第22話 運のよさは続かないらしい…
「皆さんの元に渡りましたか? では、今から始めますね」
メイド喫茶の店内。モニターの下付近に佇んでいるメイドのメアリは活発的に仕切っていた。
今からこのカードを使って、ゲームをするらしい。
ビンゴといってもほぼ運要素などなく、実力でどうにかなるゲームではないのだ。
それでも、紳人は場の空気感や雰囲気に圧倒されるように巻き込まれ、そのビンゴカードを手に心を躍らせていた。
カードの縁らへんには、デフォルメ系の動物が描かれている。
多分、このメイド喫茶で働いている子らが描いた手書きイラストだと思う。
それらをカードの縁に印刷して作ったのだと思われる。
穴をあけるところにも、それぞれの二次元らしき可愛らしい動物が印刷されていた。
ん?
そのビンゴカードをよくよく見ると、カードの一番上にルールが記載されてあった。
「これって、特別ルールか?」
紳人が首を傾げていると、カウンターテーブルの反対側に佇む幼馴染のペンギン彼女が、紳人のカードを覗き込んでくる。
「それはね、今回のイベント用に予め作っていた特別なカードなの、ペン」
「そうなんだ」
再び、紳人はカードのデザインを全体的に見やる。
カードの穴をあけるところには数多くの動物イラストがあり、その中にペンギン彼女と同じ、デフォルメ系ペンギンのイラストがプリントされてあった。
「普通のビンゴでは数字があたれば穴をあけられる、ペン」
「そうだな」
「でもね、このビンゴは数字を当てた後に、当てた人限定でクイズ的な問題が出題されるんだペン! それをクリアすれば、自分の好きなところを一か所だけ追加で開けられるんだペン!」
「へえ、という事は、完璧な運勝負ってわけでもないって事か」
紳人はカウンター越しに、ペンギン彼女の瞳を見やる。
「そう、かも、ペン……でも、どんな内容のクイズかもわからないし、やっぱり、運要素が強いかもペン。けどね、知識があれば簡単に出来ると思うから、もしかしたら実力もあるペン……」
ペンギン彼女は詳細に説明をしていたのだが、結果として発言に自信を持てなくなり、独り言を呟いていた。
結論として、ビンゴは普通のビンゴと同じではあるが、微妙に実力が絡んでくるという事。
でも、何とかなるよな。
そんな事を思いながらも、紳人はもう一度、自身のカードとペンギン彼女のカードに記されている数字を交互に確認するのだった。
「これでルール説明は終わりです。これから本格的にゲームへ移りますね」
モニター下にいるメアリが店内の人らを先導するかのようにまとめ上げていた。
「ちょっと待って、ビンゴに勝った時の商品ってあるのか?」
一人のお客が言った。
「はい! そう言ったモノも事前に用意しておりますので」
「そうか、じゃあ、頑張らないとな」
どんな商品かは不明ではあるが、そのお客は熱心にゲームと向き合い、やる気満々といった感じだ。
「見る限り、問題はなさそうなので、これから正式に始めますね! では、これが初めの数字でーす!」
メアリは手にしているリモコンを使い、モニターに映し出されているビンゴマシーンを操作する。
それから数秒後――、マシーンに特定の数字がランダムに表示されるのだ。
「初めは、九ですね。皆さんの中で、九番の数字を撃ち抜かれた方はおられますか?」
メアリは辺りを見渡しながら問う。
しかし、当たったと挙手する者はいなかった。
「俺の方もダメみたいだな。ペンギンは?」
「私の方もダメだった、ペン」
「そっか。そうそう当たらないみたいだな。この様子だと他の人も……ん? そういや、このビンゴって最大何番まであるんだ?」
紳人はカードを全体に見ながら言う。
「確か、一二五番まであるはずですペン」
「一二五⁉ え、でも、普通は七五くらいじゃなかったっけ?」
「そうかな? うん……そうかもペン。でも、今回のゲームでは特殊ルールが追加されてるから、それで数字が多いかもだ、ペン」
「そりゃ、そう簡単には当たらないわけか」
一応、納得がいった。
けれど、これだと、一人でもクリアするまで何分かかるのだろうか。
ザッと見る限り、この店内には、メイド店員を含めて五〇人くらいはいるはずだ。
