居場所

 仕入れから三日後。

「なんで、ウチにこんなことをしたんだよ」

 こころなしかやつれた少女は、渋々といった調子で、卵粥を食している途中、そんなことを尋ねてきた。食事を冷ましながら、海藤は、

「こんなことって?」

 何のことかわからず尋ね返す。少女は頭が痛そうな顔をする。風邪がひどくなったのか、と再び心配しはじめていると、

「なんで、ウチが箱に閉じこめられているかってことだよ」

 押し殺した声で口にする。

 はて、閉じこめている? 少女の言葉がピンと来ないまま、海藤は、

「だって、そこが君の居場所だろう?」

 絶対的真理である普遍的事実を口にする。少女は、わけがわからない、と言わんばかりに目を見開いたあと、

「ふざけるな!」

 強く叫んだ。

 元気になってよかったと思いつつ、いたって真剣だよ、と応じる。

「はぁ? 頭おかしいんじゃねえの」

 心外な評価ではあったが、まだ病み上がりで、不安な気持ちなのだろうと察した海藤は、落ち着かせようと決意する。

「君を一目見ればすぐわかったよ」

「わかった?」

「そう、わかったんだ」

 こんな当たり前のことを、あらためて言葉にするのは、海藤にとって非常に面映ゆかったが、少女のためだ、と腹を括る。

「君はガラスケースの中で僕に見られるために存在するんだって」

 直後、そんなわけねぇだろ! と今日一番の罵声が響き渡る。

「ウチの居場所は、ウチの家だ。断じてここじゃない」

「だったら、ここだよ。ここは君の家みたいなものだろう?」

「ここじゃねえよ。ウチのパパやママのいる家だ。ここに来る前に住んでいたところのことだよ!」

 ああ、そうか、と海藤はようやく納得した。

「出荷場のことだね。けれど、出荷場は出荷場でしかないんだ。そこは君がここに来るまでの、待合所みたいなものだよ」

「なに、わけのわからないことを言ってるんだ! いいから、ウチを元の場所に戻せよ!」

 金切り声が部屋中に響き渡る。海藤はもう風邪は大丈夫そうだなと感じつつも、少女の不安が取り除かれることを願った。

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