第25話 屍鬼の処理めんどくせー

「じゃあいってきまーす」

「お、はやいな。どこ行くんだ? あずき」

「先日の戦闘で数百体の変異体の血が流れたでしょ、アレ、放っておくと、この土地は屍鬼が出る土地だから、屍鬼が来るんだって。だから今のうちに集めて、サクラ・フレアで消滅させるんだって。屍鬼は怖いからね」

「そか。私は死体処理の方をやったよ。頑張ってな」


 後ろ手に手を振ってここあちゃんと別れる私。フィーのジッパーをくぐるとそこは腐ゆっきーの街。普通に頑張ればお金が稼げる街。でも私は博士のせいでほとんど利益がない街。


 稼いだ6000ゼニの内5000ゼニを護符とお守りの更新に使ってしまった。残りの額はチームに寄付だ。実質0ゼニの収穫でした。

 伐採と薪割りに行こうにも奉仕活動に従事しないといけない。私がまいた種だもの。


「えー、屍鬼は血と死臭の臭いに集まる種族の総称であり名前のない個体の方が多い。鋭い爪と牙を持っていることが大まかに通じる特徴だ。先日の戦いでは数百体の人間の血が流れたと推定できる。あの化け物は人間らしいからな。雪が溶ける季節になる前に血の付いた地面を削り取って、あずきくんのサクラ・フレアで消滅させてほしい。以上だ」お掃除部隊隊長のお言葉である。

「りょうかーい」


 ガツガツと固まった血を地面ごと根こそぎ削り取って集積場所へ放り投げる。

 あの日はマイナス60度くらいまで気温が下がっていた。

 なのですぐに凍りそこまで血がたれていない。


 というのは嘘で、その寒さでも裸体でいられる化け物じみた恒常性によって凄い元気な温度の血しぶきがほとばしり雪を溶かしたくらいなんだよね。

 結構長くたれた。丘向こう側という判断は間違ってなかった。

 ただ、数が多すぎて血がとんでもねえ量になってるんだよ。


 一度このルーティーンはやったことがある。ここあちゃんが述べていた死体処理だ。冬なので急がなかったけど集めて焼却処分した。さいごはサクラ・フレアで消滅させた。


 これ、気持ち悪いのを除けば持ちはこべるから楽だった。

 血は地面にしみこんでガッチガチに堅くなっている。


 氷はね、鉄のスコップでガンガンやってもそう簡単には削れないんだよ。地面ごと削るしかないの。その地面もマイナス50度60度の世界じゃコンクリートみたいに固くなってるの。


