最強おっさん、異世界に逃亡する~世界を救い過ぎて疲れたので女神の加護を奪って逃げだしたら、美少女ハーレムライフが待っていた~
あかね
序章
第1話 世界を救い過ぎたおっさん
「――倒した! ついに倒したぞ!! 人類の敵、魔王を!」
「流石は異世界から来た最強の勇者! お前がいれば人類は安泰だ!」
「うおおおおおお勇者万歳!!」
刃にべっとりと付いた血を乱雑に掃い、剣を腰の鞘に納める。
たった今、魔王を殺した。
人類とは異なる種族――魔族の王として、我々人類を支配せんとした悪だ。
死んで当然。だからこうして仲間たちは皆喜んでいる。
だというのにただ一人、俺だけが深いため息を吐いていた。
「おいおい、どうしたんだよ。ため息なんてついて。ようやく魔王を倒せたんだからもっと喜べよ」
「そうだそうだ。国に帰れば王様がたんまりと褒美をくれるって話だぜ!」
「いやぁ楽しみだなぁ! 早く帰ろうぜ!
男だらけのむさくるしいパーティ。
せめて可愛い女の子の一人でもいたらテンションが上がったんだがな。
だけど俺がため息を吐いたのはそんな理由なんかじゃない。
その理由は――すぐに分かるさ。
「ん? どうした勇者。お前の体、何か光ってるぞ?」
突如、俺の足下に魔法陣が展開され、そこからあふれ出た光が瞬く間に俺の全身を包んでいく。
逃れられない浮遊感。遠のく意識。
俺の体が世界から切り離されていくのを感じる。
「悪いなお前ら。残念だがここでお別れだ」
「は? それってどういう――」
「じゃあな」
最後に急ぎ足で別れの言葉を告げ、俺の意識は闇に落ちた。
そして次に目覚めた時、俺は眩い光があふれる天空都市にいた。
島を丸ごと空に打ち上げたようなこの場所は【天界】と呼ばれている。
果たして、ここに来るのは何度目だったっけな。
俺は再び大きくため息を吐きながらそのまま地べたへと腰を下ろした。
しばらく待っていると、神々しい装いをした美しい女性が一人。
「よくぞ魔王を打ち倒した。
「はぁ……もういい加減勘弁してくれよ。何度も何度も異世界転生を繰り返して人類の敵をぶっ倒すの、流石にもう疲れたんだが……」
「仕方がないだろう。神が直接世界に干渉するわけにはいかぬ。故に貴様のような神の加護を一身に受けて戦える強靭な魂の持ち主を使うしかないのだ」
「強靭つったって俺もうおっさんだぞ……? もっと威勢のいい若者に頼んでくれよ……」
「新しい器を探すのがめんど――貴様のような優秀な魂をたかだか数十年で手放すのは惜しい。故に貴様にはまだまだ働いてもらう」
コイツ面倒くさいって言いかけたよな。
ふざけてやがる。
そう。俺はこのクソ女神に「お前は最高の魂を持つ人間だ」と目を付けられ、滅茶苦茶な神の加護を詰め込まれた人間兵器としてあらゆる異世界を巡る
クソ女神曰く、何者かの手によってその世界の人間だけでは対処困難な邪悪な敵が生成される事態が発生しているらしく、そのために別世界の人間を神の使いとして送り込んで倒させているんだとか。
つまりその一人が俺っていう訳だ。
全く迷惑な話だ。
俺は地球で生まれたごくごく普通の学生だった。
しかしある日、不幸にも交通事故に巻き込まれて死んでしまったんだ。
その後魂を女神に拾われて、初めての異世界転生を経験した。
最初は勿論テンションが上がったさ。
所謂チート能力を持って異世界で無双するなんてそんなに楽しい第二の人生があるかと思ってた。
まあチート能力と言っても最初の方は俺が想像していたモノとは違い、ちゃんと努力しなければ扱えないようなものだったけれど。
実際前世よりもはるかに充実した体験ができたし、楽しかったよ。
でも楽しかったのは最初だけだった。
女神がターゲットに定めた敵を倒したらその瞬間強制的にこの天界へ引き戻され、次の世界へ向かわせられた。
それまで付き合ってきた仲間や友人たちに別れを言う間もなく、だ。
勝利の余韻に浸る間もなくまた新しい敵を倒すために奮闘しなければならない
そんな現実が待ち受けていた。
気が付けば俺も歳を取り、すっかりおっさんになってしまった。
女神の加護を受けすぎたせいで老化が遅くなっているのは間違いないが、いろいろな世界を巡ったせいで感覚が狂って正直今何歳だったかは分からない。
ただ鏡に映る俺の姿は間違いなくおっさんそのものだ。
「話はこれまでにして、早速次の世界へ送るとしよう。今回も良い働きを期待しているぞ」
「へいへい。どうせ嫌だって言っても強制的にやらせるんだろ?」
返事はなかった。言うまでもないといった顔だ。
そんな訳で俺は休憩する間もなく新しい世界へ送り込まれた。
そして――
「――やっとくたばったか。クソしぶとかったな……」
俺は新たな世界で一人、半年ほどの時間をかけて邪竜王と呼ばれる凶悪なドラゴンを討った。
今回は共に戦う仲間はいない。
何故か回数を重ねれば重ねるほどターゲットの敵が強くなっていくのでなかなか苦労したが、今回一人で挑んだのは理由がある。
例によって、俺の足下に魔法陣が展開され、神々しい光が俺を包み込む。
お迎えの時間だ。
「じゃあな」
離別の言葉。
それはこの世界に対しての言葉ではない。
俺は目を瞑り、意識を深く集中させる。
この身を包み込む邪悪な光を拒絶するように。
「――クソ女神」
己の口角が自然と上がるのが分かった。
俺は成功を確信し、内心でざまあみろと呟くのだった。
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