学園の美少女らのエッチなモノを見てしまった俺が、ある日を境に彼女らの恋愛対象になった⁉

譲羽唯月

第1話 真面目な彼女にはエッチな趣味がある?

 恋人が欲しい。

 そんな願望が高校二年生の高田紳人にはある。

 だが、今のところ、そんな恋人が出来る気配もなく、ただひたすら平凡に過ごしていた。


 紳人が通っている学園には比較的美少女が多い方なのだが、漫画のようにはいかず、女の子らとハーレム展開という事もない。


 そんな、ある日の放課後。教室に忘れ物をした紳人は、その夕暮れ時に学校に戻ってきていた。教室には誰もいないが、電気だけがついていたのだ。


「え……?」


 刹那――、目にしてはいけないモノを見てしまっていた。


 とある子の机の上には、如何わしいイラストが描けれた本が一冊置かれてあったのだ。


 多分それはラノベ風の官能小説だと思われる。


 ど、どうして、こんな本が?


 紳人は辺りを見渡す。


 で、でも、この机って……。


 その机の持ち主は、真面目なクラス委員長の藍沢花那なのである。


「……ま、まさか、彼女の⁉ そ、そんなわけはないよな……」


 紳人は花那の机を見ながら考え込む。


 別人の物かもしれないという考えが、一瞬脳裏をよぎる。

 そんな時だった。




「え、ど、どうして、君がここに?」


 紳人が次に気づいた頃には、教室の入り口付近に、その黒髪ロングヘアな藍沢花那が佇んでいたのだ。


「お、俺は何も見てないから」

「それ、見たってことだよね?」


 彼女から指摘されるように言われた。


 そんな彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めていたのだ。


「ね、ねえ……」


 教室の入り口前に佇んでいた花那が、ロングヘアを揺らしながら、ゆっくりと近づいてきた。


 怒られると思い、紳人は後ずさる。


 たまたま教室に忘れ物を取りに来て、たまたま机の上に置かれていた本を見てしまっただけなのだ。


「あなたさ、これから時間ある?」


 彼女は紳人の目の前に辿り着くと言ってきた。


「じ、時間?」

「そうよ。この件について話したいことがあるから。だからよ」

「で、でも、それは不可抗力で」


 紳人は全力で言い訳を口にしていた。


「あなただって、えっちな本を持ってきているでしょ?」


 黒髪の彼女は瞳を光らせ、紳人の目を見つめてきた。


「え、えっちな⁉」

「この前、校舎の中庭で女の子が描かれた本を一人で読んでいたじゃない?」

「よ、よく観察してるね」

「クラス委員長だから、それくらいは周りを気にしてるの」

「で、でも、それは卑猥な本じゃなくて、女の子が表紙の漫画なんだけど」


 紳人は彼女の監視能力に驚きながらも慌てて否定する。


「それ、教室で読める?」

「それは……無理かも」


 あの漫画は、沢山の女の子が登場するハーレム系の作品である。

 大勢の人がいる前で読んだら、引かれたりする可能性もあるだろう。


「ここで提案なんだけど。責任を取ってくれないかな?」


 急に花那から顔をジッと見つめられ、動揺してしまう。


「責任って、どういう風に?」

「それは私に奢るとか。そういうの。あなただって、他人に知られたくない事ってあるんでしょ? その漫画の事とか」

「それは、あるけど」

「だったら、分かるよね?」


 クラスの中でもかなり美少女から、気が付けば、ほぼ密着された状態で近づかれる。耳元で妖艶に囁かれ、嫌らしい気分になり、少々興奮してしまう。


 ピンチな状況なのに、自分は変態かもしれないと思った。


 紳人は成すすべなく、ゆっくりと頷いたのだ。


「まあ、これから時間があるなら付き合って」


 花那は笑みを浮かべ、同意を求めるように手を差し伸べてくる。


「今からか」


 紳人は唸り、悩む。


「もしかして時間ないとか?」


 彼女は少々俯きがちになっている紳人の顔を覗き込んできた。


「な、ないわけじゃないけど」


