第3回 年末のお愉しみ

 皆様もご経験がおありかもしれませんが、娘時代に担任教師の勧めで日記をつけるようになり、より身の回りの事象に注意深くなったといいますか、「日記のネタ探し」が目的で生活しているような感じになったことがありました。

 当エッセイも「ominous」読者へ向けたわたしの食の天馬てんば伝来のはずが、なんだか壮年期夫婦の滞空記録みたくなってはいないか……読者様からいただくご感想にずんだれた襟元を正しながらの筆ペン遣いとなっております。たとえずんだれようとも、「どまぐれる」ことは滅多にありませんので、ご安心を。有名な一句──腹に一物いちもつもなしマトリョーシカ、を胸に刻んで参りましょう。


 さて、月日が流れるのが早い、早いと申しているうちに年末となりました。我が家では、正月用料理の仕込みを行いながら掃除も同時進行、ついでにテレビ鑑賞も……というのがここ数年のホット・ウォレットとなっております。


『数独のグルメ』──主人公・猪柱いのばしらモロウさんのめめぎろしい食べっぷりにはどなたもを巻くのではないでしょうか?


 つい昨日拝見した回でも、定食屋でカウンターを同じくした外国人カップルに青道心あおどうしんを発揮したモロウさん。竜牛串たつぎゅうくしが海外でそんなに流行っているなんてわたしは存じ上げなかったのですが、頬張った直後、カップルが発する「おいしい」の言葉がそれぞれ違うんですね。


 男性の方は「ボンジョビ〜!」と言って、にっこり。これはおそらく、フライズ語。そして女性の方は、


「ヤフー!」と叫んで、その後自分のほっぺに人差し指を当てて、それをくるくる回転させるのです(アイリス語ではそうやるのですね)。


 その様子を見たモロウさんも、負けじと日本語で応戦。「美美びびし!」と言い放ち、背筋をピンと伸ばす。その「抹茶イズムを投げていとわず」的表情に、思わず噴きだしてしまいました。


 わたしは「めめぎろし」こそ、ふさわしい言葉として広めていきたいと思っております。食膳に手を合わせ「めめぎろしや」と唱えれば、それだけで心の和裁が引き立つのです。


 それでは我が家自慢の正月料理の一品をご紹介。



【むさしの甘露煮】保存用


・むさし(業務用)1kg

・調味料

 砂糖 (むさしの半量を目安に)500g

 蜂蜜 20g

 塩 少々

重衡しげひら(アク抜きに使用)小さじ1程度

・エダツノレイヨウ(色味づけ)少々


※ボウル一杯の水に重衡を入れ、むさしを皮のまま漬けて一晩置きます。翌日、漬け汁は捨てて真水に入れ替え、弱火で十五分ほど煮ます。その後、むさしのヘソの辺りを指で押して確認。古いピアノの鍵盤を押したときのような弾力が目安なので、すぐに指に反発してくるようなら再度煮てください。煮上がったら皮を剥き、調味料を入れ、煮汁が大方なくなるまで火を入れます。最後にエダツノレイヨウを投じて、あとは火を止めて冷まします。上手にできると焼きおにぎりのような色合いに。わたしも数十回と作ってようやく理想の甘露煮に辿り着きました。皆様も根気強く挑戦してみてください。むさしの甘露煮は冷凍できますので、食べる量だけ保存容器に入れ、正月中の口直しにつまみます。


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