第17話 エルフ・アダムとの決闘
これまで、ノヴァは仲間達のため、未来を切り開くために、苦心し努力してきた。
この決闘の勝敗には、ノヴァだけではなく、混ざり者すべての命運がかかっているのだ。絶対に負けられない。
「エルフが魔族の最上位種だって話だけど、どんな種族なの?」
改めて僕が質問すれば、ノヴァが説明してくれる。
「カースト一位に君臨し続けているエルフは、魔族の中でもっとも全知全能な人間に近い魔族だ。能力が群を抜いて高いのはもちろん、魔眼の特殊能力がある。エルフと目を合わせた魔族は、魔眼の力によって逆らえなくなってしまうんだ」
みんなも悔しそうに歯噛みして語る。
「どんなに優れた能力の魔族でも、エルフに魔眼の力で操られてしまっては、太刀打ちできず、敗北するしかなくなるんじゃ」
「さっき、オレ達が身動き取れなくなって、何も言い返せなかったのは、それが原因だぜ。悔しいが、全知全能な人間に服従する魔族の本能で抗えなくなるんじゃ、どうしようもねぇ」
「エルフが不動の最上位種を維持し続けているゆえんでござるからな。だがしかし、一点突破口があるとすれば、同族のエルフ種には魔眼の力が効かないということでござる」
みんなの視線がノヴァに集まり、ノヴァは頷く。
「エルフ種同様、ダークエルフの俺にはエルフの魔眼は効かない。俺がエルフに対抗できる唯一の魔族ということだ」
みんなと共闘することはできず、戦えるのはノヴァ一人だけということになる。
「そうでござる。ただ、他の魔族に効果のある魔眼は、人型の使い魔にも有効であるゆえ、マナト殿が同行すると魔眼で操られてしまうおそれがあるのでござる」
「エルフとの戦闘ともなれば、膨大な魔力消費は避けられんのう。相手も当然、使い魔を従えてくるじゃろうから、最初にいくら魔力を蓄えていっても、すぐに枯渇してしまうじゃろうな。魔力補給する手立てがないというのは相当に痛手じゃ」
みんなが難しい顔をして考え込んでいる。
「僕も戦いに参加するよ」
僕はノヴァの刻印のある右手を握って言った。
「何を言うんだ?! 魔眼で操られるかもしれないって話だっただろうが! 決闘は俺一人でやる!!」
自分一人だけで対決するとノヴァは言うけれど、黙って見ていることなんてできるはずがない。
「魔力補給は使い魔である僕の努めだし、魔眼さえ見なければ問題ないなら、目線そらしてればいいわけだし、それが駄目でも目隠しでもなんでも手立てはあると思うんだ。スラムのみんなのためにも、僕は戦うよ」
今回だけは、何が何でもノヴァから離れてはいけない気がするのだ。
「ノヴァと一緒に戦う――僕はノヴァの使い魔だからね」
強い決意でノヴァを見上げて告げれば、ノヴァの目は揺らめいてためらう。
「しかし、お前を人質に取られたら……」
「そうならないために、みんなで作戦を練るんでしょう。勝つんだよね?」
手を抜いて勝てる相手ではない。それをみんなわかっている。
危険を冒してでも最善を尽くし、全力で挑まなければならない決闘だ。
そして、ノヴァの答えは決まっている。
「……ああ、必ず俺が勝つ」
揺るがぬ強い意思を宿した眼で、ノヴァは明言した。
ノヴァの決心に微笑み、話し合いの続きをする。
「そうだ、アダムの使い魔ってどんな魔獣なの? 人型ではないんだよね?」
グレイが腕組みをし、思い出しながら説明してくれる。
「たしか、使い魔はペガサスだったはずだぜ。学園の式典で連れているのを見た。空を自由に飛び回る駿馬。それに乗って、空からアダムお得意の光魔法で攻撃なんかされたら、たまったもんじゃねぇよ」
「うわぁ、それはたしかにとんでもない攻撃になりそうだね……アダムは光魔法が得意なのか、なるほど……」
