第13話 ドラゴニュート・リュウとの決闘
突然のリュウからの求婚に仰天し、うろたえながら言葉を返す。
「いやいやいや、落ち着いてよく見てよ。僕、男だし、大和撫子じゃないよ?!」
「性別など些細なことでござる。竜人族に伝わる秘術があれば男同士でも子はなせるゆえ問題はござらん! それよりも、太古の昔に絶滅した人間の中でも極めて優れた文化を持つ日本人、それを体現したマナト殿は何よりも尊い存在! その血筋を竜人族に加えることがもっとも重要なのでござる!!」
みんなもリュウの突飛な言動に驚いて困惑している。
「ニホンジン? 絶滅した人間……?」
「横からしゃしゃりでてきて、何をぬかしとんじゃワレェ!」
「ふざけたこと言ってんじぇねぇぞ! マナトから離れろ!!」
騒ぎ立てるみんなをリュウは冷ややかに一瞥する。
「マナト殿の真価を理解できておらぬこんな馬鹿者共よりも、拙者の方がよほどマナト殿を幸せにできるでござる」
それから、僕を見つめて熱心に口説きだす。
「マナト殿には何不自由させない。生涯ただ一人、そなただけを大切に慈しみ愛し尽くす。拙者の全身全霊をかけて、幸せにすると誓うでござる。だから拙者の伴侶になってほしい」
あまりの押しの強さにたじろぎつつ、なんとか断ろうと言い募る。
「で、でも、男同士で結婚するのは抵抗あるし、僕達まだ知り合ったばかりだし……そ、それに、僕はノヴァを手伝いたいから、やっぱり無理だよ! ごめんなさい!!」
頭を下げて精一杯に断ると、僕の前に影が射す。
「こいつは俺の使い魔だ」
リュウの手を払い退けて間に入り、ノヴァが断言した。
困っていた僕を背に庇い、みんなもリュウから離してくれる。
「マナトはてめぇになんか渡さねぇよ!」
「そうじゃ、ワレなど相手にもならんわ」
瞳孔を細めて凍てつくほど冷たい眼差しで見回し、リュウは吐き捨てる。
「真価もわからぬ馬鹿者共が、邪魔をするでござるか? 拙者に楯突くなど、身の程も知らぬ落ちこぼれが……」
先程までとは違う圧倒的な威圧感――殺気に体がすくむ。
「っ!?」
「ガルルルル」
「グオオオオ」
グレイやブラッドが圧に押し負け、唸り声を上げて戦闘態勢をとっている。
威圧感の影響か、リュウの存在感が何倍にも大きく感じられた。
「マナト殿はたしかに特別な存在でござる。我々魔族の人間を求める本能から、今後も有象無象の魔族がマナト殿を欲して、あらゆる手を使い奪おうとするでござろう」
「「「!!」」」
「魔族が僕を……?」
リュウは淡々と語って聞かせる。
「身に覚えがあるでござろう。現に引き寄せられてきた者達が侍っているのでござるから。目立てば目立つほど、マナト殿を狙う魔族は増えていく一方でござろうな」
「数多の魔の手からマナト殿を守り抜くだけの実力が貴様にあるのでござるか?」
ノヴァは尋常でない威圧感に冷汗をかきながらも、リュウを睨み返す。
「そんなもの、蹴散らしてやればいいだけの話だ!」
「これまでは、マナト殿の力でなんとかやってきたのでござろうが、それではいずれ
後ろにいる僕を見つめ、リュウは手を差し出して語りかける。
「そうなる前に、拙者の元で大切に守られるのが賢明な判断でござる」
なんと言えば納得してもらえるのかわからず、僕はただ首を横に振った。
ノヴァは僕を引き寄せ、断固として拒否する。
「こいつは俺の使い魔だ! 何があろうと誰にも渡す気はない!!」
「……ならば、マナト殿の主人として相応しいだけの実力を示すでござる」
怒りを孕んだ低い声が響き、リュウが名乗りを上げる。
「拙者はカースト順位・二位のドラゴニュート(竜人)、リュウ。拙者のすべてを賭けて、貴様に決闘を申し込む。ダークエルフ・ノヴァよ、拙者と勝負するでござる」
射殺さんばかりの目でノヴァを睨みつけ、リュウは宣言したのだ。
「竜人族は一度決めたら信念を貫く、執念深い種族でござる。拙者よりも優れた魔族であるとことを証明し勝利すれば、拙者は貴様の配下として忠誠を誓おう。だが、貴様が敗北すれば、マナト殿を貰い受け、拙者が生涯の伴侶として守るでござる」
殺気だった空気にさすがに止めなければと焦り、慌てて間に入って声を張る。
「や、やめようよ。そんなことで決闘なんて、僕は守ってもらわなくても大丈夫だから。これまでもなんだかんだで、なんとかなってきたし、僕みたいなの欲しがる物好きなんて、そうそういないよ。ね? そうだよね?」
険しい表情でみんなが僕を見るので、なんだか不安になってきた。
同意を求めようと振り返り、苦笑いしてノヴァに訊いてみる。
「ね、ノヴァ?」