 つれぇ。つれぇよこれ。


 私以外にやっているのはアンドロイド兵士やサイボーグ兵士に人間精鋭兵士さん等々力自慢の皆さんなんですが、明らかに士気が低い。


 じょり……じょり……。


 おかーさん、私何か悪いことしたんでしょうか。



「よし、大体削れたな。そうしたら全員一度上から削りなおしてくれ。その後サクラ・フレアで消滅させる」

「うぃーっす……」士気最低な私。


 ガリガリ、ガリガリ。


「よし、じゃあサクラ・フレアで消滅させますね。重荷電SAKURA粒子加速砲サクラ・フレア!」


 ズドーンとサクラ・フレアが発生し目の前の物質を消滅させる。血液が綺麗になくなっていることを確認して解散となった。辛かった。



「はー作業終わった。ここあちゃんナデナデして」

「はあ、やんのかおまえ」

「やんない、本当にお疲れなの」

「そっか。しょうがないな、撫ででやろう」


 ナデナデ。ここあちゃん抱きしめ。ここあの肘鉄。なんだこらやんのか。リビングで大暴れ。


「お前らなあ。愛し合うなら外でやれっつってんだろ! リビングぐちゃぐちゃじゃねえか! 誰が片付けると思ってるんだ!」

「フィー、ですね」特に反省した様子はない私。

「別に愛し合ってないぞ、喧嘩してるだけだ」ぷいっと顔を背けるここあちゃん。

「今日飯ぬきな」

「「すいやせんでしたっ」」同時土下座する私達。


 そんなところにルカさんがバイトから帰ってくる。ちょっと顔色が良くない。


「ルカさん、何かあったの?」

「屍鬼が、出たようです。数匹ですが」

「なんでですか? 変異体は全部処分したはずですが」


 驚愕する私。だってみんな私に突っ込んで全部処分したじゃん。


「なんでも森に潜んでいた変異体が護符の貼り付けと共に自爆したみたいで。屍肉喰い系屍鬼と、生きた人間の肉を食べる屍鬼が観測されているようです」とルカさん。

「私のせいじゃん……。討伐依頼が出たら真っ先に参加しますね」

「博士のせいだから、あまり思い詰めなくていいよ。普通の屍鬼なら討伐隊が探して討伐するから。そんなに気負わないで」


 というミカさんの言葉。

 でも責任を感じずにはいられない私であった。


 とにかく今は出来ることをするか、はぁ。しょんぼり。


 屍鬼が出ているので伐採は中止。薪割りだけやることに。

 気力は出ないけど薪割りはなにも悪いことをしていない。いつもの7割くらいだけど仕事を終える。


 フィーの要塞自宅へ帰り、速攻お風呂へ入る。ぶへー。洗濯物は全身洗濯機でぶん回す。乾燥にアイロンがけまで自動なので楽ちん。

 お湯で温まったら大体乾燥も終わっているのでパジャマではなく制服で過ごす。常に出動できる態勢をたもっているのだ。第三種警戒態勢とでも言おうか。


 そんな日を数日続けていた。

 ここあちゃんが帰ってきて数時間後、朝焼けの時間だった。

 ミカさんから無線がきた。


「討伐隊で手に負えない屍鬼が出た。恩呼知真おんこちしんに直接依頼が来た。討伐に行くぞ」


 個室から飛び出す私。ミカさんが下着姿のまま出てきて、

「一人で行くなよ。フィーで一緒に出る。今は死者もいない、慌てるな」

 と述べて準備に取りかかった。


「フィー?」

「バウーグルルル」

「フィーも待った方が良い、か。待つか……」


 ソファーに座りもじもじしながら待ってると。


「バックスを置いていくなんてしないよな? とにかく少し待て。自分たちが餌になるんだから大丈夫だ」

 フル装備のここあちゃんが隣に座る。


「ナイフ取り替えてくれ」

「わかった」

 と、ナイフを渡す。


 要らないナイフは収納すれば分解されて私の養分になる。不思議だね。

 収納もいろんな箇所から出来る。不思議すぎる。


「所長に少し改造してもらったんだ。両腕にナイフとかショートソードをハードポイントで固定できるようにしてもらった。ライフルにも着剣出来るようにしたぞ。さすがに長剣や刀は無理だけどな。背が低すぎる」

「バックスが前に出る事態になったらフォワードは死んでるよ」


「一緒に突っ込んでるときだってあるだろ。ボクに接近戦で銃撃たせるつもりか、そうかそうか」

「うん」

「うんておまえやんのか」

「やんない」


 ここあちゃんは軽くため息をつくと。


「ボクの折れた心ををたたき直したあずきはどこ行ったんだよ。ボクじゃお前をたたけないんだ、格闘戦ではまだ負けるから。今のあずきは自分でしか心を直せないんだからな。わかったな」


 そういうと隣でジュースを飲み始めた。

 私もフィーにテレポートで冷えたオレンジジュースを取ってもらい、チューチュー飲み始める。


「お前フィーに甘えすぎだろ。冷蔵庫くらい自分で行けよ」

「だってフィーがやってくれるから」

「そういう問題か……?」


 そんなこんなでミカさん達も準備が終わり、フィーが立ち上がって移動を開始したのである。

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