第2話 不幸の始まり

 出産予定日よりかなり早く、赤ちゃんは産まれてしまった。現代の医療でもどうすることもできないほどの小ささで、産み親の海でさえ泣き声を聞くことができなかった。

 くしゃっとした顔の小さな命を、そこにいる誰も守ることができなかった。


 海はもう、親になることはできないと思った。

 病院では多大な配慮がなされた。なるべく健康な赤ちゃんの声が聞こえないように、なるべく幸せそうな他人が見えないように。


 海は数日間、病室でぼうっとしていた。二人が病室に来ても、どこかぼうっといていた。大好きだったバラエティ番組も今の海にとっては苦しいものだった。

 母親として過ごした過去と、子どもを奪われた現実に海の心はついていけなくなってしまっていた。


 海は病院内の精神科でカウンセリングを受けながら自分に合う薬を探していくことになった。カウンセラーに自分の思いを曝け出した。

 あまり感情的ではなく、むしろ通常の海と比べると冷静とも言える話し方だったが、話している間涙は止まらなかった。もう自分はダメだと、海は諦めきっていた。


 朔、修斗の二人はよく話し合いをした。海の笑顔を取り戻したい、また笑ってほしい、その一心だった。

 二人はある計画を練った。

 内容は海にもう一度核を入れ、孕ませようというものだった。二人は海の出産後翌々日から仕事に戻ったが、二人とも海ほどではないが精神的には参っていた。もう一度海が子どもを産んでくれれば、小さな命が再び戻ってくると本気で信じていた。


 海は産後一週間ほどで自宅に戻り、精神科にだけ通うことになった。約三ヶ月後、二人は計画を実行した。核に関する手続き、健康診断などは第二子からは必要なく、三人のうちの誰かが身分証明書を持って病院に行くだけで受け取れてしまう。


 久しぶりの性行為は極めて優しく行われた。海は不意に泣き出すこともあったが、二人から伝わる体温に酔って、終始幸せそうだった。小さく柔らかい核はすんなりと入り、海の表情に変化はなかった。全くバレることなく計画は成功し、恐らく子どもも生まれるはずである。

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