器
陰陽由実
器
人は誰しも器を持っている
箱のような
引き出しのような
コップのような
ポッケのような
自分の大切なものを
胸の中へとしまっておくための
大切な大切な、入れ物のようなもの
それはときに柔軟で
中へしまっておきたいものを
次から次へと入れられる
まだ入るのか? そう思っても
中に入れたものを捨ててしまうなんて
そんな大層で悲しいこと
そうそうできるわけがないじゃない
だから器はいつだってなんだって
入れられるようになっている
それはときに脆くって
時折大層な壊れ方をする
入れたものが大きすぎた?
いいえ、違うみたい
入れたものが重すぎた?
いいえ、それも違うみたい
じゃあどうして?
うっかり中に入れたものが
受け入れがたいもの
受け入れたくないもの
受け入れさせられたもの
何かしら負の感情を孕んだもの
それらが器を攻撃してしまう……
それはときに蓋をして
中に何も入れられなくなってしまう
どうして? どうして?
こんなにあたたかなものなのに
しまって大切にしておきたいものなのに
ああ、ごめんね
今は何かを受け入れられる頑丈さが
あまりにも欠落してしまったみたい
今は器をなおすとき
じっくりじっくりなおすとき
だならもう少しだけ、そこで待っていて
そのあたたかさは
この器をなおす糧になる
それはときにひっくり返って
中にいれたものをぶちまける
ああ! どうしてそんなことを!
ちゃんときれいに
大切にしまっておいたはずなのに
……本当にそう?
どんどんと入れたいものを詰め込むばっかりで
溜まっていくものを見もしない
しまったのなら少しくらい
たまには見てくれたっていいじゃない
しまっておきたくなったなら
思い出したっていいじゃない
ここには、あなたには
とってもあたたかなものを持っているのだから
人は誰しも器を持っている
大きな器、小さな器
カラフルな器、単色な器
簡単な形、複雑な形
色々な器
どれが良くてどれが悪いなんてものはない
あなただけの
あなただからこそ待てる器
その器を持って
どうか明日も、生きてほしい
器 陰陽由実 @tukisizukusakura
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