そう考えると、店内がどれほど広いかがわかる。
「いないようなので次に行きますね! はいッ!」
メアリの掛け声と共に、再びビンゴマシーンが起動した。
「今度は、三〇番ですね。三〇番の方――」
メアリは呼びかけるように、比較的大きめの声で皆に問いかける。
「は、はい、はいッ! あります! 三〇番当たりました!」
「本当ですか! では、ここでクイズ発動ですね! では、このお店で一番高い商品はなんでしょうか?」
メアリはテンションマックスで、当たったお客の男性へ視線を向けて出題していた。
「えっと……一番高い? なんだろ」
「制限時間は一〇秒」
「短いな……でも、答えないと……えっと」
現在、どの席にもメニュー表なんてない。
担当しているメイドらがお客への注文を終えると、店の奥へ持っていくからだ。
「後、五秒!」
「ここは、野菜乗せパスタで!」
そのお客はあてずっぽ感覚でヤケクソだった。
「それでいい?」
「はい……自信はないけど」
数秒の緊迫した環境に追い込まれながらも、そのお客は願うように薄っすらと目を閉じていた。
「……不正解!」
「ああ、やっぱりか……だとしたら、オムライス系か?」
そのお客は目を見開いて、失敗したと頭を抱えていた。
「んー、それでもないですね。正解は、動物さんハンバーグカレーですよ」
「そっちか」
「でも、また、数字が当れば、もう一度クイズができますから。また頑張ってみてくださいねー」
メアリは気分を切り替え、次の数字を求めるかのように、笑顔でリモコンを操作するのだった。
「……これで、後二つか」
ゲームが始まってから、三〇分が経過していた。
「もうそこまでできたのペン?」
「ああ。でも、数字が多すぎて、全然リーチにすらならないんだよな」
「頑張って。私も後二つなのペン」
「え、そうなの?」
紳人は彼女のカードを覗き込んだ。
「ん? というか、同じ数字が空けば、俺らクリアだよな」
「んッ、そうだね。偶然ペン」
「なんか、奇跡っていうか」
「でも、これで安心できるペンね」
「なんで?」
「だって、私たち同じ数字を待ってるんだから。一緒にクリアできるペン!」
「確かに」
運命のようなものを感じていた。
「……あ、ヤバい」
「どうしたのか、ペン」
「俺、ちょっと用事の合間に、ここに来てて」
「それは大変だペン!」
「というか、時間が……」
紳人は焦り、スマホを取り出し、その画面を見てみると、すでに一時間を少し過ぎた頃合いだった。
「ちょっと待てって……これじゃあ、怒られるよ」
「そんなに時間がないなら帰るペン?」
「そりゃ、そうなるだろうな。俺もこのゲームが終わるまでいたかったけど」
大きなため息をはいた。
最後は一緒にクリアをして、ペンギン彼女と勝利を共有したかった。
だが、そんな願いは叶いそうもなさそうだ。
「俺、お金を払うから。何円?」
「飲み物と、ジュースで、二〇〇〇円だペン」
「二〇〇〇円な」
財布には、八千円ほど入っている。
その中から一〇〇〇円札を二枚取り出し、ペンギン彼女の前のテーブルにおいた。
「領収書は要らないから。それじゃ!」
紳人は振り返ることなく立ち去った。
メイド喫茶を出る時には、メイドらからの“いってらっしゃいませ”というテンプレセリフが聞こえてくる。
紳人はエスカレーターを急いで下り、街中へ出る。
しかし、運悪く
紳人の隣には、メイド喫茶の看板が設置されてある。
「もしや、お兄ちゃん。メイド喫茶に行ってたとか?」
「私らを残して?」
疑うかのようなジト目を見せる、花那とりんから詰め寄られるのだ。
「ご、ごめん、これには色々と」
「じゃあ、お兄ちゃん、私と花那さんのために今からファミレスで奢って」
「今からか」
「うん、そうだよ。まだお昼食べてなかったからね!」
「うッ……わ、分かった」
紳人は妹らに嘘をついてまでメイド喫茶で遊んでいたのだ。その償いを支払うために奢ることにしたのである。
さっきメイド喫茶で食事をしてきたばかりだったのに――
紳人はさらなる出費に頭を抱えてしまうのだった。
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