箱がぽつんと、置かれている
高久高久
その箱の中を見てはならない
――その箱はいつの間にか、そう、本当何時の間にかぽつんと道端に置かれていた。
ゴミ捨て場ではなく道端に置かれている為、誰かの持ち物なのか、それとも単なる不法投棄なのかわからない。人――子供位なら普通に入れて、大人でも小柄な者なら身を縮めて何とか入れそうな大きさで、木で作られ蓋がしてある、そんな箱。
奇妙なのは『中を見てはいけない』という貼り紙が貼られているのだ。蓋は施錠がしてある訳でもなく、持ち上げれば開く事が出来る。
普通に考えれば誰も見ないが、学生の間では一種の肝試しとして扱っているらしい。だが見た誰もが「見ない方が良い」と口を揃えて言うそうだ。
その言葉に怯える者もいれば、更なる好奇心を抱く者もいる。私は後者の部類に入る。
あの中には一体何があるのか。『見てはならない』と何故わざわざ注意しているのか。気になって仕方がない。
ただ私は、開ける勇気が無かった。一体何なのか――死体、化物なんてものを想像して夢に出てきた時は、自分の馬鹿らしさに呆れる他なかった。
そんな悶々とした気持ちを抱えていたある日の事。日が変わりそうな程の時刻。偶々帰り道に件の道を通りかかった私の目に、その箱が映った。
――瞬間、好奇心が膨れ上がった。
中が見たくて仕方がない。恐れはある。だがそれ以上に知りたいのだ。
このまま帰った所できっと後悔するに違いない。見ても見なくてもするのならば、見て後悔した方が良いだろう、と私の中の私が語り掛けてくる。
周囲には誰も咎める――というか私を見て呆れるような者は誰一人としていない。
これ以上ない
想像以上に蓋は軽かった。
開くと同時に、鼻につく悪臭。臭いの原因と思われる汚物。
そして私の目に入った――蓋に貼られた『ハズレ』の貼り紙。
――これ、ゴミ箱じゃね?
……もし誰かにこの箱の事を聞かれたら、私はこう言ってやるつもりだ。
――見ない方が良い、と。
箱がぽつんと、置かれている 高久高久 @takaku13
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