短編104話 数あるもらったこれをだね
帝王Tsuyamasama
短編104話 数あるもらったこれをだね
「
「おーさんきゅー
「ほら、これでいいのか? 雪」
「さんきゅさんきゅ
同じクラスの
髪が肩にかかるかどうかくらいの長さで、身長が俺より小さい凛菜から受け取った箱は、薄い水色でやや縦長。紙製だがしっかりとした質感の物。
髪が結構長いがいつもひとつにくくっていて、身長が俺より大きい絵梨花から受け取った箱は、手のサイズにはぎりぎり収まらない~というくらいの大きさの物、ふたつ。赤茶色で表面がつるつるしているが、こちらもベースは紙だろう。
男子は学生服、女子はセーラー服を着る中学校生活を送っていれば、たまにはこうやって女子からアイテムをいただくこともあるだろう。つまり俺は、順風満帆に、中学校生活を
「ちょうど雪くんが欲しそうなのがあったから、よかったよっ」
「
「うんっ」
やわらかい感じの笑顔の印象が強い凛菜。
「よくわかんなかったけど、そんなんでよかったか?」
「めっちゃいいぜ絵梨花」
「ん」
どちらかというとクールめだが、かっこいい笑顔の印象が強い絵梨花。
二人とは小学校のときからよくしゃべる仲だったが、中学校に入ってからますますしゃべるようになったかな。
「あ、五時間目は家庭だよね。今日は家庭科室の日だったから、早く行こうよ」
「いくか」
「裁縫道具いるんだっけなー」
俺たち三人は、教室の後ろにあるロッカーへ裁縫道具を取りに向かった。
(……ん?)
ドアの近くからなにやら視線が……ちらっと見たら、髪が凛菜よりも少し短くて、身長が俺よりちょっと低い
(んー。なんだろうか)
まぁ早弓も同じくクラスが一緒なんだから、たまたま目が合うこともあるか。さて家庭の準備っとー。
「それじゃあね雪くん、ばいばい」
「んじゃ」
「じゃなー」
六時間目の授業も終わり、たまたま近くにいた凛菜と絵梨花とばいばいの儀を執り行った。同じクラスだからな。実に当たり前の日常なひとコマだろう。
さーて俺も部活っと……
(……んー……)
やはり早弓からの視線を感じるような。でも同じクラスだしなうんうん。
てか凛菜と絵梨花は小学校からの仲だが、早弓とは幼稚園からの仲なのだ。なにか用事あったら直接突撃してくるだろう。さー部活部活。
「兄ちゃんオレも手伝ってやろうか!」
と、助太刀を申し出てくれたのは、我が弟、
「おー、じゃこれのバリ取りとヤスリがけ頼むわ」
「オレに任せろ!」
晩ご飯を食べ終わったダイニングテーブルで、俺と風太の二人で共同作業。
「日曜日、お返しを買いにいきましょうよ」
母、
「中身食べた後の箱だけもらったんだ。まぁ今度は中身も分けてくれるっぽいけど」
「はっはっは。母さんはお菓子好きだからね。ついでに自分用のお菓子も買いたいのさ」
父、
「あら、ばれちゃったわっ」
なんか母さんノリノリ。
「そーゆー魂胆かっ」
「兄ちゃんこれでいいか?」
「どれどれ……おーこれくらいでいい。他のも任せた」
「オレに任せろっ!」
そんなこんなな勝部家の家族四人なのであった。
やってきた月曜日。給食食べた後の昼休みの時間に、凛菜と絵梨花を教室へ呼んだ。
「わあ~! いいの? 箱あげただけだよ?」
「いいからいいんだよ。てかうちの母さんセレクションだけどな」
「さんきゅ。家に帰ってから食べるわ」
「おー」
絵梨花からもらった箱よりも少しだけ大きめで、外側はピンクで花柄、中央は透明の袋に入れられた、一口サイズのお菓子がたくさん詰まっている物を、凛菜と絵梨花に手渡した。
この辺で有名なお菓子屋さんたちのコラボ商品で、デパート限定で売られている物。さすがは母さんの、目当ての商品ロックオン能力である。
やはり女子って、デザートは別腹説は本物なのだろうか。
(ん?)
新しい週となっても視線を感じたので、そちらの方向を見てみたが、早弓はこちらを見ておらず、イスに座って机に向かっていた。
後で早弓にもあげなきゃな。
「それじゃ雪くん、ばいばーい。ありがとうー」
「んじゃ」
「じゃなー」
凛菜と絵梨花とのばいばいの儀が終わったので、さて俺は早弓のところへっと。
「早弓」
「ひゃい?!」
あーわりー、後ろから声かけちった。マンガかっていうくらいの跳ね上がりを見てしまった。
「わりぃわりぃ。今日部活終わったら、一緒に帰らないか?」
早弓から、一緒にノート買いにいこうーだの、一緒にコロッケ買いにいこうーだの、祭行こうーだの、なにかしらのイベントを俺と一緒にする傾向がある。それは学校帰りも休みの日も問わずだが、もちろん俺もよく受けて立ってきた。
「えっ!? で、でもっ! り、りんちゃんやえりちゃんと、一緒に……帰らないのっ?」
ん? なんで凛菜と絵梨花が人選された?
