第3話 ゴーレムさんに出会った!! 3 スターマイン

 ―現代日本。


 今夜はガラス窓の外側、遠く向こうが騒がしい。浅い眠りの中、道路がある方から感じる振動や、ざわつく気配に多少の嫌気が差してきた。でも煩わしくて何が起きているのか、わざわざ調べる気もしない。ただいつもの夜の様に深く眠る為、再び心のスイッチをオフにしようと努めた。


 まだ肌寒い季節、深夜の日本海側某県幹線道路、赤く点滅する誘導棒を持った警備員が一定間隔ごとに立ち並び、道路に何者も入る事を拒んでいる。その中を守られながら大きなタイヤが何輪もある巨大なトレーラーが、荷台に何トンあるのか判らない大型ロケットを搭載し、人がゆっくり歩く様な速度で進んでいく。どこで情報を得ているのか、こういう物が好きな人種なのだろう、所々長いレンズの付いた黒く大きなカメラを両手に構え、神妙な面持ちで撮影している人達もいた。


「この辺りは市街をかすめる、常時周囲に気を抜くなよ」

「そうスね」


 上司ぽい中年男が若手部下ぽい運転手に注意を促すが、若い運転手は歩く様な速度で進む大型トレーラーに何の恐怖も警戒心も抱いていないのか、上司の言葉をうわの空で返事している。


「え、今の何?」

「何だ?」


 2人が同時に何か言ったが、それは二人同時にハンドルや計器周辺に、小さな星の瞬きの様な物が流れながらチカチカ光ったのを見たからだった。実際にハンドルを握っている方の若い部下は、指揮者が指揮棒を振る様な、流れる光の線すら見えた気がした。


「ややばいです、急にハンドルもブレーキも効かない! アクセルも踏んでないのにぐんぐん進んでる」


 唐突に運転手が先程とはうって変わり、切羽詰まった表情で悲鳴の様な声を上げる。


「サイドブレーキを引け!」

「動きません!!」


 こわばる表情の二人を無視して、大型トレーラーは下り坂でも無いのにさらにぐんぐんスピードを上げる。当然道路で誘導棒を振っていた警備員達も騒ぎになり始め、無線で本部に連絡する者、なんとか走って追いかける者など、現場は混乱をきたし始めた。


「あぁ曲がり切れない、ヤバイもうルート外れそうです!」


 若い運転手が効かないブレーキを突き破る勢いで強く踏み締め、ハンドルをぐりぐり動かしまくるが、無情にも当初とてもゆっくりのスピードで曲がる予定だった交差点を無視し、コーンを何個も弾き飛ばしながら幹線道路から市街の一般道路に出てしまった。このままでは市街中心部に入り込んでしまうだろう。もし市街中心部で衝突、爆発事故でも起こせば目を覆うような大惨事になりかねない、二人の脳裏に最悪の事態がよぎり顔面蒼白となった。


「あっヤバイっ! だめだっっ轢く!」


 暗闇の中ヘッドライトに浮かび上がる、コンビニ袋を持った黒髪の少女の驚愕し凍り付いた顔。いつもの様に深夜のコンビニで買い物を終えた少女は、横断歩道を渡ろうとしていた瞬間だった。とっさに若い運転手は効かないと判っているブレーキを、足が折れそうな程の物凄い勢いで踏み潰し、ハンドルを少女とは真逆の左に全開で切った。


「いやっ」


 全て一瞬の出来事、眩しさと恐怖に少女が立ちすくむまま顔を片手で隠すと、キキキーと甲高い大きな音を発し、何故か突然復活したブレーキとハンドルの作用で、右側のタイヤが重力を感じさせない動きでふわりと浮き上がり、トレーラーは左に横転し暗闇にバチバチと火花を散らしながら、ザザザギャギャギャーと複雑に鉄と道路が擦れ合う音を響かせ滑り抜けて行く。少女のぎりぎり眼前を普段は見えない巨大なトレーラーの腹側が流れてゆく。

 が、それだけでは済まなかった。荷台に載せられていた『大型のロケット』を固定していたワイヤーも拘束台も簡単に破断して、載せられていたロケットがトレーラーから分離し、車体を追い抜かし軽々とすっ飛んでいく。そしてロケットは、運悪く事故現場真横にあったリニューアル工事中で覆いをしてある『砂岡デパート』の一階入り口付近に殴り込む様に突入した。


「伏せろ!」


 いつの間にか右側のドアから飛び出し、着地した運転手と上司の二人。呆然と突っ立ったままのコンビニ袋の少女を、タックルする勢いで抱き着くと、二人で覆い被さる様に次に予想する爆発から庇った。


「ギャーーー何!?」


 少女が叫んだと同時だった、一瞬真昼の様な激しい真っ白い閃光の直後、地響きその物の腹にズンと来る凄まじい大音響と振動と共に大型ロケットが大爆発した。3人からは横転車体で遮蔽され見えないが、フロントガラスは一瞬で飛散していた。

 ドドーーーン! ドドドドドドドーーン!!

何回にも渡って轟音が繰り返される。男二人は必死に背中を向けて防御していたが、そのかすかな隙間から少女は夜空を見上げて眺めてしまっていた。ただランダムなロケット燃料だとか火薬の事故的な爆発というよりも、花火大会の最後の打ち上げラッシュ『スターマイン』の様な不思議な色とりどりの閃光が次々上がるのを。


(綺麗………………)


 少女が軽く不謹慎な感慨を感じていた時、大轟音と振動と爆炎の中で大正時代に建設され創業百周年を迎え、リニューアル工事の真っ最中だった砂岡デパートの、まるで宮殿の様と言われていた大理石造りの豪華な建築物は、あっさり完全崩落していた。


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