第14話 ドラゴニュート・リュウとの決着
申請していた決闘の当日がやってきた。
学園のコロシアムには、ほぼ全生徒と思われる多くの魔族達が集まっている。
観戦者席はカースト二位のドラゴニュートと怒涛の快進撃を繰り広げているダークエルフの対戦に大注目し、湧き立っていた。
お馴染みの教員達が審査員席に着いたところで、続いて対戦者の両名が登場する。
対戦するのはもちろん、ドラゴニュートのリュウとダークエルフのノヴァだ。
「ようやくマナト殿を迎えられる、この日が待ち遠しかったでござる。……ああ、そうだ。どうせすぐに拙者が圧勝するだけゆえ、面倒な決闘など放棄して降参しても良いでござるよ?」
「はっ、寝言は寝てから言ったらどうだ? 花嫁やら何やらの仕度も全部無駄になるだけなんだからな。一族総出でお出迎えとはご苦労なことだ。見事に赤っ恥かかせて、
対面して早々に黒い笑顔を浮かべ、挑発し合う二人の間に火花が散る。
これまでの決闘を観戦していた魔族達は、対戦者が使い魔の僕ではなくノヴァであることにざわついていた。
「今回の対戦内容は戦闘勝負!」
僕は前に出て声を張り、勝負内容を発表する。
「ルールは定例通りの戦闘技能勝負。魔法でも剣術でも得意な技能で戦い、相手に負けを認めさせるか、戦闘不能にした方が勝者となる。両者の準備ができしだい、決闘を開始する」
リュウは位置に着くなり、携えていた刀のような剣を構える。
ノヴァも位置に移動し、瞬時に魔力を練り上げて作った盾を構えた。
「拙者はいつでも良いでござる」
「こっちも準備完了だ」
「では――はじめ!」
号令をかければ、目にも留まらぬ速さでリュウが駆けだし、斬撃を繰りだした。
「おっと、危なっ!」
ノヴァは直撃を躱し、盾でかろうじて攻撃を受け流す。だが、あまりの衝撃に盾が耐えきれず、砕けて霧散する。
瞬時に再び魔力の盾を作り、距離を取って攻撃魔法の詠唱をはじめる。しかし、詠唱の隙など与えずリュウは猛攻を繰り広げた。
目まぐるしい斬撃を軽やかに躱し続けるノヴァの技能も並大抵のものではない。
二人の激しい攻防を目の当たりにして、観戦者席の魔族達は圧倒されていた。
今回はノヴァが他の魔族達に実力を見せるための決闘。僕はハラハラしながら見守っていることしかできない。
せめてもと、声を張って懸命に応援する。
「ノヴァ、頑張って!」
「根性見せてやるんじゃ!」
「負けたら承知しねぇぞ!」
リュウは圧倒的な剣技を披露し、攻撃を休めることなく、回避し続けるノヴァを煽る。
「逃げ足だけは早いようでござるな……守り一辺倒とは先程までの威勢はどうしたでござる? 逃げ回っているだけではござらんか。手も足も出ないのでござるか?」
「ほざいてろ、こっちは無鉄砲に攻撃するだけの魔力がないんだ。確実に当たる攻撃を狙ってんだよ」
そこかしこで砕け霧散した盾の魔力が霧状に広がり、どんどん視界が悪くなっていく。
「煙幕で目眩しとは小賢しい手を使うでござるな」
肉眼ではノヴァの姿を見つけることができないほど、リュウの周りを濃い霧が覆っていた。
「しかし、視界を奪ったくらいで拙者に勝てると思ったら大間違いでござる!」
リュウが霧を切り裂くような大きな衝撃波を放つと、辺りの霧を払うのと同時にノヴァに攻撃が当たった。
「ぐあぁっ!!」
ノヴァのうめき声が響き、僕は気が気ではない。
「ノヴァ?! ……!」
その場に膝を突いて姿を表したノヴァの元へ、リュウは歩み近づいていく。
「動きが鈍くなってきたでござるな。あれだけ動き回っていれば、消耗も激しいでござろう。拙者を相手取って健闘した方でござるよ」
よろめきながら立ち上がるノヴァは、片足から血を流し、足を引きずって逃げようとする。
「くそっ……!」
「ノヴァ! 負傷してるんだ……無理しないで、もう止めよう! これ以上、怪我して欲しくない! ……僕はどうなってもいいから……ノヴァ!!」
血を流すノヴァの姿が見ていられなくて、僕は叫んでいた。
足を押さえ逃げられない状態のノヴァに、リュウは勝ち誇った表情で告げる。
「今すぐに負けを認め、マナト殿を差し出すのであれば、これ以上は痛い目をみずに済ませてやるでござる。さあ、負けを認めるでござる、混ざり者の劣等種」
「はっ! だから寝言は寝て言えっつってんだろうが!!」
ノヴァはリュウを睨み返して啖呵を切った。
リュウは呆れたように嘆息し、刀をノヴァへ向けて構える。
「はぁ、道理のわからぬ馬鹿者が……ならばこの場で散るがいい!」
「ノヴァッ!!」
刀が振りかぶられ、切っ先がノヴァに当たると思われた瞬間――
「動きが鈍くなってるのはお前の方だ!」
「なにっ!」
――足元の魔法陣が発動し、リュウの体が過冷却の如く急激に凍っていく。
リュウは霧散する盾から発生されていた冷気で、徐々に体温を奪われていたことに気づかなかったのだ。
「なぜだ! なぜ思うように体が動かん?!」
そこでやっとノヴァの狙いに気づいた。
以前、リュウに手を握られた時、僕は思ったのだ。
血の気のない青白い肌や体温の低さは変温動物・爬虫類の特徴が強く出ているのではないかと。
もしもそうなら、寒くなると体が休眠モードに切り替わり、動きが鈍くなる可能性が高い。そう伝えていたのだ。
ノヴァはその特性を狙い、わざと壊れやすい盾をフェイクにして、冷気を霧状にして充満させ、リュウの動きを鈍らせていたのだ。
「食らえ、エナジー・ドレイン!」
斬撃を躱したノヴァがリュウの背後をとり、掴みかかって羽交い締めにする。
「うあぁっ! 力が、力が抜ける!!」
リュウは生命力を吸われながらも、ノヴァを振り払おうと刀を振り上げて暴れる。
「なんのこれしきっ――」
ガブッ!
