箱の中
〇
箱の中から
箱の中にいる。
少し寒い箱の中にいる。
さて、今日は何をしよう。
天井を見上げると、上の方から雨の音が聞こえるような気がする。
雨はどこか気分が沈む。
水の流れる気配が箱の横を通り過ぎていった。
横に意識を向けると、箱の向こうのお隣さんが、少しだけ笑っている。
箱の中にいる。
今日は少し暖かい。
箱の上は晴れているのだろう。
さて、今日は何をしよう。
ここ数日は雨だったから、晴れるのは久しぶりだから。
天井の向こうの空はどうなっているだろう。久しぶりに記憶を探る。
思い出の中の空はとても遠くて、灰色をしていて。
白いノイズがゆっくりと、ただゆっくりと風景を埋めていく。
箱の下はきっと、きらきらと鈍く照らされた白い欠片で埋め尽くされているだろう。
この箱もきっと、まわりを白い欠片に覆われているだろう。
どこまで覆われているだろう。天井まで? 横の壁まで?
横の壁の向こうにはお隣さんがいる。
軽く会釈をする。お隣さんは少しだけ笑っている。
箱の中にいる。
今日は少々冷えるような気がする。
さて、今日は何をしよう。
こんなに寒いということは、箱の外は冬なのかもしれない。
そろそろ冬支度を始めないといけないかもしれない。
きっとあの白い欠片が、白く霞む残像が箱を包むように覆ってしまう。
目と鼻の先にある天井の、その向こうを重く覆ってしまう。
手を動かせばすぐに触れられる横の壁を暗く覆ってしまう。
お隣さんも困るだろう。自分の分が終わったらお手伝いをしよう。
横のお隣さんはいつものように少しだけ笑っている。
箱の中にいる。
空間がとても冷えている。
きっと冬が来た。
さて、今日は何をしよう。
箱の周囲が少しきしんでいるような気がする。
箱の周囲の水が凍っているのかもしれない。
このままだと手が凍るかもしれない。足も凍るかもしれない。
冷たいのは少し苦手だ。
早く冬が終わるよう、真っ暗な箱の中で祈ってみる。
そういえば、祈りの時は手を合わせていたような気がする。
久しぶりに手を動かしてみようか。
真っ暗な箱はちょうどいい大きさで。
あつらえたようにぴったりで。
手は動かない。足も動かない。
動く隙間もない。
そう、きっとお隣さんもぴったりの箱に入ってて。
そして。
そして。
少しだけ笑っているんだ。
箱の中にいる。
箱が少し揺れている。
箱を包む暗い黒い世界が揺れている。
前にもあった。確かにあった。
ずっと前にお隣さんが来た時もこんな感じだった。
空気が沈んでいて、箱が揺れていて、誰かが祈っていて。
誰かが泣いていて。
箱の横に新しいお隣さんがゆっくりと降りてきた。
ようこそ、歓迎するよ。
ようこそ、どこにもいけないここへ。
ようこそ、いつまでもどこにもいけないここへ。
まずは少しだけ笑おう。
それだけでいいんだ。
箱の中にいる。
昨日はずっと箱の中にいた。
明日もきっと箱の中にいる。
さあ、今日は何をしようか。
箱の中 〇 @marucyst
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