2ゴーレムさんに出会った!!硬化b


「う、うわあ」


 小柄な男が渾身の力を込めて振り下ろした剣は、いとも簡単に中央からぽっきりと折れて刃先は回転して飛んでいく。小柄な男は折れた剣の柄を震えながら見つめる。


「ご、ゴーレムだ! 石の様な硬い体、黒目よりも白目のが面積の広い三白眼、何を考えてるのか分からない虚ろな瞳、こいつはじっちゃんが言ってたゴーレムだ! わー」


 三白眼がゴーレムの特徴などと聞いた事も無いが、小柄な男は剣の柄を放り投げ、本当にわーと言いながら一目散に逃げだした。賢明な判断だろう。


「きゃあっ離して下さい」


 目を離した隙に今度は最初に各所の骨を粉砕された大男が、片膝をつき片足を引きずり、片腕をダランと垂らしながら、苦悶の表情で少女を抱き寄せ、細い華奢な首を折る体勢に持ち込んでいる。少女よ何故いとも簡単に捕まる?と少年は少しイラッとした。


「へ、へへ、この子の可愛い首を折られたくなかったら……」


 大男が最後まで語るまでも無く、無言で少年は掴んでいた子分格の男の首をそのままぶんと投げ捨て、飛ばされた男は木の幹に頭を下に激しく背中を打ち付けられると、気を失いそのままズルズルと頭から地面に落ちる。


「お、おい聞けよ」


 構わず少年は小柄な男が投げ捨てた剣の柄を無造作に拾うと、野球のピッチャーのフォームで両手を振りかぶり、片足を上げた。


「聞けーーー!!」


 大男がぶち切れて後先考えず腹いせに少女の首を折ろうとした瞬間、少年は冷静に無言で剣の柄を美しいフォームで素早く投げつけると、どすっと柄頭が大男の額に突き刺さり、大男は白目を剥いてどさっと倒れこんだ。


「あ、あ、あああ」


 眼前で恐らく大男が死ぬ瞬間を見た少女は、感謝どころかこの無機質な少年ゴーレムが、今度は自分自身に怒りが向かい何かするんじゃないかと恐怖で腰が抜け、逃げ出す事も出来ずにガタガタ震えた。


「これは……もう売り物になりませんか?」


 しかし少年は身を屈め、地面に散らばったポーションの割れた瓶などをかき集めていた。少女は少年がすっかり怒りの表情が消え、元の肌色に戻っている事に気付いた。


「あ、あの……ご、ゴーレムさん? ありがとう。でもそれはもう……だめだと思うの」


 少女は勇気を振り絞り、ゴーレムと呼ばれた少年にお礼を言った。少年、元デパートで今ゴーレムと呼ばれた者が振り返ると、ちょうど木々の間から陽光が差し込み、金色の髪を一層きらきら輝かせた。その下には緊張から解放され、目を潤ませながらも柔らかく微笑む少女の顔があった。


(……これが、私が飛ばされた異世界?)


 少女にゴーレムと勘違いされた少年は、自分自身が此処までに辿った道を思い返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る