ノヴァは僕をじっと見つめたあと、決意した表情でリュウに告げる。
「わかった。その決闘、受けて立つ」
「えぇー!」
決闘を承諾してしまったノヴァに驚いて慌てふためく。
「グレイもブラッドも見てないで、なんとか言って止めてよ!」
「男には引けねぇ時があるからなぁ、止めるのは無理な話だぜ」
「そうじゃな、あのいけ好かん男の鼻っぱしを圧し折ってやる機会じゃしのう」
「そんな……」
誰も当てにならなそうだ。僕がなんとかして止めるしかない。
「リュウ、決闘なんてやめて。僕を理由に誰かが戦ったり、傷つくのなんて嫌だよ。お願いだから、考え直してくれないかな?」
僕が懇願すれば、リュウは表情を和らげて穏やかな口調で話す。
「はぁ、そなたは気立てが良くて優しいでござるな、まさに大和撫子。大丈夫でござるよ。拙者は相手をいたぶる趣味もござらんし、即座に実力の差を見せつけて圧勝するだけでござる。すぐにマナト殿を迎えに行くでござるからな」
「全然、大丈夫じゃないよー?」
物言いだけは優しいけど、まったく聞き入れてくれそうにない。
「では、勝負内容が決まりしだい決闘申請を出してくれ。拙者はマナト殿を花嫁として迎える支度を進めておくでござる」
「気が早すぎはしませんかー?」
そう言い残すと、リュウは意気揚々と立ち去っていったのである。
決闘を止められず、うなだれる僕の後ろでは、みんなが騒ぐ。
「ははっ、勝つ気でいるが、負けた時はさぞ見ものだろうぜ」
「いきがっとるやつの敗北ほど見苦しいものはないからのう」
「お前ら、自分達のことを棚に上げてよく言えたな……」
じとり目でみんなを睨んで、僕は嘆くしかできないのだ。
「うわー、勝っても負けても最悪だよー! 僕が花嫁ってなんなんだよー!! 男同士で子作りできる秘術とか何、怖すぎでしょうー?!」
いくら喚いても決闘することは変えられないので、仕方なく頭を切り替える。
僕はノヴァ達を部屋に連れ帰り、四人で作戦会議することにした。
◆
聞く話によると、ドラゴニュートは常にカースト一桁を維持している上位魔族で、リュウは武術の名家の出身なのだそうだ。
学園の成績も常に上位を維持していることから、武力でも知力でも勝つのは難しいだろうと教えられる。
「竜人族が日本人を求めてるなんて話してたから、やっぱり日本の文化で勝負したら、見直されたりするんじゃないかな? 俳句や川柳とか、茶道、華道、書道とか? とは言っても僕そんなに詳しくないや」
「ようわからんが、人間の文化に造詣が深いリュウは人間の名作をつらつらと語るし、己で優秀作品を作って見せるからのう。人間の文化で勝負するには、それらを超えねばならんし、なかなかに難儀じゃと思うぞ?」
「そっか、さすがはカースト順位・二位だけのことはあるね……変化球で狙えばなんとかなったりしないかな、ポエムやラップバトルならワンチャンいけたり……?」
「それ審査するのも教員だからなぁ? 変化球すぎて理解できない芸術になると、オレの時みたいな結果になりかねねぇんじゃねぇか?」
どんな勝負内容がいいのかと頭を捻って考えていれば、ノヴァが真剣な表情で告げる。
「これは俺の勝負だ。あいつが言っていたように、いつまでもお前の力に頼りきりでは、いつか足元をすくわれかねない。俺だけの力で勝たなければ意味がないんだ」
「ノヴァ、まだ魔力が回復しきっていなんじゃない?」
心配して訊くと、ノヴァは首を横に振って言う。
「いや、こいつらからも毎日のように生命力を吸っていたから、だいぶ回復してきた。魔法も使えるようになったから、大丈夫だ。今回は俺だけの力でなんとかして勝ってみせる」
「そっか……わかった」
決心の固そうなノヴァの様子を見て、僕は頷いて言った。
「ノヴァの気持ちはよくわかった。ありがとう……だけど忘れないで欲しい、ノヴァは一人じゃないってこと。僕はノヴァの使い魔で、二人で一つだよ」
同じ刻印のある手、握りしめられたノヴァの拳を両手で包み、気持ちを伝える。
「一人で抱え込まないで欲しい。僕にできることなら協力したいから、一緒に考えさせてよ」
ノヴァは僕を見つめてハッとし、強張らせていた表情を和らげる。
「ああ、そうだな。お前は俺の使い魔だ」
「うん」
思い詰めていた様子だったので、少し笑ってくれて安心する。
「それでね、思いついたことがあるんだ。これは絶対ではないんだけど、試してみる価値はあると思う――」
リュウとのやりとりで気づいたことがあり、僕はある動物の特徴を話して聞かせたのだった。
◆
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