箱推しなんてやめて、私だけを推してよね?
華川とうふ
幼馴染 江戸川歩夢の告白
俺はとあるアイドルグループの箱推しをしている。
アイドルグループの名前は『ディテクターズ』。
今はまだグループとして小さいが、最近売れてきていてテレビにまで出るようになった。
箱推しっていうとアイドル好きによってはあまりいい顔はされないかもしれない。
DD、誰でも大好きと影で非難されることもある。
だけれど、俺は自分がディテクターズを箱推しをしていることに誇りを持っている。
「俺はDDD、ディテクターズの誰でも大好きだ!」
そう言いながら、今日も三色のサイリウムを振りかざす。
そもそも、俺は別に子供の頃からアイドルが好きだったかというとそういうわけじゃない。
ただ、俺の幼馴染がアイドルになりたがっていたのだ。
小さなころ、女の子に遊びに付き合わされるとしたらままごとが普通かもしれないが、俺は違った。
俺の幼馴染はアイドルごっこをしたがった。
そのおかげで、俺はアイドルの振り付けも、ファンとしてサイリウムをもってオタ芸を打つことも、マネージャーのごとく冷静にスケジュール管理することも色んな役を自由自在に演じることができる。
今思うと、子供にしてはずいぶん高い水準を求められたものだと苦笑いしてしまう。
だけれど、公園の地面に書いたステージの上でも本物のアイドル様に輝き、滑り台の上から手を振る幼馴染の姿が本当のスターみたいだった。
俺が箱推しをする理由を勘のいい読者ならお分かりいただけだろう。
箱推しをするのはわけがある。
そう、俺の幼馴染の夢をかなえるため。
いつかアイドルとしてドームに立つには、一人だけの人気じゃかなわない。
アイドルグループとして全員が輝いていないといけない。
それくらい彼女の夢は特別でミッションインポッシブルなのだ。
「ねえ、あっくん聞いてる?」
ちょっとだけ拗ねた声が、鼓膜を甘く震わせた。
ああ、いけない。
ちょっと物思いに耽ってしまっていた。
今俺は箱推し、しているアイドルグループ『ディテクターズ』のリーダー、江戸川
さらさらと長い黒髪にダイヤモンドを宿した大きな瞳。
いかにもアイドルと言った人懐こい微笑み。
模範的なアイドル像が江戸川歩夢の特徴だ。
アイドルになるべく生まれたという容姿がぴったり。
小さなころからアイドルが大好きだった。
そう、俺の幼馴染だ。
「えっ、きいてる。きいてる」
本当は昔のことに思いをはせていたなんていったら、「もうっ」なんていってちょっと唇をとがらせて怒ったふりをして許してくれることはしっている。
だけれど、真面目な歩夢はそんなことをすればあとでこっそり悲しむのを俺は知っている。
幼馴染だから。
真面目でまっすぐなのは、小さなころから変わらない。
「そう、よかったあ」
俺が聞いていたと思ってくれたのか、歩夢はほっとした表情をした。
そういえば、さっきまでいつもよりも緊張した表情をしていた。
「じゃあ、約束してくれる?」
歩夢はそういって、小指を立てて俺の胸の前に突き出した。
ゆびきりげんまんか、懐かしい。
子供の頃はよくこうやって約束した。
俺はなんのことかいまいちはっきりしないまま、歩夢の小指に自分の小指を絡める。
「「ゆびきりげんまん、うそついたら、はりせんぼん、のーます!」」
つい、昔ながらの癖で歩夢と一緒に声をそろえる。
ああ、懐かしい。
歩夢の小指が記憶の中のものよりも華奢であることにドキドキした。
しかし、俺は一体なんの約束をしたのだろう?
まあ、歩夢のことだから無茶な約束はさせないはずだ。
歩夢は指切りげんまんの儀式を終えると、嬉しそうに笑った。
いつも、模範的なアイドルスマイルばかり見ていたので、素の歩夢を久しぶりに見たような気がした。
「じゃあ、約束ね! いつかドームでのライブが決まったら、箱推しをやめて、私だけを
歩夢は嬉しそうに飛び跳ねた。
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