第15話

「ちくしょう!なんだってんだよ、ヴォルスの野郎!」

「まあ、落ち着け。払うもんは払って貰った以上、手出しは出来んからな」

「お前らはまだ良いじゃねえか・・・俺なんてネコって奴に腕を斬られたんだぞ?」

「だが、ヴォルスの奴と親しかったのなら丁度良いかも知れないな」

「・・・あん?どういう意味だ?」

「ヴォルスは前から邪魔だったからな。この場で消えて貰おう。

 あのネコって奴のせいにしてな」


 俺は屋上から、こっそりと奴らの計画を聞きながら携帯電話で相棒に連絡する。


「よう、相棒──おいおい。話を聞く前に切ろうとすんな。実はちと、面倒臭い話になってきたんでな。力を貸してくれないかなっと」


 ───


 ──


 ─


 私は今日も今日とて簡単な依頼をこなし、報酬を受け取って帰ろうとする。

 そんな私の前にこの世界に似つかわしくないスーツを着たサングラスの男性が佇んでいた。


「仕事帰りに失礼するぞっと」

「・・・何か御用でしょうか?」

「まあ、そう警戒してくれるなよっと。実はあんたに用があるんだが、その前にデカい仕事が入ったんでな。ちょっと協力して欲しいんだ」

「・・・断れば?」

「別に断ってくれても構わないが、あんた自身やその周りにも関係ある事だ。

 まずは騙されたと思って聞くだけ聞いてくれ」


 私は臨戦体勢のまま、彼の話に耳を傾ける。


「まずは自己紹介しておくぞっと・・・俺の名前は八織レオ。八織探偵事務所ってのをやっている。あんたはネコさんって呼べばいいか?」

「・・・お好きなように」

「どうやら、機嫌が悪そうだな?・・・俺が見かけたあいつらのせいなのかも知れないが・・・ならよう、尚更、俺の話を聞いた方が良いぜ?」


 彼はそう言うと煙草に火を点け、一服してから私にそれを突き付けるように掲げる。


「この街のシステムは一部管轄を牛耳っているバカがいる。

 そのバカは元はアーティファクトの整備技術師だった男だ。この街のアーティファクトの管理データは奴の思うがままだ。そんな奴の顔にあんたは泥を塗った事になる。

 つまり、あんたの次の依頼は改竄された高難易度のものにすり替えられる。その高難易度の依頼であんたと勇者を葬るってのが今回の目的らしい。そこで交渉だ」


 レオと名乗る彼はそう言うと再び煙草を一服する。


「俺の依頼はあんたを魔界へ案内するだけで済む。だが、あんたが王と同じくメカニカルファクターならば、強引な手を使うのは俺達──魔族と呼ばれる存在からすれば、畏れ多い」

「ちょっと待った。いま、メカニカルファクターと言ったかい?・・・なんで、そこでメカニカルファクターの名前が?」

「戸惑うのも無理ないか・・・まあ、それについては追々、話すとして、いま重要なのはこれが俺達にも不利益な話であって王の目指した世界平和にそぐわないって事だからな」

「申し訳ない。話が見えないのですが・・・世界平和をあなた方の王は目指したのと私と同じメカニカルファクターである事、それがどうして不利益になるのですか?」

「我らが王が目指したのは完全なる平和の実現──人も魔族も平等に扱う公平な世界。勿論、こんな事は絵空事だが、あの方は現実にしようと努力された。地道に一歩ずつ、堅実な道を歩んで各種族に語りかけ、世界はあと一歩で現実になろうとしていた。

 しかし、ある出来事をきっかけに王は深い眠りに落ち、魔族と呼ばれる種族が誕生した。

 まあ、あんたもメカニカルファクターなら俺の言っている話が嘘かどうか、確認してみりゃあ良い。

 この空白の百年に何があったか、前任者がどうなったかを知る事が出来るだろうよっと」


 困惑する私にレオ君はそう言うと再び煙草を吸う。

 本当の話なのならば、データに差異があるのも頷ける。

 ましてや、ここまで説明されると本当にあったとしか思えない。


「──本艦へ。いまの話の真意を知りたい。彼の話は本当だろうか?」


《──我々としても気になる話だ。確かにNo.721と前任者である【Sword-Man】No.721の人格は同一人格のコピーである。

 それを知っていて、いまの話を統合するに前任者に何かがあったと見るべきであろう。

 【Δcat】No.721には前任者である【Sword-Man】No.721に何があったのかを調査する事を命じる》


「了解。引き続き、調査を続ける」


 私は本艦へ交信してからレオ君を見据えた。


「交渉に応じる。その代わりに条件がある」

「ああ。構わないぞっと」

「ヴォルス君達とスミレちゃんをちゃんと守ってくれれば良い。あとは出来るだけ、穏便に事を済ませてくれれば問題ない」

「──はっ!本当に王みたいな奴だなっと!」


 レオ君は愉快げに笑うと煙草を捨てて、片膝をついて頭を垂れる。


「我らが悲願である世界平和の為にも我らは貴方様の盾となり、剣となりましょう。全ては王の為にっと」

「う、うん。ありがとう」


 ここまでレオ君に言わせる前任者とは何者なのだろう?

 そんなに慕われる程、大きな偉業をしたのだろうか?


 レオ君の話す完全なる平和とやらが仰々しく聞こえて、にわかには信じられないが、街の裏側はヴォルス君にも警戒するように言われているし、レオ君の話を信じる事にしよう。

 しかし、魔族か・・・見た限り、服装からして街の人間より高度な文明があるみたいだ。

 空白の百年とやらに何があったのか・・・個人的にも気になるところである。

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