ゴーレムさんに出会った!! 硬化b .


「う、うわあ」


 三番目の気弱そうな小柄な男が渾身の力を込めて振り下ろした剣は、いとも簡単に真ん中からぽっきりと折れて刃先は回転して飛んでいく。小柄な男は折れた剣の柄を震えながら見つめた。


「ご、ゴーレムだ! 石の様な硬い体、黒目よりも白目の方が面積の広い三白眼、何を考えているのか分からない虚ろな瞳、こいつはじっちゃんが言ってたゴーレムだ! わー」


 三白眼がゴーレムの特徴などと聞いた事も無いが、小柄な男は剣の柄を放り投げ、本当にわーと言いながら一目散に仲間を捨てて逃げだした。賢明な判断だろうが、いつかこの男は主人公の少年少女と再会する事になる。




「きゃあっ離して下さい」


 目を離した隙に今度は最初に各所の骨を粉砕された大男が、片膝を着き片足を引きずり片腕をダランと垂らした痛々しい姿ながら、苦悶の表情を浮かべつつも少女を抱き寄せ、すかさずか細い華奢な首をへし折る体勢に持ち込んだ。それを見て少年は少しイラッとした顔をする。


「何故……また捕まる趣味か?」

「ごめんなさいまた……助けて下さい」


 少女は首根っこを掴まれたまま哀願し、少年は眉間にシワを寄せた。


「へ、へへ、この子の可愛い首をへし折られたくなかったら……って無視するなよっ!」


 自分が居ないかの如くに普通に会話をする二人にイラッとした大男が最後まで語るまでも無く、少年は無言で掴んでいた子分格の男の首をそのままぶんと投げ捨て、飛ばされた男は木の幹に頭を激しく打ち付けられると、気を失いそのままズルズルと頭から地面に落ちてしまった。

 ドタッ


「お、おい聞けよ」


 だが一向に構わず少年は小柄な男が投げ捨てた剣の柄を無造作に拾うと、野球のピッチャーのフォームで両手を振りかぶり片足を上げた。


「聞けーーー!!」


 大男がぶち切れて後先考えず腹いせに少女の首を折ろうとした瞬間、少年は冷静に無言で剣の柄を美しいフォームで素早く投げつける。

 ビュッ!!

 直後どすっと柄頭が大男の額に突き刺さり、大男は白目を剥いてどさっと倒れこんだ。


「あ、あ、あああ」


 眼前で大男が倒れる瞬間を見た少女は、感謝どころかこの無機質な少年ゴーレムが、今度は自分自身に何かするんじゃないかと恐怖で腰が抜け、逃げ出す事も出来ずにガタガタ震えた。




「これは……もう売り物になりませんか?」


 しかし少年は身を屈め、地面に散らばったポーションの割れた瓶などをかき集め始めた。少女は少年がもはやすっかり怒りの表情が消え、身体も元の肌色に戻っている事に気付いた。


「あ、あの……ご、ゴーレムさん? ありがとう。でもそれはもう……だめだと思うの」


 少女は勇気を振り絞り、ゴーレムと呼ばれた少年にお礼を言った。その言葉に元デパート建屋九十九神つくもがみで今この異世界でゴーレムと誤認された少年が振り返ると、ちょうど深い森の木々の間から陽光が差し込み、金色の髪を一層きらきら輝かせた。その下には緊張から解放され、目を潤ませながらも柔らかく微笑む少女の顔があった。


(……これが、私が飛ばされた異世界のニンゲン?)


 その瞬間、少女にゴーレムと勘違いされた少年は、自分自身が此処までに辿った道を思い返した。

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