万能の箱 (KAC20243)

歩致

第1話

これからお話するのはとある箱についてのお話です。少し長いかもしれませんがお付き合いください。



その日、人類は世紀の大発明をしました。特に何ともない平凡な日だったはずのその日は何十年後も何百年後も忘れられない日になったのです。


その発明とは簡単に言ってしまえば玉手箱のようなものでした。ただし皆さんが想像するであろう開けたら老化する完全に悪意しかないんじゃないかと思える小さな箱ではありません。その箱は人が一人だけ入ることのできる長細い箱で、その箱に入って24時間待つだけでほとんどの治療不可能と言われた難病も、致命傷だって息さえあれば直してしまうというとんでもない箱でした。


それのどこが玉手箱かって?

この箱の内部は時間がねじ曲がっていて詳しい原理は発明した本人すらよくわからないらしいですが、中で何年も時間が経つため病気であればその病気に対する耐性のようなものが生まれ、傷であれば自然治癒で治るのではないかと推測されています。当然何年も内部で時間が経つので中に入った人間は老化しますが、なぜか箱から出ると個人差はあるものの半年程度だけ老化しているらしいのです。不思議ですね。


発明した本人がよくわかってないなんてとんでもなく危険なものに思えますが、この箱で実際に何人もの人々を救っているのですから年だけとって他人の足を引っ張ることしかできないような政治家や、自分の理屈だけ信じ切っているもはや害悪なのではとすら思えるような活動家や宗教団体も箱を称賛する世論の動きには勝てずほとんど自滅のような形で表社会では見なくなっていきました。


しかし、この箱にも明確な欠点がありました。この箱は発明者すらよくわかっていない原理で動いているので同じものを作ることができなかったのです。当時この箱を再現しようとすべての国が団結して再現しようとしたほどでしたが、この箱の原理は意味不明でどうして動いているのかすら分からず、再現不可能ということが分かっただけという結果に終わりました。


その後この箱を巡って世界中の国は会議を何日も何か月も行い、すべての国の箱による治療を希望する人々のリストを作って毎日の抽選によって箱で治療を行う人間を選ぶということで合意しました。


ここで皆さん少し想像して欲しいのですが、もしもあなたの時代にこんな箱があったとしたら権力や貧富の差に関わらず全ての人類がこの箱による治療を受ける権利を手にできたと思いますか?

では休憩も兼ねて考える時間を3分上げます。お昼時の方はカップラーメンにお湯を注いでから考えると良いでしょう。ウルトラマンに変身する際は必ず戻ってきてください。


何もすることが無いという人のために小話なのですが、このとんでもない発明をしたのは日本人の冴えない青年で名前を調贄和人ちょうし かずひとといいました。本人曰く冷蔵庫を作ろうと粗大ごみになっている家電製品の部品を集めて何とか形にしたらこんなものが生まれていたそうです。バカと天才は紙一重とはよく言ったものです。







では正解ですが、答えは単純明快ノーです。簡単すぎましたか?

国によって細かな違いはありましたがどれも箱による治療を行う人を抽選するリストに名前を入れるには多額のお金と、国の上層部へのコネなどが必要でした。もちろんこんなことを堂々と言っているわけではありません。まず抽選リストに世界中の治療が必要な人の名前を入れれば管理が大変になるのでまずそれぞれの国でリストに名前を入れる人間を抽選し、それによって選ばれた人の名前をリストに入れようということにしました。

あくまでこれは建て前で実際のところは権力者や財産を持つ人間を優先的に治療するための仕組みでした。そのため、箱による治療待ちのリストにはいつも政治家や富豪の親族といった人々の名前が記載され難病に苦しむ多くの人々の名前はほとんどありませんでした。ほとんどというのは富豪や政治家の親族たちがいつも病気ということはないのでちゃんとした抽選ですよというアピールも含めて難病患者の人も何人かはリストに載せられていたのです。



それではこの箱を巡るお話ももうそろそろ終わりです。ここまで付き合っていただきありがとうございます。あと少しだけ聞いていってください。




先ほどまで話していたこの箱のリストですが、ある日権力者たちの不正がばれてしまいます。きっかけは酒で酔っぱらった日本の政治家たちの会話でしたが、それをたまたま聞いていた少女のSNSへの投稿から瞬く間に世界中に広まりました。もみ消そうにも気づいた時点でもう遅すぎました。これにより他の国でも同じことが起こっているのではないかとそれぞれの国の上層部が民衆の非難を浴びることになりました。

世界の国々は日本を責めましたが民衆の怒りはもはや止まることはなく、当時の国の政治家のほとんどは辞職することになりました。これは意外にもいい結果となり、言葉だけではない国民が主体となった政治が実現されたのでした。


話が逸れましたが、騒動の中心となったあの箱はとある人物が治療を行った際に死亡したことによって安全性が問題視され廃棄されることが決定されました。様々な議論の末の決定ですが人類には過ぎた代物なのではないかという疑念はもとよりあったのでそれほど長い議論にはならなかったようです。

そして箱は世界中に配信されながら粉々に砕かれた後溶鉱炉で溶かされ、鉄の塊となった後このことを忘れないようにとモニュメントになりました。このモニュメントですが箱の発明者の家の跡地に置かれ修学旅行先に人気となりました。


お話はこれで終わりです。ありがとうございました。





これは余談ですが箱は壊される前にすでに機能が失われていたという噂があります。まぁ都市伝説レベルの噂ですので信じるも信じないもあなた次第というものです。

それとあのモニュメントにはなぜか花束が置かれているそうです。いつ誰が置いたものなのか不明ですがそれを見た人も花束を置くのでたくさんの花に囲まれた鉄の箱と言う何ともシュールな見た目となっているようです。


長いお話に付き合ってくださってありがとうございました。調贄継華ちょうし けいかでした。

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万能の箱 (KAC20243) 歩致 @azidaka-ha

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