エルフが光魔法なら、ダークエルフは何魔法なのだろうかと疑問に思う。
「詳しく聞いたことなかったけど、ノヴァはどんな魔法が得意なの?」
「わからん」
「え?」
あっさり不明と答えられて、呆気にとられてしまう。
「スラムに捨てられていた書物を拾って片っ端から読み漁って、見よつ見まねで覚えたから、まともに魔法を学んだことがないんだ。混ざり者で魔法を使える者もいなかったからな。何が得意で何が不得意なのかも、よくわからん」
「えぇっ?!」
そんな状態でも魔法は使えるものなのかと驚いていると、さらに付け加える。
「お前を召喚した時も、古代の魔導書を読み解いて、なんとか呼び寄せたんだ。エルフならもっと設備の整った場所で召喚できるだろうが、俺は古代魔導書にのっとって古代遺跡で召喚した。そこで、死にかけのお前がきたわけだ」
「そ、そうだったんだ……よく、召喚に成功したね……」
ノヴァは経験を振り返りながら、さらりととんでもないことを言ってのけるのだ。
「荒唐無稽な絵空事が書物のほとんどだったが、魔導書の類に書いてあることは粗方再現できたからな。基礎の抜けはあるかもしれないが、訓練すればできないことはないと思うぞ」
「よくわかったよ……僕もね、薄々は気づいていたんだけどね――」
僕は拳を握りふるふると震え、天を仰いで両手を伸ばし、歓声を上げる。
「――やっぱり、うちの子は天才だった! それも、大・天・才・だー!!」
大歓喜している僕の姿を眺め、ノヴァが唖然としてぼやく。
「なんだ、お前……親バカか?」
ノヴァはデキのいい子だとは思っていたけど、ここまでとは嬉しい誤算だ。
(高い学習能力、脅威の記憶力、抜群のセンスの良さ。潜在能力が極めて高いノヴァに僕の魔法イメージを伝えれば、できないことはないのではないか? こんな可能性に満ちた素質、試さずにいられるか――いや、いられまい!)
バッとみんなの方を見て、声を大にして提案する。
「よし! 今から魔法の特訓しよう!!」
「「「今から?!」」」
唐突な僕の提案にみんながビックリした顔をしていた。
「特訓するのはいいんだが……なんでお前、そんなに楽しそうなんだ?」
「え? だって魔法だよ? どんなことができるのか想像しただけでも楽しくない? ノヴァの可能性は無限大なんだよ!」
「そういうものか……?」
ノヴァは首を傾げ、疑わしげに目を眇めて僕を見る。
「くっくっくっ……僕の考えた最強魔法がついに解き放たれる……厨二病全開な魔法をノヴァに再現してもらえるなんて、楽しくないわけがないよね? さあ、みんなも協力して……うおおぉ! 溢れ出る僕の
興奮する僕から、なぜかみんなが後ずさり慄いている。
「マ、マナトがおかしくなったぞ?」
「いったいどうしてしまったんじゃ?」
「マナト殿! 気をしっかり持つでござる!!」
不謹慎ながら、想像するだけでワクワクしてきて、思わず笑みがこぼれてしまう。
「くっくっくっくっくっ……」
「だから、お前はその不気味な笑い方をやめろ!」
両手をワキワキして近づくと、身の危機を感じたのか、声を震わせるノヴァがお風呂を嫌がり威嚇する愛猫みたいで可愛い。
「ぷくく」
そうして、僕達は決闘に向けて魔法の訓練に励んだのだった。
◆
最後の決闘の日がついに訪れる。
学園のコロシアムには、不動のカースト一位に君臨するエルフと劣等種の混ざり者であるダークエルフの前代未聞な対決を見ようと、溢れんばかりの魔族達が押し寄せてきていた。
観戦者席の魔族達が固唾を呑んで見守る中、カースト一位決定戦が今はじまろうとしている。
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