第17話 報酬の大金を貰ってしまった…
天井がやたら高い石造りの立派な広い玉座に通されると、見えない程一番奥に王様らしき人、その横には七華王女。その両側には沢山の貴族や大臣などが待っていた。この人々はもちろん感謝の為では無く、村での戦闘で異常な強さを見せたという噂の化け物が見たいだけだった。けれども眼前にあるのは普通の一五歳程度の少年少女、しかも少女の方は村娘とは言えお姫様の様に美しかった。あちこちからざわつく声が。
「こちらへ」
七華王女が言うと、お付きの者が指定位置まで連れて来る。先程より幾分か接近した。すぐに『しゃがんでしゃがんで』のジェスチャーを繰り返すお付きの者。慌てて二人は片膝ついて畏まった。フルエレは砂緒が妙な行動をしないか冷や冷やしていたが、本人は紳士気取りなので、こういう場に至って順応していた。
「ライグ村での戦闘において敵を撃退し、平和をもたらしたこの二人の旅の者に父王より代わってお礼を言います。ありがとう。」
「……」
どうすれば良いか分からず二人はじっと固まり続ける。
「ふふ。よって、この二人の者に感謝の印として二つの贈り物を用意させました。一つは領地こそ与えられませんが騎士の称号、もう一つは一億Nゴールドの報酬金を与えましょう。どちらか好きな方を選びなさい」
表情を殺していた七華王女の顔が一瞬、微笑になっていた事をフルエレは見逃さなかった。
(いいいいい、いちおくエヌゴールド!? 凄いお金)
フルエレはびっくりしてさらにどうして良いか分からず、頭が真っ白になって来ていた。
「バカにしているのか!!」
突然砂緒が大声を上げた。フルエレがぎょっとして砂緒を見る。
「お金に決まっているだろう!! そんな騎士の称号なんて選ぶ者がいる訳が無い。常識で分かる事をいちいち聞かないで頂きたい。 さ、早く金をくれ」
凄まじくピシッとした姿勢で掌を差し出す砂緒。その場にいる全員がポカーンとした直後、あちこちからクスクスゲラゲラ笑い声が。七華も洋扇で口元を隠し小さく笑い続けている。フルエレは赤面して下を向いていた。
(勝った! やはりどんな力があっても庶民は金で動くのよ)
七華は自分でも気付いていなかった雪乃フルエレへの対抗心に一定の満足を得た。
控室。式典が終わり緊張が解け、清楚な衣装に似つかわしくなく、フルエレはがつがつと食事を摂っている。それに対し砂緒は割と落ち着いて静かに食べている。
「こ、これ凄い美味し~こんなの初めてよ!」
そんな時にお付きの者をはべらし、七華王女が入って来る。突然の来訪に固まるフルエレ。
「あ、いいのよ。いつもの様に振舞ってらして。それよりも、お約束の報酬をお持ちしましたわ。さてさて何にお遣いになるのかしら? 王都に豪華なお屋敷を手に入れられてもいいのよ」
お付きの者が、最高価値の金貨が沢山入った袋をどさっと置く。
「お前に言う必要は」
「やめー!」
大声で慌てて砂緒の言葉を遮る。
「そのお金は……砂緒が許してくれればだけど……村の戦ったみんなで山分けしようって、決まってからずっと考えていました。砂緒はどうかな?」
ちらっと見る。
「なる程、確かにフェアトレードという観点から言えば、あの馬とあの屋敷は釣り合いません。フルエレの言う通り兵士の給金と考えても正しい判断でしょう」
「良かった! 絶対賛成してくれると思った!!」
両手を合わせて喜ぶフルエレ。口には食べ物がいっぱい付いている。
「ま、まあ……む、無欲な事ですわね、見習わなければいけません事」
意表を突かれた様になった七華が控え部屋をそそくさと出ようとした時だった。
「あ、あの……王女は……七華さんは、
ぴしっと空気が割れる様な緊張が走る。
「なん……ですって……!?」
振り返った七華の顔には血管が走り、激怒の表情になっていたが、すぐに平静を装った。金で釣れたと思った飼い犬に噛まれた様な気持ちになっていた。
「うわ、すすすすすすす、すいません! 変な事言っちゃって、ごめんなさい」
「別に謝らんで良いでしょうフルエレ」
フルエレの言葉も聞かず、すたすたと退出する七華王女。二人は静かに激しく王女の怒りを買った。
「あれは何でしょう? フルエレ」
再び剣士に馬車に乗せられ、村に帰って来ると館の前で多くの人々が集まっている事に気付いた。二人が城に行っている間に、なんとおじいさん達や兵達が館の掃除をしてくれてたのだ。二人の帰還に気付き手を振り出した。
「こんな物でよいかな?」
「リュフミュラン王立冒険者ギルド?」
「いつから王立になったんですか? いいんでしょうか」
砂緒は先程の事もあって、大層な自称王立にさして嬉しさを感じていないが、衣図ライグが嬉々として指図して館の前に看板を立て掛けて行く。
「本当に有難うみなさん……これでやって行けそうな気がします」
雪乃フルエレは目に涙を貯めてみんなに感謝した。
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