 今日は早く家に帰って続きが読みたい漫画があったからだ。


「でも、あなたには殆ど選択権はないわ。そもそも、似たような本を読んでるなら、同類みたいなものでしょ?」

「ど、同類? でも、結構ジャンルが違うんだけど……」


 美少女が登場する漫画を官能小説と同じく扱ってほしくないが、事を荒立てないためにも、一旦ここで話を終わらせておくことにした。






 それから二人は学校を後に、徒歩で街中へと向かう。


 街並みを見、人通りのある道を歩いていると、知っている顔を見かけた。

 彼女はセミロング風で愛嬌のある幼馴染――中野夢月である。

 この頃、女の子らしくなったと思う。


「紳人? 偶然だね。どうしてここに……えっと、そちらは、藍沢さんかな?」

「そ、そうだね。い、色々あってさ」

「色々?」

「まあ、うん……」


 紳人は言葉を濁しておいた。


「付き合っているとか?」


 幼馴染から不安そうな顔で問われる。


「ち、違うよ。そういう関係じゃないから」


 紳人はひたすら誤解されないように、ハッキリと言い切った。


「一応、付き合ってるんだけどね!」

「は……え?」


 次の瞬間、紳人の右腕には二つの柔らかいものが接触する。

 それはまさしく、おっぱいだった。


 制服の上からでもそれなりに大きいと感じていたが、実体験してみて思う。

 柔らかくも、腕を軽く包み込むほどの素晴らしいものだった。


「え⁉ つ、付き合ってるの? い、いつから⁉」


 目の前にいた幼馴染が目を丸くして、グッと距離を詰めてきた。


「それは今日からだよね」

「う、嘘を――」


 弁解のセリフを言おうとしたのだが、彼女のおっぱいに圧倒され、それ以上言葉を紡ぐことができなかったのだ。


 それからというもの、幼馴染は青ざめた顔をし、これからバイトがあるようで、トボトボとその場を後にしていくのだった。






 街中で幼馴染と別れた後、二人は喫茶店に入店していた。


「というか、なんでさっき嘘を言ったんだよ!」


 二人は席に座り終えると、紳人は反対側の席に座る彼女へ告げた。


「だって、そう言わないと、あの子のためにならないでしょ?」

「どういう意味で?」

「あの子、あなたの事が好きな感じがするけど?」


 花那は自然体な態度でストレートに話す。


「は? そんなわけないだろ。今までも、夢月から告白もされたこともないし」

「じゃあ、相当鈍いのかな?」

「まさか、俺は鈍くはないよ」


 漫画に登場する主人公のように鈍感でもない。

 自分ではそう自負しているのだ。


「それと、今日はあなたの奢りね」


 花那は黒髪を片手で書き上げ、テーブルに広げられたメニュー表を見ていた。


「そういう約束だったからね。わかってるよ」


 それに関しては素直に受け入れる。


「でも、俺……君と殆ど接点もなかったし。そもそも、どうして俺と付き合うなんて。もしかしてわざとそんな事を言ったとか?」

「そんな事はないよ」

「え? じゃあ、どういうこと?」


 高校二年生になってから花那とは同じクラスになった。

 それまでは殆ど接点もなく、むしろ、今日初めて彼女とまともに会話をしたくらいだった。


 学校では真面目なのに今、花那は気さくな感じで話しかけてくるのだ。


「それはね」


 彼女が紳人の方をジッと見やると、意味深気な雰囲気を醸し出しながら口を動かす。


「う、うん」


 妙な緊迫した間があった後――


「それに関しては内緒♡」


 花那はウインクをする。


「な、なんで?」


 紳人は唖然とする。


 緊張していた時間がバカバカしい。

 彼女から弄ばれているだけなのだろうか。


 意味はわからないが、責任を取り終わったら花那とは接点がなくなるだろう。


 いくら恋人が欲しいと言えども、疚しい関係性で彼女と正式に付き合おうという気持ちはなかった。


 それまでの辛抱だろうと、紳人は思うのだった。

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