「――うぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
ノヴァに肩口を噛みつかれてリュウは悲鳴を上げた。
高速でドレインされているのだろう、リュウは立っていることもままならず、膝を突き倒れ伏す。
組み敷かれたリュウが気を失い、決闘の勝敗は決まった。
「ドラゴニュート戦闘不能とみなし、ダークエルフの勝利!」
勝敗が決まったのに、ノヴァの様子がおかしい。ドレインを止めようとしない。
「ノヴァ、止めて! それ以上やったら死んじゃうよ!!」
慌てて僕が叫ぶと、ノヴァはハッとして正気に戻ったようで、リュウから離れる。
「ハァッ……ハァ、ハァ……ハァ……俺は……?」
「ノヴァが勝ったんだよ。大丈夫だから落ち着いて」
駆け寄って様子を見れば、意識のないリュウの呼吸は荒く、ひどく凍えていた。
「カハッ、ハヒュー、ハヒュー……」
「冷えすぎてる……急いでリュウを運んで!」
低体温症になっていると判断し、みんなの手を借りて浴室まで運ぶ。
◆
リュウを浴槽に入れて、ぬるま湯を張り、少しずつ温度を上げていく。
「……、……はっ!」
沈みすぎないように僕が支えて、体を温めながらさすっていると、リュウは意識を取り戻した。
「あ、気がついたんだね。良かった」
「……マナト、殿……ここは?」
まだ意識がハッキリしていないのだろう、虚ろな目で辺りを見回している。
「ごめんね。体を冷やしすぎちゃったから、湯船に入れて温めてたんだ。だいぶ温まってきたから、じきに動けるようになると思うよ」
「……ずっと、介抱してくれていたのでござるか? マナト殿は拙者の命の恩人でござる」
「おおげさだよ。リュウを運ぶのとか、みんなにも手伝ってもらったし」
後ろからリュウの首に腕を回して支える姿勢をとっていたのだけど、僕を見上げるリュウは僕の頬に手を伸ばし、眉尻を下げてとても切なそうに呟く。
「無様を晒した。拙者は一族の恥でござる……できることなら、このままマナト殿の腕に抱かれて死にたいでござる」
「そんなこと言わないでよ、悲しくなるから……リュウにはちゃんと生きていて欲しいよ」
僕が懸命にそう訴えると、リュウは柔らかく微笑んで僕に向き直り、顔を近づけて囁く。
「はぁ、マナト殿はやはり慈悲深い、理想の人でござる。是が非でも拙者の伴侶になって――」
「おい、俺の使い魔は誰にもやらんと言ってるだろうが、どさくさに紛れて口説くな!」
横から出てきたノヴァが低い声で言い、リュウの頭を鷲掴みにして湯船に沈める。
「がぼぼぼぼぼっ!?」
「ちょっ、ノヴァ?!」
湯船で藻掻いていたリュウがザバァッと顔を上げ、ノヴァに激怒して叫ぶ。
「何をするでござる! 溺れ死ぬではござらんか!?」
「死にたいとかぬかしてるから丁度良いだろうが、俺の親切心だ、感謝してさっさとくたばれ」
「ゲスの極みでござる! 誰が貴様なんぞに殺されてなるものか! 意地でも貴様より長生きしてやるでござる!!」
ギャーギャーと喚いて言い争っている二人の姿を見て、ホッと胸を撫でおろす。
「元気になったみたいだから、もう大丈夫そうだね。ははは……」
こうして、ノヴァは決闘に勝利し、リュウを配下に加えることに成功したのだった。
◆◆◆
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【この男’s(メンズ)の絆が尊い! 異世界小説コンテスト】に参加中、コミカライズしたい。
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