箱【KAC20243】

郷野すみれ

第1話

「まったく」


私が働き始めてからもうすぐ一年となる三月に、私は卓人の部屋にいる。


小さい頃は一緒に遊んでいたりしたので部屋の様子は勝手知ったるものだ。


ただし、その部屋はたくさんの段ボール箱が置いてある。


親に突然、三月のこの日に休みを取って帰省しなさい、と言われて帰ってきたら、卓人の大学の卒業式の日だった。なぜか私も交えて二家族でお祝いのディナーを食べ、その後に卓人に告白された。


「好きだ。俺も東京に就職するから、結婚前提に付き合ってください」


フリーズすること約3秒。


「え、東京に就職するの? 初耳なんだけど」


どうやら、私が東京で働くことを知ってから決めたらしい。そして私は仕事が忙しくてあまり卓人とも連絡が取れず、知らなかった。


「待って、卓人のことは嫌いじゃないけど、そういう恋愛の意味で好きかどうかはわからない……。大体そっちはなんで」


「んー、俺も好きと胸張って言えるかは微妙だけど、でも、話してて楽しいし、話せないと寂しいから。あと、他の奴と付き合ったりとかそういうのは想像したくなかったから」


「まあ確かにねえ……」


私は考える。幼い頃から仲が良く、他愛もないことを言い合えるし、変に気遣いすぎることもない。特に悪い話でもないし、了承しようとした。


「ちなみにこのことは全部俺とお前の両親には言ってあるから」


「は?!?!」


卓人の両親と私の両親ともに説得済みだったらしい。怖い。断ったら私が針の筵だ。


「なんでそういう悪知恵は働くんだか。うん、いいよ。付き合おう。こちらこそよろしく」


晴れて私たちは両親公認のカップルとなった。


ついでに引っ越しの手伝いで両親たちに部屋に上がることを許されたというか、強要されたというかで今に至る。


「なんかごちゃごちゃしてる。ここの箱とか何これ」


棚に無造作に詰められていたカラフルな箱の一番上を取ろうとした。


「あっ、それは……!」


「あれ、これ私が昔にあげたバレンタインのチョコの箱じゃん。まだ取ってあったの?」


卓人は珍しく耳を赤くしてそっぽを向く。かなり恥ずかしがっている。


「まあな。その頃はもらうのもお前からだけだったし、嬉しいってだけで取ってあったけど、そのうちもらえなくなったから」


小学校の途中まではあげていたが、卓人はモテてたし、私も女の子同士の義理チョコにシフトしたのであげなくなったんだった。


「今年は終わっちゃったから来年はあげなきゃね」


「うお、お前からもらえるの、十年以上ぶりだぞ!」


「まだまだなのに気が早い」


笑っていたら、不意に真面目な顔をした卓人が近づいてきた。


「十一ヶ月なんて余裕だぞ。ずっと待ってたんだから」


今度は私が顔を赤くして俯く番となった。

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