ファンタジー 黒鉄の武者、ゲーム世界へ

爆発的人気を誇るVRMMO「武者ワールド」というゲームがあった。


プレイヤーが武者型兵器に乗り込んだパイロットとして戦うゲームだ。


まあ、乗り込むと言っても設定上は機体のお腹部分に座禅を組む形で座って操っているという事になっているので機体自体は2メートル程度と大きくは無い。


基本的な武器は武者らしい「刀」「槍」「弓」がメインとなるが、ゲームらしい「ビーム兵器」もあるが、ゲームバランスを保つために威力は低めに設定されている。


俺は、そのゲームに熱中し、寝食も惜しんでゲームをしていたおかげか、ランキング1位も何度が取っている。


ランキングは、撃破数が基本となるが、あとは闘技場での1対1による戦闘でも上げる事ができる。俺の場合は、撃破数でのランキング1位だ。


「おい、あいつって……」


「ああ。黒鉄だな。やべぇ、逃げるぞ!」


俺の機体は、全身真っ黒に染められていて、いつの間にか黒鉄と呼ばれるようになっていた。


敵プレイヤーは、俺の機体を見ると慌てて逃げ出す。けれど、俺はそれを逃がすつもりは無い。俺は背負っていた自分の身長以上もある弓を構えると、敵の背中に向かって矢を放つ。


「まじかよ! この距離を1発だと!」


「あいつ、チーターじゃねぇのか?」


「機体の性能は一律だから、チートの仕様がないだろ」


「じゃあ、なんで1発でやられるんだよ!」


「そりゃあ、正確にコクピットを撃ち抜いてるからだろうが!」


「ありえねぇ!」


俺は敵が言う通り、コクピットを正確に射抜いていた。その場合、クリティカル判定として1発で倒す事が出来る。ただ、動く相手に正確にコクピットを射抜くには、未来予知に近いほどの予想能力がいるが、俺にはそれがあった。


「こいつで、最後だ!」


俺は、最後の一人を弓で撃破する。その瞬間、目の前が真っ白になった。


「あれ……俺は一体……」


目が覚めると、土の地面に横たわっていた。すぐ近くに、初期装備の武者がある。


「って、なんで武者が!?」


実物として存在する武者を見て驚いた。俺は生身で、ゲームをするためのヘッドギアなんてつけていない。さらに、見た事もない場所だ。


混乱している俺に、さらなるイベントが発生する。何かが近づいてくる音がしたのだ。それは、武者が歩く音だ。


俺は慌てて武者に近寄ると、コクピットに触れる。


「乗るには、これでいいのか?」


VRMMOだと勝手に乗っていたコクピットだが、実際に乗るのはどうすればいいのか分からない。けれど、コクピット部分に触れると、開いたので設定どおりに乗り込んで座禅を組む。座禅に慣れていないから、結構きついな。


すると、視線の高さが武者になり、ゲームの様な感覚になった。


そして、すぐに2体の武者が林の後ろから姿を現した。


「何だ貴様、見た事もない機体だな? どこの国の所属だ!」


その武者からは、綺麗な女性の声が発せられた。乗っているのは女性なのか? 俺は、どういえばいいのか分からないが、とりあえず何か言わなければと言葉を発する。


「―――、――――」


けれど、俺の声は武者から発せられることは無かった。何か、外部にスピーカーとして発する必要があるのかもしれないが、今の俺には分からない。


「返答しないか。それなら、敵とみなして撃破する!」


武者たちが腰の刀を抜いた。俺が返事をしないせいで、敵認定されてしまったようだ。


俺も、ただやられるわけにはいかない。しかし、この武者は初期装備の刀しか無かった。俺の得意な弓は持っていない。だが、これでもランキング1位を取ったことのある実力者だ、普通のプレイヤーよりは刀だけでも強い。


「とりゃああ!」


一体の武者が、気合と共に斬りつけてくる。さっきと違う声だけど、こっちも女性の様だ。


俺は、すでにその軌道を読んでいて、体を半歩ずらしていた。相手の武者は、そのまま地面を斬ることになっただけだ。


「何!?」


「私がやる。てやぁ!」


最初に話した武者の方が、横に斬りつけてくるが、これも予想済みだったので、すでに半歩後ろに下がっていた。武者の攻撃は、そのまま空振りに終わる。


「馬鹿な!」


俺は、その隙を逃さず、ゲームの癖でそのまま攻撃に移る。


「っと、だめだ!」


俺の攻撃が武者に当たる寸前で、俺は刀の軌道をあわてて少し上げた。俺の攻撃は、相手武者の胸から上を斬り飛ばした。


「あぶね、危うくコクピットの人間を斬りつけるところだった……」


ゲームであれば、コクピット狙いは当然なのだが、俺が生身という事は相手も生身の可能性がある。であれば、俺は殺人者になってしまうでは無いか。まあ、なんとか攻撃をずらす事に成功したからセーフだろう。


「こいつ! とりゃああ!」


もう一体の武者が再び攻撃をしかけてくる、仲間をやられたためか、さっき以上に単純な攻撃になっているな。俺はそれをすべて回避して、今度は冷静に相手武者の両腕を刀で斬り落とす。


「つ、強い……。降参する。だから、私の命だけで勘弁願いたい。この方はここで死んでいいお方では無いのだ」


どうやら、顔が無いとしゃべれないようだったので、顔を残しておいて正解だったな。上半身を斬り飛ばした方の武者は、しゃべるどころか動けなくなったみたいだし。そして、下半身だけになったほうの武者の方は何かわけありのようだ。


下半身だけになった武者の方のコクピット部分が開き、中から人が出てくる。中から出てきたのは、声と同じく、姿も綺麗な女性だった。着物を着ているが、動きづらくないか? まあ、座禅を組むだけだから大丈夫なのか?


そして、もう一つの武者の方からも女性が降りてきた。こちらは新選組の様な袴姿だった。声と同様に勝気そうな感じを受ける。だがそれ以上に俺は驚愕したのは、髪の色が青色という地球では見ない色だったからだ。


「……どうした? なぜ何も言わないのだ?」


相手にとって、俺がずっと無言で立っているだけなので不審に思ったらしい。いろいろ、驚いているんだよ! そして、俺の声が外部に伝えられないから、俺も仕方なくコクピットから出ることにする。


「俺は敵じゃない。だから、俺の話を聞いてくれないか?」


「私達は貴様に負けた。だが、先ほども言った通り、命を奪うなら、私だけにしてもらいたい」


「俺の話を聞いて!? 殺さないから!」


俺は、死ぬ気マンマンの女性にそう言い放つ。とりあえず、日本語が通じる様でよかったよ。……通じてるよな?


「とりあえず、聞きたいのはまず、ここはどこだ?」


「……は?」


女性は、まさかそんな初歩的な事を聞かれると思っていなかったのか、ぽかんとした。


「我が国に攻めてきた敵では無いのか?」


「信じてくれるかどうかは分からんが、俺はさっきここに来たばかりで何が何やら。それに、この機体の使い方もよく分からないし」


「それで、よくあの動きができたな……」


とりあえず、誤解を解くためにも話を聞いてもらわないとな。

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