「別に、凛菜とも絵梨花とも、一緒に帰る約束はしていないが……?」
「あ、へ、へぇー、そうなんだぁ……」
喜怒哀楽が激しいというか、感情を全身で表現する印象が強い早弓。昔っからこんな感じ。
「で、一緒に帰らないか? 早弓」
「ひゃーはいもちろん一緒に帰りましょう!」
ほんと、昔っからこんな感じ。
部活が終わったあと、学校近くの公園で待ち合わせ。まぁ別に校門とか玄関ポーチとかでもよかったんだけど、早弓からの提案でそうなった。
俺が段数はそれほどない石の階段を上り、公園に入ったところで早弓発見。茶色くて長いベンチから、両手を前に出して手を振るりつつ、見覚えありすぎる早弓の笑顔。右手をちょっと上げとくか。
周りには鉄棒やブランコで遊ぶorバトる小学生が~……五人、この公園内にいる。俺たちも含めれば七人か。ジャングルジムとすべり台と砂場はだれも占拠していない。
俺が早弓の左隣に座り、学校指定の紺色
「や、やあゆっき!」
「ちーっす」
思いっきり昼間同じクラスだったが、早弓らしい先制攻撃であるとも言える。
「きょ、今日はどしたの!? あたしなにかしたっ!?」
いやそれむしろ俺になにかした心当たりでもあるのか?
「なんも。これ渡そうと思ってさ」
「へ?」
俺はセカバンから、手のひらより少し大きめの白い立方体で、しっかりした紙製の箱を取り出して、
「ん」
ちょっと絵梨花のものまねっぽくなってしまった気がしないでもない声とともに、右手に白い箱を乗せて差し出した。
薄いピンクのリボンで、ふたが開かないように結ばれている。
「……な、なに、これ……?」
「チョコレート」
改めて、早弓の前へずいっと出した。ちょっとぼーっとしているのか? まぁおもしろい形だよな、これ。
「えっ? ちょこ、れー……と? え、えっ?」
「証拠な。ほら」
ひざの上辺りに置いて、リボンをほどき、上の部分を上げるとだな、すーっと動いて……ぱかっ。
中には、これまた個包装で立方体の一口チョコレートが詰まっていた。白いのはホワイトチョコ、茶色いのはオーソドックスなの。ってデパートでの商品説明欄には書いてあった。
「わあ~ほんとだぁ!」
おててまで表情豊かな早弓。
「ほら」
所有権移動の儀をするべく、改めて差し出した。
「……ありがとうっ!」
(っておいっ)
俺の右手ごと受け取ろうとするでない! その手は取り外し不可だっ。
……早弓と円陣組んだこととかって、あったか……?
そんな早弓は、下の箱を持つ俺の右手と、ふたとリボンを持つ俺の左手、両方を包み込むような形で受け取った。めっちゃ笑顔で。
と思ったら、その表情の時間は短く。ノーマルモードな早弓の表情へ。
「りんちゃんとえりちゃんと交換していたのも……これ?」
(…………ん?)
だからなぜ凛菜と絵梨花が人選されるんだ?
「いや、別の」
「そ、そなんだ。ふぅ~ん」
いつまで俺の手ごと持ってんだっ。んじゃあ聞いてみようか。
「なんか今日は、やたら凛菜と絵梨花が人選されるな」
「えっ! だ、だって、さぁ……」
いきなり手離して落とすとかなしな。俺持ったままだけどさ。
「……なんか、すっごく楽しそうでー……りんちゃんもえりちゃんも、かわいいし……」
んまぁ、よく楽しくおしゃべりはさせていただいているだろう。
だがこの早弓の表情。長年見てきた俺にはわかる。なぜかはわからんが、少し気分が落ち込んでいるようだ。そして俺は、早弓を元気づけてやれる方法も会得している。
「……早弓も、かわいいし?」
「ひゃわあ! な、なによもお!」
両ほっぺたに移動された両おてて。俺持ってなかったら確実に箱落下コースだった。
「あの二人は母さんセレクションであげたお菓子。これは俺が選んだやつ。日曜日にデパート行ったんだよ。家族で」
交換という話が出たから、中身について気になった、ということなのだろうか。
「へ……?」
「バックギャモン作りぃ~?!」
「アニメ観る前に、手作りバックギャモンの特集やってたんだよ。それ作ってみてるだけさ。うちにはいい箱がなかったから、凛菜と絵梨花に提供してもらった」
口をちょっと開けたままの早弓。残念ながら俺は歯医者さんの技能を持っていない。
「な、なあんだぁ……」
「なんだとはなんだ」
「あわあわわ、その、えと、こっちの話!」
どっちの話?
「出来上がったら、勝負な」
まばたきしている早弓。おめめ乾燥しなさそうだ。
「……かっ、かかってきなさいゆっき!」
両手をぐーにして、バトる気まんまんの早弓。
ほんと、昔っから早弓と遊ぶの好きなんだよな、俺。
短編104話 数あるもらったこれをだね 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます