幼馴染達の嬉遊曲(ディヴェルティメント)。要注意! 甘味と恋バナはパンドラの箱を開く鍵。~終焉の謳い手~
柚月 ひなた
要注意! 甘味と恋バナはパンドラの箱を開く鍵
エターク王国は
ゼノンはその国の皇太子である。
王族は
ゼノンも、例に
現国王の
若くして〝救国の英雄〟に祭り上げられ、国民が
ゼノンとルーカスは幼少期を共に過ごして育った兄弟、もしくは幼馴染や友人と呼べる間柄で、彼らにはもう一人、共通の
——夕暮れ時。
ゼノンが一日の職務を終えて、王城にある自室の扉を開けると、ある男がソファでくつろぐ姿があった。
「よっ、お邪魔してんぞー」
乱雑に切り揃えられた燃えるような赤い髪に、切れ長で三白眼な
国の政治を総括する
彼こそが、ゼノンとルーカスの幼馴染だ。
「
ディーンが日焼けした肌の影響でより白く見える歯を
そうした後に、持っていた菓子の包みを開けると口へ投げ入れ、
ゼノンがテーブルの上へ視線を向けると、どこから持ち込んだのか、どれほどの時間そうしていたのか、空となった大量の菓子折り箱と包み紙が散乱している。
ディーンが無類の甘い物好きなのは知っているが、軽く引く量だ。
第三者が見たら、幼馴染と言えど
案の定、ゼノンの護衛に就いた二人の騎士が、
だが、ゼノンにとっては別段珍しくもない光景であり、護衛の騎士達に〝ある指示〟を伝えると、彼らを外に残して部屋へ入った。
「ディーン。いつ帰って来たんだい?」
「少し前になー。ほれ、お
ゼノンが対面のソファへ移動しながら問い掛ければ、ディーンが何かを投げて
受け取ろうとした手へ、狙いすましたように投げ入れられたそれは、箱だ。
片手で持つには少し大きめの、白くて四角い箱。
上部に〝ル・モンド〟のロゴが
ル・モンドはディーンが任務に
ゼノンはこういった方面に明るいが、特定の
これを見て真っ先に思い浮かんだのは——救国の英雄と呼ばれる、
「ありがとう。これは、ルーカスが好きそうな品だね」
「だろ? あいつ酒はダメだからさ、帰って来た時にそれで一杯どうかなって。
銀髪の歌姫と上手く行ったみたいだし、そこんとこも詳しく聞きながらなー」
「……何それ、私は聞いてないけど」
銀髪の歌姫は、ルーカスがある任務の
その正体は——さる国の要人だ。
ルーカスが彼女へ想いを寄せていた事にはゼノンも気付いていた。
(というか、ルーカスは彼女の事となると周りが見えなくなるから、察していた人間は多い)
しかし数日前、大部分の記憶を取り戻した彼女を
仲が進展したなら、その時に一言あってもいいだろうに——と、ゼノンが眉を
「知らなかったのか? てっきり知ってるもんだと。団員の前で盛大に告ったらしいし」
ルーカスとディーンは同じ団に所属している。
彼らの所属する
今回の件は団長という立場にある、ルーカスの弱点と成り得るため尚更。
だが、
「私にそんな大事な話を秘密にするなんてね」
「あー、まあ……あっちも任務中だし、忙しいんだろ?」
「君には話したのに?」
ディーンが押し黙って顔を
心底面白くない。
信用されていないのでは? と、疑ってしまいそうになるが、
ひとまず、ゼノンはそう結論付ける事にした。
——しかし、悪気がないとわかっていても、
「今度会ったらじっくり、問い
ゼノンは
「……ルーカス、ご
「何か言ったかい?」
「いやぁ、別に」
視線を
これに関しては完全にルーカスが悪いだろうと、ゼノンは思った。
ともあれ、救国の英雄と呼ばれるルーカスと彼女が恋仲になったのは、喜ばしい
身内としても、素直に嬉しい出来事だった。
「——でも、内心複雑だったりするか?
妹の……カレンの事を思えばさ」
笑みを消して真顔となったディーンが、探る様に
カレンはゼノンの妹。
ルーカスに想いを寄せており、一途な気持ちを伝えて晴れて婚約者となったが——彼が英雄と呼ばれるきっかけとなった戦で、亡くなっている。
生きていれば、今ルーカスの隣にいるのは〝彼女〟ではなくカレン——。
その死の悲劇には、ルーカスも長らく苦しんでいた。
兄として、妹が成し得なかった事への未練や後悔はないのか、と。
ディーンが言いたいのは、つまるところそういう事だろう。
ゼノンは妹の事を今でも大切に想っている。
あのような形で
「……
それはあの子も望まないだろう。
きっと、
カレンは人を
「そうか。なら、ルーカスには幸せになってもらわないと困るな」
ディーンが
この幼馴染は普段、
——それはそれとして。
今回はディーンにしてやれた感が強い。
何となく
「ところで、ディーン。これで幼馴染の内、
「よし!
話題を振るや即座にソファから立ち上がった幼馴染。
だがゼノンは逃がさない。
眼光
「そう言わずに。夕食の席を共にすると
君も
相手に困っているなら、私が
ゼノン自身も、他国の王女と政略結婚であったが、その仲は良好。
実体験だ。
ディーンが自身のポリシーに従って独り身で居る事は重々
——冗談半分だったがよくよく考えると今後のため、アシュリー侯爵に恩を売るのも悪くないと思えて来て、ゼノンはほくそ笑む。
「おいおい、お前、顔が
「親友よりも
一切の
「——この、人でなし! 腹黒王子!!」
叫び声は扉を突き抜けて廊下に響き渡っており、数秒後、扉を開けて入って来た護衛の騎士達にディーンはお小言を言われる事になる。
お土産の箱を届けに来ただけなのに、ディーンにとっては飛んだ災難、ゼノンにとっては
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