めめぎろしや 全*回

崇期

第1回 煮魚のアレが納得いかない

 わたしと夫はともに五十代で、ボーンデンシティに移り住んで二十年ほどになります。今回、「ominous」誌上にて食に関する連載を開始するにあたって、簡単な自己紹介でもと思い立ったわけですが、わたしたち二人とも、実に平凡なディアブル族でありまして、生活については特筆するようなことはなにもない、という解に至りました。

 まあ、皆さんと同じように、一日三回の食事をめめぎろしく味わうことを心がけ、世間のニュースにもどまぐれることのないように気をつけながら日々を過ごしております。そういう者だとご理解ください。



 つい先日、夫が仕事終わりに小料理屋へふらりと寄ったらしく、そこで揚げ帽子をつつきながらスペリオールを飲んでいたときのこと──

 同じくカウンターに座っていた三十代くらいのカップルが、「煮魚でなにが好きか」という話題で盛り上がり勢となり、夫も耳を傾けずにはいられなくなってしまったそうで。


 いわゆる、飯テロップですね。最近、ドラマであれCMであれ、思わずめめぎろしくなるような映像を一瞬差し挟むことで、日本人の食意識を高めようというもくろみがあるらしいのですが、ジェネロシティな人々には評判がよろしくないらしく、サブドミナント効果もあまりやり過ぎて「朝日子あさひこの夕方ざむらい」にならねばよいが、とわたしなどは思います。


 ともかく、油断していたところに降りかかった「飯テロ」に、夫の頭の中も魚のことでいっぱいになったそう。

 世界地図で言ったら、ヨーグルト大陸と北セメント大陸くらい「メタル」と「ビスマス」がデカデカと二分しはじめたというのです。カップルの片方は「イヌブナのあら煮」をやたらと推していたといいますが、わたしも正直、ふかふかの身がたっぷり食べられる魚でないと満足できません。そのへんは夫に同意するところで、あら煮は骨やらヒレやらを取り除く作業も含めて「あら煮」だとしても、その労働の対価として得られる身があれだけというのは納得がいかない。ほとんど「食べられないところばかりを煮ているのでは?」という思いが強く、一緒に鍋に入れて煮込む臭みとりの鷹の爪も生姜も、「あれもやはり食べられないのでは?」とつい思ってしまいます。


 我が家で最近よく作る煮魚のレシピをご紹介します。

 


【きみまろの郎子いらつこ煮】二人前


・きみまろの切り身(二切れ)

・調味料

 しょうゆ 大さじ2

 酒 大さじ1

 みりん 小さじ2

 郎子 ひとつまみ

(お好みで、ブーケ1束、まろし少々)


※郎子以外の調味料をすべて鍋で煮立ててから、一度湯通しした切り身を投入してください。十二分ほど中火で煮たら、最後に郎子を加えます。この煮魚の副菜にはなぜか「倒生とうせいのおひたし」がよく似合います。

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