雨の精霊のこんが口を挟む。


「はいはい。あねさん、だんさん仲が良いのはよろしいけれど、今本題が出たので話を軌道修正させてもらいやすね。」


「本題?本題ってなんやの?」


「おいおい、居なくなった箱守様を探しに行くんでしょう?」


「それが今の会話と何の関係があるん?」


「美晴、今『やさぐれ』言ってたやん。

『やさぐれ』は家出て意味やないの?」


「へーそうなん?知らんかった。」


「知らないで使ってるんかい!!」



まるで夫婦漫才の様な会話。宮川大輔花子もびっくりや。まー私はこの柚との掛け合いが嫌いではない。なんだか彼がいると安心し切ってしまうのだ。けれどもなかなか素直になれない本当の気持ち。核心に触れるとつい、恥ずかしいやら何やらで話をはぐらかしたり、逸らしたり、トイレに逃げ込んだり……。

そういう自分のお天気やさん?とかツンデレとかそういうところが時々嫌になる……。

そんな顔してると柚はすぐにまた私の左手をとって素知らぬ顔して繋いでくれる。


「えー……んんん。」

それを呆れた顔で見ながらこんが咳払いをして話を元のところへもどす。


「へい。じゃー本題に戻らせていただきますよ。行方不明の箱守を探し出すための手掛かりはたった一つ。この僕が入っていた『水の抜けた雨の御霊あめのみたま。』」


「なんで雨の御霊が手掛かりなん?」



「そらもー僕たち三柱さんはしらは雨の御霊で繋がってますから、こう……なんていうんですかねー、びびびっとくるわけですわ。」



思わず柚彦と目を見合わせて笑ってしまう。


「びびびって……(笑)」


「ほんでも僕ら、こんな時間からそんな遠くまで行けへんで。」



「そんな遠くないでしょう。ちょっとお伊勢様の近くまでいくだけでやすから。」


「伊勢?!!」


「えー!!!どうしよう。」


「ほんまやで、今もう夕方の16時やで、

今から日帰りなんて無理やん。僕も美晴も……。」

と私を見る柚彦。まーなんせ決断力に欠けるのが彼の悪いところだけど……。



「せやで、日帰りなんて無理やん、とりあえず泊まれる宿探さんと。どうしよう……。」

とそれとなく彼に決断を委ねるが……。


「え?泊まるの?行くの伊勢?」

と、やっぱり私の反応を見る柚彦。

それはそれで、ちょっとかわいくもある。


「そりゃ乗り掛かった船ってやつやし、行ってやろうやないの。柚は?行かないの?」


「そら美晴が行くならいくけど……。」


なんやかんやゴリ押しするとついて来る。

そんな腰の低さ……じゃなかった、優しいところが好きなんやけどな……。

決める時はピシッと告白してほしい。

そんなわがままな私。


「よしじゃあまず宿探さなね。それにしても牡蠣もええけど、やっぱ伊勢海老は外せないよね。」


「……いや食べ物の心配かい!!なんや急にお泊まりなんて……。」

とツッコミ心は忘れないながらに、恥ずかしそうにする柚彦に丁稚さん精霊のこんちゃんか突っ込む。


「いや旦さんそんな照れてますけど、さっき姐さんに一緒に住むところ探そうか?言ってましたやん!!」


「なっ…なんで知ってんねん!!」

と言ってるお顔は真っ赤か。


「まー一応これでも精霊の端くれなんで。」


と何故かここでこんちゃんが私にむけて謎のウィンク??


「ちなみにお二方、僕は一般人には見えませんので、下手したら1人コントと思われるかもしれないのであしからず、でございます。」


とりあえず京都に戻るとベローチェでコーヒーを飲みながら、2人と一匹?(一応神様の使いやし一柱か?)伊勢へ向かう手筈をスマホで調べて、私は宿屋を探して柚彦は緑の窓口へと向かった。


はてさてどうなる事やら珍道中。


つづく

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